第147話 仲間のジョブ変更2(前半)

《経験により〈波斬りLv3〉〈剣の舞Lv2〉となりました》


 洞窟8階層。

 下の階層に行く前の最後のフロアで、ミノタウロスの群れを見つけたミツのパーティー。

 策戦は至って単純な策であるが、単純が故にモンスターの不意をつくことが成功していた。

 ミツ自身の持つ〈不意打ち〉のスキルのレベルがMAXなだけに、ミノタウロスは混乱の中、ミツと戦う状態となっていた。

 だが、彼の持つ忍術スキルの〈嵐刀〉は、ミノタウロスの持つ斧をまるでバターの様に切り裂く為に、戦いを挑んだミノタウロスは尽く両断されるか、首を飛ばされ、血しぶきを吹き出し、断末魔を出すことなく亡骸となっていく。

 ちょこまかと素早く動き、繰り出す攻撃は自身を一撃で殺しかねない斬撃の数々。

 ミノタウロスの感情が驚きから恐怖へと変わるにはそれ程の時間は必要とはしなかった。

 ミツの戦いを遠目で見ていた他のミノタウロスに恐怖が伝わり、その場から離れ、通路へと逃げ出そうとしたその時。

 通路に逃げ込んだミノタウロスは、待ち伏せていたバーバリ達の攻撃の餌食となっていく。


「今だ! 敵は戦意を落としているぞ! 進め!」


 バーバリの掛け声と、通路から飛び出す仲間達。リック達も戦闘を始めた事に、本格的な戦闘が始まった。

 

「よし、皆も出てきたね!」


 ミノタウロスを次々と倒していると、仲間たちが攻撃開始をミツが目視したその時、サポーターであるユイシスが朗報を伝えてくれる。


《ミツ。ファーストジョブ【アストロジャー】偽造職【ペドラー】サードジョブ【アポストル】のジョブレベルがMAXとなりました。ジョブを変更しますか?》

 

(来た! ユイシス、勿論変更で! でも、今はちょっと忙しいからユイシスのオススメをセットしといて。スキルは後で取るからよろしくね!)


《了解しました。では、ファーストジョブを〈イリュージョニスト〉セカンドジョブを〈タクティクスシャン〉サードジョブを〈クルセイダー〉といたします》


(オッケー! 問題なし!)


 ユイシスが選んでくれたジョブは、幻術が得意な【イリュージョニスト】。

 戦略や指揮を得意とする軍師の【タクティクスシャン】。

 そして最後に選んだのは、冒険者ギルドに居るエンリエッタと同じ【クルセイダー】であった。

 ジョブを変えた瞬間、ステータスがまた上がったのだろう。

 攻撃の練度、足の機敏性。

 戦いが先程よりも動ける状態になっていた。

 

「えーっと、リッケはっと……。居た」


「たあ! はぁ……はぁ……はぁ……」


「小僧! 手を休めるな! 貴様が一体に手こずる間と、他の者はその倍は敵を倒しておるぞ!」


「は、はい!」


「バーバリさんが側にいてくれてるのか……。周りのミノタウロスを少し弱らせておくかな」


 ミツは一度リッケの居る方へと足を向ける。

 彼が一歩歩くだけで、ミツを囲んでいたミノタウロスは目標を突然見失い、新たな空きを生む。

 その瞬間を狙ってか、セルフィ、リッコ、ミーシャの魔法が、呆然と立ち尽くすミノタウロスへと、次々と魔法を降り注がせる。


「リッケ、敵を少し弱らせておくから、敵の空きを付いて攻撃を仕掛けて」


「ミ、ミツ君!? は、はい!」


「行くよ!」


 ミツは嵐刀を解除し〈マジックアーム〉にて先の鋭い水の槍を作り出す。

 〈二段突き〉を繰り出し、ミノタウロスの関節を狙って次々と突き刺す。

 関節を攻撃され、ミノタウロスは手に持つ斧を落とした。

 武器である槍と相性の良いスキルの〈刺す〉それと〈出血〉が次々とミノタウロスの足を狙い、ミノタウロスの足を崩す。

 

