人質になりました。

紫乃

人質

第1話 暁の空に

 部屋の中は薄暗く、何本かの蝋燭の火がゆらゆらと風に揺れている。薄い幕で覆われた壁に三つの影が映っていた。


「お前もこの子と行け」

「なりません。私はあなたと共に」

「ユリチア……」

「いいえ、そういう定めなのです。……さあ、メルチア、ルスト大将と共に行きなさい」


女が側にいた幼子の手を引いて、部屋の外へ押し出す。


「お母様……お父様……」


少女の漆黒の瞳が不安に揺れているのを認めた男は励ますように柔らかく微笑んだ。


「大丈夫、きっとまた会える」


少女はさらさらとした黒髪を揺らしながら一度大きく頭を振ると、大男と共にその場を去った。


 その後、少女は召使いによってすぐに身支度を整えられ、御輿に乗り込んだ。


「ルスト、私はこれからどこへ向かうの?」


少女は御輿から顔を少し出し、御輿に寄り添って歩く男に尋ねた。


「メルチア姫、我らは遠い異国の地へ赴くのです。……我が国を守るために」


男はそう言って、上を向いた。空は紫がかった赤に染まっており、暁が近いことを示していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る