夢の行き先
クラスメイトの不動くんが、変な夢を見たという。
見たことがないおじいさんが自分の部屋にいる夢。おじいさんはニコニコしながら不動くんの勉強机の大きな引き出しを全部抜いて、その奥を指さした。
目を覚ました不動くんが引き出しを抜いて奥を見ると、くしゃくしゃになったお年玉袋があって、中に五千円が入ってたという。
数日後、またニコニコしたおじいさんが夢の中に現れた。
おじいさんは不動くんが持っていたスマートフォンの画面を指さした。そこにあった日付は翌日の夕方頃の時間を示していた。そしておじいさんは、近所の宝くじ売り場の商品の掲示の中から、一つのスクラッチくじを指さした。
後日、携帯が示していた時間通りにスクラッチくじを買うと、五万円が当たったという。
「だから今回も絶対なんかある!」
不動くんは自信満々だった。
夢の中でおじいさんが近所の山のとある一角を掘ると、キラキラした宝石が詰まった箱が出てきたという。
「本当に俺らにも分け前よこすんだろうな」
「おう。けっこー深く掘ってたから俺だけだとしんどそうだし~」
不動くんは男の子の友達を数人連れて山に登った。なんとなく気になったから、私も同行させてもらった。
「売っぱらった金で……いやでてきた宝石を加工してお前に似合うのを作るのもいいな」
「高価なものはいらないよ」
当然のように肩を抱いて口説いてきた不動くんをつねる。びくともしない。
「おっ、ここらへんだな。あのデケー木と池の間くらい」
「この辺?」
「もーちょい右」
雑談しながら交代交代で穴を掘る。私は女子だから見ているだけでいいと言われた。不動くんは趣味で鍛えてるし、他の男子は運動部の子ばかりだったのであっという間に深い穴ができた。
「おい! なんかあるぞ!」
みんなの注目が穴に集まる。確かに穴の中央部に、装飾が施された古い箱が埋もれていた。
「そうそう! 夢ン中で見たの、こんなかんじの箱!」
「マジで!?」
歓声が上がる。穴から箱を取り出して、地面に置く。みんな期待で胸が膨らんでいる。
(なんだろうこの胸騒ぎ……)
黒い雲が太陽を覆い隠す。風がざわざわと鳴っている。山に住むお化けが、くすくす笑いながらこっちを見ている。木の陰から、水の中から、茂みの中から、石の下から、くすくすと、こちらを。
なんだか嫌な感じがした。
この箱を開けたら、みんな、絶対に絶対に不幸になるような、そんな気がして。
「三島何してんの!?」
不動くんの声ではっとする。さっきまで輪から少し外れた位置にいたのに、いつの間にかその中央にいた。
「え、なに? 私、なんかしたの?」
「何って……俺らが蓋開けようとしたら、急に箱蹴っ飛ばしたんだよ」
「え……」
そうなんだろうか。覚えていない。無意識でやっていたようだ。
「えーと、ごめんね。どこにいっちゃったんだろう。探してくるね」
「あっちに……ん?」
箱が転がっている。蹴った衝撃で蓋が開いたようで、中に入っていたのであろう物体が見えている。
それは、決して宝石などではなく───。
「……なにこれ?」
赤い、三角の何か。そうとしか表現者できないものが、みっしりと詰まっていた。
「とりあえず全部出してみようぜ」
「ダメ。……多分これだと思う」
私は止める。携帯の画面を突き出した。
携帯の画面に映っているのはカエンタケという有名な毒キノコ。ほんの数グラム食べるだけで死亡する猛毒を持つ恐ろしいキノコ。
それは、触れるだけでも皮膚を爛れさせるほどのものだ。
「うわっ」
表示された説明を読んで、男子全員が一歩引いた。
ざわざわと、相変わらず風が鳴っている。その騒がしさの中に、たしかに私は「チッ」という小さな舌打ちのような音を聞いたのだ。
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