《経験により〈ニ段突きLv4〉となりました》


「リッケ!」


「はい!」


 ミツのサポートを貰いつつ、リッケは次々とミノタウロスを自身の手にて討伐していくことができていった。

 先程まで側に付いていたバーバリがいつの間にか後方へと下がり、ゼクスの側で呆れながら口を開く。


「末恐ろしい者だ。ゼクス……貴様、本当にあの者を手元に置く気は無いのか? 歳もまだ姫様と変わらぬ幼き歳。今の内に配下にしておけば、貴様の主人は誰も手にすることもできぬ力を手にしようて」


 バーバリの言葉は、ミツの様な規格外な人物を自身の管理下におかず、そのまま野放し状態にしているゼクスへの忠告でもあった。


「バーバリさん……。ミツさん、彼はまだ若い……。若すぎるのですよ……。あの歳では、世界の素晴らしさ、また、汚れをまだ一握りも見てはおりますまい。我々大人の欲望のまま、若い鳥を籠に入れる真似など、フロールス家は望んではおりませぬ。暖かな春を鳴き声で教え、危険な嵐を遮る羽を羽ばたかせて頂くだけで十分なのです。私がローガディア王の誘いを伏せたのもそれと同じ事。彼には、彼が止まるべき木を探すまでは、美しく飛び続けて頂きたいのですよ」


「ゼクス、お前はそれで良いのか……。鳥は高く飛びすぎると、二度と手元には戻らんぞ。更には、その鳥が美しく羽ばたくならば、羽を引きちぎる事を考える様な、あさましき者など次々と現れようて……」


「ホッホッホッ。それもまた人生。人の縁と言うものでございます……。更に申し上げますなら、あの若い鳥を飼い慣らすには、大空を籠とする器の持ち主でなければ不可能でしょうね」


「フンッ。甘えた考えは昔から変わらん奴め」


 あくまでもミツと友好的な関係は繋いだとしても、ゼクスはミツを縛るつもりは1ミリも考えを持ってはいなかった。

 ゼクスの言葉にバーバリ自身、鎖程度で猛獣を縛ったとしても、決して手懐ける事はできない事は内心わかっていたのだ。

 お互いの考えが少し理解できたのか、微苦笑を浮かべるバーバリといつもの笑いをこぼすゼクスであった。

 そこに戦いの疲れに額に少し汗を流したセルフィが声をかける。


「ちょっとゼクス、バーバリ様。若鳥の事でピーチクパーチク議論するのは戦闘後にしてもらえるかしら? 少年君達が頑張りすぎて二人が暇なのは分かるけどね。乙女の壁になって戦う考えは大の大人二人には出ないのかしらね!?」


「ホッホッホッ。これはこれは。大変失礼しました」


「セルフィ殿の言う事も確か」


「だったら働け!」


 セルフィの言葉に動き出すゼクスとバーバリ。二人はリックとプルンと前衛を代わり、後方へとミノタウロスが流れない戦いを繰り広げる。しかし、二人が前に立つと今度はリックとプルンが手持ち無沙汰状態。

 この場の戦闘に手持ち無沙汰な事は大変勿体無い行動なので、ミツはリックとプルンを呼び、リッケと三人でミノタウロスの討伐をやらせることにした。

 普通ならば、まだアイアンにもなっていない冒険者がミノタウロスと戦う事などありえない話なのだが、三人にはミツの支援であるおまじない、それと演奏スキル、そしてトドメとばかりにミツのパッシブスキル〈絆の力〉が発動している。

