第270話 ウルフFour
一先ず出来上がった家の中に入るのはフロールス家の面々とカルテットの人々である。
ギーラ達は貴族に囲まれては落ち着かないと思うので後に招待する事にした。
「んー。新築の木の匂いって良いもんだ」
ガラガラと横開きの扉を開け、中へと入る。
ふわりと鼻をくすぐる木の匂いにミツは何となく田舎の家を思い出していた。
玄関の広さは大人数が後に入る事を考えて広めに作ってある。
大きな家の玄関イメージが沸かなかったので、ミツが子供の頃に足を向けた公民館の玄関の広さで作っている。
小学校にありそうな靴入れが壁に並び、少し懐かしさを思ってしまう。
「あっ、皆さんもどうぞ上がってください」
「はい。失礼します」
「ああっ、すみませんがお待ちください!」
「えっ?」
「「「?」」」
上がってくださいと言われそのままエマンダが中に入ろうとした所で、何故かミツは皆を呼び止める。
「皆さん。申し訳ないのですがここからは靴は脱いでお上がりください。掃除が大変になりますので、土足厳禁でお願いします」
やはり家に入る時に靴を履いたままと言う事に抵抗があるのか、彼は靴を履いたまま上がろうとしている人々を止める。
「まぁ、左様ですか。承知しました」
ミツの言葉にパメラとエマンダは率先して靴を脱ぎ、それを側仕えの人が回収している。
来客に対してその発言は、お前の足が汚えから靴脱げやと解釈されるような言葉。
貴族相手にまた相変わらず不敬な発言をしたのだが、言った本人も靴を脱ぎ上がっているので、本心に掃除の事を言ってるのだろうとエマンダ達は直ぐに理解したのだろう。
「おっ、おう。家に入るのに靴を脱ぐのか……珍しいな」
「お兄様。ここはミツ様のお屋敷にございます。家主の指示に従うのは来客のマナーですわ」
「そ、そうだな」
「靴は収納棚が壁際にありますのでお好きなところに入れておいてください。他の人のと間違えないようにしてくださいね。それと素足で歩くのも足を冷やしますのでこちらのスリッパをお履き下さい」
先に上がったパメラとエマンダの足元にミツは〈糸出し〉にて前もって作っていた糸玉に〈物質製造〉スキルを使い即席に作ったスリッパを差し出す。
色は真っ白、足を包む糸の肌触りに婦人の二人は気に入ってくれたようだ。
「まぁ、何て暖かな靴でしょうか」
「本当に。これだと踵を傷める事もありませんね。ミツさん、ご配慮感謝いたします」
「いえいえ。セルヴェリン様とミンミン様もどうぞ」
「うむ、すまんな」
「ありがとうございます。まぁ、何て心地よい品でしょうか」
「気に入ってもらえて良かったです。皆さんの分もありますのでこちらに履き替えをお願いします」
糸玉から次々とスリッパを作り出す。
この場の人以外にも後に必要だろうと思い大量のスリッパが生産された。
中に入り、ラルス達は部屋の作りに驚きの声を出している。
まだ家具などは置いてはいないが、この広さの家をあっさりと建てたミツの力に改めて驚かされてしまう。
ミツとゼクスは厨房へと足を向ける、そこには勝手口の扉があるのでまたそこから外へと出る。
目的であるスライムを壁際に置いてある排水タンクに入れていく。
「エサとかはいらないんですか?」
「はい。水を浄化するだけでしたらこちらは結構にございます。トイレの方も同じ数のスライムをお入れください。注意としましては、スライムが這い上がってこないように重しを置いておく事をお忘れなく」
「重し……鉄の網でも置いておこうかな」
余っていた鉄の一部を網状に作り、タンクの上においておく。
出来上がった家の中を皆で見回り、足りない部屋等の意見を貰い増築を始める。
一般の家に談話室等無い為、その辺を失念していた。
日もそろそろ落ち始める頃となり、皆をフロールス家へと送る事にする。
村人一同が彼らを見送るつもりにゲートに集まり、パメラ、エマンダと今後スタネット村の発展がある事を祈り彼らは屋敷へと足を向ける。
