音楽×小説=
柳 真佐域
第1話「ハイスコアガール」
「死ね、死ね、死ね、死ね」
あたしのF-20の機銃掃射は、荒野の空に爆炎の花を次々に咲かせる。鬱陶しい敵の攻撃を、巧みに躱しながら。
ここは、場末のゲームセンター『Gランド』。Gランドは、最盛期を過ぎたアーケードゲームの、搾りカスが集まる、廃れ切ったゲームの墓場だ。
あたしは、夜な夜なここで、日々の鬱憤を晴らす。ここは街の吹き溜まりだが、敵を倒して賞金を稼ぐ戦闘機乗り達は、あたしがレバーを倒して、ボタンを押すだけで、華麗に舞った。
エリア88。昔ながらの横スクロールシューティングゲーム。確か原作は漫画で、キャッチフレーズは『ここは地獄の激戦区』。少女漫画の彼氏役みたいに美形のキャラクター達と、カッコイイ戦闘機。それに加えて骨太ながら、どこかソリッド感のあるBGMが最高だった。コインを入れて始まるOPは、いつ見ても鳥肌が立つ。
あたしのお気に入りは、何と言っても主人公の風間真だ。睫毛が長く、女の子みたいな大きな目がチャーミング。そんな真の乗るF-20を操りながら、傭兵に成りきって、あたしは賞金を稼いでいく。
地獄みたいな戦場を潜り抜けることで、地獄みたいな日常を、一時でも忘れることの出来る最高の時間。
もう何度もクリアしているが、塗り替えられていくハイスコアのランキングを見る度に、負けん気がこみ上げてゲーム機に陣取る。
今日は調子がいい。スコアを稼ぐために、機銃を自動掃射するためのオートの設定は切ってあった。中指を立ててボタンを連打する。
ステージ4の砂漠地帯をクリアして、真の『あばよ!砂漠がきさまの墓場だ!!』を見ながら、指を休ませているところだった。入り口の自動ドアが開いた。あたしのいる席からだと、嫌でも入ってくる客の顔が見える。
入ってきたのは、ブランカだった。当然外国人というわけではない。あたしと一緒で目つきの悪い、ここの常連の男子高校生だ。
いつもあたしの後ろの、格ゲーコーナーの『ストⅡ』でブランカばっかり使っているから、あたしが勝手にそう呼んでいる。もちろん声をかけたことはない。格ゲーはあまりやらないが、ここに通っていればどういうものかくらいは嫌でもわかる。
ストⅡのブランカは見た目が悪く、あまり人気はないし、だから使っている奴も少ない。大抵は定番のリュウか、ケンか、意表をついてダルシム辺りを使っている奴が多い。ブランカはタメ系の技を使う待ちのキャラクターだ。後ろに下がりながらや、しゃがんで攻撃を躱す動作をしているだけで、コマンドが入力されるから、相手の隙を見計らって、飛びついたり噛みついたりする。実に凶暴なやつで、人間ではあるが、電気を発することも出来る。あまり好みの戦法ではなかった。醜いしかっこ悪い。ゲームのキャラクターを選ぶときは、自分を投影できるようなキャラか、憧れをもって選ぶべきだ。まぁ目つきの悪いブランカが、ブランカを選ぶのは、納得すべきことなのかもしれないが。ブランカはいつも通り、ストⅡの席に座ると、財布をポケットから出していた。あたしもそううかうかしていられない。追加武器を選択しないので、カウントダウンがゼロになるまで休めるが、その間に指を伸ばしたり関節を鳴らしておかなければならない。
さぁウルフパックを、今日はどう料理してやろうか。ステージが切り替わる一瞬の黒塗りの画面に、舌なめずりしているあたしの顔が移った。
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またあの女だ。いつも決まって俺よりも早くゲーセンにいる女。目つきが悪く画面に齧り付いて、シューティングゲームばっかりやっている。ここに来ると必ず目に入る。
女のクセにとは思わなかったが、これほどゲームにのめり込んでいる奴も少ない。
俺のやる格ゲーだったら、相手が変わるたびに戦術が変わるが、この女のやっていることは同じことの反復だった。こんなもの覚えてしまえば、ただの単純な作業と変わりないだろう。何が面白いんだか。気にはなったが、すぐに通り過ぎていつもの席に座る。財布から小銭を出して、コインの投入口の傍に積む。
ゲームなんて、ただのストレス発散と時間つぶしだ。余計なことを何も考えないで、ただ敵の出方と自分の攻めるタイミングを計る。
強い奴はたくさんいたが、そいつらを倒す度に、余計なことを考えないでいい時間が出来て、都合がよかった。
心から楽しんでいるわけではないが、俺も立派なゲーマーだろう。ゲーセンは他にもたくさんあったし、最新の体感型ゲームが置いてある新しい店もあったが、そういうのは何となく敬遠した。もっと単純でいいし、頭を使うのは勉強をしている時だけでいい。ここにはそういう単純さを求めてやってくる、変なやつが多かったし、後ろの席に座る女も、多分そういう類の人間だろう。ゲームを本気でやるのに指をぽきぽき鳴らす女なんてそう何人もいるはずがない。
ストーリーモードを進めて、ダルシムを噛みつきで倒したところで、早速、対戦者が乱入してきた。腰を浮かして窺ってみると、相手はリュウ使いのキャップを被った大学生だった。ピンチになったら、必ず画面端で波動拳を連発する卑怯なやつ。軽くひねってやるか。少しだけ気合を入れて俺はレバーを握った。
ラウンド1が始まってまず、飛び蹴りから下キック。飛び蹴りはガードされたが狙い通り下キックが入った。立ち上がりと同時に電撃を放つ。リュウは大きく仰け反り倒れた。そのまま追撃をしようとも思ったが、反撃が来ることを読んでしゃがんで構えた。リュウは後ろにジャンプしながらキックを繰り出し、これ以上近づいてくるなと牽制していた。距離を離したら十八番の波動拳が来る。その時、
「あ~クソ!」
と、あの女の声がした。その声で一瞬反応が遅れた。着地際を狙って↓タメ↑に中パンチで、回転しながら突っ込む頭突き技のロッククラッシュを放つつもりが、タイミングが遅れて、リュウの一歩前で技が止まってしまった。出来てしまった最大の隙に、リュウは昇竜拳を繰り出した。リュウ拳がブランカの顎をとらえ、ブランカはあっさりと宙を舞った。
しかも運の悪いことに、一撃でブランカはピヨってしまった。レバガチャをして、ピヨりを解消しようとするが、間に合わない。ストⅡ最大の攻撃力の投げを決められ、形勢があっという間に逆転してしまった。
それから何とか反撃をするものの、負ってしまったダメージが大きく敗北を期してしまった。
集中を欠いて隙を突かれたのは確かに自分だが、思わず女を睨んでしまった。女はこっちには気が付かないで、またコインを投入してコンテニューをしていた。
まだこっちはもう一ラウンド残っている。一度負けても次に勝てば勝負は持ち越せる。今はただこいつを倒すことだけに集中しよう。深呼吸を一つして俺は第二ラウンドに備えた。
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期末テストの出来が悪くて、担任に怒られた。当然だ。テスト期間中はずっとゲーセンにいたんだから。テストが出来なかったことは開き直ればいいし、そのことで誰かに怒られることはまだ我慢できた。だがそれを出汁に普段の生活態度から友人関係や家での過ごし方までねちねちと詮索されるのは我慢ならなかった。