 〈絆の力〉効果は、パーティーメンバの数に応じてステータスの向上である。

 重なったスキル効果は、プルンが例えミノタウロスと拳同士を激しくぶつけたとしても、ミノタウロスの拳の骨を砕く力を彼女は出すだろう。

 よくよく考えると、そのプルンの拳を先程ミツは腹部に食らっているのだから、実際は洒落にならない話である。


 そして、一時間近く戦い続けた結果、リッケは目標とするモンスターの数以上の討伐を達成することができた。

 念の為と、ミツは10体分追加で彼に討伐させているが、もう無我夢中と戦っているリッケには数を数える余裕は無くなっているだろう。

 同じく、リッケが討伐数を達成したと言うことは、彼の【ソードマン】のジョブレベルはMAX。

 兄であるリックの【ファランクス】。

 妹であるリッコの【ヴァルキリー】。

 最後にプルンの【シーフ】。

 彼らのジョブも、多くのミノタウロスを討伐したことにレベルMAXに達していた。

 ローゼとミーシャのジョブレベルは残念ながらまだ7だが、次のジョブまで先の長い話ではない。

 と言うか、二人の成長がこれなのだから、ミツが先程変えたばかりのジョブも、実は既に大手をかけた状態なのだ。鬼牛、経験ウマーであった。


 周囲にはミノタウロスの血肉や死臭、また肉の焼けた匂いで鼻がおかしくなりそうだが、もう今の彼らに場所を選んで休む余裕はなかったようだ。

 流石に一時間近く戦い続けた事に疲れたのか、その場に座り込もうとする。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「やっと終わったわね……」


「お疲れ様です皆様。しかし、ここはまだ戦場の場。ゆっくりと腰を下ろすことは憚れます。お苦しい状態なのはご理解いたしますが、地面に腰を落として休むのはお控え頂きましょう」


「左様。ゼクスの言うとおりだ。またいつ牛鬼共が来るかもしれぬ。息を整えたなら直ぐに立て」


 歴代の冒険者と剣豪の二人の厳しい言葉が激としてその場に響く。

 リックは一度俯き、ガリッと奥歯を噛み締めながら足に力を入れる。


「くっ……。お前ら、立て! ゼクスさん達の言う事が正しい。休むなら後でもできる」


「うっ〜。ウチ、大の字で床に倒れたいニャ〜」


「止めときなさい、プルン……。今この地面でそれをやったら、髪も服も悲惨なことになるわよ」


 確かに、リッコの言うとおり今のこの場はミノタウロスの血があちらこちらに血溜りを作り、皆の靴裏が真っ赤に染まるほどである。

 完全に腰を落とすこともできないので、お互いを支えつつ立っている状態でもあった。


「にしても……。彼、元気ね……」


「フフッ。ローゼ。タフな男性は私は好きよ」


「はぁ……。ミーシャ……。悪いけど、もう疲れてツッコむ気にもならないわ」


 ミーシャの視線の先には、休む事もせずに黙々と倒したミノタウロスの素材を集めるミツの姿。


「よし……これで最後っと。ふ〜っ、100は軽く超えたな……」


「お疲れ、少年君」


「セルフィ様。セルフィ様もお疲れ様です。それと、皆のサポートもありがとうございました」


「んっ? いいのよ。私は気分転換に君たちの戦いに付き合ってるんだから。ところで、紫の魔石かカセキは落ちてなかったかしら? これだけの牛鬼の数、もしかしてと思ったんだけど……」