屋敷に帰って来たパメラとエマンダは休む暇もなく動き出している。
一つはミツから渡された土地特権に関しての受諾書の記載。
数もあるが、この世界にコピー機が無いために10枚分全てを手書きである。
大変な作業となるが、二人でやれば問題ないと所務部屋へと向かっている。
もう一つは最愛とするダニエルの辺境伯となる叙爵式へと向かう準備。
準備と言ってもこちらは側仕えやメイド達がやってくれるので彼女達がする事は最後の確認である。
ダニエルが式典で使用する正装の確認と自身のドレス。
またお偉いさんへのお土産品などである。
本来ならスタネット村へと足を向ける時間など無いのだが、行きと帰りはミツが同行する為彼女達も側仕えの人達も心より助かったと落ち着いて準備を行っている。
セルヴェリンとミンミンは村で起こったこと、見たこと全てを鳥光文にて国へと連絡。
聖木を発見した事から始まり、ミツがセレナーデ王国、王女ローソフィアから貰っていた土地特権を使用し、彼は土地を得た事。
ただのヒューマンのやり取りならば気にする事でも無いし、尚且つ国へと連絡内容として入れる事でもない。
しかし、彼は地面に手を添えるだけで畑が出来上がり、作物を作ってしまう。
山に手をかざすだけで山の形を変え、川辺に手を置くだけで川幅を広げてしまっている。
森と共に生き、共に朽ちる定めを受けているエルフにとって流せる内容ではない。
またローガディア王国で起きるであろう干ばつに対して、そのミツが大きく関わる事を強く発言する。
カルテット国として協力すべきか、若しくは見ぬふりを突き通すか。
例え協力したとしても元々エルフは率先的に農家はしておらず、最低限の事しかやっていない。
そんな国からの援助などローガディアはどう思うのか。
微々たる支援に恩着せがましいと言われるのか、若しくは知っていて何もしない国へと嫌悪感を抱くのか。
この判断は二人では抱えきれない為、これを外してはならない内容として鳥光文を飛ばすことにした。
次の日。
ミツはアイシャと共に聖木のある場所へと足を向けていた。
そこには昨日見たオオカミ、ウルフとは別に三匹のオオカミが居る。
ミツが近づけばオオカミが近づき、昨日と同じ様に〈魔言〉にて会話が始まる。
「来てくれたんだね」
(強き者との約束を違える程、俺は愚かではない)
「そっか。昨日渡したお肉だけど、味は如何だった?」
(美味かった! 仲間も喜んで食ってくれた! 強き者よ、感謝する!)
「うん。バイコーンの肉は馬刺しみたいに生食も可能だからね」
(バイコーンと言う物は知らぬが、あれ程の美味い肉を取れる強き者に、俺は仲間を合わせる事にしたぞ)
そう言って目の前のオオカミは後ろで待機しているオオカミを呼ぶ。
三匹のオオカミは少し痩せて居るが、野性的な強さを失わず、ミツへと警戒しつつ近づいてくる。
(貴方が我らにあの肉を与えた事に間違いない?)
「うん、そうだよ。えーっと」
(失礼。私はその子の母、こっちは娘達よ)
「あっ、親御さんでしたか。初めまして。息子さんにはアイシャ、この娘がお世話になりました。アイシャ、そのウルフの母親だよ」
「は、初めまして!」
母親ウルフはアイシャが挨拶した事が分かったのか、軽く会釈で返す。
(いえ、話はそこの莫迦息子に聞いております。本来ならその辺で朽ちる所を、そちらの人間の娘に助けられたと。更には貴方に怪我を治してもらったと。また上質な肉を我々に与えた事に群れの長として礼をする)
話を聞く限り、本当にこの近くにはこの四匹のウルフしか生息していないようだ。
母親であり長と告げる目の前のウルフ。
所々傷跡があり、親として三匹のウルフを育ててきたのだろう。
(それで、私達を呼んだ理由を聞かせていただきましょう。ただ単に同情から食べ物を与えただけではないのでしょ?)
