君に逢いたかった

にっしー🎲

君に逢いたかった

ある風が吹いたあの日、僕は夕暮れに黄昏れていた。それは職業訓練センターの帰り道の車の中だった。

「仕事しない男はキライ!」

前、告白した女性から発せられた言葉だ。僕は自分を恥じ、この職業訓練センターに通い出した。そう、それは僕が彼女と恋仲になりたい、という動機以外の何ものでもなかった。

ーーーそれから半年ーーー

僕は職に就いた。イベント会社だった。例えば結婚の式場の設備を施したり、歌手のコンサート会場の設営、お祭りの屋台のテント作り、などが主な仕事である。

僕は彼女にこう切り出した。

「仕事し始めたよ、ねぇ、付き合ってくれる?」

「ごめん、別に好きな人ができたの。あなたと違って年上で車はベンツよ。」

悲愴感が僕の中で溢れ出てきた。

ーーーそして男としてやってはいけないことをしてしまった。

「グスン、グスングスン」

ーーー女性の目の前で泣いたのだ。

「えぇ?ちょっと……」

そこは皆が交差する街中。周りの人に勘違いされるかもしれない。悪いのは僕の方なのに……。

結局、彼女は「ごめん……」とだけ言って、その場を去った。

僕の悲しい青春秘話である。

時は過ぎ五年ーーー。僕は無職で自堕落な生活を送っていた。

彼女のことがどうしても忘れられず、精神的にも精神科で鬱病と診断され、通院するようにもなっていた。

僕はひどく渇いていた。具体的に言うと、女と寝たかった。

そこで僕はそのための一つの手段として、今流行りの「マッチングアプリ」というものをスマホにインストールした。マッチングアプリとは、その多くが自分の顔写真をアプリ内の自己紹介の欄にのせて、同じく自分の顔を登録した異性と知り合うというものだ。アプリを開くと、一日十数人の顔写真が現れるので、それを好みの顔だと思ったら、右へスワイプ(指で横になぞること)、嫌いな顔だと思ったら左へスワイプすれば良いのだ。

結局、どんなに待ち合わせしても、リサコもカナコもキョウカも待ち合わせにやって来なかったが、「こんなものか……」と自分を納得させようとしたその時、雪の絨毯を踏み締める音が聞こえてきた。どこから聞こえてくるのだろう?そして

「やっと逢えたね」

といい声が耳に吸い込まれた。

それはトキコだった。顔写真と一緒だ。間違いない。

人は一生で出会う人の中で「この人だ!」と思ったという人を「運命の人」となんか言ったりするが、僕はこの時それと似たような恍惚感を覚えていた。

そして彼女はトンデモ話を僕に振った。

「今までの女の子、全部逢えなかったでしょ!?あれね、パラレルワールドなんだよ!」

僕は「パラレルワールド」という言葉は聞いたことがあったが、その意味するところをあまり知らないでいたので聞いてみた。

「パラレルワールドって何!?」

すると彼女は藍色のマフラーを口まで持っていって、ふふ、と微かに笑い、

「平行世界だよ。今、私とユウヤ君(僕の名前だ。今さらですが悪しからず)が会っている世界があるよね?でもその逆にあなたとあたしが逢っていなかった世界も同時に進行してるのね?わかるかな」

「じゃあ今までリサコやカナコやキョウカに会えなかったのは僕だけ別の世界に居たワケだ。でも、何で今回だけ逢えたの?僕はいつも通り過ごしていただけだぜ?」

「幻想世界と現実世界、……ああ、ここではこっちが現実世界だものね。失礼。つまり、幻想世界と現実世界の狭間というものがあって、普段はまったく結びつくことはないハズなんだけど、あなたの放つ電気エネルギーがべらぼうに高い数値に高まっていて、それがとうとう現実と幻想を飛び超えちゃったってワケ」

僕(ユウヤという)はあまりに色々まくしたてられたので、混乱していた。

そして彼女がここぞとばかりに強調してこう言った。

「あなたは特別な人間」

その後、僕とトキコは待ち合わせのカラオケ店でMr.Childrenの「しるし」やL'Arc-en-Cielの「drivers high」などを歌って盛り上がった。

その後、ムードが段々、妖しい気配を漂わせ始めた。僕と彼女はキスをした。タバコのフレーバーがした。(二人とも喫煙者)

そして僕は酔った勢いで言った。

「この後ホテル行かない?」

彼女は顔を赤くして、しばらくハニかんでいたが、とうとう決心がついたようで、

「行こっ…」

「か」を言い始める前に、僕らのカラオケルームに見知らぬ黒ずくめの兵士?(軍服を著ているから兵士と書いた)が現れ、こう言った。

「コチラ、タイムトラベラーデス。ヘイコウセカイノギャクガワニキテシマッタムスメヲタスケニマイリマシタ」

「あ、ちょっと~、離してよ~エッチ~」

「おい、強引すぎるぞ!彼女を放せ!」

僕は内心では彼女とホテルに行けそうだった流れが、突然中断されたことの方に怒っていた。

そして黒ずくめの兵士は空中に円を描き、「ワープホール」というらしい時間の歪みを作り出し、そこへ彼女とともに消えていった。僕も向こうの世界に行こうと飛び込んだが、時すでに遅し、ワープホールは消えてしまった。

ーーーそして僕は一人になったーーー

それから数年後

出会い系アプリ(マッチングアプリよりは肉体関係重視)で適当な女を探して適当に童貞を捨てた。昔、サイケ系のロックバンドに「童貞だろ~と捨てたらタイヘンだ!もうナイヨ!」というフレーズを使用した楽曲があったのを思い出した。


トキコに逢いたい。


END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君に逢いたかった にっしー🎲 @nanokuratesu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る