「はい、自分もそれを思って探してみたのですが、残念ながら魔石もカセキも見つかりませんでした」


「そう……。たまたま溜まってただけかしら……。まあ、いいわ。見つけたら直ぐに教えて頂戴」


「分かりました。皆、そこの通路通ったら直ぐに下に降りる道だから、休むならそこで少し休もうか?」


「た、助かるぜ」


「賛成ニャ〜」


 ミツの言葉にまるでゾンビの様にトボトボと移動を始めるプルン達。

 下の階層に進む道を前にして、ぐ〜っと大きくお腹を鳴らすプルン。


「うっ〜。動きすぎてお腹空いたニャ〜」


「プルン、我慢しなさいよ。こんなところでご飯食べて休める訳ないじゃない」


「ムムッ……。それくらいウチも分かってるニャ。でも、この状態で下に下りるのは危険だと思うニャ……」


 リッコの言葉に眉を寄せるプルン。

 何が危険なのかよく分からない彼女の発言は、お腹が空きすぎて本人でも良くわかっていない発言なのだろう。

 しかし、よくよくと考えると疲労と空腹が重なった状態で戦うのは危険なのかと思うミツは、皆の状態を考えると一度戻るべきなのかと検討する。

 だが、そこにゼクスの思わぬ発言が皆を驚かせる。


「では、ここで少し休憩といたしますか?」


「えっ!? で、でもゼクス様。ここはセーフエリアじゃないですよ!? こんなところで休んでたら、モンスターが襲ってくるんじゃ……」


「ホッホッホッ。いえ、リッコさん。それは違いますぞ。皆様がおっしゃられているセーフエリアは2階、4階、6階、8階だけと言うのは誤認でございます。実は下に降りる前のフロア。もしくは下りたフロアのどちらかはセーフエリアでございます」


「「「えっ!?」」」


「先程申し上げました階層のセーフエリアには、外の出口に繋がる転移の扉がございます。

冒険者の皆様は、近くにそれがあるからこそ、その場で休息を取ります。本来なら、3階、5階、7階、9階にも、体を休める空間はあるのです。ですが、長年その場で休む事が当たり前となり、定着してしまったのでしょう。皆様もモンスターとの戦闘が一度もなかったフロアに、心当たりがあるのでは無いでしょうか? この8階層はとても広い。その為か、8階層に入って直ぐのフロアとこの場所。二ヶ所がセーフエリアでございます。この場が使われない理由として、戻れば転移の扉がある事でしょう」


「へ〜。知らなかった……。親父達も言わなかったと言うことは、二人も知らなかったかもな」


「そうですね。帰ったら父さんと母さんに教えて驚かせましょう」


「リック、リッケ。意外と親御さん二人は知ってたんじゃないかな?」


「「えっ?」」


「ホッホッホッ。隠れた親心にございますな」


「「……」」


 ミツの予想通りと、二人の両親であるベルガーとナシルはそのことを知っていた。

 なら何故その事を息子達に言わなかったのか?