口論になって他の先生が止めに入って、また叱られて。散々な今日だった。
うつむき加減でGランドに入る。エリア88をやって、たまったストレスを発散しようと向かうと、そこには既に先客がいた。
仕方がないから他の席に座って終わるのを待っていようかと、開いている席を探すと、ブランカの後ろ姿が見えた。今日は呼び出しで来るのが遅れてしまったからかもしれない。
何気なくブランカのやっている画面を眺めた。相変わらずゲームの方のブランカはブサイクで、人間の動きとは思えない動きをしていた。形勢はブランカが有利のようだった。よくもまぁ化け物チックなキャラクターをこうも巧みに操れるものだ。
感心しながら見ていると、エリア88の席が空いた。勝敗は気になったが、また席を取られてしまっては、いつまで経ってもゲームが出来ない。後ろ髪をひかれつつ席に向かうと、よそ見をしていたことで、気づかなかったのか、前から来た人とぶつかってしまった。
「あっ」
「ってぇな。前見て歩けよ」
そこにはガラの悪そうな三人の男がいた。この辺りでは見かけない顔で、雰囲気がすごく怖かった。
「すいませ……」
「ぶつかったんだから謝れよ」
あたしの声が小さくて聞こえなかったのか、三人は因縁をつけてきた。あまりの剣幕にあたしは怖くなって、すぐには声が出なかった。
「なんか言えよ」
男の人に凄まれて、どうしていいか分からず、ただ視線を下げて頭を下げた。そして振り絞るようにして「ごめんなさい」と言った。
しかしその声は、雑音の多いゲームセンターでは、かき消されてしまった。すると、コインをぶちまける音がした。その音を出した主はブランカだった。男たちの注意が逸れて、近くにいた客が、コインを拾うのを手伝うのに、チラホラと集まってきた。店員の姿もあった。何となくそれで険悪だった雰囲気が紛れ、男たちは「行こうぜ」と行ってしまった。
何とか助かったのか。
「足どけて」
安堵していると、ブランカの声が足元から聞こえた。
「すいません」
ヨタヨタしている足取りで飛び退くと、ブランカが落ちたコインを、小さいバケツに入れていた。助けてくれたのかとも思ったが、単純にコインを落としてしまっただけなのかもしれない。あたしはコインを拾うのを手伝って、まだおぼつかない足取りで、休憩スペースに向かった。自販機で温かいものを買って、冷えた手を温める。緊張で体温が一~二度下がった気分だった。
不幸続きでもう踏んだり蹴ったりだ。でもこのまま家に帰るのだって嫌だ。泣き出しそうな気持で俯いていると、不意に隣に座る男の子の気配がした。顔を見て思わず口に出してしまった。
「ブランカ」
慌てて口をつぐんだが、ブランカには聞こえていたようで、ただでさえ悪い目つきが、さらにつり上がった。あたしは更に慌てて、取り繕うように、さっきのブランカの行動を、勝手にあたしを助けてくれたものだったことにした。
「さっきはありがとうございました。おかげで助かりました」
そう言うと、ブランカは少し考える素振りを見せて、「あぁ」と短く言った。やっぱり助けてくれたわけではないようだった。あたしは恥ずかしくなってすぐに椅子から立つと、ばつ悪そうにゲームコーナーに戻った。
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今日もいつも通りゲーセンの自動扉を過ぎると、いつものあの女がいた。昨日ガラの悪い奴にからまれて怖い思いをしただろうに、こいつは変わらずここに通っている。俺が入ってきたのに気が付いて一瞬目が合った。女は目が合ったことに驚いて、すぐに目を逸らしたが、少し考えて会釈した。こいつ、俺のことをブランカと呼んでいたな。近くでいざこざが起こっては面倒だと思って、助けるような真似をしたが、随分と失礼な奴だと思った。
相変わらず目つきが悪い。まぁ目つきの悪さは、俺も負けてはいないが。今日びゲーセンに通わなくたって、家で据え置きだの携帯だのでゲームは出来る。ネットを使えば、古いゲームだって出来るだろう。それでもこいつはしつこいくらいに、ここに通い続けた。
何かここに通う理由でもあるのか。いつも一人でいるので、友達はいないのだろう。
今日は調子が悪いのか、ステージの序盤の方で、女の戦闘機は撃墜されていた。目に見えて落ち込んでいる。いつもの威勢はない。コンテニューのカウントダウンが表示される。女の持ち金は尽きたようだ。俯きながらカウントダウンが過ぎるのを待っている。その姿が何となく哀れに見えて、俺は席を立った。
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あたしの真が撃墜されて、死のカウントダウンが進んでいる。昨日のこともあって、あたしの戦闘機は、華麗とはかけ離れた、愚鈍なものになってしまっていた。
ストレスを発散しに来る場所なのに、ただでさえ機嫌が悪い時だったのに、怖い目にあって、完全にスランプに入ってしまった。復調するまで粘りたかったが、もう次のタマがない。
ゲーセンは金のない奴には、何の魅力もない空間だ。人がやっているゲームを見ていても、やきもきするだけで、余計にストレスがたまる。雑音がうるさい。もう嫌だ。誰かあたしを、ここより爽快な空に飛び立たせてくれ。ここじゃない世界に。
でもそんなことを思っても、現実は誰一人だって、あたしを連れて行ってくれやしない。ヒーローはいないのだ。無情にもカウントダウンが2まで進んだ画面を見て、あたしは暗鬱した気持ちでため息をついた。チロリン。驚いて顔を上げると、カウントダウンが止まり、あたしの真は復活した。
「え?」
コインの投入口を見てから、その手の主を見た。
「ブランカ」
またあたしは、ブランカを見て思わずブランカと言ってしまった。ブランカはまた目を吊り上げた。だが何も言わず行ってしまった。あたしは追いかけようとしたが、真はすでに戦闘準備に入っていた。まごまごしながら、それでもブランカが復活させてくれたゲームを続けることにした。
内心は動揺しっぱなしだった。なんだよ、一体何なんだよ。ちょっとかっこいいじゃないか。あたしは再び荒野の空に飛び立った。
あたしの調子は、拍子抜けするほどに復調した。華麗なレバー捌きで真のF‐20は生き物のように動く。敵の動きも手に取るように分かる。機銃の弾は敵のミサイルを鮮やかに迎撃して、戦闘ヘリや戦車を一掃した。
とんとん拍子であっという間に、最終ステージの『プロジェクト4 巨大空中要塞』まで来た。コンテニューなので、ハイスコアは狙えないが、今まで一番の出来だった。せっかくだから武器商人のマッコイじいさんから、ありったけの武器を買い占める。気合を入れて最終決戦に臨む準備をすると、ブランカが帰って来た。あたしはそれを見て、再び動揺をして、でもそれを必死に隠して、ゲームに集中した。
