死んでると、思う

【夢を見ました】


気がつくと私の体が、広い野原の真ん中にぽつんと置かれた棺の中に横たわっている。

空中に浮いて、しばらくそれを見下ろしていたが、だんだん下に降りて棺に入ると、仰向けの体で青空が広がっているのが見えた。


棺の中で、どうも私は死んでるようだが葬式は終わったんだろうか、などと考えていると、子供の時以来会っていない友人のような人々が、次々と棺を覗き込んできた。

これから荼毘に付されるというわけだ。


しかし私は焼かれるのが怖くなってきた。

そこで「焼くのは完全に意識がなくなってからにしてほしい」と頼んでみた。

すると棺をのぞきこんでいる人々が口々に「死人は早く焼くものだ」と叫ぶ。

そのことについては同意する。しかし、このままだと熱い思いをしてしまうのではないか?


そう言っているうちに、私の話に耳を傾けてくれる人が現れたので、少し安心していると、いきなり棺から放り出されて野原の上に横向きに転がった。

死んでいるせいで起き上がることもできず、途方に暮れていると、どこからか雑誌が飛んできて目の前に落ちた。死人も暇だと気の毒に思ったのだろうか。

見ると、普段絶対に読まない種類の、粗末な紙に刷られた雑誌。

これはいくら死んでいても興味がないやつだ。


まもなく意識がなくなるのを期待していたのに、いつまでも目が覚めていて、そのうちに起き上がり、立って歩くようになった。

死んでいるのにどうも、きまりが悪いっていうか、どうしようもない私の腕を誰かがぐっとつかんでにぎやかな町に連れ出した。

どうしても眠らず、死人なのに歩いたりするので、動かなくなるまで連れ回すつもりらしい。


生きているときには、繁華街や人混みが苦手だったが、死んでからそういう場所に行くと苦痛を感じないので驚いた。


通りを歩く人々はみんな死ぬために努力をしているようにしか見えない。

流れの水に浸かったり、寺院のような所に集まって祈ったりして、どうにか早く死ぬように願っている感じだ。


死んでいると、思う。

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