第299話 本能
一度リビングへと戻り、皆は先程の戦いを見て言葉を失い、その場は沈黙に満ちていた。
チラチラとミツに向けられる視線はマイナスの気持ちの警戒や恐れではなく、いつもと変わらず呆れ、苦笑、尊敬の視線である。
テーブルに座ったままのライムの前にお茶を置き、対面に座るミツ。
「ライムさん、如何でしたか? 見てもらった通り、シルバーの冒険者、ガランドさんのスキルは強力な物もありますが、自身のステータス等を下げる物もあります。ライムさんが覚えたスキルの大半が同じですが、基本的な力もお二人はまた違いますので、戦闘を行う際は注意してください」
「……そうだっちゃね。ミツの分身が説明しながら見せてくれたけど。あれはウチは訓練しないと難しい戦闘だっちゃ……。よし、そうとなれば早速訓練だっちゃよ!!」
出されたお茶をぐびりと飲み干し、席を立つ。
ライムの威勢に乗ったのか、皆も休憩は終わりだと口々に出しては訓練所へと戻っていく。
ミツは訓練所に行く前と、聖木の元へ行かなければ行けないので用を済ませてから行くねと伝えると、リックがスッキリさせてこいの言葉を出すもんだから、ヘキドナに頭を叩かれ、リッコからは綺麗なミドルキックが尻へとヒットしていた。
数日と一緒に居るだけに、ヘキドナもリック達に遠慮が無くなってきたようだ。
(主! 是非とも我々もお供させてください!)
「んっ? ラルゴ達も一緒に行くかい? なら自分の護衛でもお願いしようかな」
(((喜んで!!)))
足取りの軽いウルフ4頭を連れて行くミツを見送る皆は思ったろう。
お前に護衛が必要なのかと。
それも皆に苦笑と笑いを出すだけなのだが。
∴∵∴∵∴∵∴∵
「うんしょ! よいしょっと!」
「ハッハッハッハッ!(主様、見えました)」
「本当にリティヴァール様の言う通りカセキになってる。こりゃ確かに前の倍以上は作らないと駄目だな。しっかし……聖木も大きくなったな……」
ミツが上を見上げると、その横には大きな木が視界に入る。
数日前は細い枝と思える若木であったにも関わらず、聖木は樹齢50年を軽く超える程の木と見た目の姿を変えていた。
(主様の魔石は最高ですからね、木も喜んでいたのでしょう)
(ああ、その気持ちは分かるぞ! 主の作られた魔石はとても美味い品だからな。 ジュルリ……)
(ラルゴ、よだれが出てるわよ)
(おっと、失礼)
「ははっ、穴掘りの協力してもらったお礼に、また後であげるからね」
(((おおっ!)))
(主様、この子達の親として感謝します)
「アンは硬いなー。別にそこ迄低姿勢にならなくても良いのに。よしっ、取り敢えずカセキは全部出せたね。皆、次に入れる為の魔石の準備をするからこの穴をもっと掘り下げといて」
((((はい!))))
早速と穴の広さを広げるためと4頭のウルフが穴掘りを始めた。
土は思った以上に柔らかいのか、近くにある聖木の根っ子に注意しつつ、彼らは以前の倍以上の穴の広さを作り出していった。
中に入れる魔石の大きさは以前よりも大きくしなければならない。
取り敢えず先ずは以前作った魔石の大きさを超える大きさに作り、更に〈増殖〉スキルを使っていく。
魔石の大きさは、以前エンダー国のレイリーに献上した時の龍玉以上の大きさになった。
「ちょっと大きすぎた? まぁ、どの道入れ替えしなきゃいけない時期も来るだろうし、それが先か後かの違いだけだな。さて、皆そこから出てこれる?」
ミツが穴の中へと声をかければ、壁を蹴り上げ、深い穴のそこから姿を見せる4頭のウルフの姿。
皆頑張ってくれたのか、体中を土埃に汚しつつも、ミツの感謝の言葉に満足そうに尻尾を揺らし、ワンッと声を返してくれた。
大きな穴の中へと、作ったばかりの水の魔石と土の大きな魔石を入れておく。
最初は増殖させた拳程度の魔石を沢山入れておこうかと思ったが、その魔石がカセキになった時に回収するのが大変と思い、大きな魔石二つだけを入れることにした。
土を戻すとその場がちょっとだけ小山になったが気にする人は居ないだろう。
それよりも、周囲の木の成長の方がひと目を引くかもしれない。
「少し貰っていこうかな」
魔石の効果の影響は聖木だけではなく、周囲の木も急成長させていた。
