第287話 祝場 後編
「ニャ///」
余りにもミアが近づいた事に、旗から見るとミアがプルンの胸をガン見している様に見えるのだろう。
周囲の視線も気になってきたのか、プルンは頬を染めるが、相手は貴族令嬢。
押しのける訳にもいかず、彼女は自身とミアに渡されたシャンパングラスを両手に持って腕を上げた状態のまま動けないでいる。
「ミア、如何しましたか? 相手が友人とは言え、他者にその様に近づいては失礼ですよ」
「お、おか、お母様。良くご覧ください、プルン様達が身につけられてますブローチのアクセサリーを」
母の窘める言葉も気にせずとミアはブローチへと注意を向けさせる。
「? 貴女は何を……? んっ……(球体の中に……傷でしょうか……。いえ、ミツさんがお造りになられた品に傷なんて……)えっ!?」
エマンダは娘の言葉に少し怪訝な表情になりつつも、ミツが身につけているブローチへと視線を向ける。
周囲の大人達も視線を向ければある事に気づいたのだろう。
彼女もえっと声を出し、一歩前に出てはミツの胸元にガン見状態。
母娘揃って同じ事をした為に、ミツは少し苦笑いを浮かべる。
その反応に気づいたのか、エマンダはホホホッと気持ちを落ち着かせ、改めて彼へと質問する。
「失礼しました。ミツさん、恐れながらそちらのアクセサリー、ただのアクセサリーではございませんね」
「はい。数日前に水晶を山で見つけましたのでそれを使いましてこの様な品を作って見ました。翼は天使の羽をイメージして、球体はその胴体。パット見妖精に見えるかなと思って」
「はい。とても素晴らしい作りにございます。ですが、もう一つ気になります事が……。そちらの球体ですが、私の見たところ、何やら模様が刻まれておりますね。さらにそれが表面にではなく……内側に描かれているようにも見えるのですが……」
「そうですよ。自分が付けている球体の中には、愛用の武器を絵として彫り込んでいます」
「なるほど……それが弓と矢と言う事でしょうか……」
「はい」
ミツは今身に着けているブローチを取り外し、エマンダへと差し出す。
それを見た隣に立つヘキドナとプルンも自身の物を外し、パメラとミアへと手渡す。
彼女達が手にした物を少し上に上げ、光を通せば球体の中には様々な武器が絵して刻まれていた。
そう、彼は水晶の球体に3Dクリスタルの様に弓矢を表現したのだ。
更にその見たことの無い技術もだが、ミツのブローチには弓矢を、ヘキドナは鞭をプルンは短剣と、その人物が愛用する武器を表現してある。
勿論リック達、全員が同じ作り。
中にはミツが直接彼らの胸に取り付けたので気づいていなかった人も中には居たようだ。
水晶を綺麗な球体状にするのも高度な技術が必要とするこの世界、更にその中に絵を描くなど考えもしない品物だったろう。
パメラやエマンダは勿論、側にいるセルヴェリンやミンミンとアリシア。全員がブローチへと釘付けである。
そのざわめきが周囲にも聞こえたのか、他の貴族達がリック達へとブローチを見せてくれないかと言葉をかける。
相手は貴族、リック達も相手の望みとブローチを見せる。
集まる人々を見てダニエルが戻ってきた。
「如何した、皆で随分と盛り上がってるじゃないか」
「あなた、ご覧くださいな。ミツさんが作られました傑作ですよ」
「分かった、分かった、エマンダ、少し落ち着きなさい。悪いね、また彼女が興奮して話を盛り上げているのだろう」
やって来たダニエルへとエマンダはミツのブローチを興奮しながら見せる。
いつもの事だと彼も慣れているのか、先に詫びの言葉を入れてくれた。
ダニエルもミツのブローチを見ては驚き。
パメラがプルンから受け取ったブローチ、二つを見比べて驚きの表情である。
面白いものも見せてもらったと周囲からも声が溢れた。
またもう一つ、ブローチを返されたミツが自身の胸元にそれを取り付けた際、エマンダだけではなく、周囲の女性陣の注目を強く集めていた事に首を傾げる。
「どうかされましたか?」
「いえ、恐れながらミツさん、そのブローチはどの様にして服にお付けになられていますのでしょうか?」
「えっ? ああ、安全ピンで止めてるだけですよ。ほら、裏にピンを付けてますので、取り外しも簡単にできますよ」
「「「!?」」」
この時、初めて安全ピンを目にした婦人の二人や貴族令嬢のミア、また他のご婦人達から驚きの声が漏れる。
