第80話 驚きの一日。

「フハハハハ。これは愉快愉快。君達は初の洞窟探索で8階層まで行けたのか」


 談話室へと戻ってきたダニエル様達は、お茶を飲みながら、プルン、リッケ、リッコの三人から洞窟内の話を聞いていた。


「は、はい。大変でしたけど、ミツ君がいてくれたおかげです」


 領主様と婦人の二人を前に、リッケは緊張しながらもたどたどしく話を続けていた。


「しかし、洞窟内でデビルオークが出るとは……。しかも彼が単独での討伐」


「ふふっ、話を聞くだけでも、彼を洞窟に向かわせたのは正解でしたわね。……今なら先程の話も、旦那様の様に笑い話として聞くこともできますけど……」


「ふむ……」


「「……」」


 エマンダ様の言葉に、ふっと笑いを止め、自身の顎を手でなぞるダニエル様。


「ニャ? 領主様、どうしたニャ?」


「ああ、すまん……。もし彼が洞窟に行かなかったとしたら、洞窟内を考えると悲惨な状態と化していたと思うとな……」


「ニャ……。確かにニャ……」


 ダニエル様の言葉に、皆は最悪の事態になるかもしれなかった洞窟での出来事に、改めてゾクリと身を震わせていた。


 コンコン、コンコン


「お母様、ミアですわ。こちらにプルン様はいらっしゃいますか?」


 場の沈黙を破るように、ドアをノックする音の後、ミアの声が聞こえてきた。


「あら、ミア、入ってきなさい。プルンさんならいらっしゃいますよ」


「失礼します。あら? お父様もいらっしゃったのですね」


 部屋に入ってきたミアは軽く頭を下げた後、自身の母やプルン達だけではなく、父のダニエル様が居ることに軽く驚き、ミアは言葉を繋げた。

 娘のそっけない言葉に、少しだけ眉を下げてしまうダニエル様。思春期の娘だけに、最近はミアは父に対してはこうした対応が目立つようになっている。

 どんまい、ダニエル様。


「う、うむ。随分と早い戻りだったな、ミア」


「ミア様、どこに行ってたニャ?」


「ミアには、他貴族のほうに連絡として出したのですよ。大会も近いことですからね。近隣諸国の貴族が少しづつですが、このライアングルの街に来てます。そのまま使いを出すより、娘には社交の勉強を兼ねて、私からの連絡を来客の方々に渡してもらってきましたの。さて、ミア、問題はありませんでしたか?」


「はい、お誘い自体それ程強引ではなかったので、渡す物を渡して戻って来れましたわ」


「そうですか、ご苦労様です」


 その後、ラルスとリックが着替えて部屋に戻って来たタイミングに、ロキア君を連れてセルフィ様とゼクスさんも談話室にと合流。


 リック達は、洞窟内での話を面白可笑しく話している。話を聞いたラルスとミアは唖然とした表情になっていたが、セルフィ様は話を聞いて興味が湧き、それでそれでや、どうなったのなどの、自身からリック達へと質問を続けていた。

