君との約束

宮蛍

第1話

 気が付けば、時計の短針に目をやっている。

 聞こえてくる微積の問題の解説も、あくびをしている時のように不明瞭だ。

 身体の中を勢いよく、血が巡るのを感じる。血液に付随して熱が回り、脳が侵され、私の世界の色は鈍くなっていく。それにつられるように、輪郭もまた朧気になっていった。聴覚も嗅覚も正常に作動していないのか、世界そのものが今は遠い。

 理解できるのは、私自身のことだけだ。

 全身が疼く。

 シャーペンを握った右手が少し震える。

 口内を涎が満たしていく。

 待ちきれないように、喉がコクッと一つ鳴った。…お腹じゃなくてよかった。


 気が付けば、時計の秒針を目で追っている。

 今は、十二時二七分。三時間目の授業が終わるまでもう後三分切った。

 その事実に心はさらに高揚して、いよいよ足まで震えそうになる。とはいえ机と椅子の金属部分に触れて音が鳴ると困るので、ギリギリのところで堪えた。数学の山内先生は色々なことに厳密な人だから、面倒ごとは出来る限り避けたい。

 だってこの後は…………




 待ちに待った、お昼ご飯の時間だ。

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