第276話 戦勝議会。

 戦勝議会が終わるタイミングと、ミツはセレナーデ王国、王女ローソフィア達へと自身に豊穣神の加護がある事を伝えた。

 それが事実であると証明する為にと、彼らは城の中庭の方へと足を向けている。

 王女含む、多くの人々がまるで大名行列の様に通路を進むだけでも周囲に緊迫とした気持ちにさせるのか。

 何故かゾロゾロとその数は増え、会議のときは20人程であった数が、今では100に届くのではと思わせる人が増えている。

 恐らく扉の外で待っていた兵や側仕えが同行したせいかもしれない。

 

「丁度ここが空いておる。ミツ殿、改めて問おう。先程の言葉詭弁ではないと申すのだな」


「はい」


 レオニスが立ち止まったのは花壇の一角。

 冬となり花は咲いておらず、土がむき出し状態である。

 レオニスは大臣から受け取った袋の中からクルミのような物を取り出す。


「良かろう。ならばこの種を発芽させてみよ」


 彼の手に持つそれを見てはマトラストが怪訝そうな声を出す。


「レオニス様、それはもしかして……」


「左様、これはシュトレームの種だ」


「やはり、左様にございますか……」


「シュトレーム? これは野菜、もしくは花ですか?」


 ミツは受け取った種をくるくると手の上で回し、どう見てもクルミにしか見えないそれが何かを質問する


「ミツ殿、シュトレームと言うのは最高級回復薬に使われる材料の一つ。その花、葉、根と、全てが薬として使用できる品です。しかし……。この花、植えて一年は芽も出ることはありません。花が開花するまでは三年を必要とする花にございます……」

 

「三年ですか……」


 マトラストの言葉を聞きつつ、ミツは手の上にある種を鑑定する。

 シュトレームの種は確かに発芽に時間はかかるが、それは一定の温度を保つ事が条件と書かれている。

 恐らくこれは発芽には温室か南国の様に気温が一定の場なら三年もかからないのではないだろうか?


「ミツ殿、本来なら作るのに数カ月とかかる米と言う品が直ぐにできると口にした事、多くの者を前にして口にした事、今更覆すことは許されんぞ?」


 レオニスはミツを莫迦にした雰囲気は出さず、イタズラな笑みを浮かべている。

 彼の内心では事実それを遂行するのだろと思う気持ちはあるのかもしれない。


「問題ありません。それじゃ、植えさせていただきます」


 地面に軽く穴を掘り、その中へと受け取ったシュトレームの種を入れて土をかぶせる。

 ミツが掌から水を出し、本当に花壇に水撒きをする程度に水をやり、その場から離れる。

 

「さてさて、あれが芽を出すなら大変なことになりますな……」


「マトラスト、それはどう言う意味だ?」


 マトラストの呟きにカインが何故だと質問をする。


「……シュトレームが収穫できるのは山々とした森の奥地、栽培する方法は完全に自然任せの品にございます。殿下、因みにミツ殿が植えたあのシュトレームの種、一つの値段はご存知でしょうか?」