何故なら、女性の着る礼服のドレスは勿論、お茶会の服から、日常に着る物ですら装飾と言うのは縫い付ける事が当たり前として作られている。
先程ミツも勿論、ヘキドナやプルンがあっさりとブローチをとり外したが、その時はブローチの方に注意が向けられていた為に直ぐに安全ピンの方には気づけなかったようだ。
パメラも珍しく興奮しているのか、改めてブローチの裏側、安全ピンをマジマジと観察している。
ご婦人達の集まりができ始めたので、ミツはダニエルへと渡す物があると声をかける。
「ダニエル様、実は、この度領地を増やされました領主様方々にお渡ししたい物がございまして」
「んっ? 渡したい物とは?」
「はい、えーっと、こちらです」
アイテムボックスから木箱を一つ取り出す。
それは見た目、玉手箱のように漆を塗って真っ黒な箱。
赤いラインと紫の紐が高級感を出している。
箱が贈り物と言っても可笑しくないほどの出来栄えである。
ダニエル本人ではなく、ここは礼儀として側にいるゼクスへと手渡す。
「態々気を使ってくれたようで悪いね。……開けても良いかな?」
「どうぞ」
「では……。!? こ、これは!!」
紐を解き、スッと箱を開けるダニエル。
すると中にはグラスが六個。
そのグラスもただのガラスのグラスではなく、水晶を使用した水晶グラス。
更には色染めの鉱石を混ぜ込み、切木グラスの様に美しい模様を付けている。
蒼、朱、黄色、緑、紫、水色。
ミツの糸出しスキルで出した糸を使いシルクの布を表現し、その上に綺麗に並べられた六色のグラスが並ぶ。
ダニエルとゼクスが驚きつつ、ダニエルがその中身の一つを手に取る。
ガラスで作ったグラスと違い、水晶のグラスは少し重量感のある透明なコップである。
「こ、これは……。なんと美しき品か……」
「誠に。ミツさん、これも貴方様が」
「はい、手ぶらでは申し訳ないと思い、ここに来る前に作ってきました」
「さ、左様で御座いますか……」
手土産としては恐ろしい物を持ってきたなとたらりと汗をかく二人。
そこに安全ピンの話をミツにしようと二人の婦人がやって来た。
すると彼女達はダニエルの手に持つ切子グラスに驚き。
旦那様、旦那様と近づく二人の反応にダニエルは落ち着きなさいと叱咤し、ゼクスはグラスの入った箱を持ってスッと距離を置く。
流石ゼクス、その足取りは正に機敏に瞬速。
「まぁ、これをですか!」
「この様な素晴らしき品を……本当に宜しいのでしょうか!?」
「はい。ご家族の人数分作りましたので、どうぞ使ってください」
「うむ。感謝するよ。しかし、ここまで素晴しい品となると、日常的に使うのは勿体無いな……」
「まあまあ、物は使っての物ですから。使わずにそのままにしている方が、物に対しても可哀想ですよ」
「う、うむ。そう申すなら」
「ああ、それとパメラ様、エマンダ様のご婦人のお二人にもこちらを」
次にミツが出したのは少し大きめの木箱。
作りは先程と同じだが、一つの大きさがミツが手を広げて持たなければ行けない程に大きい。
流石に二つあるので近くのテーブルに置かせてもらうことにした。
「えっ!? まだ何かあるのかい!?」
「まあ、こちらはいったい」
「ミツさん、私達にまでこの様なお気遣いを頂き、ありがとうございます」
「いえいえ。お二人にもお世話になってますので。お気に召せばと思います。良ければこの場でお開け下さい」
「「はい」」
少年の言葉にパメラ、エマンダは木箱の紐を解く。
蓋は少し重みがあるのでメイドさんとゼクスが一つずつ開けることになった。
「「「!!」」」
周囲の貴族たちの注目も集める中、箱を開けた瞬間、その場の全員が目を見開くほどに驚く品が入っていた。
「こっ! これは、か、鏡!?」
「まぁ……」
「これは……」
中に入っていたのは、以前教会でビンゴゲームをした際、リッコ達に送った鏡。
しかし、今回その鏡はその時渡した鏡と違い、貴族の二人だからこそ求める様なデザインにしてある。
材料は以前と同じ鉄のインゴット。
混ぜ物無しの純粋な鉄の輝き。
まるで水面の様にその姿を見せ、その場にいる人だけではなく、高い天井ですらハッキリと映している。
さらに今回は表面に水晶球をいくつも付け、高級感を増加。
更に更にこの鏡、実は後ろにある物を一緒に取り付けてある。
それが水晶板である。
