第265話 神託

 スタネット村の畑を使い、作物の検証を行ったミツ。

 彼の行ったことに驚きの声は上がるも、検証で出来上がった作物の方に今は皆の意識はそちらに行っているのだろう。

 村に移住してきたランブル、元農村の人達ともミツは少しは打ち解けた。


 ロキアの優しさに収穫した野菜は村人に振る舞うことが決まり、ならばと皆で食べようとギーラの言葉。

 しかし、中には種から急成長を見せた野菜を怪訝する人も居たみたいだが、味見役として出たゼクスとギーラの言葉を信じて彼らも食を共にするそうだ。

 料理をする前に収穫の際に手や足、顔まで泥だらけの人達は一度泥汚れを落とす為と川の方に向かう。

 そんな彼らの止める為とセルフィが声を出す。


「あー、皆、ちょっと待ちなさい。川の方には行かないで良いわ。少年君、こんな冷えた風が吹く中で水浴びなんかしたらあの人達が病気になるわよ」


「そうですね。泥汚れを落とすだけとはいえ、流石に冷水を触るのも辛いでしょうね」


「分かってるじゃない。それじゃ、私とロキ坊、私達を先にお願いね」


「あー、はい。ロキア君、目を閉じて、息を止めてね」


「えっ?」


「ロキ坊、いつもお風呂に潜る時にするアレをすれば良いだけよ」


「うん、分かった」


「えっ……。セルフィ様、まさかロキア君と一緒にお風呂に入ってるんですか……」


「んっー。……アハハハ。もう、少年君のエッチ!」


 セルフィの誤魔化すような笑い声に彼は追求することは止め、目を細めるしかできなかった。


「それじゃ、行きますよ」


「いいわよー」


「ウォッシュ」


 彼がその言葉を口にすれば、二人の頭上に大きな水玉が現れ、ざばっと音を出し二人へと水が降りかかる。


「「「!!!」」」


 相手が子供とはいえ、領主様のご子息様へと突然魔法の水を頭からぶっかけると言う不敬過ぎる行いに、村人の大人達が唖然と口を開く。

 それはミンミン含め、彼女の護衛のエルフ達も同様に。

 だが、バケツの水をかぶった水の勢いは直ぐに止まり、ポタポタと滴る水がすっと消えていく光景に彼が何を使用したのかを直ぐに理解したのだろう。

 セルフィのアイボリー色の髪の毛は、彼女が首を振ればサラサラと光を反射させ美しくなびく。


「ふー。はーい、ご覧の通り綺麗になりましたー! 土汚れに汚れてる皆も少年君からぶっかけてもらいなさい」


「ちょっとセルフィ様、言い方、言い方」


 セルフィ達が終われば次は私兵の皆さんだ。

 彼らは前回も同じ様にミツの洗浄魔法を経験しているので躊躇いなどない。

 寧ろ乗ってきた馬も一緒にお願いしますとちゃっかりした人も居たぐらいだよ。

 それを続け村人全員を洗浄して綺麗サッパリとする。

 洗浄魔法の良い所が、川の水のように冷水ではなく、水とも湯とも言えぬ人肌の温度である事。そしてもう一つ、これは頭のシラミや身体に付いたダニなどの寄生虫も一緒に洗い流してくれる所だ。

 ギーラが作った薬液で体は洗うも、薬液が勿体無いと頭を洗う者が少ないのか、頭の痒みに悩む人が結構居たようだ。

 ミツはそれを聞いてそれは村の衛生管理も見直すべきだと考える。

 人が増えれば病気も広がる速度も上がってしまう。

 アース病が一気に広がらなかったのはスタネット村の人口が少なかったことが幸いしていたのだ。

 人口が増えたスタネット村で、もしまたアース病の様な病が広がったら爆発的に病人が増えてしまう。

 更に不衛生な環境では良い作物も育たない。

 ミツはギーラへと村人の衛生問題を聞いていく。

 先ずは身体を洗うための場所。

 これは近くの川などに行き、今の時期は水を家まで運んでお湯にした物を使い身体を拭くそうだ。

 ああ、そりゃそれでは頭まで洗えるわけがない。

 次に排泄するためのトイレ。

 一家に一つトイレがある訳もなく、決まった場所もないので殆どの人が森や林の中で済ませるそうな。

 使用後は近くの草で拭くという、ミツは少し苦笑い。

 もしかしたらここにあった茂みもと脳裏を過ぎったが、彼は考えるのをすぐに止めた。

 これに関して、自分ができる事はないかと、少年はまた周囲を驚かせる事を考えるのだった。

 