「そうなのか。ああ……高級回復薬の材料となる程だろ? 詳しい値段は知らぬが、金100か200程ではないか?」


「いえ、あの種一つにてオークションにかけられたときは金四千枚を掲げたそうです」


「!? よ、四千。あんな種粒一つにか!? と言うか、兄様はそんな貴重な品をミツに渡したのか!?」


「左様です。しかし、渡されたのは今回の話に金の問題とすることではございません。もし彼があの種を増やす事ができたなら……」


「できたら……なんだ?」


「金四千枚を出して手にした貴族が枕を濡らすかもしれませぬ」


「……勝手に濡らしておけ」


 カインが呆れる顔を作るそんな事を話している間と、ミツが植えたシュトレームの種は動きを見せ始めていた。


「ミツ殿、残念ながら葉も根も見えぬがやはり詭弁であったか?」


「まぁまぁ、慌てなくても既に種からは芽が出始めていますよ」


「何っ? そんな、まさか……。うっ!?」


 一向に様子の変わらない花壇だと思っていたレオニスだが、ミツが花壇の方へと指を指した瞬間、紫色の葉っぱがちょこんと土の中から頭を出している。

 それを周囲に確認させた後、ミツは続けて水を撒き、シュルシュルと伸びていく蔦。

 このままだと花壇に広く広がってしまうのでアイテムボックスから家造りの際に使った目印の棒を蔦の横に突き刺す。

 それに蔦が絡み、ぐるぐる、ぐるぐると棒を蔦が巻き絞めていく。

 次第と蔦は太く、まるで木のような色と変わり、新たな新芽が蔦から出てきた。

 ポツンポツンとその新芽からは緑の実が出来上がり、一度その場でミツが水を止めるとシュトレームの葉も成長を止める。


 貴重であり栽培が困難と言われたシュトレームの成長を目の前にした貴族たちからは感嘆の声があがる。


 唖然と見るレオニスの表情を確認した後、ミツは続けてシュトレームへと水をやり、少ししたら梅の様な実がポツポツで出来上がり、それを採取。

 ミツは手に握ったシュトレームを乾燥させる為と〈エイジング〉を発動。 

 クルミのように茶色い姿を見せたシュトレームをレオニスの方へと差し出す。

 一つ金貨四千枚の価値を出す薬の材料が、今はレオニスの手の上には4~5個も握らされている。

 隣に居る大臣も目が驚き過ぎて見開いているよ。


「これで信じていただけましたか?」


「……う、うむ。貴殿の奇策、しかと目にした。見事なり。ならば問おう、貴殿のこの力あるならば、貴殿が他国に力を貸すことを何故しないのかを」


「「「……」」」


 レオニスの問の答えは、場を変えて答えることになった。

 改めて、先程の言葉にお答えしますとミツはローソフィア、レオニス、アベル、カインの王族に向けて言葉を出す。

 干ばつ自体はミツの力を持っても防ぐことができない。

 神々が手を下せば、それ以上の自然災害が起きる。

 しかし、ローガディア王国全員分の食料を与えることは事実できる事を。

 だが、それを行うとローガディア王国だけではなく、近隣の国、セレナーデ王国だけではなく、エンダー国にも争いの火種を起こす可能性が大きくある事。

 バルバラ、彼をここでは神の言葉と伝え、ミツ個人での支援を禁止されている事を伝える。

 何故そうしないかと言えば、神はセレナーデ王国とローガディア王国の友好を深めて欲しい事を伝えれば、全員が驚きの表情。

 もしそれに従わなければ、正に戦争と言う地獄を見る事になる。

 相手に差し出す物が食料なのか、はたまた弓を引く行いをするのかを試されている。 

 神殿関係者であるルリとジークは勿論協力すべきと声を出すが、王族貴族達の即断は得られなかった。

 それは期日が余りにも短い事が問題である。

 干ばつが起きるのは来季の夏。

 それまでに他国だけではなく、自国の食料も確保しなければいけなくなるのだ。

 また輸送の問題等々、貴族達は恐る恐ると言う気持ちとこの国の食料事情を話し出す。

 だが勿論ミツも期日が短い事は周知した事。

 彼はアイテムボックスから鉢植えを一つ取り出し、小さな麻袋に入った種を見せる。


「これは神から預かりました種にございます。これを植える事に、自分だけではなく、誰でも直ぐに食料を栽培することが可能とします」


 以前、豊穣神のリティヴァールから貰った豊種の壺で作った種。

 その時はサツマイモの種という物を作ったが、今回は普通の鉢植えで作るのでそれに合った品を作ることにしている。


「「「「なっ!?」」」」


「ミツ殿! そ、それは誠ですか!」


「はい。先程説明しましたが自分は豊穣神様より神の加護を渡されております。ここで自分以外のどなたか、こちらの種を鉢植えに植えてみてください。種やりから水撒きまで、自分は一切手を出しませんので、その結果をご覧ください」