 先程リッコ達がダニエル様達へと話したこと、リックも同じ内容には変わりはないので、ダニエル様達はその時は終始無言であった。

 短い時間だったが、話した内容はダニエル様達を満足させる程に充実した時間であったのだろう。

 気がつけば夕食の時間になり、メイドの女性が食卓へと皆を案内し始めた。


 食卓に入り、主であるダニエル様が長いテーブルの上座となる奥に座り、両サイドに婦人が座り、息子と娘の三人が座った後に、リック達も卓へと着いた。

 ちなみにセルフィ様は勿論ロキア君の隣の席に座っている。



「あれ? ミツはどうしたニャ?」


「そう言えばそうだな?」


「まだ厨房に行ってるのかしら?」


「あの、ミツ君は今どこに?」


「はい……あの、お客様でしたら、今は厨房にて料理長と話しております。恐らく、間もなくこちらに来られるかと」


 リッケが自分の居場所を給仕をしているメイドさんに聞くと、厨房にて何かをしていることを伝えられた。


「何やってんだ、あいつ……」


「ハッハッハッ。料理に関しては気難しいパープルも、彼とは意気投合したのかもしれんな」


 ダニエル様の言葉に、そうですねとクスクスと笑うパメラ様とエマンダ様。


「旦那様。ですが、ミツさんはお客様。いつまでも厨房に居てもらうのも申し訳ないと。私、声をかけてまいります」


「うむ……、まあ、食事が始まる時には卓につくであろう」


 ゼクスさんが厨房にミツを呼びに行くと、ダニエル様に伝えた後、部屋を出る前に厨房から自分が戻ってきた。


「失礼します。すみません、遅くなりました」


「おお、噂をすればなんとやら。さっ、君も席につきなさい」


「はい」


 ゼクスさんがテーブル席の椅子を引いてくれたころに座り、ダニエル様がお酒の入ったゴブレットを手に取ったことに皆も同じく手に取る。

 ちなみに中身はダニエル様以外、皆果樹のジュースである。



「では、皆が揃ったところで乾杯とするか」


「あなた、明日のことも考えて、お酒は程々にしてくださいね」


「……うむ」


 パメラ様の言葉に、少し声を抑えるダニエル様。

 抑えるのは声じゃなくてお酒ですからね。


 食事は一般的な家庭料理と思えるほどに、極々普通の品が出てきた。貴族だからと言って毎日がご馳走三昧なわけがない。フロールス家では普段パンとスープ、そしておかずが一品付く程度に質素と言うか、守銭な食生活である。

 本日は自分達が訪問したことに特別として、肉料理であろうか、酸味の効いたソースにシッカリと焼いた赤身肉をおかずとして出してくれたようだ。

 突然の訪問にまさか晩餐までご厄介になるとは思ってもいなかったので、リック達は改めてダニエル様達に感謝と礼を述べていた。

  

「それで、パープル。レシピは問題なく覚えましたか?」


「は、はい奥様……。レシピは問題ありませんでした……」


「……どうされましたか?」


 パープルさんの返答が少し戸惑った感じに聞こえたのか、パメラ様は何かあったのかと質問をかけた。


「はい、実は……。ミツさんから教えていただいたレシピ。プリンと言う菓子なのですが、屋敷に無い材料がありまして。それで、前夜祭に出すプリンの材料は、今回ミツさんから譲っていただくことに……」


 パープルさんの言った材料とは、乾燥させたミーミットとチョコ味に使うチョコレート、もしくはココアパウダーである。

 チョコレート自体はなくても問題はないのだが、プリンの決め手となるミーミットは、やはりパープルさんの欲しい物。

 ミーミットの中身である豆をさやから取り出し、屋敷には豆のみを保管している物はあったが、バニラビーンズの様に甘い香りを出すには、さやごと乾燥させないと行けないことが鑑定にて解っていた。

 乾燥と言っても、ミーミットの水分が全て抜け切るには数日の日数が必要となってしまう。

 前夜祭がもう数日後ということを考えると、乾燥までに間に合わないのは明らかであった。

 相手が同じ貴族なら、またの機会にと流せるのだが、フロールス家に来るのは多くの著名人であり、王族もいらっしゃる。

 パープルさんのお願いでもあったので、練習用も含めたバニラビーンズをパープルさんへと渡しておいたのだ。


「あら。それではミツさんの手持ちが減ってしまうのでは? よろしいのですか?」


「ええ、問題ありませんよ。足りなかった材料はほんの少しですからね。それに、パープルさん達もプリンを気に入ってくれたようなので、今から別のお菓子に変更というのも酷でしょうし」