 料理が出来上がり、折角だからとセルフィはミンミンやアリシアを誘い共に食事をすることに。

 勿論王族貴族である彼らと村人の席は別だが、食べる物は同じである。

 ミツは王族であるミンミンや護衛のアリシア達が庶民の料理を口にするのかと不安に思ったのだが、それは杞憂でしかなかった。

 アリシアが一口だけミンミンの皿の野菜スープを口にした後はミンミンは普通に出された料理を食べている。

 その際、収穫した野菜の味や旨味に驚きの表情。

 何故か対面に座るセルフィの顔がドヤ顔を見せていると、何故に貴女がそんな顔をしているのですかとミンミンの言葉に彼女は額に汗を出し笑いすます。

 村の人達も料理に使われた野菜の旨さに美味い美味いの声を上げるのだった。

 夕暮れに差し掛かる頃、セルフィ、ミンミン、ロキアが街へと帰る。

 村人は野菜を振る舞ってくれたロキアへと改めて感謝の言葉を送れば、彼は恥ずかしいのかエヘヘと照れ笑い。

 隣に立つエルフもその笑顔にニッコリしているが、先ずはその興奮して出た鼻血を止めなさい。

 護衛の為とゼクスたち私兵の皆さんも帰る事になった。

 まぁ、帰ると行ってもミツがいれば帰り道の経路を省略し、あっと言う間にフロールス家に帰れるのだが。

 一日でできる事はここまでと、また明日も色々と村の状態を調べるそうだ。

 その際、ミンミンが明日も私はこちらに赴かせて頂きますの言葉。

 鳥光文で聞いていたがミツのやることなす事が驚きばかり。

 また明日も彼が何をするのか気になるのか、彼女の参加の意思が強い。

 本心でそう思っているのか、それともただ単にミツの側にいたいのかは本人しか分からない……。いや、後ろに控えるアリシアは薄々勘づいているのではないか?


 ゲートにて帰るゼクス達を見送り、ギーラ達も家の中へと入っていく。

 その際、一人の少女が器に入ったスープを溢さないように抱え、森へと入っていく。

 直ぐに戻ってきた彼女、アイシャの手には何も持ってはいなかった。


 その夜。

 ミツは対面する神、三柱からとんでもない話を聞かされる。  

  

「えっ!? 干ばつが起きるんですか!?」


〘ええ、直ぐって事じゃないけど、ここからここ迄の間だけ雨が降らなくなるわ。全く降らない事もないけど、食べ物が育つには足りないわね〙


[実りの子、これは今回に限ってではなく、毎期毎年と様々な場所でも起こることなのです]


〘風の流れって奴ね。寧ろこの流れがあるからこそ他の場所には風が吹き、それが種を運び雨が降って芽吹をなすのよ。だから先に言っておくけど、私がどうこうできる事じゃないから。やろうと思ったらあっちこっちで嵐が数カ月と続いてそれこそその場が滅ぶわ〙


 シャロットが出した地球儀の様な球体。

 表現しているのは地球の大陸ではなく、ミツが今住んでいる世界の大陸である。

 シャロットは指で表面を撫でると、言葉通りあっちこっちで台風の様な雲が現れる。

 彼女がスッと手のひらで星を撫でると元の姿に雲は戻る。


[前回は丁度その下が海だったから陸の生物や植物には影響がなかったけど……]


「なるほど……。おもいっきり当たってますね……ローガディア王国に」


 ゆっくりと時間を経過させると東の国、ローガディア王国の緑が枯れ、茶色い表面と変わっていく。

 本当にその部分だけに雲が流れていないことが良く分かる。

 

「干ばつか……」


 彼が口元を抑えるように考える素振りを見せた事に、リティヴァールからの忠告と取れる言葉が告げられる。


[実りの子。分かっていると思いますが、これは魔法でどうにかなるレベルではありません。貴方が雨を降らせたとしてもそれは一部の一時。それよりも、干ばつが起きるとなればそこに住む生命体は飢餓に触れる事になります]


「それは」


〚そんな事しれた事。生物と言う物は食い物がなければ見境なしと近くの獲物を狙い出す。そんな獣が増えるだけだろう。小僧、注意すべきは飢餓状態となった魔物だけではない〛