ステージの最初は森の中から始まり、洞窟を抜けて行く。最後は快適な空の戦闘ではなく、暗く狭い洞窟を抜けながら、屈強な敵の戦闘機を撃墜していかなければならない。空中要塞が出て来るのは、最後の最後だ。
洞窟の中は、ジェットが積んである岩石が飛んできたり、攻撃を放つロボットなんかもいて要塞化されている。
あたしは、後ろから来る戦闘機を躱しながら、幅広の攻撃で通り過ぎた後ろから撃墜していくと、自分の後ろにまだブランカがいるのに気が付いた。
なんだ。これを口実にナンパでもしようってのか!? 心をかき乱されていると、中ボスのペンギンが現れた。航空機のお腹を膨らませたような、そんな見た目からそう呼ばれているらしい。
あたしはなるべく後ろを気にしないように、ゲームに集中した。しかし、観戦されている妙な緊張感から、手元が狂い、あたしの真は次々に攻撃を喰らい、悲鳴を上げていた。
仕方ない。普段ハイスコアを狙うほどの腕を持つ、私のプライドに障ったが、武器を温存している余裕はない。ナパーム。サンダーレーザー。フェニックスミサイル。メガクラッシュ。
ありったけの武器をここで投入することで、何とか切り抜けることが出来た。
最終ボスの巨大戦艦が現れた。上下左右に砲門を持ち、全方位で攻撃してくる強敵だ。被弾覚悟で戦わないと、倒せない相手だったが、今は一発も喰らうことは出来ない。武器だって少ない。あたしの本領が試される戦いが始まった。
ミサイル軍を掻い潜り、あたしの真は風を切り、宙を舞った。いくつもある砲門を順番に破壊し、巨大戦艦にダメージを与えていく。画面の端で反転するF‐20は、いつも以上に美しく見えた。巨大戦艦をぐるっと時計回りに二周しながら、攻撃を重ねるとコアが開いた。嵐のような攻撃はもう来ない。あとはボムを全弾コアに叩き込む。
ブランカに感動のエンディングを見せてやりたかった。崩壊する要塞から見事抜け出し、仲間と共に最後の空を飛ぶ真の姿を。それで欲が出た。
あたしのF‐20は無残にも敵の戦闘機の特攻を喰らい、バラバラになった。
「あー!」
画面は暗転し、またコンテニューのカウントダウンが表示される。あたしはブランカが落胆して、行ってしまったのではないかと思って振り返った。するとブランカはまだそこにいて、振り返ったあたしと目が合った。何か渋い顔をしている。ポケットを弄ってまたコインを出す。
まさか、たかったと思われたのか。あたしは慌てて顔を背けたが、ブランカはまたコインを投入口に入れた。
あたしは恥ずかしさで死にたくなったが、無情にもゲームは再開され、もう一度最終決戦に臨まなくてはならなかった。針のむしろの思いで、最終ステージをクリアすると、ゲームはエンディングを迎えた。
こんな気分でクリアしたエンディングを見せるのは、羞恥心に二度殺されてもまだお釣りがきそうだった。
「ありが……」
振り返ってブランカにお礼を言おうとするが、ブランカは興味が尽きたのか、いつも通りストⅡの席に行ってしまった。なんだよ。お礼ぐらい言わせろよ。
クリアした時の爽快感などなく、あたしの胸の中はモヤモヤとした不完全燃焼感が満たした。
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昨日は余計なことをしてしまった。ほんの気の迷い。出来心であの女をまた助けてしまった。関りを持とうとしたわけではない。何となく。そうただ何となくだ。コンビニで並んでいる、普段は読まない週刊漫画の表紙がちょっと気になって、手を伸ばすくらい、そう、なんてことのないことだ。気にするようなことじゃない。普通に入ればいいんだ。何となく入りづらくなったゲーセンに、考えながら向かっていると、あの女と丁度バッタリ、店の自動ドアの前で行き会った。
「あ」「あ」
二人して間抜けな声を出して、自動ドアが開く。中の喧騒が外に溢れた。
気まずさを隠し、昨日のことは無かったことにして、俺はゲーセンの中に入ることにした。その時、
「あの!……これ……」
女が握った手を差し出した。なにか渡したいらしい。無碍にするわけにもいかないので、俺はそれを受け取るように手を出した。俺の手に女の手が一瞬だけ触れて、二百円が手に残った。少しだけ温もりがあって、それがなんだか恥ずかしかった。
視線を上げると、女は真っ赤な顔をして、
「ありがとう。助かった」
と言った。俺は、
「あぁ」
と、返事をした。気まずさから、気の利かない素っ気ない感じになってしまった。女はそのままゲーセンには入らず、反転して走り出した。俺はそれをただ見ていた。
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やってしまった。私なんかが男の子に話しかけてしまった。話にはなっていなかったけど。思い出すだけで顔が熱くなる。ブランカの顔が頭に浮かんで、それを追い払うのに必死になった。またGランドに行くのが嫌だった。ブランカがいたら、どんな顔をしていいか分からない。それでも学校帰りの足は、Gランドへ向いていた。
気配を消しながら店に入るが、店のドアは自動ドアなので、こっちの気持ちはお構いなしに、今日も変わらず無遠慮に開いた。コソコソしながら中に入る。
ブランカはまだ来ていないようだった。自動ドア近くのエリア88に座るわけにはいかないので、隅にあったバスケットボールのゲームやパンチングマシーンがある、体を動かすコーナーに向かった。
パンチンググローブの感触を何気なく確かめる。あたしが男だったら、こうゆうもので、力いっぱい殴ってストレスを発散するのだろうか。パンチングマシーンは小さな画面にデモムービーが流れ、『私のパンチを受けてみろ!』と雄々しい声が響いていた。
暴漢や巨大怪物なんかをぶっ飛ばせるなら、確かに気持ちいいかも知れない。この前、あたしに凄んできたガラの悪い男たちも、拳で黙らせることが出来たら、さぞかし爽快なことだろう。
なんで自分は女なんだろう。女なんて力もないし、舐められる。可愛くなければ男は見向きもされないし。愛想を振りまくようなことも、媚びているようでしたくなかった。クラスメイトたちはそれが上手く出来て、仲良さそうにくだらない話題で盛り上がったり、バカ騒ぎしていたりするが。
自分の居場所を作るなら、そういう嫌なことも、嫌と思わず自分を偽って溶け込まないといけないのかもしれない。
世渡りが下手な自分がいけないのだろうか。色んな人がいていいはずだ。無理して付き合うくらいだったら一人でいい。
あたしは、自分を鼓舞するようにグローブを着けた。だが中は思ったより湿っていて、気持ち悪く外して匂いを嗅いだら、何人もの男の手汗の臭いが染みついていて臭かった。
ムカムカしてグローブを放り投げて、そこから去ると、またブランカと行き会った。
また目が合った。不意を突かれたあたしは、目を離すことが出来ず、それでも何か言うわけでもなく、ブランカを見ていた。話しかけてきたのは、ブランカの方だった。
「今日はやらねぇの?」
あたしはその一言に驚いて、みるみるうちに頭がぐるぐると混乱した。何か言わなくては。