「すまないね、本当に助かるよ」


「いえいえ」


 材料を分けることにした後、パープルさんは厨房でも何度も感謝の言葉を言ってきた。


「ねえ、パープル。食後のデザートはそのプリンよね!」


「はい、セルフィ様。ミツさんのご協力にて、また一つ上、更なる菓子を出せることができますよ。きっとセルフィ様も気に入っていただける品かと思います」


「本当に! ヤッタ! なら、私のは大盛りでお願いするわ!」


「セルフィ……。貴女って人は……」


「だ~か~ら~。パメラ様、私はエルフですよ~」


「セルフィさんはエルフだよねー!」


「ねー!」


 やれやれと軽く頭を振るパメラ様の横では、仲良く話すロキア君とセルフィ様。

 もう、菓子の準備が終わっているので、セルフィ様の大盛りでの希望は食べ終わった後におかわりをしてもらうことになった。 


 メイドさん数人が手に持ち、一人一人の前に食後の菓子となる物を目の前に並べていく。


「おお。これは美しい……」


「まあ、まるで芸術品ではありませんか」


「ほう……。果実で飾り付けか。それで、パープル、プリンと言う菓子はこれか?」


「左様ですラルス様」


 みなの前に出された食後の菓子。

 プリンをメインとして様々な果物をアクセントとして備えている。

 果物自体、そのまま切って並べるだけでは味気ないので、全て飾り切りを施している。

 リンゴなどでウサギの様に皮を耳に例える切り方、あんな感じだ。


「可愛らしいですね。……あら? この白いのはケーキなどに使われてる物かしら?」


「ミアちゃんの言ったとおり、これは砂糖で作るクリームね。随分と変わったじゃない。さっきの小さい入れ物に入れてたのより、これは豪華に見えるわ。ん~、凄く美味しそう!」


「パープル、わずかな時間にて、この菓子を作り上げた技量。素晴らしいですわね」


「いえ、奥様。目の前の菓子は、ミツさんにお教え頂いた物にございます」


「ニャ! ミツが作ったニャ?」


「いや、皆の出す分はパープルさん達が作ったよ。自分は作り方を教えただけ」


「さあ、皆様、お食べください、プリンを使ったプリンアラモードでございます」


 自分が厨房にてパープルさん達と一緒に作った食後のデザート、プリンアラモードである。

 プリンを皿の真ん中に置き、その上にキャラメルソースをかけ、その上に真っ白なクリームを乗せてはサクランボに似た果実を乗せる。

 周りに飾り切りを施したオレンジやリンゴ、バナナやブドウなどの果物に似た果実を見た目よく飾り付ける。

 本当はガラスの入れ物が更に見栄えが良くなるのだが、人数分のガラス皿が無いので今回は白に近い皿を使うことに。


 ダニエル様が匙を手に、プリンアラモードを一口パクリ。砂糖の甘さにプラスして、乳のうま味と果物の酸味がマッチした味に、ダニエル様の頬は本人の意志とは関係なしに上がっていく。


 

「うむ! 美味い! 先程食べたプリン単体でも美味かったが、これはまた別格! 乳のまろやかさに、砂糖の甘さ、果実の香りが俺の口の中は美しいハーモニーを奏でているようだ! 一口目で感動、二口目はまた味わえたことに喜びに、また食せば口に幸せが広がる!」