「「「……」」」


「分かりました。それでは私がやりましょう」


 豊種の壺は豊穣神のリティヴァールが作った園芸用の神器。

 実はこれにもミツに与えた加護と似た様な同じ効果があり、その効果は種に変えた品はミツの魔力を与えずとも急成長を見せる品となる。


 沈黙とする場にて静かに声を出すローソフィア。

 彼女は席から立ち上がり、ミツから種を受け取る。


「母上!? いえっ、ここは俺が」


「いえ、兄上、ならば僕が!」


 レオニスとアベル、二人が声を出し俺が僕がと声を出す。


「あのー、これは誰がやっても同じですから。取り敢えずローソフィア様がやられた方が皆様もご納得されやすいでしょうから、お願いします」


「はい。二人とも、大人しく座っていなさい」


「「……」」


 正に子供に言い聞かせる様な言葉。

 思わず貴族たちに笑みを作らせるが、レオニスの睨みに直ぐに顔を戻す面々。


「これでよろしいですか?」


「はい。水は皆様が飲んでいるこの水差しの水を使ってください」


 鉢植えに種を植えた後、ローソフィアは受け取った水差しの水を鉢植えへと流し入れる。

 すると鉢植えから直ぐに芽が出ては、鉢植えに指してあった棒を蔦が巻き取り、葉っぱをぐんぐんと広げ大きく育っていく。

 花が咲き、直ぐに散った後は実が出来ていく。 

 緑色の実はみるみると赤く色を変えた所でミツが根本を切り成長を止めた。


「はい。この通り自分以外にも実を実らせる事ができます」


「「「「「おおっー!」」」」」


 初めて手品を見たような歓声をあげる貴族たち。

 その中、しげしげと真っ赤に実った物が何なのか気になったのか、鉢植えを前に跪くマトラスト。


「ミツ殿、因みにその品ですが、もしや神々の食物にございますか?」


 マトラストの質問に、鉢植えに実った物に周囲の注目が集まる。


「いえ、マトラスト様、これはミニトマトと言う野菜です。このままでも食す事が可能となりますが、味見してみますか?」


「ほほー、左様で。貴殿の進めならば断るのも無粋、ここは僭越ながら私が味を確認させて頂こう」


「待て、マトラスト。貴様がそう言う事を言う時は美味いものを食う時に限ってであろう。ミツ、ここは俺が味見してやる」


「ヌっ、王族である殿下に初めて食す物を間に誰も入れぬ事などありえませぬ。こんな事が周囲に知られては後に殿下が笑い話のネタとなりますぞ」


「相手はミツだぞ!? そんな事を言う奴の方が奴を信頼しておらぬとか指を刺されるわ」


(カイン様の言葉はフォローされてるのか何なのかよく分からないな……)


「いえいえ……」


「待て待て……」


 少し押し問答が続くと、周囲は苦笑い。

 食に五月蝿いマトラストだからこそ王族のカイン相手でも引かないのか。

 二人のやり取りも実は周囲は見慣れたもんで、またですかとボソリと呟くものも。


「……ローソフィア様、一口いかがですか? ご自身で作られた作物なんて初めてじゃないですか? 折角なら記念すべき品をご自身で味をご確認されては」


「「ミツ!?」殿!?」


 マトラストとカインのやり取りに呆れつつ、ミツはローソフィアへと最初の一口目を進める。

 王相手ならその様な言葉は普通なら出ないが、もうレオニス達もミツを普通と思っては行けないことは周知したのだろう。

 いや、諦めていると言った方が正しいのか?

 今更王に毒を盛るなどとつまらない事を考える者もその場には居ないのだ。


「ええ……。はい。お言葉に従い、喜んで頂きます」


「ちょっと待ってくださいね」

 

 アイテムボックスから即席のテーブルを取り出しておく。

 真っ赤に実ったプチトマトを数個もぎ取り、食べやすい様にヘタを取ってはナイフで四分の一に切り分ける。

 素早いナイフさばきに周囲からゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。

 爪楊枝を刺し、ローソフィアへと差し出す。

 何だかスーパーの試食販売をやってる気分だ。

 注目を集める中、ローソフィアはそれを口に入れる。

 

「!?」


「いかがですか?」


 咄嗟に口元に手をあてがえるが、モグモグとその口は咀嚼が止まらない。

 ゴクリと静かに飲み込むと、彼女はニコリと満面の笑みを返してくれた


「はい。とても美味しゅうございました。これは果物でしたか。とても甘く、歯ごたえもある良き品にございます。カイン達も自身で味を確認してみなさい」

  

「はい、いただきます」


「ありがとうございます。それでは……」

 

 ローソフィアの言葉にスッと前に出る二人も一口パクリ。

 口の中に広がる旨味と甘みが二人の目を見開かせた。


「「美味!」」


 二人が食べた事に他の人にも味見をしてもらう。

 ミツが切り分けたプチトマトを渡す際、ローソフィア様の初物ですよなどと言葉を添えた事に、息子のアベルとカインから止めてくれと止められてしまった。

 ローソフィア本人も少し頬が赤い、なぜだろう?

