第258話【マグロ】

マグロ。

その歴史は古く縄文時代の遺跡からもマグロの骨が出土している。

しかし古くても扱いは良い物では無かったらしい。

その理由としては鮮度を保つ方法が無く、 腐敗しやすいからである

魚介類の鮮度を保つには、 水槽で生かしたまま流通させる方法があったが

マグロは大き過ぎてその方法は取れなかった。

また干魚として乾燥させる方法もあるが

マグロの場合は食べるに困るほど身が固くなる。

結果としてマグロは唯一の方法は塩漬にする事だが

マグロの場合は食味がかなり落ちたため

下魚とされ最下層の庶民の食べ物だった。

江戸時代中期から調味料として醤油が普及した事により

マグロの身を醤油づけにするという

新たな保存方法が生まれた、 これがヅケで有り

握り寿司のネタとして使われ出した。

近代以降は冷蔵技術が進歩した事から赤身の部分の生食が普及したが戦前までは大衆魚であった。

特にトロの部分は猫すら跨ぐ猫跨ぎとも揶揄されるほどの不人気で捨てられる事が殆どだったという。


そのマグロを持って獅子堂がやって来た。

全く持って理解不能な事態である。


「な・・・何故獅子堂がここに!?」

「一郎さんのお孫さんが獅子堂さんの嫁さんなんだって」


凄まじい偶然に度肝を抜く魚目。


「さぁさぁ取れたて新鮮だから遠慮なくどうぞ」

「・・・いただきます」


皮肉な事にマグロは旨かった。


「如何です、 魚目さん」

「美味しいですね・・・何で儂の名前知っているの?」

「怪人関係で論文を書いた事が有るじゃないですか」


自分の事を知られている。


「あ、 あぁ・・・論文を知って貰えていたのか、 それは嬉しいね・・・」

「あまり嬉しそうじゃなさそうですね」

「ま、 まぁねちょっと緊張しているんだ・・・

まさかマグロと獅子堂さんが一緒に出て来るとは思わなかった

何方か片方だけでも相当の衝撃なのに同時て・・・」

「それは失礼しました」


マグロを皆で食する一同。

流石に十人以上で囲めばマグロも形無しである。


「ふぅ・・・旨かった、 これは獅子堂さんが釣って来たんですか?」

「えぇ、 休みの日はヘリをチャーターして釣りに行っています

捌いたのも私ですね」

「それは凄い」


貴島が話している隙に部屋に戻る魚目。


「完全に不味いな・・・早く何とかした方が良いな」

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