第175話突っ伏す
翌朝、凜に起こされた晴斗は、ゆっくり目を開けてボーッと顔を見ていた。
「朝御飯だよ、起きて」
「…もう朝? 眠い」
「晴くんは最近寝すぎだよ」
「…慣れない友達が来るから精神的に疲れるんだ‥」
「晴くんは気が張りすぎだよ、色々考えてるんでしょ」
「自分でも分からん‥‥まぁ、起きる」
ベッドから起き上がり、ボーッと外を見ていると、凜にキスされて首を傾げて見ていた。
「晴くんが先に寝たから‥おやすみなさいのキスまだだったでしょ」
「…おはようは歯を磨いてからな、フライングすんな…寝起きは汚い‥‥」
「晴くんからもしてくるでしょ」
「確かにな‥でも俺は歯を磨いてしてるから、凜は汚いと思わない」
「私だって‥」
「言い合っても仕方がない、朝御飯にしよ」
「うん、行こ」
洗面台で口をゆすぐと、凜に手を引かれてリビングに入ったが、麻莉菜と柚が朝御飯を食べていた。
「二人ともおはよう」
晴斗は二人に挨拶をすると、挨拶を返されて席についた。
「柚は風邪引いてないよね?」
「はい、大丈夫です」
「良かったよ」
柚が風邪を引いてないと分かると、晴斗は視線をテレビに向けて見ていた。
「晴兄は私に聞いてくれないの?」
「毎日顔見てるからな、風邪引いてないかぐらい分かるから聞かない」
「毎日見てるんだね」
「見てるよ」
麻莉菜は嬉しそうに頬が緩んでいた、朝御飯がテーブルに並ぶと晴斗はさっさと食べ終わり、寝室で横になってテレビを見ていた。
「晴くん食べ終わるの早かったけど‥どうしたの?」
「横になりたかった、まだ学校まで時間あるんだけど‥」
晴斗は横を叩くと、凜もベッドで横になった。
「晴くんキツそうだね」
「毎日友達が来てるからな」
「今日は二人で居ようね」
「助かる」
抱き締められると抱き締め返して横になっていた、急にノックされ「行ってきます」と二人の声が聞こえて返事を返した。
「…二人とも行っちゃったね」
凜はどこか恥ずかしそうに言われ、晴斗は眉間に皴を寄せて見ていた。
「…睨まないで‥」
「睨んでないよ、急に恥ずかしがるから‥」
「…二人になったからぁ」
抱き締めて頭を擦っていたが、急に首を甘噛みされていた。
「痛いからすんな」
「…やだ」
急にハムハムと言い出すと力が入り、痛くなると晴斗は頭を掴んだが、凜は抱き締めていた腕に力を入れたため頭を首から離せなかった。
「痛いっ」
凜は首に歯が食い込んだと分かったのか、直ぐに顔を離したが笑っていた。
晴斗は首を触ると、感触で歯形が付いたのがわかった。
「やったな、とうとうやったな…学校このまま行くからな‥隠さないからな」
「…私が噛んだっていうの?」
「聞かれたらな」
「…晴くんが襲ったと思われるよ」
「良いよ、今の俺の心は何言われても動じないから」
「晴くんのことだから‥自分を悪く言うんでしょ?」
「どうだろうな、そうかもな」
晴斗はベッドから降りると全身鏡で首を確認していた。
「数時間で消えるな、着替えるね」
「私も着替えなきゃ」
二人は着替えると玄関まで抱き締められていた。
「…晴くん、行ってきますのないの? 最近してないよ」
袖を引っ張られると振り向いてキスしていた。
「望み叶えたから、手繋いで」
「一階までだよ」
アパートの一階まで降りたが、晴斗は何食わぬ顔で手を離すことはなかった。
「晴くん、いつ離してくれるの?」
「首噛まれて平衡感覚がぁ」
「…ふざけてるけど‥今日だけ手を繋いであげる」
晴斗はニコニコと嬉しそうに凜に笑みを向けると、凜に目を剃らされた。
「…見られてる」
「仲の良い兄妹だからな、見られてるな」
「…手を繋いでるからだよ」
「知ってる」
「…フード被ってると‥歯形が見えないね」
「見えないねぇ」
「ふざけてるよね?」
「ふざけてるよ」
何度も手を離されたが、晴斗は立ち止まって帰ろうとすると、凜から手を繋がれ「やっぱり繋ぎたいんだな」と教えていた。
気づくと学校の敷地内に入っていた。
「…晴くん、もう離していい?」
「離したら帰るよ、テストなんて気にする男じゃないからねぇ」
「…下駄箱まで」
「教室までな」
「…恥ずかしくて‥泣いちゃうよ」
「泣くと、抱き締めて教室まで送ってあげるよ」
「…泣かない」
「泣けばいいのに」
凜に足を踏まれると、よろめくフリをして抱き付いていた。
「足踏まれて平衡感覚がぁ」
「ふざけないで離して」
「無理…黙ってたけどまた告白されてたよね‥相手に飛び蹴り入れたくなる…」
「晴くんと付き合ってるのって聞かれるんだよ‥違うよって教えてるよ」
「付き合ってるって言えば良いんだよ、カップルと変わらないんだからな」
「…そうだけど‥」
凜はおとなしくなり、晴斗は抱き締めたまま教室まで向かった。教室に入ると数人はテスト勉強していた。