「話が早くて助かる。実は」
ミツは近くに村がある事、そしてそこには自身の言えもある事を告げる。
アイシャに恩義があると言っても、ウルフが村の近くに居ると、誤って村にいる狩人に射抜かれるかもしれない。
(なるほど……。我々が近くに居ては迷惑と言う事ですね。分かりました。息子の怪我を治してくれた恩もあります。早々と我々はこの場から離れる事にしますわ。下手に貴方に牙を向ける事は愚かな行いでしょうし)
そう言葉を残すように母親ウルフは腰を上げその場を後にしようとする。
だがそれを止めるミツ。
「いや、それは反対で、できれば全員村に来てもらえないかな? 正確には自分の家に来て欲しいなと」
「!?」
ミツの言葉に驚くウルフとアイシャ。
先程まで少し悲しげな表情を見せていた母親ウルフの警戒心が上がったのか、少し眉間にシワがよっている。
(……人間が私達を受け入れるとは思えないんですが)
「勿論そのままだと村の人も不安になると思うけど、うん、大丈夫。君達には自分の家族になってもらいたいんだ」
(……詳しく、話を聞いても)
その場から立ち去ろうとしていた母親ウルフがミツの言葉に足を止める。
娘のウルフ達はその行動に驚きだが、この中では母親が長である為口は出さない。
内容としては簡単な話であった。
ミツは【テイマー】のジョブは経験がないが、スキルの〈テイム〉は覚えている。
このスキルを使い、この場にいる四頭のウルフをテイムすることを伝える。
ウルフもモンスター。
テイムのスキルが成功すれば、ウルフも使用者のパートナーとして共に戦いや冒険者としての活動を行う事ができる。
しかし、ミツは目の前のウルフ達を自身の冒険に同行させる気は無かった。
なら、何故テイムを行うのか?
理由は簡単。
ミツとしては、目の前のウルフをこれから作る畑の番犬として村に住んでもらいたい気持ちが大きいのだ。
畑には様々な害獣が住み着く事もあり、ネズミ等の被害を起こさない為でもある。
この理由を聞いて、当の本人であるウルフ達はどう思ったのか。
戦う為ではなく、人間の畑を守る為に来てくれ。
本来ならばウルフも嫌悪に思い、テイムを拒絶するかもしれない。
しかし、母親ウルフはミツの言葉を素直に聞き入れることにした。
それは目の前にいる少年と思える人間に逆らってはいけないと、出会った当初からビリビリと無意識に肌に強さを感じていたせいでもある。
息子のウルフからも強き人間に出会ったと話は聞いていたが、半信半疑に聞いていた自身の尻尾を噛みつきたい気分だった。
もう一つ、母親ウルフがミツの言葉を聞き入れる本音としては、この後に来るであろう冬を乗り越える自信が無かったのもある。
見ての通り、自身も仲間である娘達も今は冬の毛で体を大きく見せて入るが、痩せてきている。
莫迦息子は自身よりも力はある分、冬を越せるかもしれないが、現実、自身たちは雪の冷たさに凍死する事を覚悟していたぐらいだ。
数日姿を見せなかった息子が、今まで見たことのない程に大きな肉の塊を持って来た時は、本当に夢ではないかと思ったぐらいだ。
母親ウルフはミツの方へと歩み、静かに頭を下げる。
「うん、直ぐに終わるからね」
暖かく優しいその言葉にウルフはコクリと頷く。
スキルの〈テイム〉を発動すると、ウルフは足元から頭の先まですっぽりとオレンジ色の光に包まれる。
その光は直ぐに消えた後、続けて残りのウルフへもテイムを発動。
長がミツの言葉を受け入れたので、娘の二頭と息子も素直に聞いれてくれている。
(主様。今後も我らをお導きください)
(((よろしくお願いします)))
アイシャにもウルフを村に置く事を改めて教える。
互いに会話ができないアイシャとウルフの為にと通訳として間に入るミツ。
ウルフは改めて傷を治してくれたこと。
そして定期的に食料を持ってきてくれた事に感謝すると言葉を伝える。
アイシャもウルフが村から離れずに済んだと喜び、ウルフが差し出してきた自身の頭をなでさせる。
こうして村人が不安としていたウルフはミツのパートナーとなり、村へと連れて帰ることにした。
やはりウルフが村に入ると、村人達からは少し悲鳴に近い声が上がる。
その声が聞こえたのか、家の中からギーラが姿を見せる。
村長であるギーラを前に、ウルフをテイムした事を告げる。
理由を説明すればギーラは納得してくれたが、周囲の村人達は流石に直ぐには納得できないだろう。
改めて言うが、目の前にいるウルフはミツがテイムしているので人は絶対に襲わない事、そして村の畑に出てくる害獣駆除の協力をする事を話す。
畑のネズミ等の害獣の被害を経験のある人達も中には居るのか、ミツの提案にそれならばと少しだけ賛成の方へと気持ちが揺れている。
「ねえ、ミツさん。このオオカミさん達には名前は付けないの?」
「確かに。呼ぶ時に名前は必要だよね」
(名付けか……。フォルテ達みたいにやっぱり名付けたらこの子達にも影響でるのかな?)
