第4.5話
小さくなっていく先輩の背中を見送りながら、私はつい数十秒前の出来事を思い返す。顎と右手に添えられた手の柔らかさと、視界を埋め尽くす整った顔立ち。漂う甘い香りが鼻孔を通して脳をくすぐり、思考が一瞬停滞した。そんな中で捉えた、先輩の美しい黒髪。いつもより艶っぽく、光を受けて輝きを放つそれを見た時、私の胸中には一体何が生まれた?
何も生まれなかった。
確かにドキドキした。心臓がバクバクとうるさくて、鼓動の音が聴覚を支配した。
でも、多分それは恋とか愛とかそういうものじゃない。
だって、別に嬉しくなかった。
彼といる時のような、彼がいる時のような幸福感はなかった。幸せに溺れるような、息も出来なくなるような気持にはならなかった。
女同士とか、それ以前の問題だ。たとえ先輩が私のことをどういう風に見ていたとしても、私は先輩のことをそういう目では見ていない。先輩の隣にいることは私にとって心地よくて、それは多分彼の隣にいる時よりもずっと楽で、安心できて、だけどそれでも、私は先輩を選ばない。
私は先輩を、好きにはなれない。
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