第92話 女の戦い。

 1回戦から4回戦が終わり、続けて5回戦の試合が始まる。


「間もなく次の試合が始まります、ご観覧の皆々様はお席へとお戻りください」


 実況者の声が響き、慌てて自身の席へと戻り始める観客。


「ふー。間に合ったぜ」


 一人の男が賭け札を握りしめては席へと戻り、自身の額の汗をぬぐう。隣に座る知り合いの小太りの男に声をかけられる。


「おっ、随分と賭けてきたみてえじゃねえか? オメェ、どっちに賭けたんだよ」


 興味本位か、男が握りしめる賭け札を覗き込む小太りの男。

 それを鼻を鳴らしては、賭け札の番号を見せる。


「ふん、知れたこと聞いてんじゃねえよ。魔族の姉ちゃんに一点買いよ!」


「ははははっ! やるなオメェも」


「そう言ったお前はどうなんだい? って、お前も同じじゃねえかよ」


 息をととのえ、ふーっと一息に相手が賭けた対象を聞くと、小太りの男が持つ賭け札も自身が持つ札と同じ数字が書かれていた。


「あたり前だろが。何で態々得体のしれねえ奴に金をかけなきゃいけねえんだ。俺はな、オメェがその札を買う前、1回戦の試合が始まる前から買ってたんだよ! 俺の目は節穴じゃねぇ! 今回の優勝候補は騎士団の奴らなんかじゃねぇ、あのスリザナちゃんに決まってるぜ」


 スリザナは魔族であるが、そんなことは関係なしと男性の観客からは人気があり、賭け額の倍率がスリザナの強さよりも人気の効果か倍率はやや低めの2.7倍。

 それに変わって対戦相手のファーマメントは、魔法に優れていることは観客も彼の入場時に見せたパフォーマンスにて解っている。

 だが、それ以外が全て不明。

 ファーマメントはこの大会自体初参加の為、倍率も8.1倍とスリザナの3倍の倍率を出している。


 この大会では賭けられた金でその選手への待遇も変わり、選手が万全の状態にて戦いに挑むことができることは観客は承知している。

 そのため、男たちは賭けを楽しむことよりも、自身の金で好きな選手を支えていると思うのはとても優越感に浸れることなのだ。

 

「へへっ。とか強く言ってるけどよ。お前、あの可愛子ちゃんのちょっとエッチな格好に引かれてんだろ……」


「……」


 男の言葉に、いやらしくも鼻の下を伸ばしながら親指を立てる小太りの男。

 それに応えるように、男もとても良い笑顔のまま指を立てる。


「おっ! 出てきやがった! スリザナちゃ~ん!」


「スリザナ~! 俺はお前に賭けたぞーー!」


 スリザナが闘技場に姿を見せた瞬間、二人の男以外にもスリザナへと自身をアピールする言葉が周囲から飛ばされる。中には自身の持つ賭け札よりも多く握った者もいるが、自身も負けじとスリザナへと声を飛ばしあう。


「キャハハ。ありがとうね~。頑張るよ~。チュッ!」


「へへっ」


 スリザナは観客席の方へと振り向き、ウインクをしながら観客へといやらしく投げキッスを飛ばす。すると男性の観客は喜びに更に声をあげ、いやらしい表情を浮かべていた者はよりだらしない顔になっている。


「おいっ、何照れてんだ! あれは俺に飛ばしたんだぞ!」


「ああ!? 何勘違いしてやがる! どう見ても俺の方を見ての投げキッスだろうが!!」


「勘違いはテメエだ!?」


「アハハハハ」


 互いの胸ぐらを掴み睨み合う男達を見ては、スリザナはその光景を楽しむように笑い出す。

 そんなスリザナの笑顔を見ている他の男達は、心の引き出しにその笑顔を永遠のメモリーとしてそっとしまった。

 興奮するのは男性客ばかり、反対に女性の観客はそんな男を見ては呆れ顔。


「男って本当に莫迦ね……」


「ニャ、ニャ……。」


 周囲の声に目を細めながら呆れて言葉を交わすリッコとプルン。

 チラチラと二人は少々夜にだらしなくなるリックへと視線を送る。


「否定はしねえが、いちいち俺の方を見るんじゃねえ……。俺はああ言った感じの女は苦手だ。なっ、リッケもそうだろ?」


「えっ!? あ、いや、はい、その、僕は……」


 隣に座る弟のリッケに話を振ると、彼は慌てたように自身の隣に座るマネをチラチラと見ては言葉に困ってしまった。

 彼の態度にリッコとプルン、そしてシューはニマニマと笑みを作ってはマネを見る。

 彼女はリッケのそんな視線に気づいていないのか、腕組みをしながらスリザナを見ながら口を開く。


「ふーん。そうかい……。リッケ、お前さんもああ言った子が好みなのかい?」


 マネの思わぬ言葉に驚くリッケ。


「!? い、いえ!! マネさん! 僕は!」


「ど、どうしたっての!? いきなり大声をあげて?」


 リッケはマネの勘違いに否定の言葉を飛ばそうとするが、その言葉を告げる勇気が彼には無かった。

 このまま勢いにまかせて言ってしまおうと思ったが、彼はまだマネに認められる程の男ではないと思ったのだろう。握りこんだ拳の力を抜いては、座り直し、うつむいてしまった。


