第279話 杵と臼

 長く滞在していた王都。

 ダニエル含む、貴族達はミツのトリップゲートを使用し、来た時と同じ様にダニエルの屋敷へと帰る。

 来た時と違う事と言えば、アベル、カイン、ルリの護衛を連れていない為、帰りは300人程度の人の数になる。

 それでも見送りの為と態々女王ローソフィアが足を向けている。

 ゲートを出すのはミツのヒュドラが暴れた城の中庭。

 壁は昨晩ミツが〈物質製造〉にて修繕した為、城の人々は驚いていたが、彼は何食わぬ顔にその場にいる。

 元々謁見の間でヒュドラを出したのはミツであり、中庭を荒らしたのも彼のヒュドラが原因。

 荒れた中庭にはシャロットから貰ったスキルの〈自然回路〉を検証を兼ねて使って直している。

 

 護衛の冒険者達も元に戻った中庭までなら入れて良いと、レオニスの言葉にてディマスとリティーナの護衛をしているゲイツ達の姿もそこにある。

 一応リック達もフロールス家関係する者としてこの場に入るが、彼らの気持ちとしてはもう少し王都観光をしたかったのだろう。

 また来ようとミツが言えば、彼らはすんなりと受け入れてくれた。


 ミツがゲートを開くとそこは銀世界。

 少し雪が降った程度なので馬車は問題なく走れるが、間もなくセレナーデ城にも雪が降ることを告げる光景でもある。

 この世界では寒波は南から北に向かう事をユイシスに教えてもらう。


「それでは皆さん、またお会いできる日までお元気で」


 相変わらず王族を相手と軽い口調のミツである。

 それも仕方ないと笑い済ませるローソフィア達。


「ええ、貴方様も冬の病などなさらぬよう、体をご自愛くださいませ」


「ありがとうございます。暖かくなる前に一度、神殿の方に顔を向けますので、その際にでもまたお城の方に顔を出しますね」


「はい。その時を楽しみとしております」


 和やかな会話を済ませ、貴族達は最後に女王へと臣下の礼を取った後ゲートを通り抜けていく。

 カルテットの面々は既に屋敷に戻っているので、セルフィはのびのびと屋敷のソファーをベッド代わりに手足を伸ばしてるのではないだろうか。

  

 ダニエル達が屋敷に帰る為とゲートを通った後、とある部屋にてマトラストの所へと一つの連絡が回ってきた。 


「フムッ……。やはり黒であったか」


 マトラストが兵に調べさせていたのは武道大会中に暴れたステイルの所属する錬金術師協会のガサ入れである。

 彼は城に戻り、直ぐに今回の件をローソフィアに報告。

 子息のカインも下手をすれば危険に陥れ、更にはそこには四国の代表の人々も来ていたのだ。

 ミツが居たこそ国際問題にもならなかったが、カインが錬金術師協会を徹底的に調べることを表明した事もあり、時間はかかったがとうとう協会の尻尾を掴むことができた。

 錬金術師協会とは表向きであり、内面は人体実験も行うマッドサイエンティストの輩の集団であった。

 奴隷として売られていた人、獣人、ドワーフ等々の人体の一部が瓶詰め状態と並んでおり、たちが悪い者は無理やり魔力を吸い出す魔導具にて魔力を吸い出し、対象がミイラ状態となるまで魔力の枯渇の実験と非人道的な行いが行われていたようだ。

 国の発展の為にと城からも錬金術師協会へと金が流れていた事もあり、その金の流れから全てを調べると、今回ミツの毒殺計画に関わった犯人の一人。

 その者の家族が金を多重に協会へと流していた事も判明。

 更に人々から無理矢理に吸い出した魔力であるが、あろうことか魔石に変える実験すら行われている事が発覚。

 マトラストは報告書を見ていくと、怒りに握る手に力を無意識と込めてしまう。

 何故なら対象は年齢問わず、産まれたばかりの赤子から年老いた者と数百名が犠牲となっているのだ。

 これ程までの人々が犠牲になったにも関わらず、事件が発覚せず、話が広回らなかったのは使用した者達が奴隷や旅の商人や冒険者と身元が分からない者ばかりを計画的に使われていた事も原因である。