「バルバラ様、他にも何か危険な生物がいるんですか!?」


 バルバラは湯呑みに入ったお茶をごくりと飲み干し、何を聞いているとばかりに怪訝な視線をミツへと向ける。


〚何を言う。お前が武道大会で戦った獣人族の者達のことだ。俺が思うにその国の行く末はこうだ〛


「はい……」


 バルバラは干ばつに関しての連鎖的に起きてしまう飢餓の話をし始める。

 一つ、飢餓を乗り越えることもできず、国は反乱をお越し、他国に攻め込みまさに有象無象とそこらで血が飛び交う。

 その言葉に、ゾクリと背筋に冷たい物が走る。

 ローガディア王国の隣国となれば、セレナーデ王国が対象である。

 食に飢えた物は国境を超え、別国の民家を襲い、次第とその幅は広がり街を消す程の惨事を起こすかもしれない

 次の予想は獣人共は魔物を退け、ならばと逆に獣人は魔物を食らい飢えを凌ぐも、魔物を全てを食べ尽くし底がつく。

 飢えを凌ごうと彼らは木の根を食べ、雑草ですら食料とする。

 しかし、それでも絶対的に足りない食料。

 最悪、獣人同士の同種食いが始まってしまう。

 飢えた肉食獣は幼き子供に牙をつきたて、産まれたばかりの子供までも肉としか見なくなる。

 そして最後の可能性は、全ての生き物は魔物の餌として食われる。

 バルバラは当たり前と国の終わりを告げた。


「あの……。バルバラ様、一つも救われる道が無いんですけど……」


〚当たり前だ! 脆弱な生物など、中には陽の光一つで滅びる種族もおるのだ。生き抜く奴は他の物を食う覚悟がある者だけ。小僧、甘い考えは捨てろ!〛


 弱肉強食。

 バルバラの言葉は正にそれであった。

  

 ミツは国へと帰るエメアップリアの笑顔、そしてバーバリ、ベンガルンら、彼らの顔を思い出したのか。

 ミツはバルバラの一喝に恐怖と悔しさに顔を下げる。

 何が起きるか知ってしまったミツは彼らを放置する事などできないと頭を悩ませ、フッとシャロットの方を見てはバルバラへと向き直る。

 

「それじゃ、自分のアイテムボックスから食料を出して、ローガディア王国の皆さんを救うのは如何ですか!? 幸いにもシャロット様の御慈悲にて、一つの物に対して魔力の消費は1しか消耗しません。分身にも協力してもらえば、何十万、いや何百の獣人の人達も救えると思うんです」


〚止めておけ。お前のやり方では更に国が滅びるぞ〛


「バルバラ様、何故ですか!? 今の自分のMPは12000超え、60キロの米俵なら万の米を出して皆の飢えをしのげます! 他にも小麦や野菜なんかを」


〚いつまでだ〛


「えっ……」


 バルバラは目を伏せ、熱弁するミツへと静かに言葉をかける。


〚だから、お前が獣人共に食い物を渡すのはいつまで続けるつもりだと言うのだ〛


「そりゃ、勿論干ばつが終わるまでを……」


〚フンッ。俺はお前が賢い奴かと思っていたが見間違えだったようだな。お前はただの具骨者だ。いいか、干ばつの期間を甘く思うな。1週間や一月で済むと思うな。一年

いや……最悪数年と続く事もあるのだぞ。お前は創造神と豊穣神の頼みも蔑ろとして、その獣人に付きっきりに足場を固めるつもりか?〛


「うっ……。ですが」


 バルバラはギロリとした視線をミツへと向け、彼の口をつぐませる。


〘はいはい、落ちつきなさい〙


「シャロット様……」


〚フンッ、俺様は元から落ち着いておる〛


[もう、バルちゃんの告げ方は実りの子を興奮させるだけよ]


〘……。バルバラの言った通り、あんたが食料を渡し続ければ、確かに獣人の生き物は生き残るでしょうね〙


「なら……」


〘でも、それは獣人の為にもならないわ。それにそんな事をしたら、他国からは獣人はどう見られるかしら?〙


「……」


〘私は獣人に慈悲の気持ちを捨てろとは言わない。でも、あんたがやろうとしたそれはやり過ぎた行いになるわ〙


「はい……」


 シャロットの諭すような物言いにミツの返答は次第とか細く、頭を下げる事しかできなかった。

 シャロットは仕方ないと思いつつ、リティヴァール、ユイシスの視線を受け彼女はミツへと助言を出してくれる。

 その際もバルバラは目を閉じ、フンスと腕組みをしたまま喋ろうとはしない。


〘んー、なら、あんたが態々直接的に食料を与えるんじゃなくて、別の方法に間接的に獣人の国を救える方法を取るのは如何かしら〙


「別の方法……。それってなんですか」


〘そうね……。悪いけどリティヴァール、豊種の壺をこいつに渡して貰えるかしら〙


[ああ、なるほど。良いわよー。はい、実りの子。受け取りなさい]