増え過ぎた木を減らし、聖木にしっかりと陽の光が当たる様に数を減らしておく。
木は薪にも家具にも使えるので多すぎて困ることはないのだ。
4頭のウルフへとお礼とご褒美を兼ねて魔石のプレゼント。
相変わらずボリボリと心地良い音を鳴らし魔石を食べる姿はシュールだ。
家に変えるとリッコ達の目もあるので、今の内と彼は少し多めにアン達へと魔石を与えていた。
いつもの日課であるこの行為。
しかし、彼は忘れてはいけない事を忘れていた。
いや、それが関係するとは、この時思ってもいなかったのだ。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴
頼まれていた用事も済ませ、訓練所へと戻る。
するとリックの槍をもたされたリッケの姿がそこにはあった。
「わっとと!」
「おいおい、持つだけでそんなにフラフラして大丈夫かよ?」
「だ、大丈夫です。ちょっとバランスを崩しただけですから」
「んー。落とさねえように紐でくくっておくか? 別にそれ使って戦えって訳じゃねえし、縛っといてもいいだろ?」
「あー、そうですね。ミツ君、すみませんが紐をお持ちなら頂けませんか?」
「うん、あるけど、折角ならリックみたいに背負っちゃおうか」
「どうすんだ?」
「えーっとね、こうやって布と糸を出して」
ミツはショートランスをリュックサックの様に背負わせる為と少し長めのバッグを作る。
「あー、なるほどな。確かにこれなら一応お前が言ったとおり背負った状態に変わりはねえもんな」
「うん。リッケ、大丈夫かな? 違和感とかあったら肩部分のベルトは調節できるからね」
「はい。さっきよりずっと持ちやすくなりました。ミツ君、ありがとうございます」
「いえいえ。それじゃ次は馬の方だね」
「馬なら街から乗ってきた馬があるけど、それ使うかい?」
「そう言えば馬車の馬がいましたね。でもその子達に流石に一日中槍を背負ったリッケを乗せ続けるのは酷なので止めておきます」
「おろっ? でもよ、リッケの次のジョブには馬は必要なんだろ」
「はい、なのでリッケには自分が〈幻獣召喚〉にて出す馬に乗ってもらいます」
「なるほどね。ってかお前さんは馬まで出せるのかい」
「馬と言っても元はモンスターですよ」
「おいおい、それって大丈夫なのかい……」
「そこは大丈夫です。仲間を危険に晒すような事はしませんからね」
「まあ、別にお前さんを疑ったわけじゃないけどね。リッケが怪我しちゃあいつのおっかさんに悪いだろ」
「ああ、確かに子を思うのに歳は関係ないですからね。でもリッケ本人としてはマネさんからお母さんの話はして欲しくないんじゃないんですかね? 同じ男として言えば、想いを寄せてる人に母親が顔を出すのは本人も恥ずかしいですから」
「そう言うもんかい?」
「そうですよ。ねっ、リッケ」
「ま、まぁ。そうですね……ははっ……。取り敢えずミツ君、お願いしても良いですか?」
「うん」
〈幻獣召喚〉を発動し、バイコーンを一体呼び出す。
魔法陣の中からスッと出てきた大きな馬に驚きと歓声が上がる。
「「「おお!!」」」
「ああっ……」
その中、バイコーンの持ち主でもあるグールキングの八兵衛があんぐりと口を開き、バイコーンの大きさと強さに唖然の表情を作っていた事はミツは気づかなかった。
彼の反応に気づいたのは隣に居る助と格だけである。
「デカッ!? 何だこの馬」
「これはバイコーンって馬型のモンスターだよ。実際このバイコーンは敵としては厄介で、自分が戦う前もかなりの冒険者の人達が苦戦してたからね」
バイコーンはブルルと馬の鳴き声を鳴らし、黒い鬣と二本の大きな角を大きく揺らす。
白い瞳に生気は感じられないが、主であるミツがその身体をなでれば甘えるように首を向けてくれた。
「うわー! でっけえ馬だシ! えっ?」
「えっ?」
バイコーンが甘える姿に自身もバイコーンを触りたくなったのか、シューが駆け寄りミツの側に。
その瞬間、バイコーンがシューの服を起用にも口で掴み、ポイッと上空へと捨てるように放り投げてしまった。
「うわっー!!」
「シューさん!」
「ホッ! わー、ビックリしたシ」
「シューさん、大丈夫ですか!?」