 それはゼクスの言うとおり、子を思う親心からそれは来ていた。

 人の居るセーフエリアと、誰も居ないセーフエリアでは、どちらが危険が少ないかは誰でも分かること。

 しかし、初めて試しの洞窟に挑むとなるなら、知らず知らずと誤った選択をしてしまうかもしれない。

 リックとリッケは顔を見合わせ、やられたと思うも、やれやれと肩を上げるしかできなかった。

 この場がセーフエリアだと仲間達は理解すると腰を下ろし、横になって休む者も出てくる。

 ならば休息を取りつつ、ミツは四人へとジョブを変更することを促した。


「さてと……。リック、リッケ、リッコ、プルン。四人とも良いかな?」


「んっ? 何だ……。!?」


「「!?」」


「ミツ君……もしかして!」


 ミツがアイテムボックスから森羅の鏡を取り出したことに、横になっていたリックはガバッと起き上がり、談笑をしていたリッコ達が目を見開きこちらを向く。

 驚きにミツに質問をするリッケは、恐る恐ると声をかけてきた。


「うん、おめでとう。四人ともジョブのレベルがMAXになってるよ。これを使ってジョブを変えようか」


「おっしゃー! やったぜ!」


「早かったわね……。でも、今までで一番戦った数日だったわ……」


「やったニャ! 皆、頑張ったニャ!」


 拳を作り、ガッツポーズを決めるリック。

 はしゃぐような素振りは見せないようにしているが、リッコの頬が嬉しさをこらえ切れずヒクヒクと動いている。

 プルンは自身だけではなく、仲間たちと共にやり遂げた事に彼女は手放しに喜びに声を上げる。

 だが、ただ一人。顔をうつむかせるリッケ。


「……」


「如何したのリッケ?」


「い、いえ……。嬉しいんですけど……その。まだ実感が無くて……。僕がまだクレリックの時は二年間はかかりましたから。何だか、それを思うと……。ははっ」


 確かに、それを言ったらリッケは前衛としての経験は支援をしていた時と比べると日も浅い。それでも彼は目に見えて努力し、前衛としての戦いの経験を積んでいる。

 だからこそ、この後リッケがジョブを変えるのは、彼のその努力の結果なのだから。

 モンスターの恐怖に怯え、握る剣先が相手に向けられていたかもしれない。

 怒声と激を飛ばす周りの声が怖く、涙を流したかもしれない。

 だがそれでも彼は剣を捨てる事なく、また甘えて弱音を吐き、以前やっていた支援職に戻る事を口には出さず、彼はやりきることができた。

 ミツはそんなリッケの気持ちもわかると、笑みを彼へと送る。


「ミツ、早速借りるぞ!」


「ちょっとリック! あんたまた先に使うつもりなの!? レディーファーストって言葉覚えなさいよね!」


「前と同じ順番でもいいだろうが!? それにそんな言葉は俺は覚える気もねえ!」


「はいはい、言い争う時間が勿体無いからね〜。リックの言うとおり、前に使った順番で使い回してね」


「ぐぬぬ……。ミツがそう言うなら……」


「へへっ。じゃ、使わせてもらうぜ」


 リックが一番のりと、ミツから森羅の鏡を受け取り使い出す。

 テレビのチャンネル争いのようにまた兄妹喧嘩が起きそうだったので、以前使用した順番にジョブを変えてもらうことにした。

 かごめかごめとリックを中心とし、周りに人が集まる。

 リックが森羅の鏡を覗き込むと鏡の表面からは虹の靄が現れ、ユラユラと文字を作り出していく。

 リックのジョブの一覧が文字となって表面に映し出された。


「おっ! おおっ! おおおっ!!」


「リック、五月蝿いわよ!」


「おい、皆、見てみろよ! 出てるぜ! 前には無かった、このカタフラクトって奴がよ! ミツ、これがお前の言ってた強えジョブだよな!?」


 興奮気味にリックが指を指す先には、カタフラクトと虹色の文字が表記されている。

 ユイシスに間違いないか確認を取ったのち、彼の言葉を肯定する。

 

「うん。おめでとうリック。間違いなく、これが上位ジョブのカタフラクトだよ」


「「……」」


 二人の会話を驚きと訝しげに、更に警戒しながら耳に入れるバーバリとセルフィ。

 二人のその雰囲気をゼクスは気づいてはいたが、楽しそうに話すリックとミツの二人の若者に水を指す訳にもいかないと口を挟むことをしなかった。


「よしっ! じゃあ早速俺はこれになるぜ!」


「なになに〜。えーっと……」


 リックを少し押しのけ、リッコが森羅の鏡を覗き込む。


「おい、リッコ……。女が男のスキルを覗き込む行為は恥ずかしくないのかよ」


「えっ? 別に? それよりリック。私達が見えないでしょ。少し鏡から離れなさいよ」


「なっ!? こ、こいつ……」


「まあまあ……」


 先程ローゼが森羅の鏡を使用中、リックがのぞき込んだことに注意されたことを彼は妹に言いたいのだろう。

 だが、男であり兄であるリックに対して、妹が気にすることは全く無かった。

 少し青筋を立てるリックだが、そこは仲裁役であるリッケが間に入るいつもの流れだった。


「えーっと、表示されてるスキルは……〈インフィニティストライク〉〈トゥルースピア〉〈城壁〉〈仁王立ち〉〈絆たる守り〉〈守備力増加〉〈攻撃耐性〉〈魔術耐性〉だね……。うん、流石上位ジョブ。強そうなスキルが並んでる(まぁ……名前だけじゃ何のスキルかイメージつかない物もあるけど)」


