第271話 嫁候補

 スタネット村にてミツが村の改善を行っている頃。

 ライアングルの街にある屋敷にて、多くの人々(冒険者)がボロボロの家を修理と掃除を行っていた。


 いつも持っている剣や槍などの武器は今日は持たず、代わりと彗やモップ、そして鎌を手に強者へと挑む。


「姉さん、壊れてる物は全部出して良いんですね?」


「ああ、マネ、それと雨漏りをしていた部屋にあるベッドも外に出しといておくれ」


「任せてくださいっての! ほら、ライム、そっちを持って。ああっ!? 違う違う。ちゃんと下から持たないと壊れるっての!」


「壊れるも何も、既にこのテーブル、腐ってるっちゃ」


「ほらほら、喋るなら運びながらでもできるでしょ。シュー! 井戸の水はまだ使えそうもないの?」


「もうちょっと待って! 苔が溜まって掻き出すのが手間取ってるシ。ああ! そこ気をつけるシ!? 足元に苔が生えてるよ」


「おっと、危ねえ。ありがとうございます。おーい! リッケ、引っ張って良いぞ!」


「了解! それじゃ引きますよ!」


「任せろシ!」


「「せーのっ! せーのっ!」」


 屋敷の中から聞こえてくる声に応え、井戸の外ではリック達が井戸の清掃を頑張る声で返す。

 ヘキドナが購入した屋敷はあちらこちらがボロボロ。

 外装はそれ程でもないが、内装は修繕しなければ住むこともままならない場となっている。


「ゴホッ、ゴホッ! すごいホコリ。ミーシャ、水、水で流しちゃって」


「駄目よリッコちゃん。ここ、あっちこっち壊れた床があるじゃない。今水で洗い流したら一階の方にも水が流れちゃうわよ」


「うー……。ちょっと、誰か風魔法使える人居ない!?」


 リッコとミーシャは二階の清掃。

 口元に布を巻いてはいるが、舞い上がるホコリにあちらこちらで彼女達のように咳き込む声が聞こえる。

 リッコ達の他にもこの場には多くの冒険者達がヘキドナの屋敷へと清掃に来ている。

 勿論ボランティアでは無く、これは冒険者としての依頼。

 参加者はウッドとブロンズ限定の若者達。

 前回、エクレアが屋敷の状態を見た瞬間、彼女は冒険者ギルドへと金を握りしめ走っている。 

 ヘキドナから預かった金は依頼金として使用され、数多くの新人冒険者達が集まってきている。

 雑用員としての集まりだが、一人銀貨5枚とかなりの高額報酬。

 その為、予想していた数よりも参加人数が増え、この場には40名近くの冒険者が作業を行っている。

 数は力。魔術士の中には以前ミツが行った事がある様に水魔法にて汚れを落としたりと力になる者も中には居る。

 身軽な獣人族は進んで屋根の修理や、煙突内の灰落し清掃。

 少しづつだが一つ、一つと部屋が綺麗になっていき、何とか人が住める場と変わっていく。

 

「ニャ、ニャ、ニャ。雑草は根っこから取らないとまた生えてくるニャ」


「うー。腰に来るぜ……」


「トト、おじさんみたい……」


「なっ!? 仕方ねえだろ。ズッと草むしりばっかりしてんだからよ」


 プルンは短剣の様な物を使い、地面に残った根っこへと刃を突き刺す。

 ザックザックと地面から出てくる根っこも拾い、草むしりをするトト。

 ズッと同じ体制が続いた事に若い身体であっても腰に負担が来たのか、トントンと腰を叩く仕草に苦笑いのミミ。


「あんた、最近運動不足なんじゃない? そんなんで大丈夫かしら。春先にはミミもトトもブロンズになる予定にしてるから、その後に討伐依頼を受けるのよ?」


 近づいてくるローゼのその言葉。

 トトもミミもウッドからブロンズへとランクアップはもう直ぐ。

 これもギルドで働く受付嬢のナヅキの協力あってである。

 彼女のオススメとする依頼を一日数個づつこなす事に、本来なら1~2年以上かかる所を何と数カ月で片付けようとするスパルタコース。


「ううっ。分かってるけどよ。流石に一日に数件の依頼をこなすのはしんどいんだよ」


「トト、頑張ろう。後数回頑張れば私達もブロンズになれるんだよ!」


「あ、ああ……」


 ミミも自身と同じ依頼を毎日こなしている。

 自分だけが弱音を吐くのは間違っているよなと内心にため息を漏らすトトであった。  

 彼が疲れるのも仕方ない。

 ナヅキの依頼は短期で終わる依頼ばかりだが、その分、楽な仕事ではない。 

 依頼主が不在の間と子供のめんどう。

 居なくなった動物の捜索。

 薬草などの捜索依頼。

 各家の汚物回収処理依頼。

 店の護衛、若しくはウェイトレスとしてのバイト等々。

 本来ならこの様な無茶な依頼をさせる事は無いのだが、彼らの意思をネーザンとエンリエッタは話し合い、二人が早期に昇格できるようにと計らってくれている。

 勿論ルールはルールとして、トトとミミにはウッドの依頼を30回こなすか、若しくはプルンの様に特別の戦闘をこなすかの条件を与えている。

 トトは戦闘職として可能かもしれないが、ミミは後方の支援職。

 無理な戦闘は避け、ならばと効率重視の依頼をギルドから受け続けている。

 二人は仲間の協力もあり、間もなくブロンズランクの昇格まで手が届くとこまで来ている。

 これはミツとプルンと続いて、仲間たちの中でも二番目に早いランクアップとなる。

 今日もウッドの依頼として彼らは清掃を手伝いに来ていた。

 しかし、実は周囲を見渡せばウッド、ブロンズの他にもアイアンの冒険者もチラホラと目に入る。


「マネさーん! 荷物持ってきたわよー」


「おおっ! ゼリ、ありがとよ!」


「へへっ! んっ? ちょっと、ルミタ、何これぐらいでへばってるのよ?」


「はぁ……はぁ……はぁ……。ゼリと一緒に……しないで……。私は魔術士なんだから……はぁ……はぁ……」


「何言ってんのよ!? 後衛ならなおさら体力付けなさいよね。あっ! リッケくーん! 私も手伝うわよー!」


「……ゼリ、強いね……色々と」


 こんなふうにヘキドナパーティーに世話になったり、関わりのあるアイアン冒険者も自主的に手伝いに来てくれている。

 庭の草むしりは午前中には終わり、清掃関係は一日で終了。

 後は修繕関係だが、これはゆっくりと直していくしかない。

 ウッドとブロンズ冒険者達はシューから依頼終了の札を各自もらい、三々五々と各自解散モード。

 残ったのはプルン達メンバーとゼリ達である。

 

 やり残しは無いか、リックが屋敷の庭を見回っていると、先程まで気付かなかった隣の家が目に入る。

 指を指す方には、この屋敷と同じぐらいの古ぼけた家。


「あれ? 隣も家があるみたいだけど、そこって誰も住んでねえのか?」


「んっ? ああ、一応見てきたけど人っ気は無いね。恐らくここの屋敷の貴族に仕えていた奴の家じゃないかい? 姉さんの話じゃ一応隣も買うことを聞かれたけど、あたいたちの数でも屋敷一つで十分だっての。これ以上家なんて要らないって姉さんが話を蹴ったみたいだよ」


「ふーん……。俺、ちょっと見てきます」


「えっ!? リック! えーっと、マネさん、いいんですか?」


「ああ、別に構わないだろ。本当に誰も住んでないみたいだしよ。金目の物も無いし……。いや、あると言えばあるのか?」


「えっ? あの家、何かあるんですか?」


「いや。家のなかじゃなくてな。ほら、そこにも見えるけど大きな壺が見えるだろ。その中に莫迦みたいにカセキが入ってたんだよ」


「カセキって、魔石の魔力が無くなったあとに残るあれですか?」


「そうだシ。ウチもみたけどいくつもそんな壺が庭にはあったよ。でもねー」


「ああ。カセキなんか売れねえゴミだよな……」


「下手に買い取りに持っていくと逆に汚れてるからってお金取られるシ」


「あー、なるほど」


「魔力も無いし汚れてるから逆に磨き代を請求されちゃうのね」


「ここに住んでた奴は物好きだったんだな」


 四人が話し合っていると、家の方からバタンっと大きな音の後、窓からモクモクとホコリが出ている。

 

「「「!?」」」


「えっ!? 何の音!?」


 ガバッと入り口から出てきたリックの姿に、リッコが声を出す。


「リック! 大丈夫!?」


「ゴホッ、ゴホッゴホッ。ああ、すまねえ、俺は大丈夫だ。扉、ゴホッゴホッ……。あ、開けようとしたら腐った扉が倒れちまった」

 

「もう、勝手に壊して! 怒られても知らないわよ!」

 

