神の民主主義

エリー.ファー

神の民主主義

 地球がそのまま爆発するという。

 神様はそれこそ数えきれないくらい集まったが、地球の意思は固かった。

 間もなく、地球は滅亡する。

 間違いなく、きれいさっぱりその場からいなくなる。

 それも含めて、そこには命が存在し、そこには生き方が存在していた、ということになる。

 このまま、ここに居続けていいものか、と思うかもしれないが、こればかりはどうしようもない。

 神は地球を見捨てることにする。

 地球の中には多くの人間が神に向かって祈っている姿がある。誰もが神をその肉眼で見たことがないというのに、必死である。神はそれを見ながらなんとかせねばならないと思う。

 しかし。

 思うだけで行動となると難しい。

 地球の意思を尊重させてあげたいと心から思ったからである。

 不憫ではあったのだ。

 地球というのは。

 何せ、地球がこの宇宙に生を受けたのは、決して地球の意思ではなかった。黒いただむらなく広がる海に、まるで波間のゴミのようにふわりとやってきてそのまま放置されたのだ。いつのまにか、それらは一つの形を成して、そこに命が生まれた。

 地球自身も思っている。

 神も思っている。

 奇跡だ。

 奇跡で生まれた。

 しかし。

 それだけだ。

 そこに奇跡以外の理由はない。

 何もあてにされるわけでもなく、何もうまくいくわけでもない。気が付けばここにいて、このままここに居続けるだけの存在。

 地球は、その自分の命の軽さに飽き飽きしたのだ。

 その内。

 集まっていた神の中で、爆発が起きた。

 地球よりも先に、神が自殺したのだ。

 次に、首吊。

 次に、溺死。

 次に、服毒。

 次に、焼死。

 その内、神は地球に憧れだした。

 地球のその意志と行動に、僅かばかり感化されたのである。

 それはすさまじい速度だった。

 神は。

 もう。

 その地球の中に住む人間たちにとっての。

 神ではいられなかった。

 知っている神などもうそこにはいなかった。

 そうしていると、遠くから何を求めたのか、土星が高速回転しながら宇宙の波動を切り裂き、接近してくる。近くの星々はそのまま吸い込まれて、土星の肥大化を手伝っていく。

 地球へもう間もなく。 

 そんなところで。

 神同士の殴り合いが始まり撲殺。

 飛び散った血液と肉片が土星の軸に当たる。

 地球は未曽有の危機を回避した。

 地球の中の人間たちは手を取り合って喜び、人種の壁、文化の壁、言葉の壁、性別の壁、それらを越えて皆仲良くなった。

 数週間もすると、神々は皆、死んでしまい宇宙は静かになる。

 そうなると、神の御加護を受けられずに地球はますます疲弊していく。

 死ぬ、死なない、自殺する、自殺しない、などという問題ではない。そういうことではないのだ。

 余りにもずれているそのような考え方は、さっさと形にして星屑あたりで落ち着けてから、宇宙の消し炭にするべきだった。

 けれど、それでも地球は地球としての形を失っていく。

 神は選んでしまった。地球を見守らない、という方向で自分たちの意思を示してしまったのである。

「神がいない。」

「神がいなくては、地球が終わる。」

「地球が終われば我ら人間が終わる。」

「このままでは。このままでは。」

 地球はその声を聞きながら自分の中にまた生まれている、自殺願望を確認する。

 しかし不思議と。

 その頃にはもう希望に溢れてしまっている。

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