そんな疑問を持つとそれはユイシスから肯定する返答が帰ってきた。
《テイムを行った者がその対象に名を与えると、対象のステータスを上げる効果を出しますよ》
(あー、やっぱり名付けって効果を出すのね)
「んー。如何しようかな。取り敢えず四頭とも一度洗おうか」
ウルフの体の毛は葉っぱなどが付き、お腹部分も真っ黒と汚れている
四頭を同時にウォッシュのスキルにて洗浄することにした。
突然水をぶっかけられた事に唖然とするウルフ達。
だが直ぐにその水は乾き、フワッとする自身の体毛に驚きの表情。
娘二人は自身の毛が綺麗になったことに喜んでいるが、息子のウルフは自身の毛が鼻に入ったのか、ブシュンっと見た目によらず可愛いくしゃみを見せてくれる。
母親ウルフも自身の毛がサラサラになった事が嬉しいのか、彼女の尻尾がブンブンと振られている。
四頭ともハスキー犬のように黒とグレー、そして白の毛色をミックスした様な毛づやをしていたよ。
「今度ブラッシングもしてあげるね」
母親ウルフの首筋などを撫でながら、ミツは目の前のウルフのモフモフ感を堪能しておく。
ウルフ達の名前を考え、思いついたのが『アン』『ラルゴ』『シャープ』『ドルチェ』であった。
母親ウルフにはアンの名前を。
息子のウルフにはラルゴの名前を。
姉であるウルフにはシャープの名前を。
妹のウルフにはドルチェの名前を。
四頭のウルフはまるで騎士の礼をするように、並んでミツへと頭を下げる。
その光景に唖然と驚く村人の声が聞こえる。
これだけでもこのウルフ、いや。
アン達が人を襲うようなモンスターではない事を少しは理解してくれたかもしれない。
取り敢えず四頭はミツの作った家の方に入れておく。
折角綺麗にしたのに外に置いておくことは可哀想だし、何より村人達がまだ不安とするからだ。
おっかなびっくりと家の中へと入っていくアン達。
ラルゴは畳の部屋に入るとそこが気に入ったのか、自身の体をこすりつけ、ここが良いと
訴えるような視線を向けてくる。
そこは座布団とか置いておく為の4畳程度の部屋なのだが、まー、本人が気に入ったなら良いか。
そこにシャープとドルチェが入り、アンタだけズルいわよと軽い喧嘩を始めてしまった。
やっぱりウルフ同士の喧嘩は迫力もあるし、三頭が後ろ足だけで立つと軽々とミツの身長を超えている。
止めろと言うアンの一声に三頭は直ぐに喧嘩を止め、ショボーンと耳を垂れさせる。
うん、母は強し、子供たちは可愛い。
二頭も同じ様な部屋が好ましいのか、後で和室を追加してあげることを告げると嬉しそうに尻尾を振ってくれる。
あー、うん、顔を舐めてくれるのは犬種の好意の表現なのは分かるけど、顔がベッタベタです。
明日にはまたフロールス家の人達と王城へと向かうので、今日できる事はやっておこう。
そして彼が足を向けたのは先程まで居た聖木のある場所。
何故またここに戻って来たのかと思うだろうが、その時アイシャが共にいた為にできなかった事を行う為だ。
アン達は居るが、まぁ、大丈夫だろう。
「さて、人が来るかもしれないから急いでやるか」
ミツは聖木の側にアイテムボックスから出したスコップを取り出し突き刺す。
サクサクと地面を掘り、数分もかからず縦横1メートル程の穴を二つ作ってしまう。
穴を掘るだけなら〈天地創造〉スキルでも良かったかもしれないが、聖木の根っこなど誤って切ってしまっては大変とここは手作業に行うことにした。
(主、この穴は?)