 ユイシスにスキルの説明をしてもらう。

 まず〈インフィニティストライク〉は槍の攻撃スキルであり、かなり強いスキルであること。

 〈トゥルースピア〉は槍の攻撃力を増加させる補助スキル。

 〈城壁〉は魔力で作り出した光の壁を作り出す。

 〈仁王立ち〉は守るべき者がいる状態であれば、自身の守る者には敵の攻撃の被害を及ぼさない。

 しかし、受ける本人は動くことができなくなるので捨て身状態となってしまう。

 これを使い守られた人には、リックへとピッコ○さんと叫んでほしいものだ。

 〈絆たる守り〉は仲間の受けたダメージを代わりに自身が全てを引き受けると言う、完全に変わり身になるスキル。

 残りの耐性スキルは文字通り、ミツが取得したスキルと一致している物もあるし、名前で分かるので説明は省く。


「それで? あんたはどれを選ぶの?」


「あ〜。そうだな……」


 リックが森羅の鏡を見つつ、チラチラとミツへと視線を送る。

 どのスキルが自身に相応しいのかを助言が欲しいのだろう。

 そんなリックの態度に、ミツはくすりとほくそ笑む。


「フッ……はいはい。えーっと、上からスキルの説明をするよ」


「おう! サンキュー」


 ミツの言葉にニカッと笑みを見せるリック。

 その笑みは男であるミツにではなく、女の子に向けてあげなさい。

 スキルを一つ一つ説明し終わると、リッコが〈城壁〉のスキルに対して疑問を持つ。

 それは発動には使用者の魔力が必要な事。

 妹のリッコからみたら、いつも槍や盾を持ってモンスターと戦うリックに、魔力があるとは思えないのだろう。

 だが彼も【ノービス】【ランサー】【ファランクス】と三つのジョブをLvMAXにしている。

 ジョブを極めたときに得ることができるステータスで、リックにも魔力=MPが増えているのだ。


「魔力って……リックあるの?」


「うん。リックも強くなってるからね。流石にリッコやリッケほどは魔力は持ってないけど〈城壁〉のスキルを使う魔力を持ってるよ」


「ふ〜ん……。あんたそんな事も分かるのね?」


「ま、まあね……」


「はぁ……。まあいいわ。リック、そろそろ決めた?」


「ああ! 決めたぜ! これとこれ、それとこれとこれな!」


 これこれと指を指し、言葉を並べているリックが選んだスキルは〈インフィニティストライク〉から〈城壁〉〈絆たる守り〉〈攻撃耐性〉〈魔力耐性〉この五つである。

 ちなみに【カタフラクト】の限定スキルはリックが選んだ〈城壁〉であった。


「よっしゃ! 早速試してみるか」

 

 使用が終わった森羅の鏡をミツへと返したリックは、ショートランスを手に取り少し離れた岩場へと槍先を向ける。


「おっ……」


「見てください。リックの持つ槍先が、青く光ってますよ」


 リッケの言葉にリックの手に持つ槍先に視線が集まる。

 薄っすらと青く光っていたその輝きは、時間を置けば色は濃くまるで槍先を包む炎に見えてくる。


「大丈夫、リック?」


「ああ……。大丈夫だ……。よし! お前ら行くぞ! おりゃ!」


 リックが掛け声を上げ、まるで槍投げの様にリックは手に持つ槍を勢い良く振る。

 振った槍先からは先程の青い光が飛び出し、壁に向かった。

 そう。振る前の槍先は間違いなく岩に向けられていたが、狙いが逸れてしまったのだろう。

 リッコの下手くそと言う言葉が聞こえたと同時に壁にぶつかる光。

 その瞬間、衝撃に壁は凹み、ガラガラと壁の岩を崩していく。

 まだ使い慣れていないスキルであり、レベルも低い。

 それを考えると、それでも威力としては十分な攻撃スキルであった。

 接近戦のパーティーのガーディアン役のリックに、遠距離の攻撃スキルが追加されたのだ。


 次にジョブを変えるのはリッコである。

 ミツから鏡を受け取ったリッコは、自身のジョブがどうなったのかワクワクと楽しみに森羅の鏡を覗き込む。


「見えてきたわよ」


「ニャ!? す、凄いニャ! リッコ、前よりジョブが増えて出てるニャ!」


 以前森羅の鏡を使用したとき、リッコのジョブの候補、その時は【クレリック】【ハイウィザード】【アーチャー】【サマナー】【ブレイズナイト】【ヴァルキリー】の六つが表示されていた。