「わ、わざとじゃねえよ!」


 兄妹の言い争いが始まろうとした時、窓から顔を出したエクレアが声を出す。


「おーい! そろそろご飯の準備するから、庭の方で準備始めて頂戴」


「ああ、分かったっての!」


「お前たちも一緒に食べて行くシ」


「良いんですか!? ありがとうございます!」


「うんうん。後輩に飯を奢るのも先輩の見せ所だシ」


 屋敷の中でこの人数の食事は無理と庭で火を炊く事に。

 何だか女性率が高いと、見渡せば男はリック、リッケ、トトの三人だけ。

 残りは女体組とこの場は姦しいメンバーである。

 だがリッケの隣にはマネとゼリが席を取り、トトの隣にはミミが座り、リックの隣はローゼが既に立っている。

 女の勘なのか、ああ、ありゃ無理だなと、早々に絡むことを諦めている女性も中に居たりする。


「そう言えばあの子は今日は一緒じゃないの?」

 

 ゼリが焼いた肉をほうばりながらミツの話を出す。   

 今回の清掃依頼の参加条件から外れていたとしても、彼なら自身たちの様に参加するのではないかと思ったのだろう。

 その内容に意外と周囲の意識を向けたのか、注目が集まる。

 

「ミツ君なら今は王都に行かれてますよ」


「お、王都!?」


「は、はい……。プルンさん、そうですよね?」


「ニャ? んー。何処に居るのか……一昨日の夜に一度帰ってきたみたいだけど、朝方にはもう教会を出てたニャ」


「帰ってきた!? なに、あいつ戻ってきてたの!?」


 リッコはプルンに顔を近づかせ、問いただすように言葉をかける。

 

「ニャッ!? も、戻ってきたと言うか、ミツは教会の部屋で寝に戻ってきてるだけニャよ」


 王都から態々教会に戻ってきている事に、本当にあいつは街から離れたのか疑問に思う仲間達。


「あいつ、まさか王都から態々教会に帰ってきてたのか……」


「ミツ君はゲートが使えますからね……」


「ハッハハハ。ミツらしいと言えばあいつらしいな!」


 マネの言葉に周囲も釣られて笑いが出てしまう。


「それで、今日は何処に行ってるの?」


「確か、近くの村に用事があるって言ってたニャ」


「近くの村……。この辺だとバリンタンか、アニカ村、ハモーニカ村、スタネット村のどれかじゃないか?」


「バリンタンは村っていうか街だろ。ああ、そう言えばあそこの街で、雪鬼の子の討伐依頼が出てたってばよ」


「確か雪鬼はゴブリンみたいな奴らだっちゃ。行くなら男メンバーと組む事が条件のはずだっちゃよ」


「でも、それもアイアンからの依頼ですよね。俺もギルドの掲示板で見ましたけど、結構厄介な依頼だなと見てました」


「ふーん。興味ないね。どうせ物好きが討伐に行くさ。それよりもその中だと恐らく坊やが足を向けたのはスタネット村じゃないかね。あそこの村に移住する奴らの原因を作ったのは坊やだよ。あのお人好しの事だ、移住した奴らにって、また周囲が呆れるような事してそうじゃないか」


「アハハハッ! リーダー、そ、それ、簡単に思いついちゃうのヤバイでしょー」


 アハハと笑いが溢れる場に、リックのさりげない言葉が更に注目を集める。


「そう言えば、あいつ王都にはランクアップの為に行ったんだよな? 戻ってきてるって事はあいつ、シルバーになったってことか?」


「「「!?」」」


「おいおい、マジかよ!? ミツの奴、もうシルバーランクになったってのかい!?」


「あっ、いえ、マネさん。恐らくミツ君のランクは……」


「んっ? ああ、流石にシルバーは言い過ぎたかね。だとしたらシルバーランクになる為の試験を受けに行ったってところか。なるほど、なるほどねぇ〜。あいつも立派になったもんだ」


「あんたは何処の立場の目線なのよ」


「んー。ねぇ、結局のとこミツは如何なったシ?」


「いや、俺も実はまだ聞いてなくて。あいつが戻ってきてる事も実は今知ったんですよ」


「そうなんだ。シシシッ。なら、今度ミツを見つけたら聞き出してやるシ!」


「ミツは今、アルミナランクだニャ」


「なんだい、お前さん知ってたのかい! あ~あ〜あっ。あいつがアルミナねぇ〜。随分と大きくなったもんだ。あっ、身長は変わんないだろうけどね、アッハハハハ……。えっ?」


