第138話 推理合戦
「あの、セルフィ様。紫って何の属性なんですか?」
「へっ?」
表情一つ変えずに返答を返すミツ。
貴族の女性では出さないような声を、彼女は出してしまう。
「失礼ですが、自分が知っている魔石は火属性の茜色、水属性の空色ですね」
ミツはセルフィに向けて指を2本立て、ピースと彼女へ見せる。
「そ、そうなの……。なら、他にも作れたりしない?」
「セルフィ……。あまり、そう問う言葉ばかりでは、相手に失礼ですよ」
「はあ……。パメラ様、これは必要なことですよ。今は貴婦人の慎みよりも、彼に聞けることは聞くべきだと私は思います」
「……」
「……」
パメラの言葉に、いつもおちゃらけた返答を返すセルフィとは違い、言葉は静かに、だがとても重い雰囲気を彼女は出している。
互いに譲らないのか、二人の間にピリッとした空気が流れる気を感じた。
「あ、あの。確かに色々な魔石が作れるって教わってます。ただ単に自分が作ったことないだけなのかもしれません」
その場を宥めるように言葉をミツが入れると、二人の視線はミツに向けられる。
「……なら、少年君。君の作れる魔石を全部見せてもらってもいいかな?」
「セルフィ……」
「解りました。でも、魔石を作るには魔力を多く使いますので……」
「なら、私の回復薬を譲ってあげる。私の特性回復薬だから効果はバツグンよ!」
セルフィは腰に携えていたポーチの中から一つの小瓶を取り出す。
ミツが以前ギーラから貰った青ポーションとは違い、それは青を通り越して紺色と言える程に色が濃ゆく、瓶の中をゆらゆらと液体が揺れ動いている。
「えっ……。それ、セルフィ様が作ったんですか……」
「えって何よ! えって」
「いや、その。お気持ちはありがたく受け取らせていただきます。ですが、魔石を作る際はもう一人の自分に魔石を作ってもらいますので……。なので、その良くわからない色の回復薬をしまってください」
セルフィはプーっと唇を尖らせつつ、小瓶をポーチへとしまう。
会話の内容に、ミツがもう一人の自分と言うよく分からない言葉を彼女は聞き返す。
「もう一人の自分?」
「ミツ君、それはどう言う意味なのかね?」
「はい。失礼します」
ミツは席を立ち上がることに言葉を入れ、周囲に何もない場所へと立つ。
皆の視線を受けつつ、ミツはスキルの〈影分身〉を発動する。
ミツの足元の影が突如動き出し、人の形へと変わっていく。
容姿全てを似せた分身がミツの隣に立つと、皆は目を見開き言葉を失った。
「「「「!!!」」」」
「ご覧の通り、スキルでもう一人の自分を出して彼に魔石を作ってもらいます。彼の能力は自分とまったく同じ。魔力もその時出した自分の状態と同じになりますので、今の彼なら検証の為の魔石を作り出すことができます。じゃ、取り敢えず作れるだけ作ってもらえるかな?」
ミツが隣に立つ分身へと声をかけると、分身はニカッと笑みを見せ返事を返す。
「おっしゃ、ええで。ワテに任せときや! それよりもや、あの人達大丈夫かいな? ワテが出てから、ひとっことも喋ってへんやん。完全に鳩が豆鉄砲食らった様なしょうもない面しとるやん」
(えっ……関西弁?)
ミツが元いた日本では、彼の出身は九州なので関西弁は使わない。
テレビとかで大阪のお笑い番組は見た事はあるが、自身の容姿そのままの自分が関西弁を喋り出したことにミツは軽く目を見開く。
フッとミツが視線を横に向けると、未だに驚きに顔がフリーズした面々がこちらを見ている。
「ダニエル様? 皆さん、大丈夫ですか?」
「……フッ。ハハハハッ。これは愉快、本当に君は我々を驚かせる名人だな」
「失礼しました。思わぬ事ゆえ、私とあろうことが……」
「流石にこれは驚くわ」
ダニエルは自身の足をパシパシと叩きながら笑い出す。
パメラ、セルフィはダニエルの言葉にハッと我を戻したかのようにお互いに顔合わせていた。
だが、一人だけ。
エマンダは目を爛々とさせ、好奇心に身震いさせつつ質問をしてくる。
「ミツさん。先程、そちらのお方は貴方様と同じ力を持つとおっしゃられましたね。それは力……つまりは、ミツさんの能力全てでしょうか?」
少し椅子から身を上げつつ、質問してくるエマンダ。
ミツがそんな彼女の態度に苦笑いを浮かべていたが、隣の分身はその質問にすぐに答えを返す。
「せやで! こいつとワテは一心同体。こいつが出せるなら、勿論ワテかて凄い魔法をババーンッとだしたるさかい。奥さんも楽しみにしときいや」
「奥さん……。は、はあ……」
「!? す、すみません! エマンダ様。出した分身は、どうしても性格だけが様々に出てきてしまい。いや、この性格は初めて出したので自分も驚いてまして!」
「コラコラ、そんな冷たいな〜。折角出てきてやったのに、そんな酷い言われようやで」
「いいから。もういいから。お願いだから早く魔石作って!」
「お、おお……。せっかちなやっちゃやな」
ミツがエマンダへと何度も頭を下げ、分身の言動に謝罪を入れている間と、分身はミツから受け取ったカセキの入った麻袋からカセキを取り出す。
一つ、また一つとカセキへと魔力を送り魔石を作り見せていく。
「ほいっ。先ずは火の魔石な。次は……ほれ、水の魔石っと」
分身が握ったカセキが色を付けた魔石へと変わっていく。
まるで手品を初めて見せられた子供のように、セルフィは自身でも信じられないのだろう。口元を抑え視線が分身と魔石を行ったり来たり。
「嘘……」
「いや、嘘って。お姉ちゃんの目の前でやってんやから、これが嘘なわけあらへんがな」
「んっ……。少年君、他にも作ってもらえる?」
「ええで」
分身はセルフィの希望と、ミツが作ったことの無い魔石を次々と作り出していく。
茶色の土の魔石。
黄色に光る雷の魔石。
カセキに少し色を入れた様な透明な氷の魔石。
漆黒と思わせる闇の魔石。
分身は自身の使える魔法の属性をイメージし、魔石を作り出していく。
机の上に作り出した魔石を並べていく分身。
どれもサイズは不揃い。だが、それよりも周囲が気になるのは、自身が今までに見たことの無い魔石を目の前に見せられたことであろう。
「こ、これは……」
「これがミツ様がお作りになられた魔石。この様な魔石があるとは……。エマンダ……」
パメラがエマンダへと声をかけるが、その声は彼女にはもう聞こえてはいないだろう。
少しだけ震えた声を出しつつ、彼女は目の前に出された魔石に釘付けになっている。
「失礼。ミツさん、一つ手に取らせて頂いてもよろしいでしょうか」
「どうぞ、エマンダ様。もう他に作れたりしない?」
「ああ。取り敢えず今作れるのはこんなとこやな」
「そう。セルフィ様、やはり自分には紫の魔石は作ることができそうもないですね」
「せやせや。それに何の属性なのか、ハッキリ言ってくれんと、こっちも困るさかい」
セルフィは分身から問われた答えを返す事ができないのか、魔石を目の前で作られた驚きに冷静でいられないのか、少しだけセルフィの挙動がおかしくなっていた。
「そ、そう……。悪いわね。紫の魔石の属性は私も分からないのよ。少年君なら知ってるかなと思って質問してみたの。それにしても、魔石にこれだけ種類があるだなんて……」
エマンダが魔石の一つ一つに魔力を少しだけ流し、魔石の反応を見ている。
雷の魔石は豆電球の様に光を見せ、氷の魔石は温度を下げたのか、周囲に白い靄を出し結晶を滲ませている。
闇の魔石はただ漆黒に見た目変わることはしなかった。
検証が終わったのかコトリと静かに魔石をテーブルに置き直すエマンダ様。
そしてミツと分身を見て笑みを見せてくる。
「ありがとうございます。貴方様のお力、改めて拝見いたしまして私は心より感銘いたしました。私が知らぬ力、また新たな知識としてこの様な魔石がある事に私は心より感謝しております。今回、セルフィ様の希望する魔石はありませんでしたが、それでも十分と言える結果が私には見えました」
「いえ。それで、エマンダ様。紫の魔石って何の属性なのか分かりますか?」
「……これは私の考えですので、頭の片隅に置きください。以前、魔石は人の手で作られている可能性を彼女と同じく、私も考えておりました。結果、ミツさんが私達の目の前で見せていただいたお力にて、私……いえ。ここに居る者が拝見したことの無い魔石を見させていただきました。ミツさんが知らないとおっしゃられるなら、他にも魔石には数多くの種類がある。そして、それは貴方様のように何かしらの方法にて、セルフィ様が案件として抱えられております紫の魔石を作り出した者がいるのでしょう」
「そうですか……。ところで、セルフィ様は紫の魔石をどうやって知られたんですか?」
「……」
「セルフィ様?」
ミツがセルフィへと話しかけると、彼女は目を伏せ、一度口を閉ざした後にゆっくりと語りだす。
「……。少年君はパルスネイル国って知ってる?」
「いえ。知りません」
「そう。なら、そこから教えてあげるわ」
彼女の説明はこの国、セレナーデ王国の隣国。パルスネイル国の話であった。
ラルスの保護者として共に魔法学園に滞在中、その国で起きた紫の魔石での事件。
モンスターの増大な繁殖、居るはずのないモンスターの発見。
ミツもその話を聞いて、何やら以前冒険者ギルドにてネーザンとエンリエッタと話した内容と似ていたことに眉を寄せる。
「どうしたの少年君?」
「いや……その」
「……なあ、ダニエルの旦那」
「!?」
分身が突然口を開き、ダニエルへと馴れ馴れしく話しかけた事にミツは焦るが、本人はそれほど気にしないと分身へと視線を合わせる。
「ああ。何かね。えーっと、もう一人のミツ君」
「あんな、うちら冒険者ギルドで魔石の事で口止めを受けてるんや。その事って連絡とか来てるかいな? もし来てるなら、さっきから相棒がモゴモゴしてる理由も話せると思うんやけど」
「はい。ミツさん達が洞窟内での戦いは冒険者ギルドでも確認を取らせていただいております。内容は領主であるダニエルと私達二人だけ耳にしております」
「なら、話しても問題あらへんな。姉ちゃん、実はな」
分身はミツの変わりと、試しの洞窟内で戦ったモンスターの内容をセルフィへと話し出す。
通常洞窟内で出現することの無いモンスターの数々。またモンスターの大量発生。
セルフィは分身の話を聞くたびに眉間を寄せた後に口を開く。
「そう……。なら、倒したモンスターの魔石はやはりカセキになっていたのね……。ねえ、少年君。その時怪しい人物とか見なかった? 話を聞く限りじゃあなた達が行った8階層のセーフエリア。そこ迄にすれ違った人とか覚えてないかしら」
「すれ違った人ですか? 最後にあったのは冒険者のライムさんでしたね」
「ライム? どんな人だったの」
「セルフィ様、ライムさんは人ではなく、鬼族のアイアンの冒険者でしたよ? セーフエリアにある転移の扉に開けた人を誤って先に通しちゃったみたいで、帰れずに数日6階層のセーフエリアにいたみたいです。それにライムさんはセルフィ様だけではなく、ダニエル様達も見たことがあると思います」
「はて……。確かにどこかで聞き覚えのある名ではあるが」
「……ミツさん、その者はもしかして大会に出場されていた選手では?」
「はい、そうです。エマンダ様のおっしゃいました通り、武道大会で出場していたライム選手です」
ライムのことを説明すると、皆は手を打った様に思い出したのだろう。
ああ、そう言えばと、言葉が漏れている。
セルフィはライムが鬼族であると説明を聞くと、直ぐに彼女の中でライムは対象外と結論がつけられた。
「ああ。あの子ね。ならあの子は関係ないのかも。元々鬼族って魔力が殆ど無いし、戦いを見ても彼女が魔力持ちとは見えなかったもの。でも他に人がいれば」
「居るには居ましたけど、魔力を持っている人がいれば数日もあの場所に居るでしょうか?」
ライム達のパーティーの中で転移の扉が開ける者は一人だけ。
その説明を補足すると、セルフィは目を伏せ指先を自身の額に当て、他に誰かいなかったか質問してくる。
「あっ……それもそうね。んー。他には見てないかしら?」
「いえ、ライムさん達を最後に、その後は誰も見ませんでしたし、気配も感じませんでした」
「そう……」
該当者は無しかと、軽くため息を漏らすセルフィ。
その時、口元に手をあてがえ、考える素振りをしていた分身が思い出したのか、口を開く。
「なあ、相棒。人と会っては居らへんけど、人が居た形跡はあったやないか」
「えっ? ……あっ。ああ、確かに……」
ミツも思い出したのだろう。
ダニエルと周囲の視線が彼へと集まる。
「あの、デビルオークとの戦闘後ですが、モンスターの口の中に誰かの遺品らしい物が引っかかってたんですよ」
「遺品? それは魔石だったの?」
「いえ、確か……蛇の顔が焼印されたタグでしたね」
「えっ!? 蛇の頭って……。少年君、それは本当なの」
ミツがデビルオークの口の中で見つけた蛇の頭が彫られたタグ。
その説明をするとセルフィは目を見開いたのち、険しい顔となる。
「は、はい。それは間違いないです。てっきり冒険者の遺品だと思って、それはギルドに渡したんですけど……。セルフィ様?」
「セルフィ、どうしたのですか?」
ミツやパメラが声をかけるがセルフィの表情は変わらず険しく、更に考え込む。
「セルフィ様、貴女はそのタグに心当たりがあるようですね」
エマンダの言葉でセルフィは顔の緊張を解く。だが、まだ彼女の顔は真面目なままであった。
ひと呼吸間に入れ、セルフィはゆっくりと説明し始める。
「……ええ。あるもなにも、パラスネイル国で一時期、虜囚事件が頻発していたことは以前お話ししましたよね? それに関係した犯人の数人がその蛇の頭のタグを身に着けていたのよ。まさか、関係する者がそこにも流れてただなんて……。なら、これも教えた方がいいわね……」
「セルフィ様、何でしょうか?」
「少年君。実は、君が捕まえてくれたラルス達を虜囚とした犯人の中にも、同じ物を首に下げていた奴がいたのよ……」
セルフィは捕まえた賊を調べる為と、私兵であるアマービレ達に調査をさせていた。
本来ならば、客人として来訪しているセルフィには関わるべき内容ではないが、溺愛するロキア、もとい。友好を深めているフロールス家の者への不敬は、彼女にとって許される事ではない。
また、ラルス達を救う為、彼女自身が動いている。全く関係の無い事でもないので、その辺の話はしっかり通しているようだ。
さて、セルフィが先程言っていた人物。
それは盗賊達と共に捕まり、牢屋に入れられていると言うのに、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ、ダラダラとヨダレを出しているハンスであった。
取り調べの為に、犯人たちの衣服や身につけている物は全て没収。
その際、ハンスが身につけていた物こそ、その蛇の頭が彫られたタグである。
盗賊のリーダー的男と、フロールス家の私兵の鎧を着て偽装していた男。
この二人と数名の盗賊達が首斬りの死刑が即座に決まった。
他の盗賊達は、犯罪奴隷として100年以上の鉱山掘りが義務付けられている。
この者達には事実上の終身刑が叩きつけられた。
本来、貴族であり伯爵家に手を出した者は公開処刑が一般的に行われ、二度と同じようなことが起きないように民達に見せつけるのだが、ダニエルはそう言った鎖を民に巻き付けるような真似はしない男である。
盗賊達から今回の虜囚計画を、拷問をしてでも洗いざらい吐いてもらう予定であったが、ミツの持つ森羅の鏡によってそれは省かれた。
しかし、フロールス家の私兵二名の命を奪ったことは事実。
それは決して許されることでは無いので、民の見えないところで刑が実行されるだろう。
ただ一人。未だに牢屋に入れられたままのハンス、この男にはまだ話してもらう事が山程ある。
彼は今頃ミツの思いもしない拷問を受けて 、洗いざらい話をしているだろう。
「えっ! まさか、あのタグって組織的な誘拐犯の目印なんじゃ?」
「いや、それだとミツ君が倒したモンスターの口の中で見つかった糸が分からなくなる。若い冒険者を虜囚する話は耳にするが、君の行った階層ではもう中級クラスの冒険者が相手となる。彼らを虜囚するのも相手としては骨であろう」
「……」
各々と考えを巡らせているのか、部屋の中に沈黙とした間ができる。
そんな中、一人の女性が考えがまとまったのか、ゆっくりと口を開いた。
「これは私の推測なのですが……よろしいでしょうか」
「エマンダ……」
「構わん、話してみろ」
「はい。旦那様。今回、セルフィ様のお話とミツさんのお話。お二人の話を聞いて、恐らくお二人の話は一つに繋がるのではないでしょうか……。先ず一つ。セルフィ様のお調べになられた蛇の顔のタグを持つ盗賊達。この者達は人々を人攫いをし、金銭や何かを得ようとした。そして、何者かによっての指示により魔石を魔物に与え、パルスネイル国だけではなく、範囲を広げ、セレナーデ王国へと混乱を招き入れる。二つ。デビルオークに魔石を与えたのは盗賊の者。不運にもモンスターの餌となり、その命を散らした。
三つ。紫の魔石を作り出した者は、魔石が作る方法を公表せず、今は試験的にモンスターで実験をしている。その際、金銭で手駒として使いやすい、盗賊などを使用している」
エマンダはミツの話とセルフィの魔石事件が繋がっていると話をつける。
すると、周囲の者は足りなかったピースが繋がった思いと、自身で納得する部分があったようだ。
「なるほど……。それなら少年君が行った洞窟に本来はいないモンスターがいた事に納得できるわね……」
「でも、セルフィ様。魔石を作るのって本当に魔力が必要なんですよ。自分でも今は分身がいるから限りなく作れますが、一般の人に魔石を作る魔力があるでしょうか?」
「せやな。相棒の言うとおり、この小さな魔石ならワテ一人なら20個は作れるけど、言っちゃなんだが、そのへんの魔術師が作れるとは思わへんな」
「に、にじゅう……。はあ……。ミツ君の言うとおりだ。相手に魔力を分け与える魔法は、神官の者しかできぬと私は聞いたことがある。彼の言う事が正しければ、魔術士でもならぬと言う事。その様な者がおるのか、私は聞いたことはない」
話は変わり、ミツのさらりと言った言葉にまたダニエルは苦笑い。
そして、セルフィの好奇心がミツへと向けられる。
「……ねえ。少年君」
「はい、何でしょうかセルフィ様」
「前々から思ってたんだけど、君、何でそんなに魔法や戦いが得意なの? そこのスキルで出した少年君も、私は今までに見た事も無いわ」
「「……」」
ミツの強さは正直異常な物である。
元とは言え、シルバーのゼクスと模擬戦で戦い勝利した。
神弓と言われているセルフィにも弓の的あて勝負で勝利。
武道大会では数々の戦闘を見せ、獣人国の指折りにしか入らない強者のバーバリに勝利。
そして、数人、数十人の冒険者がいなければ倒せないモンスターの数々の討伐。
戦闘の他にも、ミツのやることが常人離れした事ばかり。
先程見せてもらったカセキから魔石へと変えてしまう力。
ダニエルの失った腕を治す治療能力。
ただの木材から数々の美しい芸術品を生み出すスキル。
この世に生を受け、今迄口にした事のない心を満たす料理。
失われた転移魔法、トリップゲートの使用者。
どれ一つでも、普通の人が喉から手が出る程の能力の数々を持ちながらも、彼は傲慢、強欲、怠惰、色欲が全く見られない。
ダニエルの婦人であるパメラがミツが違うと言っても、彼女の中では本当に彼は神の使徒様だろうと心に思い込んでしまう程だ。
しかし、勿論ミツの中にも三大欲求はあるし、数々のスキルを集めたいと言う【欲】もある。
ミツは周囲から向けられた視線にクスっと笑い、セルフィへと答えを返す。
「その質問はリックや仲間達にもされたことがあります。ダニエル様達は信頼できますから、自分の秘密をお教えしますね」
その言葉に、ダニエル達は自身がミツに信頼されていると言う、目に見えない物だが、彼らはとても心満たされる感情に包まれる。
隣に座るセルフィはミツの腕を取り、私はと、まるで捨てられそうな動物のような瞳をしている。
ミツはセルフィに対して、苦手意識は元々ない。むしろミツになついているロキアとの繋がりでもある事に、彼女は友好を結ぶべき相手でもある。
「私にも教えてもらえるの?」
「はい。問題ありません。それよりも、セルフィ様に隠してもいずれバレそうな気もしますから」
「ふふっ。ミツさん、そのお答えは間違いではありませんね。彼女の情報門は計り知れません」
「実は、自分は頭の中で思い浮かべるだけでジョブが変えることができます。これは先程言いました神様からの贈り物ですね。そのお陰で自分は多数のジョブを経験しました。その分、戦いのスキルや魔法、少しだけ他の人より魔法も得意になってます」
判別晶無しでのジョブの変更。
この真実に彼らは驚愕し、ミツの強さの秘密を彼らはまた一つ知る事となった。
長く濃い話が一段落したところで、ゼクスやメイド達が入室。
そして、今回、大会の鎮圧、フロールス家の子息達の虜囚からの救出。
ベンザ元伯爵の断罪の協力としてミツへの謝礼の話となった。
「君には感謝してもしきれぬ程の気持ちがある。私は君の望みを何でも聞こうではないか」
「ん? 今何でもするって言ったか?」
ダニエルの言葉に分身が先に反応を示し、ミツも少し目を見開き、珍しくも何か求めるような言葉を切り出す。
「ダニエル様、本当に何でも聞いていただけるんですか?」
「ああ。無論。私のできることなら協力は惜しまぬ。寧ろ、今ここで言わねば君に礼をする機会を失いそうでならぬ」
「ダニエルの言うとおり。ミツさんは私達家族に未来を授けてくれました。今度は我々が貴方様にお礼をさせてくださいませ」
「ダニエル様、パメラ様、エマンダ様。ありがとうございます。では……」
ミツの求める物を聞き、ダニエル様達は頬を上げ笑い合う。
側にいるゼクスも良しと、それはミツさんらしいですねといつもの笑いを返してくれていた。
話が終わり、ミツは厨房にいるであろうパープルのところへ足を運んだ後に、教会へと帰り着いていた。
翌日、改めてミツはフロールス家に呼ばれていた。
それは色々とあったが、やっと今日、武道大会の閉会式を行う事になったからだ。
本来ならば閉会の挨拶などは大会会場で行う物。
だが、未だその会場には人を入れれる状態ではない。
なので代わりの場所にフロールス家にて行われることになった。
いつもの談話室とは違い、今ミツが居るこの場所は前夜祭のパーティーで使われた広場である。
別にここで食事をする為にいる訳ではない。
テーブルや椅子は全て片付けられており、人が数百と入れるようになっている。
ミツを含む、大会の出場選手が多くの人々に注目を受け、ホールの中央に立っていた。
(まるで客寄せパンダだな……)
数多くの人々。
本日は武道大会の締めの挨拶でもあるので、他国の人々が集まっている。
近隣各国の貴族が集まった事に、フロールス家のメイドや私兵はバタバタと動き回っている。
まず、フロールス家の家族。
セレナーデ王国からカイン殿下、マトラスト辺境伯、巫女姫のルリ。
このライアングル街から近い街々の貴族の領主やその家族。
カルテット国よりセルフィと私兵のアマービレ三人は、フロールス家族の近くに共に立つ。
ローガディア王国よりエメアップリアと私兵のベンガルン、側仕えの女性が彼女の側に立っている。
また、この式典に彼女が参加すると誰が思ったであろうか。
数人の護衛で周りを固め、威風堂々と椅子に一人だけ座っている女性。
エンダー国のレイリィ様である。
側にいる息子のジョイスは何故かミツを睨んでいる。
参加する大会の出場選手は、基本強制参加だが、必ずしも全員が参加という事は無い。
大会が終わり、そそくさと街を出ていく者もいれば、大会中に命を失った者もいる。
ホール中央に立つのは、チャオーラ、スリザナ、コルコット、ライム、ハニー、ヘキドナ、ラクシュミリア、バローリア、ラララ、シャシャ、そしてミツの11名。
獣人国のバーバリは行方不明。
見かけたと言う情報はあるので今も捜索を続けているが、残念ながら今日と言う日まで見つかっていない。
ルドックは意識を取り戻したが、日々嘔吐を繰り返し、今では口にした物も直ぐに吐き出してしまう状態。
ステイルとの戦闘の尾を引いているのか、彼は残念ながら不参加となった。
ティスタニア、ステイルは死亡のため二人を除く。
ファーマメントの正体はミツの分身なので街の中で見つかる訳もなく、彼は街を出ていったと数えられていた。
カーン、カーン、カーンと、外からニ刻の鐘が聞こえると、大会中、実況者として働いていたロコンの声がホールに響き渡る。
彼女の声は大会の時の様に、その場を盛り上げるような話し方ではなく、静かに業務的な話し方をする。
声を拡散する魔導具を使用しているのだろう。
ロコンの声はホール内にいる者、全ての人々に聞こえていた。
「これより、フロールス家主催。武道大会の閉会式を行います」
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