 シャロットに言われポンッと一つ手を打つ豊穣神。

 彼女は以前見せたスティックを取り出し、ミツの前、ちゃぶ台の上にある物を出す。


「どうもです。……壺?」


〘見た目はただの壺に見えるかもしれないけど、それはリティヴァールの持つ神器の一つ【豊種の壺】〙


「豊種の壺……。えっ! 神器!? 神器って、いつもシャロット様が使われてますくじ箱(予知箱)と同じ神器ですか!?」


[まぁー、シャロットちゃんの言うとおり一応これも神器でしょうけど、これは私が園芸用に趣味で作った物だから、予知箱と比べるには少し劣るかしら]


〘それでもそれはリティヴァール自身が作った物よ。あんた、何でもいいから食べ物をアイテムボックスから出しなさい〙


「食べ物ですか? えーっと、じゃあ今日畑で取れた野菜で良いなら」


〘うん、それで良いわ。それをその豊種の壺の中に入れてみなさい〙


「はい」


 ミツは言われるがままにアイテムボックスからサツマイモを一つ取り出す。

 端っこを切り取りまた種芋にしようかと思っていたそのサツマイモを壺の中へと入れる。

 大きさは明らかに壺のほうが小さいのだが、ここで今更物理法則の云々を言っても切りがないだろう。


〘もう良いわよ。ほら、中身を出して良いわよ〙


 先程サツマイモを入れたばかりだと言うのにリティヴァールは中身を取り出せと告げてくる。

 何がしたいのか分からずも、ミツは言われるがままに豊種の壺の中身を覗き込む。


「えっ? は、はい……。 あれ? 先に入れたサツマイモが種になってます?」


 ゆっくりと壺の中を振ると中にはサラサラと何かこする様な音しか聞こえなかった。

 ミツが恐る恐るとちゃぶ台の上で壺をひっくり返すと、芋の代わりにザラザラと種が出てきた。


[豊種の壺は、入れた物の種を作り出す事ができるの。別の種も作って、その種を枯れた地面に植えて見なさい]


「わ、分かりました」


 本来、芋というものに種はないのだが、リティヴァールの豊種の壺は全てを種にしてしまう。

 その後壺の使い道、ローガディア王国の干ばつと飢餓に対する対策。

 ミツはシャロットの説明を聞き漏らす事の無いようにと全てを聞き入れる。

 直接ミツがローガディア王国へと食料を与える行いは、最初は良くとも後に国を滅ぼすかもしれない。 

 ならば如何するのか。 

 シャロットは簡単よと助言を出せば、彼はありがとうございますと深々と神々に頭を下げる。

 勿論口は悪いが厳しくも助言をくれたバルバラにも彼は感謝の気持ちは忘れない。


〘話はその後にまたしましょう。さて、今回もあんたのスキルが一定以上になった事だし、ご褒美を上げないとね〙


[私からは今回その豊種の壺がご褒美ってことでお願いね]