「い、いまからいくつもり」
声が上ずって、少しだけ裏返っていた。恥ずかしさから目を逸らす。
「そうか」
ブランカはまた短くそう言うと、踵を返してアーケードゲームコーナーに戻っていってしまった。まさかと思うが、あたしを探しに来たのか。変な妄想ばかりが頭に過る。こんな乙女チックな思いを、自分がする羽目になるとは。顔はいつまでも熱く、胸の鼓動はやけにうるさかった。
それからあたしとブランカは、お互いに気まずそうにだが、店で見つけると、お互いに会釈をするような仲になった。
自分のゲームが終わると、相手のゲームの少しだけだが覗いてみたり、帰るのがどっちが先なのかを気になったりした。
言葉は交わさないけど、ひと時の間だけでも同じ空間で、ゲームをするのが楽しくなった。
あたしは、何度も話しかけてみようかと勇気を出したが、いつも声が喉の真ん中辺りで止まってしまって、気持ちがシオシオとしぼんでしまう。不甲斐なくただ時間ばかりが過ぎた。
そして季節は冬になり、街はクリスマスの装いになった。
自分には縁のないイベントだと思ったが、今は違う。一歩踏み出す勇気さえ出せば、何かが変わるかもしれない。
あたしは、なけなしの勇気を振り絞って、今日こそブランカに声をかけようと思った。
Gランドまでの道を歩いていると、早速その時が来たのか、道の反対側にブランカが見えた。一人でスマホを眺めて、信号待ちをしている。渡ってきて、あたしに気がついたら、声をかけよう。そう思って、信号が変わる僅かな間に、覚悟を固める。
しかし、その覚悟は何の意味を持たないガラクタになった。
道の奥から走ってきた女子高生が、ブランカに声をかけていた。二人は知り合いのようで、なんとなく雰囲気もよさそうに見えた。その子はブランカにはもったいないくらいに可愛かった。女子高生だからあたしと同じはずなのに、とてもキラキラしているように見えた。
ああいうのが好みなのかな。そう思うと、鉛でも入ったくらいに胸の中が重くなった。
あたしはそのまま踵を返して、Gランドにはいかなかった。
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あれからあの女はゲーセンには来なかった。信号待ちをしている時に見かけて、気がついたら姿はなく、ゲーセンの中にもいなかった。女がいつも座っていたエリア88のアーケードゲームは、何人かの連れできた客の座るしゃべり場になっていた。
何か来れなくなった理由があるのかとも思ったが、お互いに名前も学校も知らないし、当然連絡先を交換しているなんてこともなかったから、所在を知ろうにもその術がなかった。
ここに通ってたらまた現れるかな。いつも後ろに座っている奴がいないだけで、なんとなく調子が狂う。集中力も尽きて、早々に席から離れた。
夕焼けが赤い帰り道、風は冷たかったが、まだ家に帰るわけにはいかない。どこかで時間を潰そうとしていると、公園が見えた。公園のブランコにあの女がいた。
年少の子供が遊ぶ場所に、女子高生が制服姿で一人、ブランコに揺られているのは異常だった。決して楽しそうに漕いでいるわけではない。あいつも家に帰れない理由でもあるのか。
気が付くと俺は、公園の中に入っていた。
近づくと、女は人影に気が付いたのか、顔を上げてこっちを見た。
びっくりしたのか女は、顔を真っ赤にして目を逸らした。いや、恥ずかしかったわけではない。少しだけ目に涙がたまっていた。
俺は、黙って女の横のブランコに座った。
「なんでゲーセン来ないんだ?」
声をかけると、女はなにか口ごもっている感じだった。
「何しに来たんだよ」
女は突き放すようにそう言った。
「何となく。姿が見えたから。お前こそこんなとこで何やってんだ?」
「あたしはただ夜まで時間が潰せればそれでいいんだ」
「お前も家に帰りづらいのか」
「あんたも?」
「ブランカって呼ばないんだな」
「あれは……ごめん。だってあんたずっとブランカばっかり使ってるし」
「そう言うお前は風間真しか使わないじゃないか」
「好きなんだからしょうがないでしょ」
自然と会話になっている。好きなことの話なら、こんなにも簡単に話が出来るのか。女はすらすらと風間真の好きなところを言って見せた。長い睫毛、大きい瞳、クセのある金髪、通った鼻筋、小さい顔、一見クールだが熱いところもある性格。よくもまぁそんなに上げられるものだ。好きなところを話すときの女の目は輝いていて、さっきまで涙ぐんでいたのが嘘のようだ。
女はエリア88の原作は読んだことが無いようだったが、ネットで集めた情報だけでも、風間真という男の性格が知らない俺にも伝わってきた。
そんなに熱くさせるものがあるのは、幸せなことなのかもしれない。でも女はそんな好きな風間真に、会いに行くことを止めるくらい、あのゲーセンに通えなくなった理由があるのか。俺はそれが知りたくなった。でもそれを聞くのは、この女のゲームではない世界に踏み込むことになる。それには自分も何か対価を払わないといけない気がした。
「俺があのゲーセンに通ってるのは、お前と一緒ですぐに家に帰れないからだ」
「え?」
「うちは母親がいない。そのことで親父とは折り合いがつかなくて、いつも険悪になる。家にいても仕方ないから塾に行くと言って小遣いをもらって、その金でゲーセンに行く。親父は俺が真面目に塾に通っているとは思っていないだろうが、それで関係がうまくいくならいいんだと黙認している。成績が下がらないようにと勉強はしているが、どうしたって時間は余る」
「そうなんだ。なんかもったいないね。ゲームがただの時間つぶしなんて」
「そうか?ゲームなんてただの遊びだろ」
「あたしも最初はそう思ってた。でも何度もやっているうちに、その自由な世界にのめり込んだ。ゲームなんて出来ても何の自慢にもならないけど、そこに情熱を注いで、プレイする人を楽しませたいんだって努力することは、やってるあたしらが思ってる以上に大変なことだと思う。面白くなければボロクソに言われることだってあるし、一生それだけをやってればいいってわけじゃない。工夫したり試行錯誤したり。そういうものが一時でも嫌なことを忘れさせてくれる」
「色々考えてるんだな。俺はそんなこと考えたことなかったな」
「使ってるの、ブランカだしね」
そう言って女は、ブランカの間抜け面を思い出したのか笑った。俺も、女が笑うのを見て笑った。
「あたしの家はね、ママが再婚してるんだ。本当のお父さんとは何年も会ってない。ママは男の人にだらしなくて、再婚相手もあんまり良い人じゃない。あたしがいても構わずセックスしてるし、あたしには優しいフリしていつも卑しい感じで見てくる。家にいると息が詰まるし、居場所がないんだ。だからあいつの財布からお金を盗んであそこにいく。あたしにもママと一緒の淫乱の血が流れてると思うと死にたくなる」
「そうだったのか」
女の話が想像を超えていて、俺は言葉に詰まった。
「それに今日はクリスマスでしょ?いつも以上にお盛んになってると思う」
冗談めかしく言っているが、女の現実は重かった。自分が消えてしまえたらと思っているのかもしれない。