シューはマネの身長を超える程の高さに投げられたにも関わらず、起用にも空中にて身を返しくるっと一回転した後に綺麗な着地を決める。
「んっ? 大丈夫大丈夫、寧ろ面白かったからもう一度やって欲しいくらいだよ」
「そ、そうですか……。すみません。コラッ! そんな事しちゃ駄目でしょうが」
ミツの叱咤にバイコーンはまたブルルと唸り声を上げ下を向いてしまう。
「偉大なる主様」
「んっ? 八兵衛さん、如何したの?」
「はっ、恐れながらバイコーンに関してお話が。バイコーンは悪種の馬です。不純を司るとされておりますので、その為にそちらのお嬢さんにはバイコーンが懐く事は無いかと……」
「不純……。あっ、それってまさか……」
「はっ。ご理解頂けたようで何よりにございます」
「ちょっと少年、本当にその馬使えるの?」
「いきなり噛み付いてくるんじゃヤベえよな……」
エクレアとマネが訝しげる視線を向けていると、バイコーンは下げていた首を上げ、二人の方をじっと見る。
「な、何よ、やる気なの……」
「へっ、逆らう気なんて出させない様に一度締めておくっての。って、うおっ!?」
「きゃっ! え、えっ?」
警戒心を上げていた二人の方へとバイコーンが進む。するとバイコーンが猫の様に二人へと自身の顔を擦り付けるようにじゃれ始めた。
「おっ、何だい、結構懐っこい奴じゃないか! おお、よしよし」
「ホント、顔はちょっと厳ついけど、それを抜けば普通の馬ね」
「えーっ!? 何でだシ!」
(あー、不純ですか……)
バイコーンが懐くのは主であるミツは勿論として、別に不純である人物が対象となる。
不純。つまりは男女のまぐあいの経験者と言う事である。
バイコーンはシューが処女である事を匂いで感づいたのだろう。
その為か、マネとエクレア、二人がバイコーンの顔を撫でる時と、彼女がもう一度とバイコーンに近づいた瞬間、バイコーンがスススッと遠ざかってしまった。
何でウチだけと地団駄を踏むシューだが、バイコーンは彼女だけを避けている訳ではなく、恐らくトトやミミ達からも遠ざかりたいのだろう。
少し離れた場所で前足で地面をならしている。
そんな光景を見ているリッケもやはり少し尻込みしてしまうのか、不安そうにミツを見ていたので彼に声をかける。
「リッケ、不安かもしれないけど自分を信じて。ほら、マネさんに先に触れて貰ってからその隣からゆっくりと振れれば大丈夫だよ」
「そ、そうですか?」
「リッケ、大丈夫だよ。見た目おっかないかもしれないけど、直ぐになれるってばよ」
「はい」
マネの後押しもあり、リッケはバイコーンの元へ。
マネが先に大きな体に触れ、それにあわせてリッケもバイコーンへと触れる。
バイコーンの顔が二人に近づき、リッケもバイコーンに気に入られたのか大きな顔を押し付けられている。
「うん、やっぱり大丈夫だったね……」
「よし! それじゃリッケ、早速その馬に乗ってみろよ」
「はい、分かりました」
「あっ、リッケ、ちょっと待ってね。そのまま乗るとリッケの足が大変なことになるから。えーっと、鉄じゃ痛いよね……。よし、ゴムと糸と布生地っと」
「ミツ、何つくるニャ?」
「ああ、これからリッケには明日までバイコーンの上に乗っててもらうことになるから、少しでも快適にしてあげようと思ってね。バイコーン、こっちにおいで」
離れていたバイコーンがミツに呼ばれた事に近づいてきた。
「はい、しゃがんでしゃがんで。横幅を測ってっと。こりゃまる一日ここに座っていても問題ないな。畳一畳ぐらいは広さが取れるね」
「タタミニャ?」
「えーっと、ほら、隣の大部屋の下に敷いているアレ、一枚分だねって事だよ」
「ニャるほどね。あっ、ミツ所でトイレはどうするニャ? ズッと馬の上に乗り続けるなら、リッケが大変なことになるニャよ」
「んー、垂れ流すか? 後で掃除すりゃ良いだろ」
「えっ!?」
「い、いや、それはリッケも辛いだろうし、バイコーンも可愛そうでしょ。そこは大丈夫。リッケにはこれを」
「んっ? これなんですか?」
ミツはリッケへと木箱を手渡す。
中に何か入っているのか、受け取った木箱は少しだけ重みを感じる。
