時間を操り大儲け!
過去にタイムスリップすることができるようになった。
漫画みたいな話だが本当だ。深夜に酒を飲みながらネットを見ていると、dokidoki-san.comとかいう通販サイトで、「過去にタイムスリップできるようになる時計」が売られていたのだ。しかも値段は0円で送料無料だという。
深夜、しかも飲酒中ということもあってあまりの怪しさバカバカしさに大笑いしたあと勢いで購入していた。翌日届いたときは、いくら無料とはいえ過去の自分のバカさに呆れたものだ。
デザインは普通の腕時計。日付も表示されているタイプだ。添付されていた説明書にはタイムスリップのための使用方法が書かれていた。
その1 横についてるつまみを回して押してね! 指定した過去に戻れるよ!
その2 未来には行けないよ! 残念!
その3 やり直しはできないよ!
その4 一度戻ったらそれよりも前の時間には時計を使っても戻れないからね! 気をつけてね!
その5 戻れるのは最大で一ヶ月前までだよ! 一年前とかは無理だよ! ごめんね!
説明書のわりにテンションが高い。随分と凝ったジョークグッズだなと思って、なんとなく説明書の通りに日付を一日前に変更して操作した。
「おい、何ぼーっとしてるんだ?」
「え?」
「明日休みだからって気抜きすぎだぞ」
そして一瞬光ったと思ったら、俺は職場にいたのだ。パソコンに表示されている日付は、昨日を示している。
それからは幸せな日々だった。競馬の結果を見て、時間を巻き戻し、さっき見たとおりに馬券を買って、大儲け。
(いける! いけるいけるいけるぞ!)
貯金残高はみるみるうちに増えていく。
(数億円貯めて、でかいマンションを買って、自由気ままな生活を送るんだ!)
今日も今日とて競馬場。だが元々あまり貯金がないこと、そして最近は大穴の勝利がないこともあって、まどろっこしくなってきた。
(ふふ、ついにやっちまった)
消費者金融、そして闇金のコンボ。多額の借金はしたが、競馬で大儲けしたあとにそれを返してしまえば問題ない。この、通常では賭けることすらかなわない大金を賭けて勝てば、差額でも十分な額だ。
「よし、よし、よし!!!」
一着も二着も三着も、タイムスリップする前の結果と同じ。笑いと嘆きに包まれる競馬場の中、悠々と換金しようとして、気付く。
「……え?」
馬券が、ない。
「お、おい、嘘だろ!?」
探しても探しても、馬券がない。確かにポケットに入れていたのに。
消費者金融と闇金から借りた金を使って買った、馬券が。
(……ありがとさん)
大慌てで服をまさぐっている男を見て、オレはニヤリと笑う。オレの手には、さっきそいつからスッた馬券がある。
それにしても、今日のターゲットの間抜け面は特に面白い。なんせ、こんな結果は予想していなかっただろう。勝利を、確信していただろう。それは、腕の時計を見ればわかる。
(まったく、それを持ってるのが自分だけだと思うなよ?)
オレも、同じ時計を持っている。
dokidoki-san.comとかいうサイトで手に入れた、タイムスリップができる腕時計。まさか本当にタイムスリップができるとは。
(おかげでスリでも簡単に金持ちになれる。当たって喜んでたやつの馬券をスレばいいんだ。馬券で警察にかけこむやつはいないからな)
さて換金するか、と移動しようとしたときに腕を捕まれた。
「指名手配犯の旭川だな? ちょっと来て貰おうか。五年前の強盗殺人、忘れたわけじゃないだろう」
血の気が引く。なんで警察がこんなところに。
「おっと、時計は外して貰おうか」
逃げようとしたオレを組み伏せた刑事があっさりとオレから腕時計を奪う。
「まったく、それを持ってるのが自分だけだと思うなよ?」
刑事の手首には、オレと同じデザインの腕時計があった。
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