「……何でもないです。僕もリックと同じで、あの選手のような女性は苦手です……」


「んっ? そうかい? 流石兄弟だね、女の好みも一緒なのかね?」


 それは無い。周囲ではなく、兄であるリックが一番に思った言葉だった。

 周囲の女性陣も、リックの姿を見ては彼を茶化す言葉は控えとくことにした。


「あー。見て、対戦相手が出てきたわね」


 リッコの言葉に、周囲が闘技場に向かう選手へと視線を向ける。

 姿を見せたのはファーマメント。

 相変わらず彼は頭からすっぽりとローブをかぶり、顔は意地でも見せないという感じだ。

 魔石画面に映し出される二人の姿。

 

「さて、間もなく始まろうとしている五回戦。ファーマメント選手対スリザナ選手の戦いです。予選では、互いに魔法を操る者と情報が来ております。どちらの魔法が上回るのか! 互いに向かうう二人。今、審判が開始の声を上げようとしております!」


「ふふん~。ねぇ、そんな深くローブかぶって見えてるの?」


「ご心配なく……。見えてますよ、貴女のその姿」


「キャハハハ。いやん、エッチ! まさか覗き見してるの?」


 スリザナは自身の今の姿を、右腕で胸部を隠し、左手で下半身を隠すようなポーズを取る。


「はあ……。そんなつもりはないんだけど」


 ファーマメントは呆れ口調に踵を返しては立ち位置へと移動。

 自身の魅了のポーズを見ても、なにも反応を見せない彼にスリザナは面白くないのかフンッと鼻を鳴らす。

 二人が距離を開けたことを確認し、審判の開始の声が響く。


「それでは! 始め!」


「始まりました! 先に動き出したのはスリザナ選手です! 自身の髪の毛をまるで翼の様に形を変えては空へと高く舞い上がった!!」


「んー。気持ちいい風ね。さてさて、貴方の魔力、たっぷりと頂くわね」


 空に高く舞い上がり、バサリバサリと髪の毛を翼のように羽ばたかせては優雅に飛び続けるスリザナ。

 闘技場に残り、自身を見上げ、杖を持ち構えを取るファーマメントに対してスリザナは舌なめずりを見せる。


「おっと! ファーマメント選手、火の玉のファイヤーボールを出した! 相手と距離が離れていても、遠距離攻撃あると魔法で仕掛けるようです!」


「キャハハハハ! 無駄無駄、そんな物は当たらないよ~」


 飛ばされてくる火玉をスッと簡単に避けるスリザナ。

 一つ、二つと簡単に避けると、一度ファーマメントは攻撃を止めた。


「魔力の無駄だよ~。無駄遣いするならその魔力、私に頂戴よっ!」


「何と! スリザナ選手、髪の翼を羽ばたかせては、まるで針の様な物をファーマメント選手へと飛ばしている! い、いや、あれは髪の毛でしょうか!? 髪の毛が羽の一枚の形を作ってファーマメント選手へと襲いかかる!! 数が多いのか、ファーマメント選手、咄嗟に火壁のファイャーウォールを出してはそれを止める! 凄い! 壁の熱気がこの実況席にまで届いております! 審判も危険を感じては闘技場から避難しております!」


 ファーマメントが出した火壁のファイャーウォール。

 その火壁に向かって飛ぶ髪の毛の羽を次々と燃やし、火壁を超えることは無かった。



「随分と火の魔法が得意みたいね。ふ~。暑い暑い……。でもね、髪は燃やせてもこれはどうかしら!」


 スリザナは左手に黒い靄を作り出していく。

 黒の靄は次第にかたちを作っては鋭く尖った刃の形に変わっていく。

 それが1本、2本、3本。次々と作られる刃はスリザナの周囲をクルクルと円を描くように回りだす。

 スリザナがファーマメントを見下ろし、ボソリと呟く。


「魔力を食い終わるまで死んじゃいやよ。くらいな! カースドラッシュ!」

 

 スリザナの周囲に溜まった黒い刃。

 それが何本、何十本と次々にファーマメントへと振りそそぐ。


 次々と振りそそぐ黒い刃は、ファーマメントの作り出した火壁の影響を全く受けていないのか、火壁を通り抜けてはファーマメントに向かっていく。

 駆け出すファーマメント、自身に襲ってくる黒い刃を避け、暇があれば火玉をスリザナへと飛ばす。

 だが、それも相手の攻撃を避け続けて投げるため、スリザナへと狙いは甘く、簡単に避けられてしまう。


「キャハハハハ! どこ狙ってるの!? ちゃんと狙いなよ~、こんなふうにさっ!」


「!?」


「おおっと! スリザナ選手の黒い刃の1本がファーマメント選手の足をかすった! やはり避け続けるのは難しいのか! おっと! ファーマメント選手、どうしたのでしょうか!? 動きを止めてしまった! そんな棒立ちだと絶好の的になってしまうぞ!!」