「父上。甘さだけではありません! このプリンの上にかかっているソースからは苦味と甘み、まるで厳しくも物事を教える母上の様な優しさが伝わってきます!」


「お兄様、私にも解ります。プリンだけでは甘過ぎる、けれどもこのソースやクリーム、または果物と一緒に食べるとまるで全てが一体。家族のような愛に包まれてますわ」


 ダニエル様に続いて、ラルスとミアが食レポのような感想を述べ始めたことに驚いたが、別に皆の服が破けるような出来事がないので良かった。

 プルン達も、プリンアラモードを食べては美味い美味いと絶賛して喜んでくれた。

 味の評価は問題なかったことに、パープルさんはセルフィ様のおかわりを作るためにと厨房へと戻っていった。

 食後も皆は今日あったことを楽しそうに話し、楽しい時間が過ぎていった。

 また少しして、食後の運動とミアはプルンと勝負の約束と訓練所へと行くことに。

 それを観戦すると、セルフィ様、ラルス、ロキア君、リッケ、リッコはまた西の訓練所へと移動を始めた。


 自分はダニエル様と話もあったので、パメラ様、エマンダ様とゼクスさんの、また以前あったような話場ができていた。


「すまんな、君も彼女達の勝負が見たかっただろ」


「ははっ、結果は後でプルンに教えてもらいますから大丈夫ですよ」


「そうか……」


 紅茶の入ったカップをくちに当て、ハーブの聞いた飲み物をコクリと一口。

 日も置かずして、間もなく武道大会が始まる。

 その際、フロールス家では王族を招いての前夜祭がある話を聞いた。その前夜祭がどんなものなのかを軽い談笑程度にダニエル様達は話してくれる。


 王族が来るのは毎回のことで、今回は王族は第三王子のみが参加するそうだ。だが、今回は特別として王宮神殿から巫女様のご訪問のこと。

 王族が来るだけでも気が重いと言うのに、巫女様の護衛や部屋の割り振り、または初めてのご訪問と言うことに、今後もご参加されるとなるとダニエル様は胃が締め付けられる思いだそうだ。話す時は常に苦笑いだけに本当にきついんだろうな。

 ゼクスさんが渡した水の入ったコップを、ダニエル様はごくごくと飲み干す程に……。

 これ以上、旦那である気苦労を自分に聞かせるのは申し訳ないと、話を変えるエマンダ様。



「そう言えば、ミツさんは洞窟ではどのような戦いをされてましたか? 話ではデビルオークやリッチも討伐したようですね……」


(あら? リッコ達、ダニエル様達に話しちゃったのか。ネーザンさんからデビルオークのことは黙っといてと言われたのに……。まぁ、相手が領主様ならいずれ耳に入るか……)


「おっ。そうだ、その話も聞きたかったんだよ。プルン君からも聞いたが、デビルオークの時はかなり無茶もしたみたいじゃないか? あまり女性を怒らせ……ゴホン……泣かせるものではないぞ?」


 ダニエル様は一つ咳払いをして途中言葉を変えた。

 その視線はパメラ様とエマンダ様の両方を見た後だけに、この三人の間で何かあったのだろう。

 


「ははっ……。確かに、後に皆と合流したときには凄く怒られましたけど」


「ホッホッホッ。ミツさん、男を見せましたね」


「いえいえ」


 ゼクスさんが自分の持つ空になったカップにお茶を注ぎながらも、言葉をかけてくれた。


「デビルオークですか……。私も戦ったことはございますが、あれは確かに相手の攻撃パターンを読めば倒すのは問題ありませんね。ですが、それまでにあの大きな巨体にやられるものが出てしまいますから、その時のミツさんの判断は間違いでもないですね」