「じゃぁ、夜まで遊びに行かないか?」
俺は、思いついたままに女に提案した。
女は、驚いたようにこっちを見ていた。
「いいの? あたしなんかで」
「いいよ、お前みたいののほうが気が楽だ」
「それって、選り好んでんの?」
「どういう意味?」
「仲のいい女友達とかいないの? こないだ……」
女はまた口ごもった。俺は記憶を頼りに、女か言う、こないだを思い出した。
「あ。もしかしたらだけどお前がゲーセンに来なくなった日の事か?」
「そうだけど……」
「あれは姉だ」
「え?」
「似てないけど、女はメイクすれば化けるからな」
「そうなんだ」
女はそう言って、自分の勘違いが恥ずかしかったのか、ブランコを強く漕いだ。強く揺れているので確かではないが、女の口ものとは安堵からか、少しだけ緩んでいる気がした。
女は、勢いをつけてブランコから飛ぶと、振り返って言った。
「どこ行く?」
「ん~、映画とか?」
「何か観たいのでもあるの?」
「いや、特には。すまん、思いついたのをただ口走っただけだ」
「いいよ、行こう」
夕焼けを背にした女を見て、俺はブランコから立ち上がった。
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生まれて初めて男の子と映画に行く。デートって思っても間違ってないよね。だって今日はクリスマスだもん。街を行く人たちは、皆どこか浮かれているみたい。あたしたちもそんな風に見えるのかな。歩幅を合わせて、足は速くなったりゆっくりになったり。ブランカとのその距離感が嬉しい。
映画館に着くと、そこはカップルであふれていた。中に入って、掲示板で混み具合を見る。当然のように恋愛映画は、どれも満員で×印がついている。
入れそうなのは、いかにもB級のアクション映画。あたしは、映画館で映画を見るようなことはないが、テレビを見ていればわかる。最近の俳優はCG技術におんぶにだっこで、昔、金曜ロードショーなんかでジャッキーチェンやスタローンとかがやっていた本物のアクションは見れないことを。それでも、今はそんなものでもブランカとなら楽しく観れる気がした。
「これしかないか」
ブランカもそれに決めたようだ。チケットを二枚買おうと、券売機のタッチパネルを操作している時、財布にお金がないことに気が付いた。
「あ、ごめん。ちょっとだけ貸して」
「いいよ、俺が払う」
「そんな、悪いし」
「どうせ余ってる金だ」
「……わかった」
あたしはブランカの言葉に甘えることにした。ブランカはチケットを手に取り、そのままフードカウンターに向かった。
「なんか飲むか?」
と、聞かれたが、流石にジュースまで奢らせたらいけないと思い、食い下がってそこは自分で払った。ジンジャエールのSを頼むと、ブランカはコーラのSとポップコーンのMを頼んだ。
これはあれか!? 映画を見に行ったカップルがやる、映画に集中しながら、二人一緒にポップコーンに手が触れてしまうという定番のヤツか!? と、一人で盛り上がっていると、ブランカは普通に出来たポップコーンをむしゃむしゃ食べ始めた。
なんだ、自分で食べる用か。何となく落胆していると、ブランカがポップコーンをあたしに差し出した。
「食うか?」
「……うん」
一つつまんで口に放り込む。フワフワでちょっとしょっぱいポップコーンは、一粒であたしの落ちた気持ちを、パァっと明るくした。
上映時間まで待つのに、座れそうな椅子はなかった。仕方がないので壁にもたれながら、大画面のスクリーンに映し出されている映画の予告を見ていた。
この映画はつかみがよさそうだ、とかあの俳優またラブシーンのある映画に出てんのかとか、最近の子供向けのアニメでもなかなかの作りだな、とか思いながら流れる映像を眺めていると、ジンジャエールを飲み終えてしまった。
氷の入っていたジンジャエールは体を冷やした。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「わかった」
ブランカにそう告げて、あたしはトイレに向かう。トイレは混んでいるようで、何人か列になって待っていた。その一番後ろに立つと、前の方であたしと同じ学校の制服が見えた。
あたしはそれを見て何を思ったか、列を抜けてブランカの元へ戻ってしまった。
「早かったな」
「あぁ、うん。トイレ空いてた」
「そうか」
映画の途中で、トイレに行きたくなったらどうしようという心配は過ったが、我慢することにした。
時間になり、チケットを店員に渡し、上映されるスクリーンに向かった。
案の定、この映画を観に来るものは少なかった。がらがらの席の真ん中に座り、映画前のCMを二人で眺める。いくつかのCMが流れて、会場は暗くなり、また映画の予告が流れて、映画泥棒の映像が流れた。
あまり上手い踊りとは言えないし、ノーモア映画泥棒のキャッチフレーズはとてもチープに見えた。
映画が始まった。SFの世界を舞台にして、様々なキャラクターが色々な重火器を使って戦う、バトルアクションだ。
厳つい顔をした主人公は、ハードボイルド風で、ニヒルに笑いながら敵を撃ち殺していく。
ゲームや映画の世界なら、正義のために人を殺しても咎められることはない。むしろ悪を倒すから、ヒーローの英雄的行動とされ称賛される。
あたしが真を好きなように、現実には許されない、人が作り出した偶像に、憧れを持つ人もいるだろう。
でもそんなことより、今は自分の中に生まれたての新しい感情に向き合うので精いっぱいだった。
映画の内容はチープだったが、二人してそれを見ている。男の子と同じものを見ているだけで、こんなにも世界が鮮やかになるものかと驚いた。
しかし、そんな良い時間も束の間、あたしの体は我慢していたトイレの事を思い出した。
集中するような内容でもないが、ブランカに悪いし、途中で席を立つわけにもいかず、ただじっと時間が過ぎるのを待っていた。
しかし、人の体は生理現象を、いつまでも我慢できるようには出来ていない。
あたしは冷や汗をかいて、もう映画は見ていなかった。ただひたすらに時間が過ぎていくことを考えて耐えた。
ポップコーンに手を伸ばす余裕なんてあるはずもなく、色めいた時間のはずなのに、一刻も早く席を立ちたかった。
すると、
「え?」
ブランカの手が、あたしの手を引いた。そのまま席を立ち、引っ張って会場から出る。そのままブランカは、あたしを無言でトイレの前まで連れて行った。
あたしの胸の中は、ブランカにトイレに行きたかったことを見抜かれたことと、途中で席を立ってしまったことで、恥ずかしさと罪悪感と、必死に耐えていた我慢が堰を切りそうで、めちゃくちゃになった。
上映中の映画が多かったからなのか、トイレは空いており、あたしは急いで入って用を足した。
限界まで我慢していたことと、それを決壊させずに済んだ安堵で、頭は真っ白になったが、すぐに映画が始まる前に、ちゃんとトイレを済ましていなかったことの愚かさと、せっかくお金を出してくれたのに、あたしのせいでブランカに気を使わせてしまったことに、深く深く猛省した。