「疲れちゃった? 疲れちゃったかな? アハハハ。なら終わらせてあげる! カースドラッシュ!」


「……」


「スリザナ選手の作り出す黒の刃がファーマメント選手へと向かっていく!! しかし、動こうとしないファーマメント選手!」


 スリザナはまた黒い霧を出しては、黒の刃を次々と作り出す。その数は先程以上。

 スリザナの周囲に作られた黒の刃が刃先をファーマメントへ向けられると、まるで黒い雨のようにファーマメントへ勢い早く飛んでいく。

 ファーマメントはそれを見ては身動きせず、腰を少し落としては両手を構える。


「……! せいっ!!」


「なっ! 嘘!」


「な、何と言うことでしょうか!! ファーマメント選手! 振りそぞく黒い刃を素手にて全て叩き落としてはさばいております!」


 何本とファーマメントへと向かう黒い刃、それを虫を払いのけるかのように高速に体を動かしては全てを地面に叩きつける。

 まるで金属の様にカシャンカシャンと音を鳴らしては地面に積み重なっていく黒い刃。

 そして、最後の1本を人差し指と中指で掴んでは、地面へと突き刺す。

 スリザナはファーマメントの口元が見えたのか、ニヤリと笑う笑みにバカにされた思いと腹だてる。


「ムッキー!」


 空の上で器用に地団駄を踏むスリザナ。

 そんな彼女を見ては、エンダー国の観戦席にて戦いに、一つ関心を持つ青年がいた。


「ほう……。母上、ご覧ください、中々の見世物になってますよ」


「……。子供の遊びではないか」


「ですが、あいつがあそこまで不機嫌になる顔を見るのも珍しいことですよ」


「興味もないこと……」


 魔王の婦人であるレイリー様は、自身の手に持つグラスを転がしては中に入っている果実酒を見るばかり。

 試合を一瞥しては興味がないとまた視線をグラスへと戻す。

 そんな母の言葉はいつも通りと、目を細めて言葉を返すジョイスだった。


「凄い! ファーマメント選手、魔術士と思えぬ身のこなしで次々と繰り出される攻撃を避け続ける! 変わって常に攻撃を繰り出すスリザナ選手! 黒い刃の次は黒の槍の様な武器を取り出しては襲いかかる!」


「せいっ! やっ! このヤロー! ちょこまかと!」


「まだ高いか……」


 スリザナは黒の靄を出しては、靄から形を変えた槍を作り出し、相手へと次々と投げ続ける。それを避けながら、ボソリと呟くファーマメント。


「槍を投げては攻撃を続けるスリザナ選手! その攻撃を余裕と避けるファーマメント選手! 反撃のチャンスを伺っているのか、ファーマメント選手は攻撃を仕掛けません!」


「ふふっ……ふふふ……アハハハハハ!」


 突然笑い出すスリザナ。

 彼女はまた高く飛び上がり、バサリバサリと翼を動かす。


「もういい! もう準備が整ったわ!」


「如何したのでしょう? スリザナ選手の準備とは一体なんの事を言っているのでしょうか? んんっ! 何と! スリザナ選手が出し、ファーマメント選手が払い除け、避け続けた黒い刃と槍が形を変えていきます!」


「アンタがすばしっこいのは解った。だから逃げられないようにするわ!」


 スリザナは何かを呟きだす。


「こ、これは!黒い武器が次々と形をかえていく! 蛇? いえ、鎖です! 黒い鎖が闘技場を囲んでいます!」


 黒い刃の影は、次々とその形を鎖へと変えていく。

 ジャラジャラと擦り合わせる鎖の金属音を鳴らしては闘技場を包む様に周囲を動き回る。


「もうアンタは逃げられない! いやっ、逃がさないわ! 行けっ、インタングル!」


 スリザナは自身の指先をファーマメントへと向けると、鎖が意思を持った生き物の様に次々と動き出す。


「おおっと! 無数の黒い鎖がファーマメント選手へと襲いかかる!」


「!?」


 襲いかかる鎖を避けようとするが鎖の数が多すぎる。

 太い鎖から細い鎖、様々なサイズの鎖がファーマメントの動く先、動く先へと回り込むように動く。

 そして自身の足がガクリと重みを感じたと思い、その足先を見ると細い細い鎖が自身の足に絡まっていた。

 咄嗟に足を上げて引きちぎろうとするが、動きを止めてしまった瞬間、腕や足、腰にまで鎖が体中を巻き付けてくる。


「アハハハハ! 捕まった! 捕まえた! もう離さない。これで終わり!」


 まるで地面に引っ張られるかのように重みを感じてはガクッと膝をつくファーマメント。

 周囲を確認しているのか、ゆいつ動かせる首を回しては自身の体の動きを止める鎖の根本を確認していると、鎖はまるで元々地面と繋がっていたかのようにピンッと鎖が張る。


「……へー」


「決まった! スリザナ選手の拘束の鎖がファーマメント選手を捕まえた!!! どうするファーマメント選手!? このままやられてしまうのか!? おおっと、今ゆっくりとスリザナ選手が地面に下り立ちました。身動きできないファーマメント選手に何をするのか!? 彼女の手には何やら真っ赤な鎖を手にしているのが見受けられます!」