「流石ゼクスさん、元シルバーランク冒険者ですね。デビルオークも倒せるとは」


「ホッホッホッ。……ミツさん。シルバーランクであった現役時代の私でも、デビルオークと一対一の戦いは不可能ですぞ」


「えっ?」


 ゼクスさんの言葉に、一瞬だけその場が静寂に満ちたような空気になった。自分はパチパチと何度か目を瞬かせ、視線をお茶の入ったコップへと戻した。


「通常あれはグラスランク冒険者が3パーティーは作らないと倒せないモンスターです。シルバーであっても、そうですね……最低3人は必要なモンスターですぞ」


「へっ、へ~。そ、そうなんですね……」


 ゼクスさんはニコニコと、笑顔にデビルオークの戦闘の難しさを語り続けた。


「ミツさん、もう一つつけくわえるのなら、リッチの討伐には、魔道士が一個小隊は必要と言われてますよ」


「……んっ? えっ、あれがですか?」


 ゼクスさんの思わぬ言葉に、リッチを討伐した時の状況を思い出していた。


「ホッホッホッ。魔法では脅威と言われているリッチが、ミツさんにとってはあれですか」


「いやいや、リッチはあっさりと倒せましたよ?」


「ほう、どうやって?」


「それは……。あ~、んー。まあ、不意をついてですね。リッチは魔法が強いのは自分も知ってましたから(ゲームの中だけど)魔法を使わせる前に倒しましたよ」


 武道大会では、ゼクスさんとも戦うことを後に考えると〈煙幕〉などの使える手は隠しときたかったので、なんとなくで答えを返した。

 事実を述べるなら、煙幕スキルを使ってリッチの視界を消して、傀儡スキルにて先に倒したメイジを操り、そして操ったメイジでリッチを捕縛。

 最後はリッチの魔力を枯渇まで吸い尽くしたなんて言っても、信じてもらえるか微妙なのだ。

 よくよく考えると、自分は常識外れな戦闘をしたんだなとつくづく思うよ。


「なるほど……。ならデビルオークは?」


「ん~。確か……。相手の攻撃を避け続けて、毛むくじゃらの一部を凍らせて、その部分に風球当てて倒しましたね」


「ホッホッホッ。風球とは、あの地面を破壊する程の技ですね」


「そうですよ、でも、以前お見せしたときよりも威力も上がりましたからね。その効果もあったのかもしれません」


「わたくしも話を聴いて驚いたのですが、試しの洞窟は初挑戦の五人で、セーフエリアのある8階層まで降りられたそうですね。それもまるで洞窟内の道順が解るかのように、ミツさんが先導したことに2日でたどり着いたと……。わたくし、更に驚きましたわ」


「ははっ、道はスキルで解りましたからね」


「ふふっ。素晴らしいスキルをお持ちですね。ミツさんは旅人でしたから、そのスキルがあれば道に迷うこともないのでしょうね……」


 プルン達が何処までダニエル様達に話したのか解らないので、三人の質問に答える程度に返答することにしといた。まぁ、今更何を隠すこともないので聞かれたら答えるけど、聞かれてないことを話すこともないと自分は思っていた。

 お話とかに出てくる悪い貴族なら、自分のスキルを自身の利益の為にと使わせようとするのだろうが、ダニエル様達からはそう言った欲を求めた話を出されることがなかったので、またこの人達は話を純粋に興味と好奇心での質問なのだろう。


「もう一つ、よろしいでしょうか……」


「はい、パメラ様、何でしょうか?」


「さきほど言ったデビルオークとリッチ。この二体は通常、試しの洞窟で出現する事の無いモンスターです……」


「はい、冒険者ギルドのギルドマスターのネーザンさんと、副ギルドマスターのエンリエッタさんも言ってました」


「そうですか……。では、魔石のことも聞かれましたか?」


「倒したデビルオークとリッチの体内から、魔力が抜けたカセキが出てきたと聞きました」


「やはり、魔石はカセキとして出てきたのですね……」


「ミツ君。君は二体の討伐者本人だからこの話を聞くことができる。悪いが、この話は他言無用にて頼む。それでだ。他に何か気づいたことはなかったかね?」


「はい、了解しました……。気づいたことですか……。気になったことなら、リッチがあっさりと倒せたことですかね」


「不意をついて倒せたと言ってましたね」


「はい。何というか、奇襲がうまく行ったのもありますけど、何だか相手の動きが鈍かったと言うか……」


 自分の言葉に、エマンダ様が自身の頬に手を当て、考えを述べてきた。


「もしかしてですが、魔石の魔力を吸って、リッチがその魔力に体が対応できてなかったのかもしれませんね。人は極端に魔力を失うと魔力酔いが起きますが、その逆もあることです。魔力を回復するポーションを飲みすぎると、また魔力酔いと似た状態になりますし。人とモンスターが同じ状態になるのかは解りませんが、説の一つとして……」


「なるほど……。洞窟のモンスターって、洞窟の魔力で生まれるんですよね? だとしたら、確かに魔石から過剰な魔力を自身の中に入れてそうなってしまったのかもしれません」


