貝殻

【夢を見ました】


家は大きな柚子の木の根元に開いた地下へ通じる階段の下にある。階段の下は地下でも地上でもない。川に面した窓は明るく、家の中は暖かい。

そこは、小さな川をさかのぼった先の、美しい山のふもと。大家族でにぎやかに暮らしている。

柚子の実は一年中絶え間なく実るので、生活は安泰なのである。

しかし、手が届く範囲の実はもぎとられてしまっているので、はしごを掛けて収穫しなければならない。


子供の頃の私が川辺に座り、木彫の施された道具箱をそっと開けた。

すると中身が未来のと入れ替わっていた。未来の道具箱に入っているのは、小さなアワビの貝殻と、砂、貝のくずだけ。

未来のものだということは、私の息が白い霧のような風に包まれるのでわかる。

元々何をするにも必要な道具がぎっしり詰まって、何より大切なものだった。

どうしてこんな事になったのか、わけが分からないまま、ぼうぜんと川の流れを見つめ続けていた。


川に沿った家には石段がきざまれている。

苔むした石段を滑らないように気をつけながら上がっていくと、子供がたくさんいた。

知らない子どもたちだけど、私は世話をする。

ものすごい量の洗濯物に、ものすごい量の料理である。

取り込んだ洗濯物に、子どもたちが絡まってはしゃぐ。大きな子供は手伝ってくれるけど、間に合わないくらいだ。


突然空が暗くなり、雨が降ってきた。

子どもたちは雨粒にも喜んではしゃぎまくり、家に入ろうとしない。そのうち雷が鳴り始め、だんだん近づいて音が大きくなった。

私は急いで子どもたちを急かして家の中に入れた。その瞬間、そばの電線に落雷してすごい音がした。

子どもたちがみんな無事でよかった。


庭に、柚子の木とは別に2本の木が立っている。それぞれ、かりんとりんごが実っている。

しかし木はどちらも縦に切り落とされたように、縦半分で立っている。

実も、縦に割った状態で実っている。

私はそれを見て、すべてはこのようなものなのだと、妙に納得している。

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