「決まったぜ! スリザナの勝ちだ!」


「スリザナちゃーん! 最高だぜ!」


 観客席からはスリザナの勝利を喜ぶ声が飛ばされている。それに応えた後、ファーマメントへと向き直す彼女の顔は恍惚の笑みを浮かべていた。


「ハハハ! どーもどーも! さぁ、身動きのできない君には私から愛のこもったドレインチェーンのプレゼントだよ。貴方の魔力、いーっぱい私の中に、チョ、ウ、ダ、イ」


 赤い鎖をファーマメントの首にかけると、彼は一度体をビクリとさせた後に、ゆっくりと顔をうつむかせてしまった。


「はぁぁ……。く、来る、来てる……貴方の魔力が……ああっ……」


 赤い鎖がポワっと光出しては、ファーマメントは苦しむように暴れだし、反対にスリザナは赤い鎖から注ぎ込まれる魔力に、体をいやらしくも悶させている。

 そんな姿を魔石画面に映し出されていることも知らずと、スリザナは恍惚の顔を観客席へと見せていた。

 スリザナを応援する男達はゲヘヘといやらしくもヨダレをだし、周囲の観客もそんな彼女の顔を画面越しとは言え、自身も頬を染めてしまう恥ずかしさの思いである。

 因みに、アイシャの隣に座るギーラは孫の視線を自身の手でかくし、マーサはアイシャの耳を塞いでいた。


「何と! スリザナ選手は、ファーマメント選手の魔力をどうやらあの赤い鎖にて吸取っているようです! 魔術士であるファーマメント選手、魔力を吸われ枯渇となってしまったら終わりだ!! 凄い! 相手を倒す方法にこの様な策を取るとは! ファーマメント選手、鎖に縛られ全く抵抗できない! まさに見た目通り、なされるがままの状態です!!」


「ふ、ふふふ。ど、どう、降参しても良いわよ……。で、でもね、たとえ貴方が降参しても、魔力はた、たっぷりと頂くけど……ひゃん! (な、何この魔力……す、凄く濃ゆい)」


「……」


 スリザナはハァ……ハァ……と、息を荒くしながら、やっとファーマメントが項垂れるように動きを止めた事にニヤリとほくそ笑む。


「そ、そろそろ貴方の魔力も空っぽかしら? そ、そのせいで喋れないのかしらね……。そうだわ。折角だし、あなたの顔でも見てあげようかしら」


 項垂れるファーマメントに近づくように足を勧めるスリザナ。

 その時、動きを止めていたファーマメントが、自身の首に巻かれた赤い鎖に手をかけた。


「……魔力が欲しければ、タップリとあげますよ」


 相手がボソリと呟いたことに、ビクリと動きを止めるスリザナ。


「なっ! そ、そんな!」


「おーっと! ファーマメント選手、自身の首に巻かれた鎖に手をかけた! 抵抗を見せるのか!」


「う、うそ。ありえない!? インタングルを受けて体を動かすなんて! それよりドレインチェーンに直に触るだな、ふぎゅ!! や、何? 魔力が止まらない……。むしろ流れてくる量が増えた!? 外さないと!」


「おっと。せっかく地面に降りてきてくれたのに、逃がすわけないでしょ」


「フグっ! は、離せ! ひぃ! だ、駄目……。ま、魔力が、魔力が入ってくる……何で? !? アンタいったい何を!?」


「おおっと! ファーマメント選手、自身の首に巻き付いた鎖を引っ張り、スリザナ選手を引き寄せた!! ガッシリとファーマメント選手に掴まれた腕にスリザナ選手抵抗するが、抑えられた腕を解くことができません!」


「ああっ……。駄目、魔力が、あ、溢れ」


「まだまだ」


 赤い鎖を手繰り寄せたファーマメントは、鎖を口に加え、ガシッとスリザナの腰を両手を使っては離さないとわしづかむ。

 

「ひっ! アンタどこ触って! ひゃん……! ダメっ!お、お尻、あ、熱い! お尻から魔力が入ってくる!!  なっ、なんでっ!? ん……っ!やぁ、らめぇ……っ! 魔力が、きもひ、ぃっ! むり、らからあ……ふぁ、あ、あっ!!や、らあぁッ!!まッ……まっでえっ!!! ギぢゃゔゔっ」


「暴れる様に抵抗するスリザナ選手! それを離すまいとファーマメント選手の手がスリザナ選手の体を掴んでは締め付けの攻撃です! 効いている! スリザナ選手に締め付けの攻撃は効果はバツグンだ! これはファーマメント選手の逆転になるのか!!」


 バチバチと赤と黒の光がファーマメントの体を包み更に魔力を吸い出していく。

 スリザナはそれを解除するにも、急激に自身の体に入ってくる魔力に当てられ体をビクビクと痙攣させ始めていた。


「くそっ! は、はにゃせ!」


 バチンとスリザナの平手打ちがファーマメントの頬を殴ったのか、咄嗟に緩んだ腕から逃げ出すことができた。だが、魔力を吸い過ぎ、震える足に彼女は全く足に力が入らなかった。

 離れた瞬間、スリザナはドテンッと尻もちをついてしまい恥ずかしい格好に。羞恥に襲われながらも一先ずドレインチェーンを解除し、自身の中の溜まった魔力を捨てるためにと一気に魔力を流しだすスリザナ。

 

「くっ! よくも私に恥ずかしいマネを! 八つ裂きにしてやる!」


 インタングルにて身動きできないファーマメントに向かって、彼女は尻もちをついたままの体勢にて、カースドラッシュをまた繰り出そうとする。


「アハハハハ! あんたの魔力! あんたに返してあげる!」


 バキンッ


「えっ?」


 バギッ、バギンッ、ガシャン!


 両手の手根を合わせ、相手に向かってカースドラッシュの狙いを定めたその時だった。

 ファーマメントは自身の腕に繋がれたインタングルを、まるで金属を壊す音を出しながら次々と外し始めた。


「嘘っ!?」


「なっ、なんと!! ファーマメント選手! 黒い鎖をブチブチと引きちぎった! もう彼を縛るものはありません!」


「な、なんで! インタングルは魔力で作った物よ! 力任せで壊せる物なんかじゃないのに!」


 スリザナは目を見開いては、目の前で見せられた現実にぽかんと口を開く。

 


「……次はこっちの番」


「くっ! 不味い!」


 咄嗟に髪の毛を翼の形にしては、空へと飛び出すスリザナ。

 だが、ファーマメントはそれをさせぬと、高くジャンプしてはスリザナへと近づく。

 彼は彼女の翼を手で抑えては、何やら鋭利な刃物の様な物でスパッとスリザナの髪の毛を斬ってしまった。


「きゃ!」


 魔力を吸い過ぎた為に咄嗟に体を動かすことができないスリザナ。

 このままでは闘技場に危険な落ち方をしてしまう。

 

「くっ!」


「危ない! スリザナ選手!」


 実況者の声が響く中、息を呑む観客席。


「!? えっ……」


 スリザナは自身の落下していく感覚がピタリと止まったことに、驚きゆっくりと目を開く。

 すると対戦相手のファーマメントが、自身をお姫様抱っこと抱えた状態に闘技場へと着地していた。


「おおっと! ファーマメント選手! 落下していくスリザナ選手を空中でキャッチした!!」


「アンタ……(こ、こんな奴に私がときめくなんて)」


 彼女は相手のローブの中の笑みが見えたのか、スリザナは乙女のように胸ときめかせ、無意識と両腕をファーマメントへと回そうとしていた。


 だが。


「パラライズ……」


「へっ? ふぎゃっ!」

 

 恋愛小説の様な流れもなく。ファーマメントは自身の腕の中にいるスリザナへと麻痺攻撃を繰り出す。

 ファーマメントの腕の中で大きくビクリと体を一度痙攣させて気を失うスリザナ。

 彼女をそっと地面に寝かせては、審判を呼ぶ仕草を取る。

 それに気づいた審判。闘技場へと上り、駆け寄りスリザナの状態を確認する。


「おっと! どうしたのでしょうか!? スリザナ選手、動きません!? あああっと! 今審判が試合終了を告げました!! 五回戦、勝者はファーマメント選手です!!」


 実況者の声が響き、時が動き出したかのように声を張り上げる観客席。スリザナを応援する観客席の男達は、スリザナが負けたこと、大金叩いて大負けしたことに、大粒の涙を流しながら震えている。


「スリザナちゃ~ん!!!」


「スリザナ!!! 負けちまったけど、俺の心ではオメェが一番の優勝者だぜ!!」 


「スーリザナ! スーリザナ! スーリザナ!」


 未だ気絶する彼女へと、観客席の男達からはスリザナコール。

 そんなことは気にしないと、そそくさとその場を離れるファーマメントだった。


 観戦席にて。


「は~、凄え試合だったっての」


「マネ、感心してる場合じゃ無いよ! 次はアネさんの番だシ! マネもしっかり応援するシ!」


「あたぼうっての!」


 次の試合、6回戦はシューとマネ、そしてエクレアの姉であるヘキドナの戦い。

 二人はかなりの気合を入れ、応援する気持ちは周囲の視線など、全く気にしない程だ。

 だが、気にしないのは二人だけで、応援されるヘキドナは勿論、側にいるエクレアも二人の過剰な応援に羞恥に晒されている。


「……。はぁ……。二人とも、お願いだからさ、大声出してまでリーダーを応援しないでよ」


「何言ってるシ!」


「そうだぜエクレア。姉さんにはあたい達の応援が力になるんだっての!」


「いや、逆に力削いじゃってるし……。兎に角! リーダーからも言われてるの! 応援は嬉しいけど、あんまり大声で応援されると戦いに集中できないってね! いいね!? リーダーを応援する気持ちがあるなら声を出しちゃ駄目だからね!」


「そんなの無茶だシ。声を出さずに応援って」


「でもよ、戦いに集中したいって姉さんが言うなら……」


「仕方ないシ」


「そうそう、皆で心の中で応援しましょう!(ふー。助かったー。リーダーに強く言われてる分、二人に騒がれたら後々怒られるの私だからね)」


 胸をなでおろしているエクレアの隣にて、二人は何やら話し合っては席を離れるマネとシュー。

 何処に行ったのか、試合が始まるまでにトイレにでも行ったのだろうとエクレアは気にすることもしなかった。


 少し時間が経ち、間もなく試合が始まろうとする時、やっと二人が戻ってきた。

 だが、二人が戻ってきた時には、マネは大きな樽を抱えている。

 マネがその場に樽を置くと、シューは中をゴソゴソと様々なものを取り出し始めた。


「……。二人とも、何それ……」


「おう! これで姉さんを応援するっての!」


「はい、これエクレアの分ね」


「えっ……?」


 意味も解らずシューから少盾を2つ渡されたエクレア。


「出てきたっての!」


「まだだシ! あれはアネさんの対戦相手だシ」


「さー、間もなく始まります6回戦です! 先ず闘技場へと向かいますは兎人族のハニー選手! その容姿は可愛らしい姿ですが、その蹴りは選手を場外へと突き出す程の強さであります!」