 その後、ゼクスさんからはリッチの脅威的な話を聞いた。

 通常リッチは廃城などの、元々人が住んでいた場所に出現するモンスターであること。それと、リッチには基本物理でのダメージは効果が無いこと。

 なので、倒すにはリッチの攻撃を防ぐ程のシールド魔法を持続させ、リッチの魔力が減ったところで、周囲を火壁で囲み、爆発的な威力の魔法を撃ち込み倒すか〈シャイン〉等の、聖属性の魔法を浴びさせる、それが一般的に知られているリッチの討伐方法である。

 討伐が終わった時も、多くの魔術士が魔力を失い、枯渇状態に動けない者がでるそうだ。


「ふむ……」


 ダニエル様は一度目を伏せ、ゆっくりと目を開けては自分から視線を外すことをしなかった。

 見つめられるなら中年のおじさんより、若い女性の方が嬉しいのだが、残念なことに自分をじっと見るのはどう見てもおじさんだ。


「んっ? ダニエル様?」


「いや。話は変わるが、君は武道大会が終わった後はどうするつもりかね?」


「「……」」


 ダニエル様の言葉に婦人二人は言葉を止め、自分の答えを待っている。


「……。今のところ、目的地はありませんが、旅に出ようかと」


「……。そのこと、彼らは知っているのかね?」


 ダニエル様の言葉に、自分は無意識に視線をそらし、プルン、リック、リッケ、リッコの4人の顔を思い浮かべていた。


「いえ、伝えてはいません……。ですが、自分が旅人であることは皆は知ってます。今住んでいる場所も教会に居候状態ですからね。ある程度、恩返しが終わった後に教会を出るつもりです」


「恩返しか……。君らしいな」


「ミツさんは私が思うに、十分と教会に恩を返されていると思いますよ」


「はい……。教会の子供たちは自分が来たときよりも、笑顔に、またよく笑うようになったと思います。ですが、根本的に教会の状態が良くなったとはまだ言えません……。食料など自分ができるところはしますが、自分がいなくなった後を思うと……」


「ふむ、それは教会に関しては、我々は今後も補助をするつもりだ。今までプルン君には悪かったが、今まで教会に対して手を回さなかったことは、我々の不備であることは以前話をして痛感した……」


「街に数個しかない教会、その内の一つですが、他の教会と同じように、今後はしっかりと管理することをここにお約束いたしますわ」


「はい、ありがとうございます」


 領主であるダニエル様と、婦人であるパメラ様から直々と教会の管理を約束してもらえたことに、自分は自身のことのように嬉しかった。


「……それでだ、君に聞きたいことがあってな」


 頭を上げ、ダニエル様の言葉に顔を向けると、ダニエル様の表情は少し緊張した様に厳しい顔をしていた。


「はい?」


「君がロキアにくれた菓子、覚えてるかね?」


「えーっと、キャラメルですか?」


「うむ、あれをロキアが随分と気に入ってな。いや、ロキアだけでは無い、私も頂いたがとても美味たる物だった。そこでだ、あれを何処で調達したのかを教えてくれんか? あの味なら、来客のちょっとした茶の備えにも使えると思ってな」


「はあ……。必要でしたら、おすそ分けしますよ?」


「いやいや、客もそれなりに多く来る。そうなると、やはり、キャラメルと言ったか? あれを欲しがる貴族も出るだろう。我が家で出したものだが、それが何処で売買されていたのか、出処がわからんと言っては、客からそんな物を出したのかと言われるかもしれん」


「んー……。なるほど。ですが、残念ですけど、自分がロキア君にあげたキャラメルはどこにも売ってませんよ?」


「それは、どういうことかね……。あれは何処で手にした物か教えてもらえないか……」


「「「……」」」


「……」


 ダニエル様だけではなく、パメラ様、エマンダ様、ゼクスさんまでもその表情はとても真面目で、就活時代の圧迫面接を思い出すほどだ。


 四人の雰囲気で自分は察した。

 自分だけがまた、この話場を持たれたこと。

 洞窟内の話をするにしても、プルン達が一緒でないこと。

 貴族である伯爵程の地位や、シルバーランク冒険者の経験を持ってしても知らなかった物を持ち、異様な強さを秘めた少年が目の前にいる。

 聞きたいこと、それは興味や好奇心とかではなく、これは知るべき大人が自分に詰問しているのだと。

 