叶うことならこのままトイレから出たくない。
だが、そういうわけにもいかないので、個室のドアを開けた。
さらに、手を洗い、水道の鏡に映っている自分の姿を見て、すっかり自信を無くした。いつまでもブランカを待たせていては、もっと自分が惨めになると思い、暗鬱の気持ちでトイレを出た。
ブランカは、入場する前に眺めていたように、大画面のスクリーンに映る映像を見ていた。
あたしは、羞恥心の塊みたいになって謝った。
「ごめん」
「我慢してたなら言えよ。大丈夫だったか?」
「うん」
「良かった」
「ごめん、映画見てたのに」
「いいよ、そんなに面白くなかったし」
「ごめん」
「いいって」
ブランカの優しさが、あたしの罪悪感を撫でた。途中で席を立ったことより、我慢して耐えていたことに、怒っているような気がした。優しさだけで接されるより、いくらかましだった。
「時間出来たな」
「ごめん」
「だからいいって。飯でも食うか?」
「今は何もお腹に入れたくない」
「んじゃ、どこか遊びに行くか」
「どこ行くの?」
「……ゲーセン?」
「そこしかいくとこないのか。でも行きたいならいいよ」
「じゃぁ決まり。どうせだからいつもは行かないところ行ってみるか」
そう言って、ブランカは歩き出した。あたしはそれについて行く。
かっこ悪さが胸を満たしていて、ゲーセンまでの道では何も話せなかった。
ブランカも気を使ってか、なにも話しかけてこなかった。
沈黙は痛かったが、余計なことを話して、また恥ずかしい思いをしたくない。
そうこうしていると、目的の場所が見えた。比較的新しいゲームパーク『レインボーユーズ』。最新のアーケードゲームが遊べるゲームのテーマパークだった。
あたしは、入ったことのない場所で緊張していたが、ブランカは平然と中に入っていった。
「良く来るの?」
「いや、初めて」
そうは見えなかったが、ブランカの考えていることは良く分からない。それもそうだ。ちゃんと話したのは、今日が初めてなんだから。
ブランカは辺りを見渡し、プレイするゲームを見繕って、厳ついシートをしたレーシングゲームに座った。あたしはボーと突っ立っていると、2P側の席にもコインを入れた。
「やるぞ」
「え?いいよ、あたしは。レーシングゲームなんてやったことないし」
「いいから座れ」
「はい」
あたしは言われるがまま、シートに腰掛けハンドルを握った。
ブランカはコースと車を選んで、あたしにも車を選ぶように促した。
「レースゲームもやるんだ」
「いや、初めて。だからまともに走れるか分からない」
「なにそれ」
「二人で出来れば何でもいいと思った」
「そっか」
ブランカの優しい気遣いが嬉しかった。ブランカは目つきは悪いけど、ちゃんと男の子をしていた。
「これ、シート動くらしいぞ」
「え?」
あたしが呆けていると、レースはカウントダウンと共にスタートした。
慌ててアクセルを全開にすると、シートは激しく前後に揺れた。
「うわわわわ、なんだこれ!?」
新型のレーシングゲームは三次元の体感型だった。コースが右に曲がり、ハンドルを切る。あたしの車は激しく壁にぶつかり火を噴いた。あたふたしながらハンドルを反対に切り、壁にぶつかってはまた逆に。激しく左右にシートが揺れる。
車の運転ってこんなに難しいの!? とパニくっていると、隣のブランカの車が大破していた。あたしはそれを見て、まさか自分より下手だったのかと思って笑った。
あたしの車も見事大破して、あっという間にゲームは終わってしまった。
「もう一回やるか?」
「うん!」
笑ったことで軽くなった心が、解れていくのが分かった。
もう一回やっても、コツを掴んでいるわけもなく、すぐに二人して車を大破させた。激しく揺れるシートの中で、二人して子供みたいにはしゃいだ。
ブランカとあたしは、それから色々なゲームをやって回った。ゾンビが迫り狂うガンシューティングや、エアホッケーや楽器を使う音楽ゲーム。ダンスダンスレボリューションで、二人してたどたどしい妙なステップを踏んでは笑った。二人とも自分が得意とするゲーム以外ではからっきしだった。でも、そんなのも楽しかった。
汗だくになって、休憩所でジュースを買う。財布にはもう百円しか入っていなかった。
「あのさ。最後はGランドに行きたい」
「いいよ。行こう」
レインボーユーズを出て空を見ると、白いものが降ってきた。雪だ。
「ホワイトクリスマスか」
ブランカも空を見上げてそう言った。人生で一番幸せな時だと思った。こんなに楽しいのに、ロマンチックな気分にもしてくれて、あたしは大袈裟かもしれないけど、世界に感謝した。自分の世界も棄てたもんじゃないなと思った。夜は深まっていき、あっという間に過ぎていくこの時間を惜しんだ。このまま一生今日が続けばいいのに。そうは思っても残り時間は迫っていた。
Gランドに着くと、あたしはエリア88には座らず、ブランカがいつも座るストⅡの前に座った。
「いいのか?」
「一回やってみたかったんだよね。あんたがやるゲームがどんだけ面白いのかなって」
コインを入れて、OPを見て、キャラクターを選ぶ。あたしはケンを選んだ。
「やっぱり美形が好きなんだな」
「え?」
「エリア88でも風間真ばっかり使うだろ」
ブランカのその言葉は、なんだか今までのここでのあたしを見ていてくれたみたいで、心がキュンと熱くなった。あたしはそれを気取られないように、
「使うならやっぱりイケメンがいいでしょ」
と、照れ隠しに言った。可愛くない女だと思われたかもしれない。でも今、ブランカの顔は見れなかった。
ゲームが始まった。ステージ1の相手は春麗だった。女を痛めつける趣味はないが、血祭りにあげてやる。少しだけ映画館のトイレにいた同じ高校の女子高生を思い出して、春麗の凛々しい眉毛を睨みつけた。
ラウンド1が始まって、あたしはレバーとボタンを巧みに動かしているつもりだったが、あたしのケンはジャンプしたりしゃがんだり、パンチやキックを空振りしていた。
その間、春麗は遠距離から気功掌を放って、あたしのライフをあっという間に真っ赤にした。
「やったことねぇの?」
「初めてやってる」
ケンはうわっうわっうわっっと飛んで行きながらK.Oした。何もできずに1ラウンドが終わってしまった。こんなもの何が面白いんだと憤慨していると、
「代われ」
と、ブランカがあたしをどかして席に座った。
「動かし方を教えてやる」
そう言ってブランカは、迎えたラウンド2を戦って見せてくれた。ブランカの操るケンは、さっきとは打って変わって機敏な動きを見せた。それにボタン一つ一つの役割の説明を加え、必殺技のコマンドを入力して、あたしには出来なかった波動拳や昇竜拳を見せてくれた。
ラウンド3。ブランカはあたしに席を譲った。
しかし、座ってみたものの、あたしの動きがすぐよくなるわけではなく、あっという間にまた春麗に追い詰められてしまった。このラウンドを落としたら負けてしまう。