「ハニー! 可愛いぞーー!」


「どうもどうも~。頑張るピョンよ~!」


 彼女が入場すると、また男性の声援の声が多く目立ち、先程までスリザナの負けに涙していた男達もニコニコとハニーを応援し始めていた。

 


「続きまして、ハニー選手の対戦相手、ヘキドナ選手の入場です!」


 ヘキドナが入場し、姿を見せると、打って変わって今度は女性の声援が響いてくる。


「ヘキドナさーん!」


「素敵です!」


 自身に浴びる声援も気にしないと、愛想を振りまくこともしないヘキドナ。そんな彼女の態度でも観客席の女性達は何故か凛々しさや秘めたカリスマ性を感じ、更に声援の声が増えていく。


「さっさと終わらせようかね……。(んっ? えっ……。あいつら、何を持ってんだ……?)」


 ヘキドナが観戦席へと視線を向けると、妹である三人の姿を見つける。観戦席に不似合いな樽を前にマネとシューがニコニコと笑っている姿に、彼女は目を細め嫌な予感と心に思っては、たらりと汗を流す。


「来たし! マネ!」


「おうさ!」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 ガシャーン! ガシャーン! ガシャーン!


「なっ!?」


 突然マネは樽を棍棒の様な物で叩き出しては大きな音を出し始め、シューも自身の手に持つ少盾を叩き合わせてはこちらも音を出し始める。

 周囲の歓声の声も打ち消す音に、実況者の意識もそちらへと行ってしまう。 


「おおっと! 観客席から何やら凄い音が鳴っております! 何事でしょうか!? んんっ? どうやら、ヘキドナ選手の応援の皆さんでしょうか? 凄い! 大きな樽を叩き音を出し、あれは盾でしょうか? 二つを合わせてはこれまた凄い音を出しております! ですが、当のお二人からは声援の声がありません? これもヘキドナ選手への応援なのでしょうか?」


 魔石画面に映し出される二人の姿。

 彼女達は声を出してはいけないと言われ、ならばどうするかと考えた上で、今、声を殺しては激しく腕を動かし、自身の姉を応援する気持ちに後押しの効果音を出し続けている。

 何故その考えに当たったのか……。

 棒立ちに二人の応援の演奏? に唖然と見続けるエクレアだった。 


「ほら! エクレアも叩くシ! アネさんの応援するシ!」


「うおおぉぉぉ! 姉さん! あたいは姉さんの戦いが終わるまで死ぬ気で叩くっての!!」


「……ははっ……もう嫌だぁ……(ごめんねリーダー)」


「勘弁してくれ……」


 二人の行動に周囲にいる観客も驚きと唖然に言葉を失う。マネの行動に、リッケもあははと苦笑いをするしかなかった。


 この時二人が作り出した即席の楽器。ティンパニとハンドシンバルの様な物がダニエル様の目に止まり、次回の武道大会では演出のためにと、生産されることは後の話であった。


 ドンドン、ガシャガシャと音が響く武道大会。

 その音が応援に丁度いいのか、ヘキドナとハニー共に応援の声が更に増えていくのだった。


「ヘーキドナッ! ヘーキドナッ! ヘーキドナッ!」


「ハーニーイッ! ハーニーイッ! ハーニーイッ!」 


「凄い! 試合開始前に既に観客はヒートアップ! 闘技場をヘキドナ選手とハニー選手の応援合戦だ!! 応援に応えてくれるのか二人の選手!? 今、二人の選手が向き合います!」


 周囲の歓声の声に混じる音を聞きながら、顔を赤らめ闘技場へと上るヘキドナ。

 手で顔を抑え、まさに顔から火が出る思いと言う気持ちだろう。


「あはは……。凄い応援だね……。あれ、あなたの知り合い?」


「すまない。あんたにもとばっちりみたいになっちまって」


「いやいや、ウチは応援されるのは嬉しいピョン。気にしなくてもいいピョンよ」


「そうかい。でも、私はそんな気分でもないからね……。悪いけど、早めに片付けるよ……」


「……。解ったピョン。ウチも最初から本気で行くピョンよ」


 先程までの羞恥心は何処へやら。

 ハニーを見るヘキドナの目は、まるで獲物を狙う猛禽類の如く鋭い視線を彼女へと送っていた。

 ハニーもゴクリと一度唾を飲み、何とか笑みを作ってはヘキドナの挑戦を受け、戦うことにした。


「さー! 両者とも踵を返しては立ち位置へと立ちます! 本日一番のこの歓声の声の中! いったい何方が勝者となるのか! 今、審判の開始の声がかけられます!」


「姉さん! 頑張って!」


「アネさん!」


「リーダー!」


(全く、そんな顔してんじゃないよ……。解ってる……)