その水晶板の中には、何とミツの雷の矢が入っているのだ。
〈物質製造〉それと〈マジックアロー〉この二つのスキルを混合させて作ったのがこの光る水晶板だ。
矢の光が鏡の周囲に取り付けた水晶球へと光が走る。
するとどうだ、それはまるで雑貨屋などでも見た事のある鏡とライトを合わせたようなLEDメイクアップミラーの完成である。
それを一つ取り出し、婦人の二人に見せる。
やはり教会で鏡を渡した時のリッコ達と同じ様な反応を見せる婦人の二人。
彼女達も鏡は持ってはいるが、流石にここまで純粋な美しさを反射させる鏡は持っていなかったようだ。
更に昼間であっても部屋の中は薄暗く、如何しても細かい所まで見えない事もあるそうな。
それを補う為の光る水晶球。
光ってるタネを知ればなんてことは無いが、事実これを同じ物が作れるかと言ったら不可能だ。
婦人の二人は送った鏡に満面の笑み。
幾度も感謝の言葉を送られ、周囲の貴族の奥様達に見せている。
フロールス家の贈り物は取り敢えずここまで、次に渡すのは領地を増やした領主達だ。
申し訳ないが他の貴族の爵位順などはくわしくないため、近くに居る人達から送る事にした。
「ディマス子爵様」
「は、はい。ミツ殿」
リティーナの父、ディマス子爵。
彼も領地を増やした領主の一人である。
彼に送るのはダニエルと婦人にも渡した水晶のグラスと鏡。
ただここは辺境伯と子爵や男爵、順男爵と騎士爵と、流石に差をつけなければならないので物は変わってしまう。
子爵家のディマスには切子グラスは四個、鏡も水晶球と水晶板で光らせて入るが、若干鏡の大きさを小さくしてある。
「領地増加のお祝いの品として、こちらを宜しければお受け取りください」
「わ、私にも頂けるのですか!?」
「勿論です。それと皆様がシャンメリーを飲む際に使われましたシャンパングラスもどうぞお持ち帰りください。それは自分からの皆様への贈り物に御座いますか」
「「「!!」」」
「あ、ありがとうございます! こちらの品、我が家の家宝として大切に保管指せて頂きます!」
「いや、使ってくださいね。娘さんのリティーナ様も女性ですから、きっと鏡は使いたいと思いますから」
「さ、左様ならば。誠にありがとうございます!」
ディマスは深々とお礼の言葉をつげてきた。
歳も上の人に深々と感謝されるのも申し訳ないと思いつつ、彼は次々と領地を増加した領主へとグラスと鏡を送る。
最後の騎士爵の貴族に渡すグラスは二個であり、鏡も手鏡程の大きさになってしまうので、嫌な顔をされるかなと思っていたが、相手は貰える時点でかなりの喜びを感じているようだ。
その場は喜びの声と鏡を見る婦人でごった返してしまった。
それと急遽ミツが鏡台を作り、エマンダとパメラ、他にも他貴族に送った鏡の大きさに合う鏡台を作り出す。
大きい鏡から中くらいと大きさは変わるも、全てが同じ美しさ、同じ光を水晶球が光を見せている。
さて、ここで目をキラキラとさせては無言に催促してくるエルフが一人……いや二人居ることに彼は気づいた。
「如何しましたセルフィ様?」
「あのね、少年君、私君にお願いがあって……聞いてくれるかな(ニッコリ)」
「ええ、分かってますよ。後日セルフィ様にも送らせて頂きます」
「わー! 流石少年君、ありがとう!」
鏡を後日送る事を話すと、セルフィはいつもロキアを抱きしめる時と同じ様にミツを抱きしめる。
本来なら女性からの包容など喜ぶシュチュエーションなのだが、セルフィの無邪気な雰囲気がどうも大型犬に抱きしめられている気分に、彼女からそう言うムフフな気持ちは沸き起こって来なかった。
そんな彼女の態度に静かな怒りを秘めた声を出すもう一人の女性。
「セルフィ、貴女はいつも殿方相手にその様な対応をしているのですか……」
「うひっ!? ミンミン姉様、そ、そんな事ある訳ないじゃないですかー! 私の愛は一人の殿方にしか向かいませんよ〜」
そう言葉を言いつつ、セルフィはロキアの方へとヒラヒラと手を振る。
ロキアもそれに気づいたのか、彼もセルフィへと手を振り返せばニヤニヤとセルフィの表情が崩れていく。
「……宜しいでしょう。今回の事は見なかった事としておきます」
「あざっす!」
「まったく。それよりもミツ様、宜しければセルフィ同様に、私にもあの鏡をお願いしたいのですが。勿論私は貴方様には対価を払わせて頂きますわ」
