引きずり込む者

 私には霊感がある。川にいる黒い妖精さんはそんな私のお友達だ。


 北町にかかる大きな川に、橋がかかっている。なんということはないただの古い橋だけど、駅やお店に近くて通勤通学が便利だから、渡る人はとても多い。

 そんな橋の下に住んでいるのが黒い妖精さんだ。全身黒くて、私の膝くらいの大きさで、棒人間に肉をつけようなフォルムしている。まん丸な白い目が特徴的だ。いつも川を泳いだり、橋の欄干で日向ぼっこしたり、草花を摘んできて編んでたりしている。

「おはよう、黒い妖精さん」

『オハヨー。お花、アゲルヨ』

「ありがとう。押し花にするね」

 お花をプレゼントしてくれたり、気軽に挨拶を返してくれる、かわいい妖精さんだ。


 そんな川や橋で、怪我をする人が続出するようになってきた。

 怪我をする理由は様々で、『何かに足を引っ張られた』だ。それで転んでしまうという。

 とにかく通りかかった人が軒並み足を引っ張られる。それでみんな怖がって、遠回りするようになった。今ではもうほとんど人が通らない橋になってしまった。

 何か悪いお化けがいるんだろうかと思って、川の近くで観察することにした。

 肝試しと称して橋を渡ろうとする子供たはちの足を、黒い妖精さんが引っ張っていた。

「こんにちは、黒い妖精さん」

『ヒャア! 見テタ? 見テタ?』

 子供たちが逃げていくところを見てた妖精さんに背後から声をかける。妖精さんは漫画みたいに勢いよく飛び上がったあと、私の周りをグルグル回った。

「見てたよ。どうして足を引っ張るの?」

『ンン……ヒミツ、ヒミツ、ヒミツ』

 言って、黒い妖精さんは橋から飛び降りて川に潜っていった。

 どうしたんだろう、と不思議に思いながら、妖精さんが泳いでいくところを眺めた。


*****


「こちらが現場の橋で───」

 マスコミが撮影をしている。野次馬も多い。橋は、大破している。

「昨日の午前八時頃、小型飛行機がこちらに墜落しました」

 そう、リポーターが語っているように、朝方の、みんなが通勤通学する時間帯に小型飛行機があの橋に墜落したのだ。墜落した理由が、お金持ちの人が株で大損したことが原因の自殺のだというから、なんとも豪快な死に方だと思う。きっと、時間帯的にも本来なら多くの人が巻き込まれていただろう。

「現場は、通常駅に近いこともあり朝は多くの人が利用するのですが、最近は橋を渡ろうとすると、誰もいないのに足を引っ張られるなどの怪現象が続き、人通りが途絶えていたようです」

 そんなリポーターを、離れた場所にある木陰から、黒い妖精さんがじっと見ている。私がいるのはその隣だ。

『オレ、エライ?』

「うん、偉いね」

 私は買っておいたマシュマロを一袋あげた。妖精さんは嬉しそうに頬ばると、誇らしげに親指をぐっと立てた。

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