 報告書に書かれてはいないが、大会中にステイルが使用した魔石の一部、それが実験として人の魔力をつめ込んだ紫の魔石である。


「この主犯と思われる人物は如何した!?」


 マトラストは怒りを表に出し、報告してきた兵へと強く質問する。


「はっ! その場にいた者たちは捕縛することができましたが、席を開けておりました上層部の三名を直ぐに拘束する事はできませんでした。直ぐに兵を送りましたが、我々が来る前と一人が毒を含み自害、一人は抵抗がありましたが捕縛。最後の一人、ムンバートは行方不明となっております。屋敷を捜索しましたが急ぎ出て行った様子もなく、恐らく別宅を持っていたと思われます」


「そうか……。拘束した者へと直ぐ事を全て吐かせろ。いざとなれば巫女姫に助力を頼む事にする。それと、ムンバートの方は家族の他にも親戚、知人、全ての屋敷を捜索、発見した場合その屋敷の者全員を縄で縛っておけ」


「了解しました!」


 踵を翻し部屋から退出していく兵の靴音を聞き、マトラストはため息を漏らす。

 

「ふー……。これで錬金術師協会の毒も出す事もできたか……。しかし、本当にこれで澄んだのか……」


 マトラストの嫌な予想は遠からずにも当たっていた。

 今回唯一逃げ出したムンバートは研究資料を多く持って隣国へと逃亡。

 それはセルフィが調べていた隣国、パルスネイル王国の方角であった。

 馬を走らせるムンバートの鞄に結ばれている蛇頭のタグが風になびく。

 この時、ミツが居れば彼の力を借り、直ぐにでもムンバートを捕縛できたがそれができなかった事はマトラストに運の風が吹かなかっただけである。

 マトラストのガサ入れにより、錬金術師協会は一時期その活動を凍結。

 勿論中には無関係な錬金術師もいたのだが、運が悪かった。

 彼らからやはり抗議する意見も出たが、ローソフィアはそれを覆すことはしなかった。

 

 ダニエルの屋敷に戻り、貴族達は三々五々と自身の領地へと帰る。

 その際、ダニエルの増えた領地、元カバー領地の話が出る。

 ダニエルは明日にでも領地の視察に赴くつもりであったが、流石に連日の責務の披露が顔に出ている為、婦人の二人がダニエルに休む事を伝える。


「しかし、それでは早期に行った陞爵式の意味もなかろう。今は1日でも早く私が動かねば」


「だからでございます。旦那様、民の事を思い尽くすその心は良き事にございます。ですが、その様な状態であの荒れた領地がまとめれるとお考えでしょうか? それに、新たな領主となられるお方の初お目日が、足もふらついては民に示しもつきませんよ」


「……」


「あなた。マトラスト辺境伯様もミツさんのゲートを使用することを考慮したと思われます。きっとその中には今回の疲れを取るためのお休を入れてくれたのですよ」


「パメラ……」


 婦人の言葉は正に的を射抜いていた。

 フラフラな状態のダニエルが内政がボロボロな元カバー領地をまとめる事ができるだろうか。

 ダニエルの見落としにより、下手したら続けて甘い汁を吸うヒルのような奴を見逃すかもしれない。

 事実、マトラストがダニエルの陞爵を早めたのは自身の経験をダニエルに与えない為。

 彼も伯爵から辺境伯に陞爵する際は毎日が激務に追われ、移動する馬車の中でしか眠ることができなかったのだ。

 後1週間、いや、後3日と、時間に追われる日を苦虫を噛みつつ思い出していたのだろう。

 王都からフロールス家まで普通なら1週間以上の長旅。それをミツが省略してくれているのだから、事実ダニエルにはそれ程の休みを与えられたのだ。

 渋々と言った気持ちもあるが、婦人の二人の言葉とマトラストの気持ちも受け取り、ダニエルはしばしの休息を得ることを選択した。

 屋敷に入って直ぐ、窓の外に見慣れない建物が建造され、その中でエルフたちが何やら小屋を崇めている姿を目にしては、やっぱり私は疲れているんだなと、まるで幻覚を見たような発言をした後に彼は部屋の扉を閉める。