「いえいえ、対価などとんでもございません。後日にでもお二人にも鏡をお送りさせていただきます」
その約束にミンミンは花が咲いたような笑みをミツへと返す。
その後パーティーは問題も起きることなく進行していく。
貴族のパーティーはただ飲んで喋って終わる事が多いいのだが、折角ならとミツが余興を見せる事になった。
それも実はある事がきっかけであった。
ミツが貴族たちへと送った品々、中にはやはり鏡やグラスの一個でも欲しいと思う貴族が居たのだろう、恐る恐るとお金を払ってでも購入したいと伝えてきた貴族が居たのだ。
その方は60代程のお爺さん。
男爵の方で、妻に是非とも小さな鏡でも良いのでと懇願されてしまった。
高飛車な貴族が居たらその人は場をわきまえろと注意を受けたかもしれない。
しかし、その丁寧な物言いがミツへの印象を良くしたのかもしれない。
ならばとここは余興をかね、もう一度教会で行ったゲームで勝負する事になった。
場を庭の方へと移動し、即席のステージが作られる。
ミツが用意したのは以前使用したビンゴゲームのガラポン。
今日のアシスタントはシュー、リッコ、ローゼにお願いし、参加する人にはビンゴカードが配られた。
商品は水晶で作った切子グラスと鏡だけでは味気ないので、村で作った餅なども送ることにした。
更には特別の品としてとある物を特賞として用意してある。
それは何なのか気になるところだろうが、ゲームをやるのは貴族だけではなく、その家族は勿論、親戚、護衛の者や共にやって来た側仕えの人にもカートが配られる。
多くの人を連れてきたその貴族ほど配られたカードが多いのではないだろうか。
何だなんだと渡させるそれにも注目が集まり、ダニエルも受け取ったビンゴカードをマジマジと触り調べている。
「こ、こんにちは、皆様! こ、これよりゲームを行いたいと思います!」
ステージに上がったリッコは声を拡散する魔導具を使い声を飛ばす。
その声はガチガチに緊張しているのか、少し上ずったこえに兄の二人は苦笑い。
「リッコの奴、めっちゃ緊張しているな」
「そりゃこれだけの人の前ですからね……。僕なら声も出せませんよ」
「多分俺達がやるより、あれはあれでちゃんとできてる方なんだろうな……」
「ええ、リッコ、頑張ってください」
(なんで私が進行役なのよー! ミツの莫迦! そしてそんな視線向けてくる兄貴共、少しでも同情するなら代わってよね!)
二人の気持ちが遠目でも分かったのか、今もヒクヒクと作り笑いに頑張って進行をすすめるリッコ。
精一杯のサポートとローゼと共にビンゴゲームのルールを説明していく。
紙を贅沢にも破るのかと少しそんな声も聞こえてきたが、それよりもこれは本当に紙なのかとそっちの方が貴族としては気になるのだろう。
そんな二人の頑張りに時間稼ぎをしてくれている間とミツは景品を制作中だ。
一度リッコとローゼ、シューがゲームの流れを演じながら説明していく。
時折質問が飛んでくるが問題なくそれを回答できている。
「三人ともおまたせ」
「ふー、やっと来たわね。皆様、おまたせしました。彼の準備も終わったようなのでゲームを始めたいと思います」
「「「おおっっー!!」」」
リッコの言葉に沸き起こる貴族達の歓声。
貴族平民と関係なしにビンゴゲームは楽しめるようだ。
大の大人がカードを握り、必死にミツが回すガラポンに集中している。
ミツが用意したグラスは100個、鏡は鉄の数が限られるので30枚と少ないが、一家族に1枚でもあれば十分だろう。
更に折りたたみできる鏡を20枚を予備として作ってある。
数字が一つ一つと出るたびに彼らの視線はボールの数字を告げる乙女達に注目が集まる。
そして一番に声を上げたものが出た。
「ビンゴ!!」
「おっ、一番の人が出たようですねって、セルフィ様ですか」
「フフン、どう、少年君、この私にかはかれはこんな物は簡単にクリアーできるのよ」
「はいはい、これも運ですからね。それじゃ一番にビンゴされましたセルフィ様には選択があります」
「選択?」
「はい、一つはセルフィ様が元々お望みであった鏡ですが、これをパメラ様やエマンダ様が受け取られました大きさにする事もできます。もう一つは鏡を諦め、特賞を受け取るかです」
「ふーん。その特賞ってなんなの?」
「それは教えられません。選択された時点でお教えします」