 だが、今の彼女のジョブ候補はなんと十。

 新しく【フレイア】【シャーマン】【ソードマン】【モンク】【アマゾネス】。

 前衛のジョブ候補が増えた事に、彼女が強くなる為の幅がさらに広がる。


「フフン。どうよ、これが私の実力ってことよ。……ちょっと、何でそんなに離れてるのよ? こっちに来てミツも見なさいよ」


「えっ? 自分が見てもいいの?」


「あったりまえでしょ。間違って選択したらミツのせいだからね」


「そ、そうだね……」


 彼女が使用している森羅の鏡を考えなしと覗き込むと、リックの様にいらぬ注意を受けるかもしれないと思っていたミツは、少し彼女と距離を取っていたのだ。

 そんな気遣いは不要だったのか、リッコは近づくミツの腕を引き、隣に座らせては鏡を見せる。


「ねえ、ミツ。私はこのフレイアになれば、今よりも強くなれるのよね!?」


「うん。このジョブはリッコの様に高い魔力が無いとなれないジョブだからね。きっと凄い魔法が使えるようになるんじゃないかな?」


「フフッ。なら決まりね」


「他に増えたジョブは見なくていいのかニャ?」


「いいのいいの。元々これになるためにヴァルキリーをやってたんですもの」


 リッコはさっそくとジョブを変えるため【フレイア】を選択する。

 選択されたフレイアの虹色の項目が、先程と同じ様に、覚えるスキルへと形を変えていく。

 項目の一覧には〈マグナム〉〈ストーム〉〈グラビティ〉〈ファンネル〉〈魔力増加Ⅲ〉〈精霊の呼び声〉〈爆豪火炎〉〈雷鳴豪華〉の八つのスキルである。

 リッコは数多く表示されたスキルに目を爛々とさせつつ、ミツヘとスキルの説明を求める。

 と言ってもミツの知らない物ばかりだけに、彼もユイシスに説明を求めているのだが。


 ユイシスのスキル説明を聞きつつ、ミツはリッコへとスキルの説明をしていく。

 〈マグナム〉は自身の使用できる魔法を玉とし、相手にぶつけるスキル。

 これはピストルなどイメージが無いと、威力はイメージしにくいスキルかもしれない。

 なのでミツは足元に落ちている石を拾い上げ〈投擲〉スキルで壁に勢い強く当てる。

 それを見せ、リッコへと〈マグナム〉のイメージをつけさせた。

 次に〈ストーム〉である。

 これは自身の使用できる魔法属性の竜巻を起こす事ができるそうだ。

 今のリッコなら、火、雷、土の三種類のストームが出せるだろう。

 〈グラビティ〉は重力魔法。

 〈ファンネル〉であるが、これも自身の使用できる魔法属性が関係する魔法である。

 発動すればスキルレベルに応じて魔法の球体を自身の周囲に出すことができ、それを意思のまま動かし的にぶつける攻撃魔法だそうだ。

 〈魔力増加Ⅲ〉は魔力とMPの増加。

 〈精霊の呼び声〉は精霊と言う名は付いているが、実際は自身に似せた姿をを呼び出し、共に戦ってくれる仲間を作り出す魔法である。

 ミツの〈分身〉スキルと似ているが、これはそれ程自由に動ける意思を持つわけでもない。

 〈爆豪火炎〉は〈ファイヤーボール〉の最上級魔法。

 〈雷鳴豪華〉は〈ライトニング〉の最上級魔法。

  ミツには一つ一つのスキルが魅力的に見え、自身が女性限定である【フレイア】になれないのが悔やむ程であった。


「凄いわね……」


「リッコ、どれにするニャ?」


「リッコちゃんはやっぱり魔法攻撃を増やすんでしょ? でも、殆どが攻撃魔法よねこれ」


「広範囲魔法はこの〈ストーム〉って奴だけね。下手にこう言うのを取るより、単体魔法に力を入れたほうが戦略も立てやすいんじゃないかしら?」


 リッコが選ぶスキルを見て、周りの面々が意見を出し合う。

 セルフィのアドバイスを聞き入れつつ、リッコが選んだ五つのスキルは〈ファンネル〉〈魔力増加Ⅲ〉〈精霊の呼び声〉〈爆豪火炎〉〈雷鳴豪華〉であった。

 また一人と上位のジョブに変わった事に、目の前で繰り広げられる光景に更にバーバリの目が険しくなっていく。

 リッコは試し撃ちと、壁に向かって〈雷鳴豪華〉を発動する。


「えっ!?」


「伏せなさい!」


 ドッカーン!