(冬に備え、獲物を埋めておくんですか?)
(なるほど! 流石主様!)
「ははっ、違うよ。確かに埋める為に穴を掘ったけど、残念だけど獲物とかじゃないね」
(では、何を?)
アン達からの質問に笑い答えるミツ。
彼はアイテムボックスからカセキの入った麻袋を取り出し、それに魔力を流し込む。
無色のカセキは流し込まれた魔力により、茶色と青色と二色を見せる。
その光景にアン達は驚きに口をあんぐりと開く。
君達良いリアクションを見せるねと、少年の頬が無意識と上がってしまう。
魔石に対して更に〈増幅〉〈物質製造〉のスキルを発動。
掌から姿を見せるピンポン玉程の大きさになった二種類の魔石。
両手に持ち直し、もう一度増幅を発動。
二つに増えたらまた物質製造スキルで一つの魔石へと形を変える。
ピンポン玉程の大きさの魔石はテニスボール程に、更に合わせての繰り返し。
手に持てないぐらいの大きさになった所で一つずつ穴へと入れておく。
穴の中にすっぽりと綺麗に入り、根っこに触れた事を確認した所で土をかぶせ埋めておく。
木の下にはリティヴァールから預かった世界の栄養素が入っているが、それは木を聖木に変える力はあっても、このまま成長させる栄養にはならない。
ユイシスを通して、リティヴァールはミツに聖木の近くに大きくした水の魔石と土の魔石を埋めておく事を促していた。
用は済んだとその場を離れようとするが、何だか四頭の視線が地面から離れない。
後ろ髪を引かれる様に付いてくるアン達。
確かに驚く様な事はしたが、その中、ラルゴの口元からヨダレが出ている。
「えっ? ラルゴ、如何したの!?」
(はっ!? も、申し訳ない主殿)
(ラルゴ、意地汚いわね。美味しそうに見えたからって主様がお作りになられた品、勝手に後で掘り返さないでよね)
(す、する訳がないだろう!)
「美味しそう? アン、もしかして君達って魔石食べるの?」
(はい。滅多に口にはできませんので、毎日と言う訳ではありません。その……。主が手に見せました魔石は、今まで見たこと無い程に美味しそうな魔力を感じました。恥ずかしながらラルゴもそれに反応したのでしょう)
「そっか……。なら食べる?」
その言葉に彼は麻袋から数個のカセキを取り出し、各種の魔石を作りアンの目の前に見せる。
色とりどりの魔石に驚きの表情。
「えっ!? よ、良いのですか!?」
良いよと答えればアン達は彼の手のひらに乗せた魔石をボリボリと美味しそうに食べ始める。
無くなりそうな数になる所で増幅スキルを発動し、掌に乗せた魔石をまた次々と増やしていく。
帰ったらご飯にしようかと思っていたが、アン達はそれも不要と思えるぐらいに魔石を食べ続けている。
美味い、美味いとラルゴが食べているが、誤って自分の手を噛まないか不安だ。
村への帰り道、アン達の今後の食事に関する話をする。
彼らは一週間なら何も食べずに生きていけると言ってくれたが、流石にそれは駄目だろう。
いや、魔石を食べた時は本当に数日食べずに動く事もできるそうだから気を利かせている訳では無いようだ。
アン達専用の寝床の他にも、排泄用のトイレも作ってあげないといけない。
戻ったら早々と作ることにした。
アン達を村に置いていく事を説明するためと、彼は四頭のウルフを連れ村の中を徘徊し、よろしくお願いしますと村人達へと粗品と言う名の賄賂を渡しておく。
渡す物は塩であり、村人達も村に害が無ければと心良く受け入れてくれた。
因みにこの塩は王都で購入した良い岩塩。
ミツの手作りの壺に塩を満タンに入れた後に、増幅スキルにて増やした品である。
独り暮らしをする際、引っ越しの挨拶とお隣さんへと挨拶をする感じに少し低姿勢感を出す。
挨拶回りが終わったので、次は畑に繋ぐための水路を作ることにした。
川幅を広げたので畑用の水路を通す為の道を伸ばすだけ。
流れとしては上流から水路を流し、下流へとぐるっと大きく回って繋げる感じだ。
そうすればミツの家から出る浄化された排水もそのまま流す事ができる。
これは直ぐに終わらせる事ができた。
なんせ川辺には石はゴロゴロとあり、土を掘ればそこでも材料となる石が出てくる。
それを材料とし、水路を作る。
形はよく見るUの字の水路と作り変えていく。
人が落ちないように本来なら鉄でできたグレーチングを置くのだが、鉄はこの世界でも溶かせば金となるので野ざらしはできない。
別に村の人が盗むとかではなく、それを見る人が気になるだろうというただの配慮だ。
では何を代用品として使ったか?