このまま何もできないで終わってしまうのか。そう思っていると、レバーを握るあたしの手を、ブランカが上から手で包んだ。あたしは心の中で、フォーーーー!!?? と雄叫びを上げていると、
「強パンチ。お前はそれだけ押せ」
と、ブランカが言った。ブランカの操るケンは画面端へと下がり、春麗と距離を取った。春麗はすかさず気功掌を放つ。あと一発でも喰らったら負けてしまう。そう覚悟を決めた時、ブランカの手が動いた。
「今だ、押せ!」
あたしは言われるがまま、強パンチのボタンを押した。タイミングが重なり、波動拳がケンの手から放たれた。寸でのところで気功掌は相殺された。
「もう一回行くぞ」
ブランカの手は、尚もあたしの手を包んでいる。余計なことを考えている場合ではない。あたしは、ブランカの動かす手の動きを感じながら、タイミングよくボタンを押した。そのまま何度もケンの手から波動拳が放たれ、時間ギリギリのところで春麗をK.Oすることが出来た。
「やったーーー!」
あたしは高々とガッツポーズをすると、ブランカが手を上げてハイタッチを待っていた。ハイタッチなどしたこともなかったが、恥ずかしさを押し殺してブランカと手を重ねた。
こんなに嬉しいことばかり起きるのだから、あたしは明日、いや、今日の帰りにでも死ぬんだと思った。なら最後の最高の時を、思う存分楽しんでやる。僅かな時間でも、心残りの一つも出来ないように。
あたしたちはそれから、ブランカ、ザンギエフ、車を壊すボーナスステージを終え、ガイルを倒した。もちろんブランカの助けもあってだ。ブランカがブランカを倒している時は思わず笑ってしまった。
「ブランカ以外も使えるんだね」
「まぁ一通りはな」
「ねぇ、何でブランカを……」
そう言った時に、突然乱入者が入った。反対側の席を覗くと、キャップを被った男がいた。ブランカにたまに挑戦するリュウ使いの大学生だ。
なんだよ、せっかくいい雰囲気なのに。そう思ったが、波動拳をマスターした今のあたしに敵うかなと、いらぬ負けん気がわいてきた。
ケンのライバルであるリュウなら、相手にとって不足はない。あたしは負けるかと思いながらゴングを待った。
だが、その薄っぺらい感情をリュウは容赦なく叩きのめした。
ラウンド1が始まり、すかさず波動拳をコマンドすると、リュウはそれを読んでいたのか、あっさりとジャンプして躱し、ジャンプ蹴りを繰り出した。ケンの顔にそれがもろに入って、リュウはさらに下キックの足払いのコンボを重ねた。そして離れればぴったりくっついて追撃され、昇竜拳、投げ、竜巻旋風脚と、見るも無残にあたしのケンはボコボコにされた。
リュウのライフゲージを一ミリも削ることも出来ず、ケンはK.Oした。パーフェクト。そうレフリーに言われたのが、あたしのプライドをズタズタにした。
「代わるか?」
ブランカはそう言ってくれたが、
「大丈夫、次は負けない」
と、あたしは言った。
ラウンド2が始まり、今度はこっちから打って出た。ブランカに教えてもらった操作方法は、ほとんど頭から抜けていた。
ただ思いつくままにケンを動かし、あたしのケンがリュウにクリーンヒットを喰らわせた。運がよく、リュウはピヨピヨと星を飛ばして混乱した。
これが好機だと思って、一気に攻撃を畳みかける。あたしだって出来るじゃないか。そう自信がふつふつと湧き上がってきたが、そんなものは易々と打ち砕かれる。
あたしのケンが、飛び蹴りを食らわせようと攻撃を繰り出したが、リュウはそれにカウンダ―を取って、昇竜拳で迎え撃った。
その一撃で形勢は変わり、素人に遠慮のない嵌め技を喰らい、どんどんライフゲージが赤く染まっていく。負けてしまう。嫌だ。このまま負けて終わりたくない。そう思った時、ブランカがあたしを優しくどかして、ケンの操作を交代した。
「まだ負けたくないだろ」
そう言って、ブランカの操るケンが再び立ち上がり、ファイティングポーズを構えた。2Dのドット絵のはずなのに、生きているみたいに、ケンは勢いを取り戻した。リュウが引いたと思ったら竜巻旋風脚で追撃し、ガードで凌ごうとしたらすかさず投げ。波動拳、下キックの三連コンボ。
リュウは、相手の動きがいきなり変わったことに驚いて、自分の戦い方を見失っていた。だが、制限時間がもう残り少ない。ブランカはガード越しでもいいから攻撃を叩き込んだ。徐々にリュウのライフがミリ単位になる。あと一撃はいれば倒せる。そう攻め続けていると、ガードして我慢していたリュウが動いた。下キックの足払いを喰らってケンが尻もちをつく。
そこで制限時間が0になった。負けてしまったかと思ったが、ブランカの奮闘は勝ちをもぎ取っていた。ライフゲージがあたしたちのケンより、リュウの方が少ない。ボクシングで言う判定勝ちだ。
最終ラウンド。勝っても負けてもこれで勝負が決する。負けたくはなかったが、それよりもブランカの優しさに応えたくて、あたしはまた席に着いた。
不甲斐ない結果に終わってもいい。どんなに敵が強くても、諦めてしまえば戦いは意味を失くす。
あたしはブランカに教わった一つ一つの技を、正確にコマンドすることだけを考えた。距離が開いていれば波動拳。近づいてきたら竜巻旋風脚。隙があれば昇竜拳。
あたしのケンは、さっきよりかはだいぶマシな動きをして、互角とは言えないが、愚直に向かっていった。
こんなに手に汗握るゲームだなんて、蔑んでいた格ゲーを見直した。
それでも、強くなるために、何度も戦ってきたリュウに勝てるはずもなく、あたしのケンのライフは真っ赤に染まった。
負けたくない。勝てるかもしれないと思うと、あたしは画面端で波動拳を連射した。卑怯かもしれない。でもブランカの前で戦って勝つところを見せたい。今日はいいところが一つもないから、せめてこの戦いだけでも。満身創痍で放つ波動拳は少しずつだが、リュウのライフを削った。
しかし、そうして卑怯な手を使って勝ったところで、何の意味があるんだともう一人のあたしが言った。前に出て勝利を掴むことこそに意味があるんじゃないのか。ブランカもそう言っている気がした。
リュウは、あたしのケンの波動拳をノーダメージで相殺すべく、同じように波動拳を放っていた。
ダメージの総量はケンの方が上。勝つためには、この波動拳を掻い潜るしかない。
あたしは覚悟を決めて、前に飛んだ。一つ、二つと波動拳をジャンプして躱す。
一撃でも喰らってしまったら終わってしまう。手汗をぐっしょりかきながら、操作ミスをしないように、細心の注意を払った。最後は絶対にアレが来るはずだ。あたしは、前に出ながら考えを巡らせた。
リュウが距離を開けるように後ろに飛び上がった後、ステージ端で波動拳を放つ。来た。これを待っていた。あたしはレバーを操作して技をコマンドした。いままでジャンプして躱していた波動拳を、今度は竜巻旋風脚で躱しながら突っ込んだ。
リュウはジャンプして躱してくるのだと予想していたのか、竜巻旋風脚をモロに喰らった。ジャンプしてきたところを、昇竜拳で撃ち落とすつもりだったんだろうと、あたしの策略に、完全にはまったリュウがいた。あたしは最後の最後でリュウに読み勝った。
そして、立ち上がりに合わせて、玄人もびっくりするようなタイミングで、昇竜拳がリュウの顎を捉えた。
