空中出航
【夢を見ました】
とっぷり日が暮れた。
待合室の灯りだけが煌々と輝き、辺りはさらに闇を深めていく。
夜になってからの船出はいつものことである。
桟橋はごうごうと波がうなる暗い海に向かってまっすぐに伸びている。
一人がやっと通れるだけの幅しかなく、波が打ちつけるたびに大きく揺れ、細いロープをやっと掴みながらなんとか船にたどりつく。
デッキの柵に背中を付けて空を見上げると、曇っているのか何も見えない。
生暖かい湿った風が吹き付け、首筋が汗ばんできた。
足元の下の方から波の音が聞こえてきた。船はどういうわけか鉄の骨組みだけでできている。そして私の手は柵をつかみ足は細い鉄骨にかけている。
次第に暗がりに目が慣れ、下では轟音をひびかせながら大きな波がうねりまくる。恐ろしいので空を見上げるが、不安を打ち消してくれる星々は一つも見えない。
少し離れた舳先の方に娘の姿が見えたので、柵に足をかけてゆっくり移動してそばに行ってみた。すると意外にも娘は楽しそうにしている。
怖くないのかときくと、後ろの方にいる旅のグループの会話が面白いので、聞いていると大丈夫だという。耳をそばだててみると確かに彼らのトークは楽しく、怖さを忘れる。
かくして骨組みだけの船は、巨大で真っ暗な波をかぶりながら出航した。私はどこへ行くのだろうか。
夜が明けた頃には船を降り、車を運転している。
私は鳥のように空中に浮かぶ道路を走り、遠くの町へ向かっている。
もう闇は追ってこない。
しかし地上へ近づくにつれ、土砂降りの雨が打ち付け、きりもみ状態になったりして、着地などできそうもない。
その町には見覚えがあり、前にも来たことがあるような気がする。
私は空中に幾重にも連なる道路を、上を走ったり下を走ったりしながら、さらにどこかへ向かっている。
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