殺された記憶

 隣の家の奥さんがうちに遊びに来たときに、怖い話をしてくれた。


 奥さんが中学生のときの話だ。ある日、知らない学校に通う夢を見たという。見たことのない学校で、見たことのない制服を着て、見たことのないお友達と楽しそうにおしゃべりしながら授業を受けたり休み時間に遊んでたりしてたという。夢の中でそれに違和感は覚えなかったらしい。

 下校時間になって下駄箱を見ると、ラブレターが入っていたという。指定された時間に校舎の裏に行くと、同じクラスのかっこいい男の子がいて、付き合うことになったらしい。

 夢の中での奥さんはしばらく幸せに暮らしていたという。ある日、初めて彼氏の家を訪れたとき、体の関係を求められたそうだ。奥さんはびっくりして断ると、彼氏は逆上してビンタしてきたという。そこで怖くなって帰ったらしい。

 彼氏のことが怖くなって、次の日学校で別れ話をしたときに、彼氏は怒って首を絞めてきた。

 そこで、奥さんは死んでしまったという。

 夢の中で奥さんは幽霊となって、埋められていく自分を空中から見ていたという。

 そこで夢から覚めた。

 細かいところは起きたら忘れてしまったが、語ってくれた大まかなあらすじは覚えていたそうだ。奥さんは恐怖したものの、夢は夢なので単に悪夢を見たということで済ませた。

 その日学校に行くと、友達がきゃあきゃあ騒いでいた。どうしたと聞くと、来年近所の高校の制服のデザインが変わることが決定していたのだが、そのデザインが発表されたらしい。かわいいかわいいと友達はご満悦だった。

 新しい制服は、夢の中で自分が着ていたセーラー服と同じデザインのものだった。

 奥さんは、その高校の受験だけは絶対にしないと決め、別の学校に進学したという。


「その高校って、どこなの?」

「あはは、実はあなたが通ってる学校なの。だから、ラブレター出すような男とは付き合っちゃダメよ?」

「もう何回も貰ってるよ。……同じ子から」

「あらやだ~あんたモテモテじゃない。さすが私の子!」

「……お父さん、初めて聞いたなあそんな話」

 さっきまで一人で読書をしていたお父さんが急に話に参加してきた。それと同時に、玄関でチャイムが鳴る。

「はい」

「ごめんね~、お母さんいる?」

「いるよ」

 隣の家の子、つまり奥さんの子供だった。私の同級生でもある。

「お母さん! おばあちゃん迎えに行く時間だよ!」

「あらやだ! もうそんな時間!」

 慌てて帰って行く奥さんの背中を、同級生が見送る。

「ごめんね~、うちのお母さんうっかりしてて」

「……なんか今日、機嫌いいね」

 同級生はしっかり者で、お母さんのうっかりにいつも小言を言っているのだ。まるでこっちのほうがお母さんみたいだ。いつもならもう一言二言多く何か言ってもおかしくないくらいなのに。

「えへへ、いやね、実はね……彼氏ができたの」

 きゃー!と一人で盛り上がって顔を手で覆う。

「ラブレター貰っちゃってさ~……お母さんには内緒ね? ご近所中に言いふらすから、絶対」

「うん、わかった」

 じゃあね、と機嫌良く帰って行く同級生の背中を見送る。


 ふと、そういえばさすが親子なだけあって

同級生と隣の奥さんの顔はそっくりだなあ、と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る