宙を舞う両者。方や顎をかち上げられ後ろに倒れ、方や勝利を掴み拳を空に高々と突き上げていた。
映画のワンシーンのような幕引きに、あたしは心が震えた。勝った。あたし一人の力で勝つことが出来た。放心していると、ブランカがあたしの肩に手をやり、
「ナイスファイト」
と言った。あたしはその言葉で、勝利の実感がわいてきて、勇気を出して戦って本当に良かったと思った。
照れくさくて鼻を掻くと、さっきまで戦っていたリュウ使いの大学生が帽子を深くかぶりなおして、席を立つのが見えた。あたしは声をかけないまでも、心の中で、良い戦いだったぜと言って、彼を見送った。
それからストーリーモードは再開されたが、あたしはあっさりと負けて、最後の百円が作った、濃密な時が終わった。
「あ~! 楽しかった~!」
Gランドを出て、緊張から解かれ、あたしは腕を高々と伸ばして、ストレッチした。体には同じ体勢で強張っていたからか、疲れがコリとなって固まっていたが、それは存外心地いいものだった。
「勝てて良かったな」
ブランカはそう言って、あたしの横を歩いている。互いの歩く歩幅が分かったのか、歩くスピードは、もう気にしないでも一緒だった。
「ありがとう。今日は最高に楽しかった」
「俺も久し振りにこんなに楽しい時間を過ごした」
あたしとブランカはそこで立ち止まった。
「また一緒に遊びたいな」
自然とあたしの口からそんな言葉が漏れた。心からの言葉だったから後悔はない。
少しの間を開けて、ブランカが、
「俺もだ」
と、言ってくれた。その言葉にあたしは、このまま天にも昇ってしまうんじゃないかと思った。名残惜しかったけど、その日は夜も更け、家に帰ることにした。
「じゃぁ、またね」
次に会う約束も取り付けずに、あたしはブランカを残して走って家に帰った。甘酸っぱい青春が、こんな自分にも来るんだと、軽くなった足でスキップでもしてるかのように弾みながら。
・
・
・
朝、親父と言い争いになった。喧嘩の原因はなんてことのないこと。態度が悪いとか、反抗的な目が気に入らないとか。姉さんは止めに入ってくれたが、母さんのことを持ち出されて、俺はキレてしまった。
死んだ妻を悪く言うなど、父としても人間としても最低だ。
なぜこんな男が俺の父親何だろう。仕事に生き、家族を蔑ろにしていた親父に、俺と同じ血が通っていることが、心底嫌だった。
あいつも言っていた。あたしにもママと一緒の淫乱の血が流れてると思うと死にたくなる。
俺と似ているあいつがいることが、救われた思いだった。
ただの暇つぶしの時間が、あいつがいたことによって、そうではなくなっていた。学校の行事で少し遅くなってしまったが、いつのものようにゲーセンの自動ドアを抜けると、あいつが見える。
俺があいさつ代わりに手を上げると、あいつの様子はいつもと一変していた。
制服が着崩され、胸元のボタンが上から二つともなくなっていて、それを手で押さえている。ゲームはやらず、ただ俯いて一点を見ていた。
「おい、どうした?」
俺は、肩に手を置いて聞いた。
俺に気が付いて、顔を上げるとその頬が赤くはれていた。
「なにがあった」
どこか焦点のあっていない目を、俺はまっすぐに見つめた。その視線に目を泳がせて、そして涙がこぼれた。
「……ママの再婚相手に……」
しゃくりを上げて女はそう言った。
俺の頭にカァっと血が上った。
「大丈夫、ヤられる前に逃げたから」
何を心配しているのか、そう強がった女は、俺とは目を合わせづらいのかずっと目を伏せている。
俺はそんな女の態度が、ぐっと胸を締め付けて、気がついたら女を抱きしめていた。
女の動きが驚きで一瞬止まり、やがて俺の背中に手を回して、おずおずと泣いた。
「場所、考えろ」
女は恨めしそうに俺の胸で言った。俺はハッとなって、公共の場だったことを思い出して、急に恥ずかしくなり、女から離れた。
「ごめん、つい」
「いいよ、ありがとう」
そうは言ったものの、俺と女は、いつもの場所で、色めき立った雰囲気を出してしまったことに恥ずかしくなり、店を出た。
女をこのままの姿で、街を歩かせるわけにもいかず、手ごろな服を一枚見繕って、女に着せた。ロゴ入りの黒いパーカーは女の歳を幼くさせた。
手をつないで歩く。
冷蔵庫の中のように冷たい冬の空気は、伝わる手のぬくもりを意識させた。
俺も女も、家には帰りづらかった。
特に俺よりずっと深刻な女を、このまま家に帰すわけにはいかなかった。
「お金ある?」
女は俺にそう聞いた。
「少しなら」
「じゃぁ、どこか遠くに行きたい」
「わかった」
俺たちは駅へと足を進めた。
・
・
・
流れていく風景を見ながら、カタンコトンと揺られるあたしたちは、駅で財布に入っているだけのお金の全部を使って、一番高い切符を買った。
手は相変わらず繋いだまま。
外でカップルが手をつないでいるのを見て、イチャつくなら家の中だけにしろ、と思っていたが、あたしの手を通して伝わってくるブランカの温もりは、一時だって離れたくないと、あたしの女心を強く締め付けた。
切符を買い時の僅かな時間でさえ、待っていられる気がしなかった。
ウザイ女にはなりたくない。そういうあたしのちゃちなプライドが、それを必死に我慢させたが、ブランカの差し出した手を繋ぐと、少女漫画のヒロインみたいにあたしの心は解けていった。
あたしとブランカの姿が、窓に反射するたびに、一人じゃない、という安心感で満たされる。
行く当てはなかった。それでも先のことは考えず、今は二人で入れていることだけに浸りたかった。
ビルや街並みを抜け、辺りには稲を刈った後の、がらんとした田んぼ畑や、葉が全て落ちてカラカラになった木が、景色と共に後ろに消えていく。
「どこに行こうか」
「あんたとだったら海だって山だってどこだっていい」
「トモヤ」
「え?」
「俺の名前だ」
「そっか、あたしは……」
「レイカ」
「知ってたの?」
「エリア88のランキングにいつも書いてある」
「……ねぇ、もう一回呼んで」
「レイカ」
ママの嫌いなパパのつけてくれたあたしの名前は、トモヤに呼んでもらえただけで特別な響きに変わった。
幸せに生きていくことは難しく、子は親を選べない。たとえどんな親でも、自分はそれの半身で、どんなに嫌いになろうが、避けることは出来ない。
でも、自分じゃない他人と、こうして手を繋いでいるだけで、そういう嫌なことは、全部が許されたみたいに、高く高くあたしの心の中に響いている。
二人で買った切符が、二人をいけるところまで運んだ。帰りの切符は買っていない。片道切符の逃避行だ。
あたしたちを降ろした電車が汽笛を鳴らすと、二人だけの無人駅は、冬の寂しさも合いまり、Gランドのような場末の雰囲気が漂っていた。
辺りはもう暗くなり始めている。
今は、今だけは、どうしようも抗えない現実から抜け出してしまいたいと、あたしたちは何処へ行くわけでもなく、二人で歩き出した。
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