 ヘキドナは一度視線をマネ達へと送ると、フンッと1つ鼻を鳴らす。自身の武器である鞭を取り出しては、審判の声のタイミングを合わせて大きくその腕を振り上げる。

 

「それでは! 始め!」



 ヘキドナの持つ鞭は、相手に合わせて長さを変えている。今回使うのは、長さ4メートルと長めの獲物を使い戦うようだ。

 半円をえがいた鞭は、真っ直ぐにハニーへと向かっていく。

 

「セイッ!」


「フンッ……」


 真っ直ぐに自身に向かってくる鞭の先を、ハニーはタイミングを合わせてはバク転をしながら蹴り返す。 

 ヘキドナは間を置かずと手首のスナップを聞かせては、鞭を蛇の様に扱いもう一度ハニーへと攻撃を仕掛けた。

 だが、鞭の動きを見切ってはハニーは攻撃を避け、すぐ様地面を叩いた鞭を踏みつける。


「ちっ!」


「行くピョン!」


 相手に武器を使わせないと、鞭を踏みながらハニーはヘキドナへと走り出す。

 それをさせぬと、ハニーの踏む鞭をヘキドナはグッと引っ張り、ハニーを上空へと放り投げる。


「ハニー選手、大きく空に舞い上がる! 綺麗なバク転を空中で描いては地面へと着地した! おおっと!! ヘキドナ選手の鞭が見えない速度に地面を叩く! 闘技場の地面から、ビシビシと鞭を叩く音が聞こえてきます!」


「その可愛い顔に傷をつけたくなければ、さっさと闘技場から下りな!」


「来いピョン!」


「ヘキドナ選手、ハニー選手へと駆け出した! 迫る鞭の攻撃! ハニー選手、どうするのか!?」


「何っ!?」


 ハニーは自身の顔を守る様に腕をクロスさせてはそのまま真っ直ぐに進み、ヘキドナの振り回す鞭の攻撃を受ける。


「なっ!? なんと! ハニー選手! 鞭の攻撃をあえて受けてヘキドナ選手の懐へ潜り込んだ!!」


「あんた!?」


「へへっ。やっぱり痛いピョンね。でも、ここならウチの攻撃も当たるピョン!」


 鞭を手元に戻すためと、ヘキドナは腕を振り上げた瞬間、ハニーはその空きを狙いヘキドナの懐へと近づくことができた。

 そして、反撃が来る前にと、ハニーは得意の足を使かい、ヘキドナの両腕を包み、ヘキドナの体を押さえつける。

 

「ちっ!」


「あああっと!! ハニー選手! 両足を使い、ヘキドナ選手の胴体に捕まる! 体重をかけられ、のしかかられたヘキドナ選手、おもわず背中から倒れてしまった!! ハニー選手、ヘキドナ選手からマウントポジションを取ったぞ!!!」


「姉さん! いけない! 離れるっての!」


「駄目! 相手の足がガッシリとリーダーを掴んでる!」


「アネさん!!」


 ヘキドナのピンチにおもわず声を出す三人。


「ちっ! 女に襲われる趣味は無いんだけどね!」


「ウチもそんな趣味は無いピョン!」


 ハニーはヘキドナに馬乗り状態になったまま、そのまま自身の拳をヘキドナの顔面へと突き立てる。


「ぐはっ! てめぇ……」


「ここで決めるピョン!」


 もろに一撃を食らったヘキドナは、一瞬意識が飛びそうになったが直ぐに持ち直す。腕の二の腕はハニーの足に抑えられた為に全く動かすことができない。

 少しでもダメージを減らそうと首を下げるが、ハニーのパンチのラッシュを次々と喰らい続けてしまう。


「ハニー選手、ヘキドナ選手を下敷きにして拳での連続攻撃だ!! 体を抑えられたヘキドナ選手、抜け出せません! ハニー選手の攻撃をガードすることもできません!!」


「アネさん! 逃げるし!」


「姉さん! しっかり頭を守って!」


「リーダー!!」


 ガスッ! ガスッ! ガスッ!


 ヘキドナを逃すまいと、自身の自慢の足で抑え、腰を小刻みに動かしてはヘキドナへと左右のパンチをくりだすハニー。


「セイッ! セイッ! セイッ!」


「くっ……! いい加減にしな!」


 攻撃を受け続け、耐えるヘキドナ。

 ハニーが攻撃を繰り出す際、少しだけ前かがみになる瞬間を狙って、ヘキドナは思いっきり頭を振り、ハニーへとヘッドバットをくりだす。


「ぐふっ!」

 

 思わぬ攻撃にハニーは対処ができず、顔面へともろにヘキドナのヘッドバットを食らってしまい、思わず足の力を緩めてしまった。


「おおおお! ヘキドナ選手、ハニー選手へと頭突きの攻撃だ! ハニー選手、顔にもろに食らってしまったか!? 何とか抜け出したヘキドナ選手もダメージがあるのか、立ち上がりがおぼつきません!!」