 

「しかし……。誠に種から実を瞬時に実らせるとは正に神の御業か……。ミツ殿、貴殿にお伺いしたい……」


 場の空気に落ち着きを取り戻してきたのか、先程見せられた事に冷静に思考するジーク。

 彼の言葉が聞こえたのか、無意識と口をつぐむ面々。

 静寂が満ち、ジークが口を開く。


「はい、どうぞ」


「感謝します。それではお答え頂きたい。貴殿は神の御使い様に御座いますか……」


「「「……」」」


「その質問は以前ダニエル様にも問われましたが、自分は皆さんと同じ人間ですよ」


「「「「……」」」」


 ミツの答えに各々方顔を見合わせた後、ダニエルへと視線が集まる。

 ダニエルも苦笑を浮かべつつ、コクリと頷きを返している。


「これは信じるも信じないもご本人の意思にお任せしております」


「承知しました。ご回答ありがとうございます……」


 その後貴族たちからも絶え間なく質問が来たが、それを最善の方法にて回答を返していく。

 一度頭を悩ます事もあるが、それに対しては神の答えとして言葉を添えればその人は恭しくも言葉を聞き入れてくれた。

 

「それでは改めて。食料の種はこちらでご用意致します。皆様にご協力頂きたいのはこの種を植える場所の提供と、運搬の二つです」


「……なるほど。この場におります者達、私が王より預かりしております領地も作物を育てる為の場はあるでしょう……。しかしミツ殿、この場で作物を実らせたとして、ローガディアに持ち込むよりも、種その物をローガディアに渡す事はできませぬか?」


 マトラストの意見は数名の貴族たちも思っていた事なのか、コクコクと頷きが彼に向けられている。

 しかし、ミツはその質問には首を横に振る。


「いえ、それでは目的であるセレナーデ王国とローガディア王国の硬い繋がりは得るのは難しいです。確かにマトラスト様のご意見ももっともな事ですが、セレナーデ王国で作ったと言う肩書が必要な事をご理解下さい。本音を言うなら自分が直接持っていった方が早いかもしれませんが、その際、ローガディア王国の皆様の気持ちがこちらに振り向くことはございません。自分だけではなく、神々はそれを望んではおりません」


 表向きにはセレナーデ王国の全面的な支援であることを見せなければならない。 

 そうする事に他国にもセレナーデ王国自体が豊かな国だと示す事に、利も見えるのだ。

 

「フムッ。ならば次の質問をさせていただこう。作物を育てるのは良しとして、次に運搬の問題が生じます。例えば王都近郊にありますその場で作物を育てたとして、それをローガディア王国の近郊に運ぶのに幾日かかるが貴殿はご存知であろうか? ローガディア王国には険しい森や道も整備されておらず、馬車の移動は困難となります。たどり着いた頃には三ヶ月近くはかかる事を。その間…作った野菜は腐り、運搬する者にも大きな金と負担をかける事は明白」