「……なるほどね。随分と意地悪ね少年君」
「いえいえ、どちらもセルフィ様の損のない選択ですよ」
「フフッ、分かったわ。ここは鏡は諦めて、ドドーンっと特賞を貰おうじゃないの!」
「流石セルフィ様ですね」
セルフィは鏡を諦め、ミツの後ろに用意されてある特賞へと視線を向ける。
赤い布に隠されたそれをセルフィが布を取っぱらう。
「!?」
「「「「なっ!?」」」」
そこにはボウリング玉程の大きな水晶球。
勿論ただの水晶球ではない。
先程エマンダ達にみせた3Dクリスタル同様に、目の前の水晶球の中にはとある物が描かれている。
それは満開の花束。
ミツが知る限りの花を花束にまとめ、360度、どこから見ても満開の花を見る事ができる作品である。
幻想的な作品を前に流石のセルフィも驚き顔。
更に仕掛けとして水晶球を置いてある土台の中に光を灯せば、その光が水晶球へと吸い込まれ、更にキラキラと美しい作品と姿を見せるのだった。
ミツはその水晶球をセルフィへとおめでとうございますの言葉を添えて手渡す。
10ポンド程の重さがあるそれを大切に受け取るセルフィは落とさないようにと慎重にステージから下りていくのだった。
下りた後も彼女が受け取った水晶球を見せて欲しいと集まる人々。
近くで見ると更にその鮮明な花びらから葉っぱの模様まで鮮明な作品だと心奪われる人々。
気になる所だろうが、ゲームはまだ終わりではない。
次は私が、いえ、わたくしがと人々の視線がまた回されるガラポンへと向くのだった。
結果的には正に平等に、鏡は狙ったかのように一家に一つと受け取る形となり、グラスなどは酒飲みやコレクターな貴族、またその家族が当てる事になった。
もちろん中には側仕えの女性がビンゴを当て、その景品を雇い主に献上しては臨時ボーナスを約束とされた人も中には居たのだ。
そして意外なのが小さな手鏡程の折り畳める鏡が更に女性陣に好評な声が貰えた事だ。
どうやら小さな鏡は直ぐにいつでも化粧や髪型を確認できる品と欲しがる人も。
さらに、護衛として付いてきた人々も何故かこれは使えるしなと絶賛。
これは敵の位置などを確認する時などや、他にもこれは使い道があるなと評価をもらった。
思わぬミツの余興に招かれた人々も満足なのか、お土産として手渡されたシャンパングラスが入った木箱とビンゴの景品を側仕えや護衛に持たせては馬車に乗り込む。
「それではミツ殿、また後日。またこの様に皆と話せる場を持っていただければ幸いです」
「はい。ディマス様とも話せるなら。リティーナ様もまたお会いしましょう。自分がそちらに行っても構いませんし、自分の屋敷に遊びに来て頂いてもかまいません。どうぞ、ゲイツさんや皆さんと一緒にお越しください。その際は美味しいお食事をご用意してお待ちしております」
「ミツさん、ありがとうございます。その際は私だけではなく、勿論ゲイツ達も一緒に足を向けさせて頂きます」
「うむ、私の娘とミツ殿、二人の出会い話もその時聞かせて頂ければと思っていますよ。それでは、辺境伯様、本日はこれにて失礼いたします」
「ディマス子爵、道中気をつけて。それと、先程渡した種は絶対に守り抜くように」
「はっ! 勿論にございます」
ダニエルはディマスの他、貴族にはミツから受け取った種を多く渡してある。
それはひと粒で金貨に変えることもできてしまう貴重な品物。
彼らの屋敷や村街をミツが知っていたならば、近くまでゲートを使い送る事ができたがそれも叶わず。
だが、まだ夕方にさしあたる時間ならば、まだ人が眠る前の時間には彼らは屋敷に帰ることができるだろう。
貴族達の馬車がまた長い列を作り屋敷を後にする。
ちなみに今回のパーティーの参加にて、やはりグラスランクのヘキドナに声をかけようとした貴族が居たのだが、彼女が身に着けているブローチ、これがミツ達が付けている品と同じだけに、彼女もミツの仲間だと周囲から判断されたようだ。
彼の仲間に手を出せば、自身の折角増えた領地だけではなく、もしかしたら思わぬ不幸が(物理的に)起きるかもしれない。
そう考えた貴族達は、決してミツの仲間、それが男だろうと女だろうと手を出さぬ様にと暗黙のルールが貴族たちの中で広がっていた。
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