 1から10まで全てを話す必要はない。

 ならば、今自分が答えれる返答は、ここにいる人達が納得してもらう答えだけ。

 自分を異様者と思うならそれで構わない。

 それは自分でも十分理解していることだから。


 手に持つティーカップをゆっくりとテーブルに置き、自分はゆっくりと目をつむった。少し考えをまとめて目を開ける。

 先程までの笑顔は消し、真面目に答えることにした。

 自分の雰囲気が変わったことに気づいたのか、ダニエル様はゴクリと唾を飲み込む。


「あれは自分しかだせません。なんせ神様の贈り物ですから」


「「「「!?」」」」


 自分の思わぬ言葉に四人は言葉は出してはいないが、目を大きく見開いている。


「自分のアイテムボックスは特別でして、神様からの贈り物が入ってます。その中の一つがロキア君にあげたキャラメルですよ。あっ、これは本当にナイショにお願いしますね」


 アイテムボックスに手を入れ、ロキア君に以前あげたキャラメルの入った一キロ袋を取り出し、テーブルに置いた。


「ミツさん……神というのは本当ですか……?」


「はい、こればっかりは嘘なしですよ。でも、今の話を信じるも信じないも皆さんの自由です。取り敢えずキャラメルは恐らくどこの市場を探しても見つからないのは本当です」


「……そ、そうか……」


「……」


「んっ、んん……」


 人は驚きすぎると、言葉が出なくなるのか。

 いつものダニエル様なら、アハハと高笑いをするところだが、自分の言葉の後はダニエル様は厳しい表情のまま、取り出したキャラメル袋から視線を外すことはしなかった。


「ミツさん、いえ、あの……貴方様は……その、神の使徒様なのでしょうか……」


「使徒様?」


(使徒様ってあれだよね? ゲームやアニメに出てくる、神様のありがたい言葉を変わりにと外界の人間に教える天使みたいな人。それなら、それはシャロット様の側にいるユイシスじゃないかな? 自分は使徒とは違うと思うけど……)


 パメラ様の言葉に、今度は自分が黙ってしまった。

 そのため、パメラ様はまさかと思ったのか、口を手で抑え、驚きにダニエル様達に目配せを送っていた。

 このままでは、あのチミっ子シャロット様の使徒と勘違いされてしまう。

 直ぐに自分は皆の誤解を説いた。


「いえ、使徒ではありませんよ」


「そ、そうなのですね……。では、ミツさんのその強さも食料なども、全ては神からの進物でしょうか?」


「……はい」


「「「「……」」」」


 1分、2分間と、何とも言えぬ沈黙がその場に続いた。

 そして、ダニエル様がその場の沈黙を破る様に語りだす。


「ミツ君……」


「はい、何でしょうか」


「君は神からもらった力やボックス内の食料。それを使って、今後何をするつもりだね……」


 力があれば、自身のやりたいことができる。

 食料があれば、人だけではなく、他種族も生きることができる。

 物を作り出す力があれば、国が作れる。

 ダニエル様は息をのみ、恐る恐ると質問をかけた。

 神から与えられた力で彼が何を望むのか。

 目の前の少年は、まだ未知なる物事を我々に全ては証してはいない。それを思うと喉から手が出るほどに自分の物にしたい気持ちに心が踊るが、その反面、迂闊に手を出しては守るべきものを失うかもしれない。

 自身は伯爵家領主ダニエル。

 好奇心に身を任せ、神の進物に手を出すものではない。欲に身を任せ、身を滅ぼした貴族はいく数十と見てきた。心を落ち着かせ、重い口に発した言葉が正しい言葉なのか。

 だが、目の前の少年から告げられた次の言葉に、一瞬、頭の中が真っ白になるほどに驚かされた。

 