 マトラストは指を出し、運搬の難しさを伝える。

 冷凍車などが走っていないこの世界で生物を運搬するには、夜通し馬車を走らせなければならない。

 食料を運搬する際はそれに合わせて馬などを用意する手間もかかってしまう。


「はい、これに関しては神の代弁者、ユイ……女神様からのお言葉をお伝えします」


 勿論その辺の疑問と懸念の答えも用意してある。

 神の代弁者と言うまた幻想的な存在の話に皆は浮き立つ。


「「「おおっ!」」」


「それで! ミツ、ユイ女神は何と言ったのだ!?」


 ミツの言葉を拾ったのか、カインはユイシスをユイ女神と名を出してきた。

 訂正するのも後にしとこうとミツは話を続ける。


「はい。セレナーデ王国とローガディア王国、この間に自分が広く広げたトリップゲートを繋げます。作物の運搬、また両国のやり取りはそれを使用して行うようにと」


「「「「「「!!!」」」」」」


 その提案にその場の全員が唖然と顔を青く変えていく。


「なっ!? ま、待て! ミツ、このセレナーデ城とローガディア城を繋ぐというのか!?」


「はい。正確には目に見えた位置同士に扉を開きます。そうしなければ両国に大きな負担がかかるのは明白です」


「いや、しかし……それは……」


 カインはミツの言葉を止める事もできず、如何すればよいかと言葉を止めてしまう。

 二人の兄も顔を伏せたり眉間に深いシワを寄せたりと思う気持ちは同じなのだろう。

 なんせ遠く離れた他国の城を隣に繋ぎ合わせると言うのだ。

 国境も何もあったもんじゃない。 

 関所の意味はすべて失い、下手したら国内が荒らされるのではないのかと不安視するのが当たり前だ。

 その中、ただ一人、顔色も変えずに質問する女王ローソフィア。


「……皆の不安となる気持ちも理解します。ミツ殿、因みにそのトリップゲート、永久に開いた状態にするのですか?」


「いえ、ローガディア王国の干ばつが落ち着き、民衆にも落ち着きが出ましたらゲートは閉じさせて頂きます。そうですね……最短で二年は開いておきます」


「最短でも、二年……」


 ミツの言う二年間は大まかな日数でしかない。

 その間と、ゲートの便利さを理解した民衆からも継続する声も出てくるかもしれない。

 しかし、貴族たちは目先の利益よりも先々の不安を抱えてしまう。

 賊が運搬員に紛れ込んで入ってくるのでは。密入、密告と、国同士を裸状態と晒すことになるのではないのか。


 勿論その対策はミツにも用意されている。


「それともう一つ、ゲートを開く際、自分の分身をその場に二年間の間置かせて頂きます。彼には自分と同じ様な力がありますので、もしローガディアの領地から獣や野党などが入り込んでも直ぐに対処するようにしますのでご安心ください」


「「「「「「!?」」」」」」


 ミツは説明をしながら〈影分身〉を発動し、自身の分身を見せる。

 アルミナランク冒険者のミツが国に残る。

 この言葉は特に王族のレオニス、アベルには朗報であった。

 

「そ、そう言えば貴殿にはその様な力があったな……」


「それともう一つ、ローガディアから離れた場所の皆様はゲートを使用するとして、ダニエル様」


「んっ。何でしょう、ミツ殿」


「あの、ダニエル様含む、南に領地を持つ人は水路を使い食料の運搬をお願いしたいと思います。ローガディア王国の国は広く、恐らくマトラスト様の様に北部に領地を持ちます方々の作物が国の外周に行き届くには難しい距離だと思われます。ダニエル様方々、南部に住む皆様には北部の領地を持つ人々の手が届かないローガディアの外周を担当して頂きたいんです」


 ダニエルが持つ領地の中には、大きな運河がある。

 それを使いエメアップリア達は国へと帰路していた。

 この運河、ローガディア王国から水が入り、ダニエルの領地を跨いでいるので行きも帰りも運河の輸送は可能としている。


「ダニエル、ミツ殿の言う事は可能か?」


「なるほど……。はい、レオニス様。確かに私の領地の外れには船を走らせる事ができる大川があります。船を出し、南から渡りぐるりと一周すればまた北部から元の場に戻ることも可能です。しかし……。多くの作物を運搬できるほどの船を私は所有してはおりません」


 そう、ダニエルは運河を使用しないではなく、彼は船を持っていない為にこれ迄運河を活用する事が無かったのだ。

 ならば船を作れば水産等にも手を出せるだろうと思うだろうが、川の流れは強い一方通行。

 一度川の流れに乗って下ってしまうとローガディア王国に入ってしまい、戻るには数日とかけて北部に行かなければならない。

 ちょっと魚釣に行ってきますねレベルに船が出せない距離があるのだ。

 一度だけローガディア王国にある領地と交易を試してみたが、互いとそれ程利益を出さない事に廃れてしまった交易となっている。

 勿論完全に止めてしまった交易ではなく、その近くに住む村の人は自主的に船を出し、日数を覚悟と取引を続けては入る。


「そこはローガディア王国に協力を求めれば大丈夫だと思いますよ。こればっかりは向こうも正に死活問題ですからね」


 ミツが提案する内容は勿論セレナーデ王国だけではなく、ローガディア王国の両国に大きな負荷をかける。

 しかし、女王ローソフィアは決断した。


「我がセレナーデ王国は同盟国であるローガディア王国の干ばつに備え、食料など、物資の譲渡を行う。皆の者、冒険者ミツ殿の助力を誠の心を持ち受け取りなさい。我々セレナーデは国が国である誇りを失ってはならないのです!」


「「「「「はっ! 王の言葉のままに!」」」」」


 ローソフィアの言葉に声を合わせ返答する貴族たち。

 ミツはスッと席を立ち上がり、周囲を見渡した後に頭を下げる。


「皆さん、突然の申し事にご対応誠にありがとうございます。また、これが終わりましたら、改めて皆さんにはありがとうございましたと言葉を伝えさせて下さい。それと皆様、これはローガディア王国に手を貸す事を承知して頂きました先払いのお礼と、神より一つ預かりし事があります」


「「「!?」」」


 また彼は何を見せるのか。

 ざわつく室内にアベルが恐る恐ると質問をする。


「ミツ殿、それはどの様な事で……」


「アベル様、それは戦勝式にてお見せすることにいたします。ローソフィア様、宜しいでしょうか?」


「詳しく、お話を伺っても……」


「はい」


 戦勝式にてミツが何をするのか。  

 それを耳にした全員の顔が、驚きの表情をした事だけは間違いなかった。

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