 ダニエルは本当に疲れていたのか、婦人の二人が寝ているダニエルの服を着替えさせ、彼が起きたのは次の日の朝日が上る前であった。

 それともう一つ。

 ダニエルは婦人の二人からミツが使用した土地特権のスクロール10枚を土地大臣へと渡した事に、正式にスタネット村含む、周囲の数キロ分がミツの土地となった。

 畑を目的した土地ならば十分過ぎる広さである。

 それとは別に、フロールス家にはミツの土地特権使用による見返りとして虹金貨5000枚が渡される。

 更に今回ダニエルの陞爵の祝金と領地資金諸々、全部含めて虹金貨13000枚(日本円にして130億)が渡される。

 流石に城もそれ程の金を用意するのも時間がかかるため、冬を超えた後、春にもう一度ダニエルを呼ぶのでその時に渡す事を告げられている。

 これで荒れた領地を復興させ、更には元々所有していた自身の街や村が、これで税収を抑えることができるとダニエルは誰も居ない書斎室にて大きな安堵のため息を漏らしていた。

 

 場は変わってスタネット村である。

 ミツが仲間達を各家に返した後、アイシャと共に村へと帰る。

 アイシャは初めての王都の観光、そして戦勝式の出来事を家族へと楽しそうに話す。

 お祭りのお土産として様々な物を買い、母や祖母、叔父へとお土産を渡していく。

 お金は如何したのと疑問に思いつつ、マーサはミツが立て替えたのではと申し訳なさそうな視線を向けるがそれは違う。

 王都に向かった後、戦勝式までには数日とまだ日があった為、アイシャも共にフロールス家の馬番の仕事を共に行っていたのだ。

 その際、お駄賃程度の金だが、その時初めてアイシャは自身の力で金を稼いでいる。

 その事もアイシャは嬉しそうに話、もし村に馬がいたら私がお世話できるよと自信満々に彼女は口にする。

 楽しそうに自身の見てきた事、経験談に笑みで応える家族であった。


 ミツはアン達が外に迎えに来ている事に気づき、縁側の方へと足を向ける。

 主の帰宅にブンブンと四頭のウルフが尻尾を振っている。


「ただいま、アン、ラルゴ、シャープ、ドルチェ」


((((おかえりなさいませ、主))))


「うん、ただいま。……ラルゴは先に体を洗おうか……」


 並ぶ四頭の内の一頭。

 ラルゴはこの数日と何をしていたのか、全身が泥だらけ。

 ミツの洗浄魔法を受け、さっぱりとしたラルゴはまたブンブンと尻尾を振り庭を駆け回っている。

 

「おー、雪の中を元気なこった。そう言えば今何日だ?」


 前回この村にてアイシャ達の15歳の祝の日を思い出し、ミツは指折り数えると数日後が日本で言う正月である事が分かった。

 

「おっ、だとしたら年越しの準備をしないといけないな……」


「ミツさん、年越しって何?」


「んっ? 年越しって言うのはその年の最後の1日って事だよ。大晦日って言うかな。アイシャ達は冬から春になる間とか何かするの?」


「んー。別に何も無いよ?」


 アイシャは口元に指先を当て、小さい頃の記憶を探る。 

 だが、冬は基本家の中で過ごすのが当たり前と、暖かくなる時までは何も無いのだ。


「そっかー。ならアイシャ達にもお正月を経験してもらおうかな」


「お正月? 年越しとは違うの?」


「正月がその次の日の事で、その年を祝う行事ごとだね。大晦日は年越し蕎麦を食べて終わるけど、正月はおせちやお雑煮って言う食べ物食べたり、凧あげや羽根つきなんかもあるね」