 リッコの〈雷鳴豪華〉のスキルが発動と同時に、正に目の前に落雷が落ちたと思わせる光がフロアを輝かせ、轟音が瞬時にフロアを響かせる。

 セルフィの言葉に瞬時に身を伏せる面々と、妹を守る為と盾を前に突き出し、壁から帰ってくる衝撃にリッコを守り耐えるリックであった。


「ぐっ!」


「きゃー!」


 パラパラと土埃が降り注ぎ、煙が晴れた後に皆が見たのは、リッコの〈雷鳴豪華〉で大穴を開けた壁であった。

 ミツのスキルで底上げされたリッコの魔法は、周囲の人々を驚きに目を見開かせるには、それは十分な威力を証明した。

 

「リッコ、ここでもう一つの爆豪火炎の魔法は使わないでね……」


「う、うん……ごめんなさい……」


 本人も驚く上位【フレイア】の強さ。

 しかし、このジョブの強さは〈爆豪火炎〉や〈雷鳴豪華〉だけではない。

 【フレイア】の限定スキルは〈精霊の呼び声〉である。

 このスキルを発動後には、リッコは魔術士として上位者と噂される人物となる。 


 次にプルンの番である。

 彼女には【モンク】を極めた後に【シーフ】になってもらった。

 理由としては、プルンはジョブを極めても、魔力=MPが増加しないのだ。

 その為に彼女がなれる上位ジョブも数少なく、唯一選べたのが【アドベンチャラー】であった。

 だが、この選択がプルンにとって、彼女の人生を決める大きなジョブでもあった。


「出てきたニャ!」


「うん。おめでとうプルン。ちゃんとアドベンチャラーが項目に出てるね」


「ニャハ!」


 満面の笑みに、森羅の鏡に出てきた【アドベンチャラー】の項目に笑うプルン。

 他にも【アーチャー】や【アマゾネス】などの項目も増えてはいるが、やはり彼女にとって、目的であったジョブが表示されたことが一番の喜びであろう。

 プルンは早速と【アドベンチャラー】のジョブの項目を選択。

 ユラユラと動く虹の靄がスキルの文字に変わると、プルン本人だけではなく、その場の皆が驚くスキルがそこには表示されていた。


「ニャニャ!? こ、これは!」


「おおっ! プルン、やったじゃねえか! お前にとって当たりも当たり。大当たりのスキルじゃねえかよ」


「ホッホッホッ。これはこれは……。おめでとうございますプルンさん。冒険者として、いえ……このスキルは、多種多様の者が喉から手が出る程のスキルですぞ」


「戦闘スキルや魔法も大切だけど、ミツ君を見てるとやっぱりこのスキルは便利だと思うわ」


「パーティーメンバーに一人でもこのスキル持ちが居れば、冒険の活動もぐっと広がると父さんも言ってました」


「元々戦闘はできるプルンだもの。下手に他のスキル取るより、このサポートスキルは最優先で取るべきね」


 プルンの驚きの言葉に続き【アドベンチャラー】のスキル項目に皆が手放しにそのスキルをオススメとして彼女を押す。


「ニャ……。ミツ、これ……。ウチがこれを選んだら、本当に使えるようになるニャ……」


「うん、勿論だよ。おめでとうプルン〈アイテムボックス〉のスキルが出てるね」


「ニャ! やったニャー!!!」


 そう【アドベンチャラー】のスキル項目の中に、希少価値の高いスキル〈アイテムボックス〉の項目があったのだ。

 プルンは両手に持った森羅の鏡を高く持ち上げ、喜びに声を出す。

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