はい、竹を使いました。
人が踏んでも割れにくい、腐りにくい、燃えにくい、そして水にも強い。
竹、意外と使える品です。
村人達に竹をできるだけもってきて欲しいとお願いすれば、バンは若者を連れて多くの竹を持ってきてくれた。
ちょっと多すぎないかなと思ったが、余ったら余ったでそれで米を炊くそうだ。
アン達は掘った溝の中にある石を集めてくれていたので口元が土に汚れている。
また後で洗ってあげよう。
〈糸出し〉スキルで出した糸と竹。
二つを合わせて水路の上にかぶせる網を作り乗せていく。
長く伸ばしているので村の人達にも手伝ってもらい乗せていく。
風で飛ばされないように四隅はL字の形に変え、地面に打ち込む形としている。
その辺の石を使い地面に竹の網を打ち込んでいく人々。
人海戦術と言う程ではないが、作業が早く終わったことは事実だ。
上流の川の方に戻り、そこに待機していたゲンへと合図を送る。
「ゲンさん、開けてください!」
「よし来た! フンッ!」
ゲンは川と水路を繋ぐための場所に蓋として水を止めていた板を持ち上げると、川の水が水路へと流れ出す。
「流れた! 水が行ったぞー!」
子供のはしゃぐ声に皆は水路へと視線を向ける。
「「「おおっ!」」」
水路に流れる水を見て村人達は驚きと興奮に声を上げる。
流れる水を追いかけるように子供たちが走り出し、水の音が聞こえたと村で飼っている草牛が水路の水が飲みたいと竹網に顔をつけている。
「おっ、こんれ、草牛の水やりが軽々(楽)になったんじゃないか!?」
「たすかに! 冬場の水辺に足をとっとられる事も無くなっただな!」
冬場の草牛の水飲みはやはり危険も多く、草牛が地面に滑ったりと怪我する恐れもある。
作った水路の一部を草牛専用の水飲み場にする事に決まった。
「うん、漏れは無さそうだ。隙間も埋めてるから、これで水路の土に漏れる心配はしなくていい」
村の中央に水路が流れ出せば村は発展が見込める。
それは何故か? ミツが昔テレビで見た記憶だが、村の中央に下水の為の水路を通すだけでもその村は一気に発展を見せた。
理由としては汚物関係の問題が無くなり、不衛生な環境を正に水に流す事ができる。
古代ローマではトイレをする際、尻を拭く為の道具は専用の水路の水で洗流している。
用を済ませた後、その辺に生えている草で拭くよりかは性病予防にもできる。
と言うことで次にミツが作るのは村人専用のトイレである。
排水の下水は勿論スライムで浄化した奴を下流に戻すので、川が汚染される事はない。
この村で足りない物はまだまだある。
以前ミツが虹金貨五枚(500万)を寄付している。
また武道大会での思わぬ収入もあるが、崩壊ギリギリだった村がそれで完全復活する訳もない。
最低限よりも上の生活状態に戻してはいるが、ミツの目から見たら未だボロボロな家の壁などが気になる。
できればそれを一通り直し、スタネット村に住んでいる村人には今年の冬を問題なく過ごし、来年の春を迎えて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます