第113話 ファーマメント

 セレナーデ王国、代表者席にて。


「あの者、あれほどの目立つ行動をしおって!」


 既に観客の半分を〈トリップゲート〉にて避難させたことに、眉間に深いシワを寄せながら、カインは少し焦り気味に言葉を漏らしていた。

 それを穏やかな口調で返すマトラスト様


「しかし殿下……。彼のあの機転。アレのお陰で多くの民が救われるのも確かな事です。他国の目についたとしても、今はあの者に頼る他にありまするまい。ご心配無く。昨晩には既に王都に伝令の早馬を出しております。他国が動き出す前には先手は取れるかと」


「マトラストよ。早馬と言ってもここから王都までは片道3~4日はかかるだろう。王都内での会議を開いたとしても、返答が返ってくるのに大体8日は確実。それ迄に他国があいつを取り入れたとしたら……」


 マトラストは会見が終わったその日、部屋に戻るなり、王へと急文を送っていた。

 内容としては、ミツの存在と、証明した力と能力に関して。

 そしてカインのミツへの対応である。

 マトラストはカインの言葉の意図を理解してか、今はその話題は止めることとした。


「その為にも行動は迅速に。兵法の言葉の一つですよ。それよりも殿下。あの者がここに居るということは……」


「うむ。まさかとは思うが、虜囚されたダニエルの子息達を救出し、戻ったと言う事になろうな……。だとしたら、流石にお前の言う迅速と言う言葉では足りんな」


 二人はダニエルから、ミツはゼクスとセルフィ、三人で虜囚されてしまったラルスの救出に出向いている事を知らされている。

 事件が半日と立たず解決したのかと思うと、二人は更にミツへと警戒心を高めてしまう。


「まさに……変わりの言葉を表現するとしたら……。竜の如く、疾風ですな……」


「竜か……。フンッ。その竜はそのままにするとしてだ……。あの者の力が他国に知れ渡った今、今後の話し場は荒れることになるだろう。他国だけの問題ではない。国内……、いや帝都にまで情報が流れるのも時間の問題。巫女姫よ、お前の神殿でも良からぬ動きを見せる者が出るだろう」


「……せ……は……」


 カインは後ろの椅子に座っているルリ様へと声をかける。

 外が危険な状態と言うことで、殿下とマトラストがいらっしゃるこの部屋にいた方が安全と言うことで共に同伴していた。

 殿下の問に答えるルリであるが、やはりその声は消え去りそうなほどか細く、二人には全く聞こえなかった。


「……。はぁ~……。おいっ! 巫女姫の側仕えを部屋に入れろ! これでは話し場にもならん」


「はっ!」


 カインは深くため息を漏らした後、扉の方へ声をかける。

 扉の向こう側から兵が声を出し、ルリの側仕えの一人が入室する。


「あの方のお力はそこ知れませぬ。欲のまま下手にあの方を包み込む真似をすれば、その者は四肢を失い神々の裁きを受けるかもしれませぬ。フロールス家の皆様とあの方が好意的に接して居るのは、ひとえに、欲の無き、互いと人としての繋がりにございましょう」


 ルリの言葉にマトラストは目を閉じ深く眉間を寄せる。

 カインは腕組みをしたまま自身の二の腕を強く握りしめていた。


「四肢を失うか……。お前の言葉はたまに厳しいな……。だが……。その言葉は心に置いておこう」


「殿下。だからと言ってそのままにはできますまい。我が国が竜の翼を得るか、他国が翼を得るでは、雲泥の差がございます……。しかし、如何ともし難い事ながら我が国は新しく王座に座るべき者を決める時期にもございます。兄上の何方かがあの者を手の内に入れたとしたら、その時点で次期の王も決まるのは明白……。彼に対しての交渉合戦は、血が流れる事にもなるでしょうな」


「ならば如何する」


「……我々に扱えぬ者。これは例えですが……。ならば扱える者へと管理してもらえば宜しいのです。そう、例えば彼を神殿入りさせてしまえば、神殿と言う見えぬ壁が彼の前にできますな」


「……巫女姫はどう思う」


「難しいかと……。先程申されました通り、神殿でも良からぬ事に手を染める者も出てしまうでしょう。さすれば私の手の届く場所ならまだしも、帝国にある神殿との対立の引き金となります……」


「だろうな……。はぁ……。何処に置いても厄介事、手元に置かずとも厄介事……」


「殿下、一先ず王都からの連絡を待つべきかと」


「解っておる……」


 カイン、マトラスト二人が闘技場の方へと視線をやれば、既に南西側観客席にいる人々の避難が始まっていた。

 次々と光の扉に吸い込まれるように何処かに消えていく人の列。

 それを見て、二人は後の事を考えると頭を悩ませるのであった。


 それもだが、今回この騒ぎを起こしたステイル。

 彼に対しても重い厳罰を与えるべきだが、今はモンスターとなってしまった彼をどう裁くべきなのかと考えなければならない。

 各国代表者にも今は被害はないとは言え、大会の責任者であるダニエルにもカインとマトラストは何かしらの厳罰を下さなければならない。

 しかし、彼らの頭の中にチラつくミツの存在。

 もしダニエルへと理不尽な罰を与えようなら、友好を結んでいるミツが黙っている訳がない。

 そうなると、マトラストの中では罰を与えるべき存在は別に作らなければと考えるしかなかった。

 これだけの騒ぎ、他国にも示す為にも犯人と言う人物は必要であり、その者へと罪を被って貰わないといけないのだ。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 多目的ホールにて。 


 ステイルがモンスターに姿を変え、無数の触手が瓦礫を一般人のいる観客席へと放り投ては、出入り口を破壊してしまう事故があった。

 その近くに配置されていた貴族席。

 そちらにも瓦礫の被害はあり、人々が座る場所には多くの瓦礫が降り注いでいた。

 逃げ惑う人々、ダニエルは護衛であるトスランとは別の出口に避難してしまう。

 今は貴族の集まりとして仕様している多目的ホールへと多数の人々と避難していた。


「大丈夫かエマンダ」


「ええ、あなた。些細な魔力の枯渇程度ですわ……。少し休めば直ぐに動けます」


 椅子に座るエマンダへと声をかけるダニエル。

 彼女も魔術を使い、周囲の人々を守るためと守りの障壁の魔法を使用していた。

 だが、ラルス以上の魔力を持つ彼女であっても、安全なここまで来るまでに常に避難する人々の分、魔法の障壁を使用して疲労してしまったようだ。


「お前は休んでいろ。グラツィーオ殿、すまぬが水を外にいる使いの者に頼んできてはくれぬか」


「はっ! 直ぐに」


 セルフィの近衛兵の一人、グラツィーオ。

 彼は主人であるセルフィ様指示の元、今はダニエルの護衛としてそばにつけられている。

 彼が側から離れると、もう一人護衛としてつけられているリゾルートはダニエルへと言葉をかける。


「ダニエル様、パメラ婦人にはアマービレが付いておりますので大丈夫でしょう。ですが、あのモンスターと化した錬金術士が更に暴れては被害が広がります。エマンダ婦人とここに居る他貴族様は、私かグラツィーオが護衛に当たりますので、ダニエル様は前線の指示を。観客の混乱を抑えるにはダニエル様のお言葉が一番効果があると」


「うむっ……」


 リゾルートの言葉に考えを巡らせるダニエル様。

 観戦していた民達の避難も優先であるが、各国より来賓して頂いた王族の安否も確認したい。

 もし何かあっては国際問題事。

 その事を思うと、ダニエルの中では虜囚されてしまった息子達を思うと、何とも今日が厄日であるかと苦難していた。


 だが、その厄の一つが消える出来事が起きる。


「失礼します! ダニエル様!!」


「「!?」」


 先程部屋を出ていったグラツィーオ、彼が慌てた様子にホールへと戻ってきた。

 ホールに居た人々はグラツィーオの慌てように、近くにまで先程のモンスターが来ているのではと思う者や、それ以上の災厄な出来事がと人々が不安を思い浮かべて表情を曇らせていく。

 リゾルートは失礼とダニエル達に言葉を残し、グラツィーオへと急ぎ近づく。


「どうしたグラツィーオ、他の方を不安とさせる様な態度は止めないか!」


「! す、すまない、リゾルート」


 グラツィーオはリゾルートの言葉に、ハッと周囲を見渡し謝罪をする。


「愚か者、先ず俺より周りの方々に謝罪をすべきであろうが。全く……」


 グラツィーオは周囲の貴族や護衛に謝罪と頭を下げる。

 グラツィーオがただの護衛騎士ならば、他貴族からは先程の態度に反感を買ったであろう。

 だが、彼はセルフィからダニエルへと、護衛として付けられていると知れ渡っているために、周囲の貴族からはあまり強く指摘や注意は来なかった。


 ダニエルはそんな二人の元へと近づく。


「それで、グラツィーオ殿、いかがなされた?」


「はっ! ダニエル様、エマンダ様。ラルス様とゼクス殿がお戻りになられました!」


「「「!?」」」


 グラツィーオの言葉にリゾルート含め、三人は目を見開き驚く。

 その時、三人の思ったことは一緒。

 そんなまさか!? 虜囚された者がこんなにも早く救出されるのかと。


「それは実か!? して、ラルスは今どこに!?」


「父上! 母上! ご無事でございますか!?」


「「ラルス!」」


 扉の方へと視線を向ければ、そこには実の息子であるラルスと執事のゼクスの姿があった。

 二人は肩で息をする程に、急ぎこの場に来てくれた事がよくわかる。


 ダニエルは駆け出し、エマンダも椅子から直ぐに立ち上がりラルスへと駆け寄る。


「ラルス! ラルス! 無事であったか!」


「良かった。父と母がどれ程に心配したことか……」


 ダニエルはラルスの前に立ち、彼の肩に手を置き、彼の体温を手に感じると、息子が無事に生きていてくれた事に心から喜び、母であるエマンダも目尻に少し涙を浮かべていた。

 ラルスは嫡男である為に二人からは常に厳しい言葉をかけられていた為に、これ程父と母が心配してくれていたのかと感じると、彼は照れくさくなったのか、少し顔を沈める。


「! ……。父上と母上と義母上、皆にご心配をおかけしました事、嫡男として申し訳なき思いです」


「うむ。本当に無事なのだな? 二人は? ミアとロキアも無事なのか?」


「ええ、勿論……。んっ!?」


 ラルスが言葉を止めたことに少し不安となるダニエル様を見て、後ろに控えていたゼクスが言葉を入れる。


「旦那様、ご心配無用にございます。ミア様もロキアボッチャまも、今はセルフィ様と共に屋敷の方へとお戻りになられております。また、パメラ様も先に屋敷へとお送りいたしましたので、どうかご心配なさらぬよう」


「そ、そうか……無事か……。良かった……」


「本当に、二人も無事で何よりです。ゼクス……。パメラも戻ったと言うことは、あの方のお力にて戻られたのですね?」


「然りと……。奥様のおっしゃる通りにございます」


 ホッと胸を下ろすように安堵のため息を漏らすダニエルとエマンダ。

 二人の様子を見てゼクスさんは心の中でホッホッホッと喜びに笑っていた。

 その時、父であるダニエルに自身の肩を掴まれているラルスは唖然とし、驚きに父の腕を見ていた。


「ち、父上……」


「んっ? どうしたラルス? やはり何処か怪我をしておるのか? それとも他に何か?」


「い、いえ……父上……この、右腕……」


 恐る恐ると自身の腕に乗っている腕にラルスが手を伸ばし、自身の手に伝わる体温。

 腕と父の顔を交互に見ては、ラルスは口をパクパクとさせるのみであった。

 ゼクスさんもラルス同様に目を見開き、主人であるダニエル、そしてエマンダを見れば二人の微笑む顔が目に入る。


「詳しいことは後に話す。今はこの腕にお前を抱きしめさせてくれ」


 そう言葉を告げると、ダニエルは息子を自身の胸に引き寄せ、強く抱きしめていた。

 

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 南西の観客の避難を始めて間もなく、自分は誘導をヘキドナと警備兵を中心とし、次の行動に移すことにした。


「ヘキドナさん、それでは闘技場の中央の人々も避難させますので、自分は少し離れます」


「ああ、坊やにしかできない事だからね。頼んだよ!」


 闘技場の場外は既に触手のモンスターで埋め尽くされ、今闘技場を囲む形となっている。

 何故あそこまで触手が増えたのか疑問に思うと、ユイシスが教えてくれた。


《あの者はモンスターの体液などを薬に混ぜて飲む事で、人以上の力を得ようとしたのです。ですが、それは見た通り失敗となってしまいました。多少の摂取なら、計算した結果を出せたでしょう。しかし、過剰なモンスターの体液は人に取っては害でしかありません。あの者は先ず人としての思考と意思を失い、そして生命をモンスターと変えてしまいました。モンスターとなった者は自身の体を保つ為と、他者の肉や血を体内に取り込むことで触手の数と再生能力を上昇させたのです。更にこれ程に増殖した理由。それはあの者の懐に忍ばせていた大量の魔石が原因です。先ず先に魔石を取り除く事をしなければ、更に被害が出てしまいます》


(魔石か……。増殖を止めないと面倒だね)


 ユイシスのアドバイスを聞いた後、トリップゲートを出して闘技場の中央へと繋げる。

 ゲートを潜るとそこには震える様に中央に固まった審判や大会係員、そして数名の怪我人が倒れていた。


「皆さん大丈夫ですか!?」


「お、おお! 貴方はミツ選手!? い、一体それは?」


 ゲートから顔を出し、声をかけたミツに答えたのは審判の人であった。

 彼も怪我をしたのか頭から血を出し、今は被っていた帽子で血をおさえている状態であった。

 良く見ると怪我をしたのは審判だけではなく警備兵の人達もであった。

 ゲートの先から人々の声が聞こえてきたことに、係員の人達は驚きであった。

 そこに飛び出してきた二人の少女。


「ニャ! みんな怪我してるニャ! 今こっちで他の人達も回復してるニャよ。避難するついでにその怪我も治して行くニャ!」


「うわっ。こっちも怪我人が多いシ! アネさん! こっちに人手を回してくれシ!」


 ミツがゲートを通り抜けた後、プルンとシューが続いてゲートを潜り抜けてきた。

 怪我人を見たプルンは直ぐに倒れている人へと近づき、肩を貸してはゲートへと連れて行く。

 シューは姉であるヘキドナへと言葉を飛ばし、マネ、エクレアを回してくれる。

 ゲートの誘導は警備兵の人達が率先してやってくれているので、リック達も次々と怪我をした人達へと肩をかして避難をし始める。


 周囲を見渡すと警戒した感じにラクシュミリアがこちらを伺っている事に気が付き、直ぐに彼の方へと近づく。


「貴方も怪我とかはありませんか?」


「……」


「あれ? もしもし?」


「あれは何だ」


 ラクシュミリアの視線がトリップゲートからミツへと変わり、ゲートが何なのかを問いかけて来た。

 今は説明を省きたいので説明は後としてラクシュミリアにも避難を促す。

 しかし、ラクシュミリアは避難することを拒んできた。


「断る。まだあれを斬り伏せていない……」


「……。お言葉ですけど、あれには剣での攻撃は意味が無い様にも思えます」


「……」


「失礼ですけど、貴方がここに居てはアレを倒せないんですよ」


「……。どう言う意味だ」


「それは……」


 ラクシュミリアへと魔法で倒すことを告げようとした時、周囲を火壁を貼っていたファーマメントがミツの側へと近づいて来た。


「すまない……」


 彼は突然頭を下げ謝罪の言葉をミツへと告げてきた。


「すまない……。数人助けることができなかった……」


「ううん。君も頑張ってくれたんだもん。自分がもっと早めにここに来てれば良かったんだ……。君にだけ辛い思いをさせてごめんね」


「……」


 ファーマメントはまた唸るように頭を下げた。

 そこにプルン、シュー、そしてマネ達が急ぎ近づいて来る。


「ミツ! 取り敢えず係員の人達は避難させたシ! お前達も早くここから逃げるシ!」


「ちょっとちょっと! 話すんなら違う場所で話そうよ! あんたも、何こんなところで話し込んでるのよ!?」


「おいコラッ、お前ら。貴族様の前だっての。姉さんが見てたらどやされるよ。へへっ、すみません騎士様。あたいら野暮な生活をしてますので、本当に礼儀知らずで申し訳ないです……」


「えっ……貴族……。あっ、ヤバッ! 申し訳ございません!」


「……」


 シューとエクレア、二人がラクシュミリアの前で失礼な話し方をしていた事に、マネは慌てて二人の頭を抑えラクシュミリアへと頭を下げ、彼へと愛想笑いを振りまいていた。

 ラクシュミリア本人は気にしていないのか、言葉を返すことは無かった。


「皆も見ていたから解ると思うけど、あのモンスターを倒すには魔法でしか倒せないと思う。自分は今から少し強めの魔法を使うから、皆は避難しててもらえるかな? すみませんが貴方も避難をお願いします」


「……お前は。……あれを倒せるのか」


 ラクシュミリアの指を指す方には、まるで波打つ様にウネウネと動き続ける大量の触手の数であった。

 

「ええ。ただ倒すだけならば……」


 ラクシュミリアは自分と視線を合わせた後、踵を返し、トリップゲートへと歩み始めた。


「ひぃ~。やっぱり貴族ってのはあたいらに持ってない風格があるね……。全く、関わりたくないもんだ」


 マネはラクシュミリアがゲートを潜りくけた後に、額の汗を拭きながらボソリと呟いていた。

 エクレアもシューも相手が王族に使えている騎士。つまりは貴族の家の次男三男であることは理解したのだろう。

 自身の振る舞いが不敬罪に当てられるのかと思い、三人の顔色が悪い。


 側にいたプルンはダニエルと幾度と会話をした事のある彼女は、貴族慣れと言う意味では無いが、三人程に緊張や強張った感じにはならなかったようだ。

 深々と頭を下げていた三人とは違い、ラクシュミリアへと軽く会釈をし、彼を見送った程度だった。


「それなら、ほら。君もここから引くニャ」


「ああ、待ってプルン。彼にはまだ手伝って貰う事があるから、ここに残ってもらわないと」


 ファーマメントの手を引き、ゲートの方へと彼を引っ張り連れて行こうとする彼女を呼び止める。


「ニャ? ミツ、この子にも魔法で戦わせるつもりだったニャ? そんなにこの子の魔法が強力ニャ!?」


「うん、そうだよ」


「確かに! この人の魔法、火壁でさっきからあのモンスターが近づいて来れないぐらい強いみたいだシ」


「何だい何だい。お前さんがそんなに薦める奴かい? そう言えば、まだあんたの顔を見てなかったね。ちよっと見せておくれよ」


「……」


 マネが頭をすっぽりと被っていたファーマメントのローブを掴み外すと、四人は目を見開き驚き言葉を失った。


「「「「!!!」」」」


「マネさん、満足ですか?」


「「「ええええっっっ!!!」」」


 ファーマメントの顔を見た瞬間、絶句したのち、彼が言葉を話すとマネ、エクレア、シューの三人は合わせるように驚きと声を出す。


「えっ……。 こ、これはどう言う事だっての!?」


「ミ、ミツが二人いるシ!!」


「もう、訳わかんないよこれは……」


「ニャ!? ニャ!? ニャ!?」


 頭から身体まですっぽりと身を隠す姿をしていたファーマメント。

 彼はミツが出したスキルの〈影分身〉の一人であった。

 大会に参加を決めた際、自身の力を周囲の人々に知らしめろと言う創造神シャロット様の言葉を受け、どうしたものかと考えを巡らせていた。

 全力を出しては今のミツのステータスでは対戦相手を殺してしまうかもしれない。

 しかし、試合中の事故死が認められているとは言え、流石にそれはできない。

 

 結果、大会でミツと同じ力の者が出場すればと思いついたのがこれである。

 大会の予選当日、リッケと列を並んでいる際、ミツはトイレに離れた時に影分身のスキルを使用していた。

 分身は説明不要と直ぐに〈ハイディング〉スキルを使用してその場から離れ、何処から調達したのか身を隠すためのローブを仕入れては当日の申し込みの列へと並んでいた。

 

 因みに、名前は地球でのミツの名前【大空三成】の大空を変えただけである。

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