「はい。ありがとうございます」


〘ユイシス、箱を取って頂戴〙


《はい、ご主人様》


 ミツの気持ちも落ち着いたタイミングと、シャロットはいつものご褒美の話を持ち出す。


〘しかし随分と貯めたわね。私の予想以上にスキルを集めてるじゃない〙


「ははっ、つい楽しくなっちゃって。まー、ゴーストキング相手は少しイラッとしましたけど、分身が頑張ってくれたお陰で助かりました」


〘そう。上手く使ってるみたいね。さて……バルバラ〙


〚んっ? 何だ〛


 シャロットは対面に座るバルバラへと予知箱を差し出す。


〘1枚だけ、お前が引くことを許すわ。見習いとは言え、破壊神としてではなく、創造神としての導きを伝えたのは評価してあげる〙


〚……。フンッ。そうか、そうか……。ガッハハハハ! 当たり前ではないか。我はバルバラ、元破壊神であるが、今は創造神として絶対の神なのだからな!〛


 創造神としてはまだまだ見習いのバルバラ。

 シャロットからのその言葉は彼の心を向上させたのか、部屋の中ではバルバラの笑い声が響く。


〘分かった、分かったから早く引きなさい。熱苦しいわ〙


〚よしっ、小僧! 創造神の我の力をその目で見るが良い!〛


「は、はい。よろしくお願いします!」


 バルバラはちゃぶ台の上に置かれた予知箱の穴へと自身の大きな手をズボッと入れた。

 中身がどう言う原理でできているのか知らないが、丸太の様な腕の二の腕まで入っているのは不思議だ。


〚むむっ! これだ! 小僧、受け取れ!〛


 勢い良く引き抜いたバルバラの手には1枚の紙が握られている。

 それをユイシスが受け取り、読み上げる。


《バルバラ様より〈メギド〉を頂きました》


メギド

・種別:アクティブ。

神の怒りを表したと言われる、紅蓮の炎にて対象を燃やし尽くす。


「おおっ、ゲームとかで見た事ある火属性魔法のメギドだ! バルバラ様、ありがとうございます」


[ガッハハハ! うむ! 如何だ、小僧。これこそが我が創造神の力だ!]


〘何処が創造神としての力だ!〙


 部屋中に響く高笑いをするバルバラの顔面にシャロットのドロップキックが炸裂。


[ぐはっ!!!]


「バ、バルバラ様!」


 更に続けて倒れたバルバラの背後に馬乗り状態と乗り、シャロットはバルバラの首に腕を回し物理で怒りを見せる。


〘お前に1回分渡した自身が阿呆だったわ! バルバラ、未だに破壊神としての残痕が残ってるようだな!〙


[ま、待て! 我はこれを小僧にやりたくて渡した訳ではない。それに、その予知箱に出てくるものは、粗ランダムではないか]


〘莫迦者! 出てくるものが決まってなくとも、内容は引く者の力によるのだ! はぁ、前回リティヴァールもこやつに渡した物は、そりゃ豊穣神としての形を見せておったぞ。それに引き換えお前はなんだ。破壊衝動を抑えたまでで根本は破壊神のままではないか〙


〚まぁまぁ、シャロットちゃん、その辺で。バルちゃんからの贈り物にも実りの子も喜んでるみたいだし、良いじゃない。残りはちゃんとシャロットちゃんが彼にバルちゃんの見本となる彼の褒美を見せればいいのよ〛


〘まったく、リティヴァール、あんたは甘すぎる〙


[おっかねえ……]


〘何か言ったか〙


[いや、別に]


 ボソリと呟く言葉に反応したのか、シャロットのギロリとした眼光にそっと視線を外すバルバラ。

 バルバラはこの時、大切な事を忘れていた事が一つあった。

 それは以前、大神との対談時、バルバラはミツに対して破壊神としての力を与えてはならぬと釘を刺されていたのだ。

 シャロットはその事を敢えて口にはせず、一度改めてバルバラは大神から説教を食らうべきだと考えていた。

 リティヴァールはシャロットの考えが分かっていたのか、彼女も余計なことは言わないでおこうと口をつぐむだけである。

 ガサゴソと箱の中身を混ぜつつ、シャロットは引き抜いた手に握られた紙の内容へと一度視線を向け、考えるようにミツをチラリと見る。


〘んっ……〙


〚如何したの、シャロットちゃん?〛


[フンッ、その様子を見ると、どうせお前も我と同じ破壊系を引いたのだろう]


〘ちゃん言うな。なわけ無かろう、お前と一緒にするな。はい、ユイシス〙


《承りました。ご主人様より〈自然回路〉〈エイジング〉〈変幻〉を頂きました》


自然回路

・種別:アクティブ。

荒れた自然を元に戻す。


エイジング

・種別:アクティブ。

生物以外の時間を経過させる。


変幻

・種別:アクティブ。

対象の姿を変えることができる。


「えっ!? 三つも! シャロット様、ありがとうございます! でも、良いんですか? リティヴァール様からも、バルバラ様からも頂いてますが」


〘ええ、構わないわ。今回は随分と頑張ったみたいだからね。あんたがあの場に行かなかったらあの辺だけじゃなく、周囲の土地までも悪影響を受けてたでしょう。今回のスキルもあんたの役に立つと思うから、使い道を間違えないようにね〙


「はい。ありがとうございます」


 シャロットにとって、例えるならアンデッドは植物に寄生してしまうアブラムシやアカムシの様な存在なのだろう。

 それを害虫駆除ではないが、それに似た働きをしたミツに対してのお礼も今回のご褒美には含まれていたようだ。

 

