第61話【同行】

良く考えると夢宮にあまり得が無い勝負が始まった。

とは言っても怪人である夢宮に取っては勝ちを拾う様な勝負だった。

勝負を言い出した姉貴分は言うだけあって的確にボールを打ち返していた。

しかしそれも五回迄で六回目で空ぶった。

六回目のボールを夢宮が打ち返し、バットを置いた。


「これで僕の勝ちだな、じゃあこれで失礼するよ」

「ちょっと待った!!もう一回だけ!!もう一回!!」


姉貴分が泣きの一回を申し出て来た。


「しつこいですよ」

「如何しても駄目か?」

「えぇ駄目ですね」

「分かった、なら・・・」


姉貴分は懐から警察手帳を出してこう言った。


「ちょっと顔出せ、事情聴取だ」

「・・・・・」


夢宮はこの姉貴分を心の底から軽蔑した。




「まずは自己紹介しようか私は怪人課の警部補の小波 アキラだ、よろしく」


事情聴取と称して喫茶店に入る夢宮と小波。


「・・・・・それで警部補さん、僕に一体何の用ですか?」


心底軽蔑した目線で用件を促す夢宮。


「何の用ねぇ、昨日だが一昨日大立ち回りしたでしょう」

「強請られそうになったので正当防衛でしょう」

「うん、確かにねそれは仕方ないわ、でもやりすぎじゃない?」

「死んだ人が居たのですか?」

「え?」

「死んだ人が居たのですか?」

「・・・居ないけども病院送りになった人は居る」

「抵抗し無かったらこちらが殺されていたでしょう、向こうはナイフを持ち出したのですよ?

そもそも警察なら彼等の方を何とかして下さいよ」

「・・・・・君は大袈裟だなぁ」

「相手はナイフを持っていたんですよ?普通殺されるでしょ」

「そこまではされないでしょ」

「貴方が何故、そこまで不良達の肩を持つか分かりませんが・・・」

「まぁまぁ、実は君をスカウトしに来たのよ」

「スカウト?」

「警官としてね」


腕を拡げる小波。


「・・・・・いや、何処の誰かも分からない人をスカウトしようと思いますか普通?」

「あら、世界一有名な探偵は子供を使い走りにしているじゃない」

「小説と現実と混同するのは如何かと思いますが・・・」

「まぁまぁ話を聞いてよ」

「さっきから聞いてますよ」

「もう少し真剣に聞いてよ」

「・・・・・」


無理矢理権力で連れて来て真剣味まで求めるのかと夢宮は心の底の底から

小波を軽蔑したのだった。

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