「簡易のトイレだよ。中にスライムが入ってるから、この中に済ませてね。それで、これが座る為の椅子ね。組み立て式にしてるから、バイコーンの上でも済ませることはできるから」
「ああ、なるほど。でもよ……それだとリッケの奴が済ませるまで丸見えじゃねえか?」
「そ、そうですよね……」
「それは勿論。だから、バイコーンの背中にはこう言う奴をのせるよ」
ミツが必要な素材をアイテムボックスから取り出し地面に置き、そして物質製造スキルを発動する。
すると出来上がったのは一人用の椅子にカーテンが仕切られた品。
背もたれもあるので、リッケがバイコーンの背中で足を伸ばして座る事もできる。
「何だこれ……」
「虫の繭みたいね……」
「そうそう、リッコの言ったとおり、イメージとしてはそれに近いかな。リッケにはバイコーンの背中、この簡易ボックスの中で1日を過ごしてもらうからね。こうやってレーンに付けたカーテンを回せば、リッケが中で着替えたり眠る事もできるよ」
試しにリッケにバイコーンの背中に乗ってもらい、乗り心地を確認してもらう。
バイコーンの背中は広く、畳一畳分に近い広さがあるようだ。
うん、ミツの魔力から出てきたバイコーンは普通にデカすぎる。
パカポコと歩いてもらうのも悪くはないが、リッケの次のジョブの条件としては乗馬した状態を済ませれば良いだけ。
なので外周を別に歩かなくても良いと、バイコーンには隅っこの方でジッと座ってもらっている。
これで良いのかと皆からも声が出るが、ミツもユイシスに同じ様に疑問と質問をしていたので間違いないのだ。
今回条件上位ジョブに変更するのは、リック、リッケ、リッコ、ミーシャの四人。
その内、既にリックとリッコは条件は済ませてある。
残りのミーシャはミツが出した〈アイスシールド〉の硬氷壁を破壊してもらう為と、彼は訓練所の一部へと魔法を発動。
ただの〈アイスウォール〉の氷壁と違い、見た目以上にカチコチにできた硬氷壁は密度が高く、反対側が全く見えない程の濃い青に色に染められている。
それをミーシャは自身の持つ〈アイスランス〉等の攻撃魔法にて破壊できなければ条件上位ジョブが表記されない。
リッコにも氷系、若しくは水系の魔法が使用できたならチャンスはあったが、残念ながらリッコには水属性の魔法適正が無い為にそれは不可能である。
ミツは魔法を発動するのは素の状態にしたいので、あえて支援をかけずに硬氷壁を発動。
それでも既に〈絆の力〉のようなパッシブスキルは避ける事ができないのは仕方ない。
後にミーシャへとバフのスキルを発動。
演奏スキルから盛盛りに盛られた支援スキルはミーシャの発動させる氷槍の威力を限界にまで底上げする。
「それじゃ、やるわよ」
ミーシャの〈アイスランス〉の氷槍が硬氷壁へともの凄い音と共に当たる。
これは一撃で行ったかと周囲の皆は思ったろう。
しかし、硬氷壁に当たった氷槍は砕け、ガラガラと音を鳴らし地面に音を沈ませた。
そして未だに健在としてそそり立つ壁。
ミツの出した硬氷壁はほんの少しだけ破損を見せたが、その形はそのままである。
「「「……」」」
「うっそー!」
「ありゃ……こりゃ時間かかるわね。ミーシャ、取り敢えずそのまま頑張んなさい」
「う〜。私ちゃんと本気出したのよ〜」
「はいはい、分かったから。言ってる間に次やった方が良いわよ」
「もうっ! ミツ君の硬すぎよ」
「これでもレベルは抑えてる方なんですがね? 多分演奏スキルを発動した今だと目の前の倍は硬くなると思いますよ」
「堅固過ぎだろ。まぁ、無いと思うが、竜がこの村を襲っても、お前が壁を作れば村の家畜も安心だな」
「トト、多分ミツさんがその竜に気づいたら、村にも近づけないんじゃないかな……」
「あっ、そうだな。精霊の姉ちゃん達も居るし、あれ……。ここって下手したら街よりも安全なんじゃね?」
「そうニャ、そうニャ。それよりミツ、訓練の続きやるニャ?」
「いや、皆ジョブを変えて新しいスキルを覚えたよね? 今日の残りと明日は覚えたスキルの検証を使用と思ってるんだ」
「ニャルほどニャ。確かに戦いの時に使い方が分からないとなると大変なことになるニャ」
「それでもレベルは少しづつ上げてもらうけどね。それとリック」
「んっ?」