「「「「……」」」」


 プルンのさりげない言葉に、その場にはマネの声だけが響いていた。

 ギギギッっと自身の聞いたことを確かめるように、リッコはもう一度プルンへと質問してみる。


「プ、プルン……今、何て言ったの? えっ、あいつグラスだったわよね? あっ、あー!シルバーね、きっとゼクス様と同じシルバーランクになったのよ! あ~、ビックリした」

 

 確かに以前ギルドの話場に立ち会った際、セルフィの提案に驚きはしたがそれはまだ先の話と思っていた仲間たち。

 シルバーランクに上がるだけでも大変だと言うのに、アルミナランクの昇格条件が普通ならそんな早々と解決する案では無いので信じられないのだろう。


「ニャ? ミツはアルミナランクに昇格したニャよ? ウチもウチの家族も、白のアルミナランクのギルドカードをミツから見せてもらってるニャ。恐らくだけど、婆やエンリは聞かされてるニャよ」


「「「「……」」」」


「「「「「「「ええええっ!」」」」」」」


 大きな屋敷の庭の中央で、今日一番に多くの冒険者の驚きの声が空に響いた瞬間でもあった。

 その後の話はミツを中心とした話ばかり。

 ゼリが試しの洞窟内でのミツの戦闘法を他の冒険者に話したり、プルン達が知らない緊急招集の時のミツの戦いの話。

 次にシューが話す双頭独蛇との戦闘の話。

 見たのがシュー一人だけに、マネは幾度も本当か? 本当かとしつこいぐらいにシューへと言葉をかける。

 ありえない戦闘ばかり繰り返すので、その場にいる冒険者達は空想説を聞かされてるのではと思う者も居たかもしれない。

 しかし、ゼリの話はプルン達も本当だと証明し、緊急招集の話は自信たちが見た話。 

 双頭独蛇に関しては切り落とした頭を直接ギルドに持ち込んだので嘘ではない。

 そう言えば下町の有名店で貴重な蛇料理が出始めたなと冒険者達も口にすれば、まさかあれがそうなのではと互いに顔を見合わせ合う。

 しかし、物語レベルの伝説的なアルミナランク冒険者など、耳にしただけでは信じ難い話なのだが、一度でも彼と共に行動する事にその言葉が真実だと言うことを否応にも信じさせられてしまうだろう。