「へー。色んな事をするんだ」


「そう、新年は特にその年一番に大事な日って自分は教えられてきたよ」


「じゃ、その大晦日とお正月ってのをこの村でもできるかな!?」


「うん、勿論。せっかくだし皆でお祝いもしたいからね。と言う事で皆さんも如何ですか?」


「いいよねっ!?」


 二人が振り向けば、マーサ、ギーラ、バンも二人の話を聞いていたのだろう。

 話を振られたとしても、三人はくすりと笑いをこぼす。


「まあ、二人とも私達が断らないって分かってて聞いてるでしょ」


「良いじゃないか。この村の政はミツ君が今後も考えていくんだ。その、大晦日とか、お正月といったか? 村の政も始めていくなら、君が知っている事から始めていこうじゃないか」


「そうさね。まぁ、二人とも、やるとしても怪我の無いようにね」


「大丈夫ですよ、危ない事があれば注意してやりますから」


 思い立ったが吉日。

 ミツは早速と家の方へとアイシャと共に戻り、精霊達にも協力してもらう為に五人を召喚。


「皆、先ずは先日の戦勝式、協力ありがとうね」


「いえ。マスターの民を想う気持ちが我々の心にも流れてきました。我々の手伝いなど些細なことです」


「でも、フォルテお姉様。少しセリフを飛ばしましたよね?」


「……」


 フォルテは美しい仕草にミツの言葉も謙遜を入れて返すと、ダカーポの言葉に彼女の笑みが止まる。


「仕方ないわよ。姉さんもあの大観衆の視線には緊張したんでしょう……って、痛い!? 姉さん、無言に頬をつねないでー。ってか、何で私だけなんですか!? ダカーポも言いましたわよ!」


「メゾ、妹の失態を止めるのが姉の役目でしょう。なので失態を見過ごす発言をした妹の貴女を姉である私が窘めているのです」


「あっははは……」


 姉妹のじゃれ合いなのか、やはり長女のフォルテを怒らせると怖いのかと内心でそんなことを思うミツ。

 三人の絡みもそのままと、次女のティシモが代わりと前に出る。


「それで、マスター。本日はどの様な御用件でございますでしょうか?」


「うん、正月をやるから、それを手伝ってほしいんだ」


「かしこまりました。マスターの望む事を必ずや遂行いたします」


「お任せください」


「ありがとう。三人もよろしくね」


 ティシモに続きフィーネが可愛らしく胸の前で両手で拳を見せる。

 今も姉妹のじゃれ合いをしているフォルテ、メゾ、ダカーポにも一言入れると、三人も良い返事を返してくれた。


「「「はっ! マスターのおの望みのままに」」」


「さて、先ずはアレから作らないと」


「ミツさん、何を作るの?」


「アイシャ、お正月に必要な食べ物を今から作るからね。アイシャも手伝ってくれるかな?」


「うん! 勿論!」


 外は冷たい風が吹き、野生の生き物も何処に行ったのやら。 

 冒険者は剣を振る腕を休め、農民もクワを振る腕を休める。

 何も無い冬が過ぎるまでは、人も獣も静かに春を待つしかない世界。

 だが、ミツが来た事に、これから先もスタネット村の人々以外にも暇な冬を過ごす事が無くなるだろう。


 と言う事でミツが来たのは一件の家の前。

 誰の家の前かと言うと。


「リック君、あーそーぼ!」


「リッ、リックさん、あ、遊びーましょ///」


「……何言ってんだよ二人で」


 ドンドンと扉のドアを叩き、さっき解散したばかりのリックへと声を飛ばす。

 ミツはノリノリに声を出すが、周囲の注目を浴びているアイシャは少し照れ気味だ。

 ガチャリと家の扉を開けたリックは既に鎧を外し、ラフな部屋着に着替えていた。

 後に出てきたリッコとリッケも部屋着に着替えている。 


「ミツ、アイシャちゃん、どうしたの?」


「何か声が聞こえたと思ったらやっぱり二人でしたか」


「おっ、二人も居たね。それじゃ行こうか」


「「「はっ?」」」


 有無言わさず彼の言葉にて声を合わせる三つ子の兄妹。

 久々に帰ってきた家でまったりするつもりが、三人は何故かミツの家へと連行。

 