 その後はもう一度ミツが今後どう動くべきなのかをシャロットを通してユイシスの助言を受けつつ、彼は差し出された茶菓子のシュークリームを食べてはベットへと戻る。

 教会のベットからムクリと起き上がる彼は、アイテムボックスから缶コーヒーを取り出す。

 

「うっ、夢の中とはいえ、三個は食べすぎたか……」


 実際に彼の胃の中にシュークリームが入ったわけではないのだが、食べた実感と満腹度は感じることができる。

 

 朝になり、昼前になる前とフロールス家へとゲートを開き足を向けるミツ。

 そこで待つのは昨日共にスタネット村へと向かったゼクス、ロキア、セルフィ、ミンミンとその護衛とは別に、ロキアの母であるパメラ、エマンダ、息子と娘のラルスとミアのダニエルを除く全員が準備万端とミツを待っている状態であった。

 そして、更にはセルヴェリンと彼らを護衛する数名のエルフすら同行する事を告げてきた。

 と言うか、どう見てもエルフ組は全員参加だ。

 共に行くのは構わないが、突然領主婦人の二人と他国の王族がゾロゾロと来たら、村に住むギーラたちが萎縮しないか心配だ。


 因みに女性陣は全員がいつものドレス服ではなく、乗馬をする様な動きやすい格好での衣服に着替えている。

 昨日はミンミンも動きやすい格好であったが、今日はなんとセルフィ同様に街で売っている庶民服に見える格好をしている。

 

「ようこそ領主婦人の奥方。遠路遥々この様な村にまで足をお向け頂き、誠にありがとうございます。細やかでございますが、皆様を歓迎致しますお食事などをご用意させて頂きます。また、我々が今季この冬を越します為の食事を是非ともご確認くださいませ。昨日、我々村の者を想い、そちらにいらっしゃいますロキア様の恩情にて多くの食料を村に頂けたこと、村の者を代表し、心より深くお礼申し上げさせて頂きます」


「頭をお上げなさい、村の村長。貴女の言葉、領主の代わりと確かに受け取りました」


「ははっ。改めて感謝いたします」


「あれれ? ゼクスさん、今日皆さんが来るのは予定に入れてたんですか?」


「はい。前日は奥様方は他貴族様とのお茶会のお約束がございましたので席を外されておりましたが、元々この村の視察には奥方のお二人は同行の意を向けておりました」


「ミア様とラルス様は?」


「ミア様は奥様のお言葉にて、ラルス様はご自身の意思にて本日足を向けられております」


「あー、納得」


「さて、本日我々は昨日の続きを行いますが、ミツさんもそうなされますか?」


「……」


「ミツさん?」


「ゼクスさん。実は、少しお願いがありまして」


「ホッホッホッ。貴方様から私に願いとは珍しいですね。分かりました、お話をお聞きいたしましょう」


「はい」


 ミツはユイシスから受けた話の一部をゼクスへと話す。

 まだローガディア王国の話はせずに、先ずはその下準備の話からである。

 ゼクスはその話を神妙に受け取り、コクリと彼は頷きを返してくれる。


「左様でございますか……。いえ、奥方様や村の皆様もご納得頂けると思いますので、どうぞ皆様へと、もう一度そのお話を聞いて頂きましょう」


 その言葉を受け、ミツは三人の元へとゼクスの後を付いていく。

 続いて領主婦人の二人とこの村のギーラの許可を貰わなければならない。


「パメラ様、エマンダ様、ギーラ村長。少しだけお話を宜しいでしょうか」


「あら、ミツさんが私達にお話とは如何なされましたか? それは昨日この村で行いました畑の検証をもう一度、私達にここでお見せ頂けるお話でしょうか?」


「エマンダ、貴女は少し落ちつきなさい。失礼しました。お話ですよね、どうぞおっしゃりください」


「視察官殿、お聞きいたします」


 昨日ミツが広げた畑の方を見ては既にウズウズとした気分のエマンダ。

 今日はその彼女を静止するために同行して来たパメラが少し呆れ気味に彼女を抑える。


 ギーラは領主婦人の前という事でいつもの呼び方は控え、ミツに対してはこの時だけを視察官と呼ぶことにした様だ。


「はい。早速で申し訳ございませんが、私、冒険者のミツ、この場の土地一帯、村の人々含む、全てをフロールス家から頂きたいと思います」


「えっ……?」

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