 スタネット村の方では畑や生活用水路の為と改善が行われていた。

 前回ミツが村に訪れた時と違う事。

 それは圧倒的に人の数が増えた事だ。

 元もと村には多くの空き家が残ってはいたが、それも人が住んでいないという事で取り壊され、壊れた木材などは火種として使われてきた。

 しかし、今は逆に家が足りない状態になってきている。

 1軒の家に、多くて12人を詰め込んだ家もあるそうだ。

 本人達は鮨詰め状態であっても野外で寝ると比べたらマシだと言うが、全員が家族とは言え放置もできない。

 取り敢えず先ずは村の人全員が使える様な大型公衆トイレを作ることにした。

 その為にも、村の人たちにはもう一度無色のスライムの捜索をお願いしてある。 

 ミツはその間とトイレを建てておく。

 作りはミツの家同様に半水洗式スライムトイレ。

 使用方法だが、葉っぱでの尻拭きは今後控えてもらい、布ブラシにて拭き上げる方法に変えてもらう。

 ブラシと言ったが、別に亀の甲タワシの様な物で尻を拭くわけではない。

 ライアングルの街にて古着を数枚買って、適度な大きさに切った後、棒にグルグルに巻きつけた品だ。

 松明と同じ作り方だけに村人でも簡単に作り直す事はできる。

 そしてこれはトイレの隣に作った筒官に突き刺しておけば大丈夫。

 この筒官にはスライムが泳いでおり、汚物のみを綺麗に食べてくれる。

 そのおかげで使う時には、毎回綺麗な布ブラシになっているので使い回しに不快感は起きない。

 尚且つ自身の手を汚す事を避ける事もできる。

 次にタンクの中に水を入れ、それを流せば排泄物は地面に埋めたタンクに流れ落ちる。 

 本来なら人の排泄物で10キロ100キロなど直ぐに溜まってしまうのだが、タンクの中に無色のスライムを入れておけば問題もない。

 こんな便利な方法があると言うのに、街でスライムを使う事は制限され、尚且つ金を取られるのだ。

 その辺の事は小言になるので控えるとして、次に作る数だ。

 一応男性女性と作りは変えており、勿論男性用の小を済ませる為の立って済ませる場所も作っていく。

 女性の方だが村には年配の人も居るのでしゃがみ込んで用を済ませるのも大変と、和式では無く洋式のトイレの形を作り、手を置く為の手すりなども付けておく。

 本当はウォシュレット機能もあれば最高なのだが、今はこれで良いとトイレが完成した。

 村人達が集めて来たスライムだが、そのままこのトイレ用のタンクに入れておくのは危険だとユイシスの助言。

 別に使用中の人を襲うとかではなく、何かの原因があった時にトイレのタンクから脱走してしまうそうだ。

 スライムも生き物。

 自身の身を守るためとその場から逃げる事もあるそうだ。

 ならば入り口を塞げばと思うだろうが、スライムにも空気穴は必要であり、尚且つミツの家に作ったような鉄の網程度では逃げ出すとの事。

 そう、昨日、ミツの家の裏にある排水タンクに入れていたスライムだが、朝方には逃げ出していたのだ。  

 正確には逃げ出したではなく、動いている間に網の隙間から出てたのを偶然発見してしまった。

 これは如何しようかと思ったが、ユイシスから簡単な対象方を教えてもらう。

 無色のスライム、全てをミツがテイムすれば良いと。

 そうすればスライムは逃げる事もせず、ミツが希望している場所から動く事もなくその場の水を常に浄化し続けてくれると教えてくれる。

 と言う事で先程からミツはスライムをテイムし続けている。

 テイムしたスライムは振り分け、川の上流から流れてくる水を濾過する係と、水路の中を泳ぎ綺麗にする係。

 30匹程はトイレのタンクなど処理水の係に回ってもらっている。

 村の中を流れる水は透明度が高く、井戸の水を使うよりも綺麗なのではないかと思わせる美しさを見せている。

 うん、飲むのは構わないがスライムが浄化した上流の水だけにしといたほうが良いよ。

 村に水が入ればそれは草牛が飲んでるし、ミツの家からも排水される水が混ざるのでそこからは飲むのは止めておいた方が良い。

 一応下流に流れた水は川に合流する前と、もう一度スライムの濾過を挟んで入る。

 ならば次は井戸の方だ。

 この寒い風が吹く中、水くみは村人にとっては酷な作業の一つになっている。

 いや、先程も言ったが水路の水を飲むのは構わないが、上流の川から離れた家の人はやはり井戸の方が近いので、最初はそうしたとしても、後々井戸の方に足が流れていくと思う。