晴斗は自分の席に座ると突っ伏していた。
「朝からいちゃつくな」
晴斗は自分のことだと分からず、返事をしなかった。後ろの席に座る美優紀に背中を叩かれて振り向いていた。
「朝からいちゃつくなって」
「誰が」
「手を繋いだり、抱き付いたりしてたよね」
「仲の良い兄妹だからな…テストまで寝る」
晴斗はまた突っ伏していたが、回りがうるさかった。
「晴斗くんに勝ったら何してもらう?またテストで競ってるよね」
「まだ決めてないよ」
晴斗は突っ伏していたが横を向くと、凜と目が合った。
「100点取ったら‥言うこと一つ聞いて」
「取れたらね」
「言ったからな、皆の前で言ったからな‥」
「英語以外ね」
「…英語しか満点取れない、やる気無くなった‥0点で良いや」
「補習になるよ」
「…どうでもいい」
晴斗は拗ねてチャイムが鳴るまで静に寝ていた。先生に起こされると、いつの間にかテストが配られていた。
晴斗は本当に名前も書かずに突っ伏していたが、先生に肩を叩かれ顔を上げた。
「名前も書かないのか?」
「…書かない、いや‥書く気がしない」
晴斗はまた突っ伏していたが、先生は凜に声を掛けていた。
「晴くん、テストしなさい」
「言うこと聞くから、後でキスな」
「ばか、皆の前でなにいってるの」
「テスト中に話しかけんな‥ばか…噛まれた首が痛いんじゃ」
「…もう‥知らない」
「未来の嫁を怒らせると怖いからなぁ、テストしますかぁ」
直ぐにテストを開始した、チャイムがなると凜に耳を引っ張られていた。
「痛いって‥キスしないから離せ」
「良いから来なさい」
「隠れてキスか?冗談だったんだけど」
「…ばか」
「凜ちゃんに首噛まれた?」
恵は楽しそうに聞いてきたが、晴斗は冗談と教えると、なぜかクラスメートは「また冗談」と呆れて言ってきた。
「英語を満点取ったら言うこと一つだよね、何してもらうか決めた?」
「決めてない、満点取る意味ないから60点で押さえるよ‥やる気しないし」
「晴斗くんって何考えてるか分かんないね」
「大好きな凜のことしか考えてない‥寝るからな」
晴斗はまた寝ると、また肩を叩かれて英語のテストが始まった、計算して60点取れると、晴斗は突っ伏していた。
「飯島くん、全問解かないの?」
先生は晴斗が突っ伏すまでの時間が早かったのか、テストを見に来ていた。
「テスト中ですけど…60点でやめます‥お休みなさい」
「全問解きなさい」
「妹のせいでやる気がしない、寝る」
「テストを真面目にしなさい」
「めんどい、他人の言うことは聞かない、担任でも俺に押さえ込む言い方するな」
晴斗はイラッとしていたが、両肘を付くと貧乏揺すりをしながら黒板を眺めていた。
「問題児、満点取ったら言うこと聞くからしなさい」
「仕方ないなぁ、問題児は凜の言うことは聞くよ」
晴斗は急に機嫌が良くなり、全問解くと突っ伏した、チャイムが鳴ると凜に視線を向けた。
「初めて全問解いたから満点だな…なにしてもらおうかなぁ」
「まだ分かんないよ、満点じゃないかもよ」
「満点なんだなぁ、凜が本気で解かせたんだよ」
凜を抱き締めて、優しく頭を擦りながら小声で教えていた。
「…私のおかげ? ご褒美あるの?」
「あるよ、家に帰ったらあげるね」
「…エヘヘ」
「皆の前だからね、笑いかた気を付けてね」
「…は~い」
「喉乾いた、自販機行こ」
凜は鞄からお茶を取り出すと、手渡された。
「飲み掛けかよ、持ったらわかる‥ぬるいやつ」
「文句言うなら一人で買いに行きなさい」
「めんどいから買いに行かないよ、開けて」
凜に開けて貰うと、晴斗は読みかけを飲んだがぬるかった。
「…ぬるい」
「もうあげないから」
「冷たいの欲しかったな」
「…贅沢さんは知らない」
凜はムッとしていたが、晴斗は頭を擦って席に付いた。
「直ぐ二人の世界に入って…目の前でいちゃつく」
「うるさいな、撫でただけ」
「それをいちゃつくって言ってるの」
「知らねぇよ」
「家では優しいのに‥」
「美優紀は黙ろうな」
またチャイムがなり、数回のテストを受けると放課後を迎えた。
「凜帰るよ」
「うん」
「私達は?」
「邪魔だからファミレスで勉強して」
「学校だと口調が悪いよ」
「…今日はごめんね、晴くん疲れてるから‥」
「……」
「またな」
凜が断ると友達はかっけらかんとしていた、晴斗は先に教室から出ると凜も袖を掴んでいたため付いてきた。グラウンドに出ても凜は袖を掴んでいた。
「もう学校の敷地外だけど‥」
晴斗が手を差し出すと、凜はギュッと手を繋いできた。
「数人の生徒が居るけど‥裏道歩くか?」
「…大通りで良い‥‥慣れなきゃ」
手を繋いで大通りを通り、家に帰っていった。
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