「マスター、蒸し上がっております」


「何時でも使えますよー」


「よし、それじゃリックはこれ持ってね」


「はっ?」


「リッケは今から自分がやる事を後でやってね」


「は、はぁ……? あの、ミツ君、僕達は何をさせられるのでしょうか?」


「そうだな、いきなりハンマー渡されても意味がわからん」


「あんたは本当にいつも説明無しのいきなりよね」


「だよね。それじゃ説明するよ」


 拉致状態と連れてこられた三人は怒りはなくとも呆れ気味にミツへと説明を求める。

 皆の前に置かれたのは杵と臼。

 そう、ミツは正月用の餅つきをする為とリック達を連れてきたのだ。

 餅つきなんてしなくてもアイテムボックスから四角、丸と様々な餅が出せるではないかと思うだろうが、ミツの年相当の子供心が出たのか、餅=餅つきの発想が出ている。

 更に言えば餅つきをするなら仲間達とやりたいと言う、ただの彼の遊び心だ。

 

「なるほどね。そんな食べ物の作り方もあるんだ。それで、私達だけを呼んだの?」


「いや、勿論他の皆も呼んだよ」


「それで、他の皆は?」


「お風呂の方に行ってる」


 プルンとミーシャ、ローゼとミミはミツの家の温泉を気に入っているのか、手伝う代わりにとお風呂にまた入りたいと言っていたので先に入ってもらっている。

 トトは風呂には興味はないと、リビングのソファーで寝ているのをリッコが発見。


「はぁ……。ミツ、私もお風呂に行ってもいい?」


「はいは〜い。それじゃリック、リッケ、頼んだよ」


「へいへい。まぁ、美味いもん食わせてくれるなら働いてやるよ」


「お腹いっぱいご馳走するよ。フォルテ、蒸した餅米持ってきて」


「はい」


 ミツの声にキッチンの方から蒸籠にかけて蒸していた餅米を持ってきてもらう。 

 それを臼の中に入れ、少しコネコネと杵でほぐす。

 ある程度ならしたら数回ミツが餅つきの手本とつき手を見せる。

 その際、フォルテに助手に水手を担当。

 コツコツと最初は臼を叩くような音が混ざるが、少ししたらペッタンと餅をつく音に変わる。

 その音に起きてきたのか、あくびをしながらトトがやってきた。

 物珍しい事をやっている光景に、ああ、またミツの奴が変な事始めたなと呟いていたが、それは正解である。


「へっ! それじゃ行くぞ! おりゃっ!? くっ、思ったよりバランスと狙いが難しいな」


「慌てなくてもいいよ。それじゃ、掛け声合わせてやろうか」


「おうっ!」


「リック、誤って僕の手に当てないでくださいね?」


「んっ、ならこれも攻撃を避ける練習と思えばいいさ。当たったなら運がなかっただけだ」


「ははっ……リッケ、障壁の魔法でもかけとく?」


「念の為にそうしときます……」

 