 と言う事でここでも井戸作りである。

 もう三回目となれば人の希望している井戸の広さ、また求める使いやすさは把握済み。

 今まで滑車タイプを作っていたが、今回は今までと違う井戸を作ることにした。  

 そう、手押しポンプの井戸を作る事を決めたのだ。今まで滑車タイプを使用していたのはポンプの仕組みを思い出せなかった事が原因。

 ふとした事に手押しの仕組みを思い出したのでスタネット村にはそれを活用する事にした。

 鉄等は闘技場の瓦礫の中に紛れ込んでいた奴を使用。

 ゴムは自転車のタイヤで使用する奴の余りを使い、足りない材料は即席に作り出す。

 村の井戸は一度村の修繕工事にて水位を上げるためと中を掘り下げているが、その分、水の入った桶を引き上げる為の苦労が増している。

 いや、村人にとっては水が増えているので文句などないが、日常的に使うならばもう少し方法はないのかとミツは頭を悩ませてしまう。

 折角掘り下げてくれた井戸だが、残念だけどこれは作り直しである。

 ギーラ達を立ち会わせ、ちゃんと井戸を作り直す許可を得る。

 もうここ迄色んなものを見せられた村人には、ミツに対して今更断る言葉も出なかった。

 はい、と言う事で目の前にある井戸を一度撤収する為と材料に変え、次に井戸の幅を今までの三倍に作り直します。

 中を土のむき出し状態では泥水が出てしまうので岩で塗装。

 リック達の使う井戸のように、横穴に水の魔石を入れておくのも忘れない。

 前回エマンダに注意されたのだが、こればっかりは後で誤っておこう。  

 この辺、川が近い分水脈が近いので問題ないのだが、それは今迄の井戸の大きさならではの答え。

 三倍の大きさと広さに作り直すとなれば、如何しても水が貯まるのにも時間はかかり、冬場には凍りやすく井戸が使えない時が起きてしまう。

 と言う事で村人には魔法で浄化した水を入れていますと伝えておく。

 今回手押しポンプとなるので井戸の作りが少し異なる。

 中央の井戸穴の左右に、また別の穴を作る。  

 その上に手押しポンプを二台取り付け、左右どちらからでも水を出せるようにしてある。

 手押しポンプを使った時の村人の反応が凄かった。

 子供でも簡単にレバーを上下させるだけで井戸の水が出せるのだから、感動が凄いのだろう。

 村の人はトイレができた以上に興奮している。うん、ちゃんとトイレも使ってくださいね。

 まだまだ村でやる事はある。

 次の日、ミツはギーラの家、つまりは村長の家を建て直すことを伝えた。

 最初はすし詰め状態の家を建て直すことを村人に促したが、村長の家を差し置いて、最近移住してきた我々が新しい家に住む事などできないと強く断られてしまったからだ。

 ギーラには悪いが、流れで村長の家を建て直すことになった。

 住み慣れた家であるが、実はやはり隙間風などで冬場は寒い思いに冬を越すようだ。

 そんな話を聞いて自分だけが新しい家にヌクヌクとアン達と一緒に住める訳もない。 

 連日とミツのやる事に奇跡だ奇跡だと口にする村人に協力してもらい、一度ギーラの家の中を全部出してもらう。

 大掃除と思ってついでに、ギーラは使えなくなった薬の草などを廃棄している。

 その間、村長らしい家はどう言う作りの家なのかをバンやマーサ、村人を交え話し合う。

 母を想い過ごしやすい部屋を。

 生活のしやすい様に階段に手すりを。

 そんな言葉を。

 その中、ギーラが家の希望を申し訳なさそうに告げてくる。


「すまんねミツ坊。お前さんにここ迄してもらって……」


「いえいえ。これは自分がやりたくてやってる事ですから、寧ろご迷惑ではないかと思ってしまうくらいで。ギーラさんも何か希望があれば仰ってください。できる物なら作っちゃいますから」


「そんな事ないさ。……そうかい。じゃ、私の部屋は今までと同じ小さな物でいいから、バンの為にも部屋を増やしてやってくれるかい」


「バンさんの為?」


 ギーラの希望は、息子を想う母の気持ちそのままであった。

 ギーラも歳となり、村長を続けるのも大変な歳。

 残り数年、このまま村が安定すれば村長の席を息子のバンに譲る事を決めていたそうだ。 

 しかし、病や貧困とした状態では村長の席を渡すのも酷と、ギーラは今迄村長を継続して続けていた。

 しかし、それも幸運に恵まれ、ミツが村に住む事となり、ギーラの不安要素は全て吹き飛んでしまっている。

 そしてもう一つ。

 村長として一番必要な物事が一つ。

 バンの嫁の話である。

 運もよく、移住してきた村人の中に、バンへと好意を向けている娘が居るそうな。

 ミツは思わずバンの方へと視線を送れば、確かにこの数日とバンの側に常にいる女性の姿が目に入る。

 容姿は普通の村娘と思える顔立ち。

 美人系では無く、可愛い系の顔に入るだろうか。

 身体は痩せ型でありお胸様はゲホンゲホン。

 うん、人はそれぞれ。

 自分も身長の事を言われたら嫌なんだから人の体型を言うのも失礼だ。

 そんな彼女の名前はルーラ。  

 何だか街々を飛んでいきそうな名前だが、それが覚えやすいと考えるのを止めた。

 バンとルーラの仲は良く、食事をする時も彼女は側にいるし、バンが作業から戻ってきた時もルーラは彼の汗を拭いてあげたりと周囲の視線も気にせずイチャコラしてる。

 うん、下手な事を言わず、ギーラの希望と村長の家は二世帯住宅ぐらいの大きさにする事にした。

 村長の家を作るぞと意気込めば、ドンやトム達もおーっと掛け声を上げ、材料集めと森の中へと入っていく。


 そしてできました村長の家。

 うん、確かに二世帯住宅を思いながら造ったのはミツだが、目の前にできた家は日曜日の夕方のテレビ番組に出てくる海鮮家族の家そのままだ。

 やっちまったなーと思い、作りなおそうと思ったが遅かった。

 ギーラはその家を見てはポロポロと涙を流し、ドンはそんな母の背中を優しく撫でて言葉をかけている。

 アカン、この状態で作り直します何て空気の読めない言葉が言えるはずもない。

 まぁ、喜んでもらえた様で良かったと思っておこう。

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