「リックの使ってる〈城壁〉だけどレベルを上げるには、スキルを一度切らないと経験が貯まらないんだよね。だから、スキルのレベルを上げれば、もっとリックの作る壁は厚くなると思うよ」
「えっ? 俺的には結構使いやすくなった気がしてるんだけど?」
「それは多分スキルを発動するのに慣れただけだよ」
リックの城壁レベルは今は3。
常に発動した状態が続いた為か、多用しているはずの城壁のレベルが上がってないことにミツも首を傾げるレベルとなっている。
「だからリック、壁を出してもらえるかな?」
「おう。これでいいか?」
リックはもう慣れたもので、イメージ一つにキラリと目の前に城壁を展開する。
「うん。それで誰か、リックに攻撃スキルか魔法を使って貰えるかな?」
「ニャは! ウチがやるニャ!」
なら試しとばかりにプルンが声を上げてきた。
彼女はミツと兼用に使っているドルクスアナックルを着用。
不敵な笑みを見せ、リックの城壁へと拳を当てがえる。
「ニュフフ。リック、覚悟するニャよ」
「へっ、お前の攻撃で俺の城壁が破れるかよ」
「ニャ、その自信を砕いてやるニャ!」
その言葉にプルンは遠慮なくとばかりに新たなスキル〈無手波砲〉を打ち込む。
ドカンッと明らかに拳を打ち込んで響くような音ではない音を訓練所に響かせた。
二人ともまだ支援らしい支援をかけていないので、先程のプルンの一撃が今の彼女の実力なのだろう。恐ろしや恐ろしや。
「ニャニャ!?」
「ヘッ! その程度かよ」
「ムッキー! もう一発ニャ!」
「はーい、一発で良いからね。それじゃリック、城壁を解除して、もう一度かけて」
「おう」
「それじゃこれの繰り返しね。一撃リックの城壁に打ち込んだら解除のループを続けて行こうか。これを続けて行くと、スキルがレベルアップして使いやすくなるから」
「ニャニャ、リック、次こそその壁壊してやるニャ!!」
「おう、まぁ! お前には無理だろうけどなっ!」
「ムッキー!!」
「プルン、私も手伝うわよ」
「私もやっていいかしら」
二人の会話に参加するリッコとローゼ。
「お、おい……流石に三人は……」
「おや、誰が三人で終わるって言ったかい。折角だ、私達も新たな力を試させて貰おうじゃないか」
「えっ!? ヘキドナさんまで!?」
「頑丈な壁なんでしょ? 私達の攻撃くらい耐えないとね〜。あっ、大丈夫大丈夫、もう君も回復ができるんだから怪我しても問題ないわよ」
「!?」
「エクレア、後輩を怯えさせる言葉は控えるし。……でもウチもやるし」
「勿論ウチもやるっちゃ。モンスター相手も必要な事だけど、お前達には盗賊相手の対人戦も体に教えてやるっちゃ」
「おっ、なら先に兄貴さんのガードを崩したら勝ちってのはどうだい?」
「「「いいねー」」」
マネの思わぬ提案に、数名の女性冒険者達の顔に不敵な笑みを浮かべさせた。
「まじかよ……」
「リック」
「ミ、ミツ!」
「頑張ってね。魔力が無くなったら自分があげるから」
「うえっ!?」
「あら、それ良いわね。あんたミツの魔力を貰ったこと無いし、折角だから貰っときなさい」
同じ苦しみを味わってもらいましょうかとリッコの不敵な笑顔。
そもそも、ミツがこの場に居なくとも魔力ならばミミも与えることができる。
二人が居れば、戦闘時の枯渇に命の危機に落とされる可能性もぐっと減った事は皆も理解しているのだろう。
なら早速始めようかと、城壁をかけたリックに向けてリッコが手慣らしと〈ライトニング〉の光を杖先に出し、リックに向けて撃ち始める。
それに続く仲間達。
目的は皆一発づつとスキルや魔法の攻撃をリックの出した〈城壁〉に当てること。
突然のリッコの開始の魔法に驚くリックだが、攻撃モーションが見えた時点で無意識に身構えていたのだろう。
リッコに続き、プルンのスキル攻撃と女性陣の攻撃が続く。
ゾンビの群れの攻撃や、先程のリッコの魔法攻撃に耐えているリックの盾役としては問題なしと、皆は遠慮なしにスキルを発動。
ドカッ、バンッ、ガガガッっとかなり激し目の音が、闘技場では夕方まで響き続く事になった。
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