 最初はぎこちなかったリックの杵の振り下ろしも、何度か繰り返せば器用なものだ。

 杵は臼の中のもち米へとペッタンペッタンとリズムカルにつき始める。

 リッケもタイミングが掴めてきたのか水手が上手く、更に餅をつくスピードが上がった。


「はいっ!」


「せいっ!」


「はいっ!」


「せいっ!」


「うんうん。流石兄弟、息があってるね」


「中々面白い事をしてるじゃないか」


「バンさん。それじゃ、バンさんもご協力お願いしますね」


「ああ、その為に来たからな」


「杵と臼は5組づつありますから手伝える人はご協力お願いします。ああ、でも杵は地味に重いですから、子供達がやりたがった時は大人の補助を必ず付けてください」


「分かった。おい、誰か手伝えや」


「バン、オイラが手伝おうじゃないか」


 バンの声に応えるはトム。

 彼らが手伝いに入ったことに俺も俺もと次々と手伝いという好奇心に蹴られた村人たちが声を上げてきた。

 こりゃ杵と臼が足りないなと追加で作り出す。

 村の中でのちょっとした餅つき大会が始まってしまった。

 小さな子供は10歳くらいの兄弟と一緒に杵を持ち、それを人々が暖かく見守っている。

 つき終わった持ちは室内で手の空いている主婦の皆さんや年頃の女性陣が小さな団子と、中にあんこを詰める作業だ。

 リッコ達も室内の方で団子を作ったりと手伝いをしてくれる。

 本当はお正月用のお餅なのだが、餅米の匂いにお腹を空かせた人々の腹の虫の音を止めるためと振る舞うことにした。

 出すのはおしるこ。

 小豆などは本当は下処理が必要なのだが、そこはカットして缶詰のあんこを使う。

 餅の大きさはあまり大きすぎると喉につまらせたりと事故があるので小さいのを入れてある。

 おしるこを初めて食べた皆の反応は。


「甘ーぃ!」


「美味しい!!」


 とっ、思ったとおりの反応をしてくれた。

 午前中に作った餅の半分近くが村人の胃袋に入ってしまったので午後もペッタンペッタンと餅つきの続きだ。

 流石に疲れたと男性陣の代わりと家の中で餅を団子にしていた女性陣と交代。

 代わりに男性陣は家の中でついた餅を団子にする作業だ。

 女性達も男性に負けじとペッタンペッタンと良い音を出している。

 変わって男性陣の方は、不格好な団子が並ぶと、それを見たギーラが呆れて指導してくれる。

 互いにそれが面白かったのか、1日を通して楽しい笑い声が村の中で響き続いていた。 

 

 餅を作る中、ミツは餅に対する一つの提案が思いついていた。

 餅は乾燥させれば日持ち模する食べ物だけに、冒険者や商人の長旅の食料としても使えるのではないかと?

 ここは実際に護衛依頼を受けた事のある面々へと話を聞いてみた。

 その際、彼らに見せたのはカチカチに乾燥させた切り餅を皆に見せ、そして焚き火の代わりとしちりんを使い、彼らの前で餅を焼いて見せる。


「これを道中の食料に? なるほどね……。確かに2~3個食べただけでもかなりお腹に貯まる食べ物よね。うん、私はいいと思うわ」


「ああ、乾燥させたパンよりも嵩張る事もねえし、これ焼いても煮ても良いんだろ? ならギルド長も気にいるんじゃねえか!」


「それに、前もって味をつけておけば調味料とかも無い時に食べる事もできるのは便利ですね」


「これ、絶対人気が出るニャ!」


 リッコ達からは賛成の声も出るが、これ迄餅を見たことのないローゼからは当たり前とした質問が飛んでくる。


「でも、これってミツ君が前に昼ごはんとかでご馳走してくれたお米とは違うのよね?」


「ええ、それは餅米と言う別の物。ここの村の人にも米の作り方を教えたし、少し違いはあるけど、殆ど作り方は同じやり方で餅米を作ることもできるからね」


「なら、この村がその餅米って奴を作れば」


「そう。冒険者や商人の食料、また遠くの人にも餅を食べてもらう事はできる。それと、この村にも名産らしいものが欲しいから、餅をその一つに入れようかと思ってね」


「ミツ坊、それは……」


「はい。それが当たればスタネット村の人々の大きな収入源にもできます」


「「「おおっ!!」」」


 ミツの提案する村産業の言葉に喜びに声が上がる。

 今の村での収入源と言う物は作物を作って近くの街に売りに行くなどの方法しかない。

 それならこの村の名産物を作れば、自身達が他の村々に売りに行くのではなく、いずれは逆に買いに来てもらう立場に変えてしまえば労力も減り、商品の運ぶ道中の危険などから村人を守ることができるのではないだろうか。