「くっ……。よくもやったピョンね!」


「へっ! それはお互い様だよ!!」


「!?」


 一瞬の暇を狙ったのだろう。

 ヘキドナはノンアクションにて鞭を動かし、ハニーの左足へと鞭を絡めて、彼女の足の動きを止めた。

 それと同時に、ヘキドナはふらつく頭に気合を入れ、両手に鞭のグリップを持っては、鞭を一気に引っ張り、ハニーを引き寄せ、自身を中心にブンブンと振り回し始めた。


「上手い! ヘキドナ選手、鞭をハニー選手の足に巻きつけた! そのままハニー選手を振り回す!! 回る回る! ハニー選手凄い勢いに回っております」


「うおおぉぉぉ! セヤッー!!」


「うわぁぁぁぁー!」


 ハニーの足に絡みつく鞭は振り回すたびに、彼女の足に食い込み、ギチギチと彼女の関節にもダメージを与える効果を出していた。

 フッとヘキドナが鞭を振ると、鞭の縛りが緩んだのか、放り投げられる感じとハニーは場外の方へと飛んでいく。


「ハニー選手、場外に放り投げられた!!! 審判がカウントを取るため、今駆け寄ります!」


 地面に上手く受け身も取れずに着地するハニー。

 ゴロゴロと地面を転がり、砂煙を出しながらもハニーの体が止まる。

 駆け寄る審判。

 直ぐにカウントを取り始める。


「カウントを取ります! アインツ! ツヴァ……」


「必要無いピョン!!」


 声を出し、審判のカウントを止めるハニー。

 言葉通りと彼女は直ぐに立ち上がると、闘技場へと上った。


「立ち上がりました! ハニー選手、飛ばされたダメージが無いのか、カウントを止めては闘技場に戻ってきた!!」


「ハニー! お前はまだ行けるぞ!!!」


「ヘキドナさん! 頑張って!!」


「両者の戦いに、観客席からの応援の声にも力が入っております!」


「ふー……。もう、折角の服が土で汚れたピョン。次の試合の前に着替えとかないと……」


 パタパタと自身の衣服に付いた土を払うハニー。

 


「安心しな……。次の試合には私が出るからさ……」


「ウサ……」


「フンッ……」


「行った!! ハニー選手、またヘキドナ選手へと接近戦の攻撃を仕掛けます! ヘキドナ選手、近づかせないと先ほどよりも鞭をさばく攻撃スピードを上げた!! 早い早い! 両者の攻防に追加の火がついたようです!!」


 ハニーは自身の得意とする足蹴りをくりだす。

 その一撃一撃はとても重く、そして早い蹴り技。

 だが、足を鞭で絡めとられ、ブンブンと振り回された際、ハニーは足の関節を痛めてしまっていた。

 その時のダメージがハニーの足の攻撃の動きを鈍らせる。そして、足を戻すタイミングが遅れ、ヘキドナはそのチャンスとハニーの足を払う。


「貰った!」


 ハニーの足をぐっと視線からどかして、彼女の懐へと潜り込む。ヘキドナは自身の手に持つ鞭のグリップを強く握りしめて、ハニーの腹部へと強く突き刺した。


「入った!! ヘキドナ選手、ハニー選手の連続蹴り攻撃を払い除けては相手の腹部へと攻撃が決まった!!!」


「ゴハッ! オエッ……。ぐっ……」


「溝打ちとなったのか!? ハニー選手、苦しみに悶ております!! ヘキドナ選手、追い打ちとハニー選手の首を鞭で締め付ける!!」


 腹部に衝撃を受けたことに、頭を下げて前のめりになったハニーの首へとすかさず鞭を回す。咄嗟に首と鞭の間に指を入れるも、ヘキドナは体重を入れて鞭を締め付ける力をこめ、一気に勝負をかけた。


「ぐっ……くっ、あっ、あ……っ……」


「ハニー選手! 降参しますか!?」


「ぐっ……うっ……うっ……」


 ギチギチと鞭の締まる音が聞こえ、審判の言葉も薄っすらと途切れる意識野中、ハニーは目尻に涙を浮かべながらも、小さくコクリと頷いた。


「ストップ! ヘキドナ選手、放して下さい!」


「決まりました! スピード決着と、二人の勝負に幕が降ろされます! ハニー選手の降参宣言にて、今、勝負が決まった!!! 6回戦、勝者はヘキドナ選手です!」


「「「ヤッター!!」」」


 姉の勝利と、素直に喜ぶマネ達。

 そんな三人を見ることもできず、戦いに疲弊してしまっているヘキドナ。


「はぁ……はぁ……はぁ……。くっそっ……。これだから対人戦は嫌いなんだ」


 自身の口から出てくる血を手で拭い、荒い息のまま闘技場を下りるヘキドナ。


「ゴホッゴホッ! ゴホッ……」


「ハニー選手、ゆっくり呼吸して、ゆっくりと」


「はぁ……はぁ……。はぁ~。負けたピョン……。ちくしょう! ちくしょう! 次は負けないピョン! また、いつかウチと戦うピョンよ!!」


 目尻に涙を流し、悔しさを殺して声を出しながらも、へキドナへと再戦の言葉を飛ばすハニーだった。

 ヘキドナはその言葉に振り返りもせず、軽く手を上げては横に振り、ボソリと言葉を返した。


「お断りだね……」

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