 元々ミツは村を水田の村にも考えていたので、共に餅米を作ることも可能だ。

 様々な話を続ける中、ミツはこの冬にやろうと思っている事を伝える。


「それとトトさん、ミミさん、アイシャ、ちょっと良いかな?」


「んっ? 何だ?」


「「?」」


「三人にはこの冬の間に、リック達と同じぐらいの強さになってもらおうと思ってるんだ。勿論リック達は更に上に行ってもらうからそのつもりでね」


 突然の言葉に何を言われたのか理解できなかった三人は目をパチクリ。

 だが彼の言葉の意味が理解できた仲間たちは口を半開きと驚き顔だ。


「「「「!?」」」」


「ニャ〜。ミツ、三人を洞窟に連れて行く気ニャ?」


「いや、トトさんとミミさんはまだウッドランクで洞窟には入れないし、何よりアイシャはまだ冒険者登録もしてないからね。自分が三人の戦闘訓練をするよ」


「はっ!? お前っ!? ミツが三人の相手をするのか!?」


 トントンと自身の胸を指先で小突くと、リックが驚きの表情。

 アルミナランクとなったミツが直々と三人の相手などしたなら、三人が如何なるか想像できない為に声が上ずってしまうのだろう。


「あー、ごめん、言い方が悪かったね。自分のスキルで使えそうなのがあるから、三人はそれで強くなってもらおうかと」


 トトとミミはローゼとミーシャの変貌ぶりに当時は驚いていたが、やはり数時間離れていただけでも一目瞭然と、彼女達の変貌ぶりに冒険者として羨ましい気持ちもあったのだろう。

 二人は本当にと少し気持ち高鳴っているが、一人だけ。

 アイシャは自身も参加してよいのかと疑問に声を出す。


「で、でも、私も一緒でいいの?」


「あれ?」


「ニャ?」


「えっ?」


 三人の疑問とした声が重なる。

 その反応を見てリッコがまさかとミツヘとある質問をかける。 


「ミツ、もしかしてアイシャちゃんにちゃんと聞いてないの?」


「ああ、そっか。てっきりアイシャは自分達と一緒のパーティーになると思ってたんだ」


「えっ!? わ、私、皆さんのパーティーに入れて頂けるんですか!」


 流れ流れとアイシャはプルン達とも面識があるし、ミツは保護者目線に見ていた為に彼女一人で冒険者にさせる気はなかったのだろう。

 無意識とアイシャも仲間の一人だという考えに先走ったミツが反省を見せると、アイシャもまさかの気持ちに質問を返してきた。

 すると仲間達からは反対の声は上がらず、アイシャを快く迎え入れてくれた。


「ええ、私達は歓迎するわよ」


「そうニャ! アイシャも一緒にウチらと戦うニャ!」


「あ、ありがとうございます! ミツさん、私はまだ冒険者の登録もしてないけど、改めて私を皆さんのパーティーに入れてください! 最初は力になれないかもしれないから、荷物持ちでもお料理でも頑張るから!」


「そう言ってくれると嬉しいよ。でもアイシャを荷物持ちで仲間に入れる気は無いからね。皆と同じ様に仲間として入ってくれると嬉しいな」


「そうだぜ! それによ、荷物はミツとプルンがアイテムボックス持ってるから俺達は基本自身の武器しか持ち歩かねえし、飯はぶっちゃけミツが作った方が誰よりも美味えぞ」


「はははっ。はい! リックさん、よろしくお願いします」


「はー。リックの言葉はムカつくけど、本当のことだけに反論できないわ……」


「良いじゃない〜。所でアイシャちゃんは何を使って戦うの? 魔法は使える?」


「え、えーっと。私は今お母さんから弓を習ってて。その、魔法は使えません……」


「弓か、なら私と一緒ね。アイシャちゃん、後衛同士仲良くやりましょうね!」


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして改めてアイシャがノワールのパーティーに入る予定となった。

 改めて彼女が冒険者登録を済ませた時は、彼女にもパーティーメンバーお揃いの黒のマントをプレゼントしよう。


※今回入れましたマトラストの話ですが、本来なら6話使用して話を作る予定でしたがボツ入となりました。駆け足の説明にしておりますが、今後の話にも関わる事なので一応いれております。

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