 


「んー。取り敢えずシャロット様、あっ。神様の名前ですね。その、シャロット様からは武道大会に出ろと言われまして」


「なっ!? 君は神託を受けているのか!」


「えっ? あ、はい。何か、自分のためになるって言われましたね」


 ダニエル様は驚きに椅子から立ち上がり、バンッと両手をテーブルに当て、今日一番の驚きの顔だろう。

 


「あの、一ついいですか?」


「む、無論。なにかね?」


「唐突な話を先程からしてますけど、自分の話を皆さん信じてくれてるんですか?」


「「「「……」」」」


 その言葉に、部屋の中に静寂が満ちる。

 ダニエル様は目を伏せ、パメラ様とエマンダ様は、領主であるダニエル様の言葉を待つ姿勢を取っている。 

 そして、ゆっくりと、一つ一つ丁寧にダニエル様は言葉をつなげた。


「突然のことで、正直全てを信じてるのかと問われたら、それは否としか答えれんだろう……。だが、ミツ君。君の力、そして君が取り出し、見せてくれた品や私達の知らぬ知識……。何より、先程見せてくれた物を変える力……。あれを私達は神の力と他に例えようがない……」


「……あなた。残念ですけど、今回ばかりは諦めるしかありませんね」


「んっ? エマンダ様、何をですか?」


 エマンダ様は少し眉を下げながら微笑みながらも、自身達の考えを説明し始める。


「ふふっ。実は、私達は貴方が持つ商品、この情報を聞き出すことも1つの目的でしたの。もう一つ。ダニエル、いえ、フロールス家として望むことがありました。ですが、今ミツさんにお願いすることは、恐れ多いことでしょうね」


「ふ~。……君には我がフロールス家の私兵になってもらおうと考えてたんだよ」


 ダニエル様が椅子の背もたれに身を任せ、大きくため息を天井に向けて吐いた後に、ガリガリと自身の頭をかく素振りを見せては、自分をフロールス家の私兵にしたい事を告げてきた。


「私兵ですか」


 自分がダニエル様の希望を口にするも、それ程興味がない返答に気づいたのか、それをフォローするかのように、優しく笑いを入れながら先程まで沈黙を貫いていたゼクスさんが話しかけてきた。


「ホッホッホッ。ミツさん、以前私と模擬戦をやったことは覚えていらっしゃいますか?」


「はい、嫌でも」


「私も歳も50を超えております。ですが、その辺の無骨者に負けることは無いと、自身にてそれは言えます」


「まあ、そりゃ、元とはいえ、シルバーランク冒険者ですからね」


「はい、ですが、貴方様は私と模擬戦とはいえ、勝利することができました。この意味、解りますかな?」


「ははっ、解りますけど、解りたくないですね」


「結構。ミツさんほどの力があるのなら、私の後を任せ、フロールス家を守っていただけると踏んだ所存にございます」


「勝手に踏まんといてください」


「ホッホッホッ」


 ゼクスさんの言葉に、自分がやれやれと思いながら、そのやり取りを見て、エマンダ様がこちらに言葉をかけてきた。


「あの。わたくし達は、貴方様と先程菓子のレシピを金銭にて契約いたしました。神である力を授かりしミツさんとの契約は、神の怒りに触れるものではないのでしょうか……」


「えっ……。いえ、大丈夫です。お菓子の作り方は自分の知恵ですので問題ないと思います。元々自分はアイテムボックスの食料を売ってお金稼ぎをするつもりはありませんが、今回のように料理方法とかは流石に別のことなので怒られることではないと思います」


 少し考えたが、プリンの作り方は料理人スキルで解ったこと。アイテムボックス内のプッチンするプリン、それをそのまま売ったらそりゃ駄目だけどね。

 念の為にと、ユイシスに聞いておくことにした。


(ねえ、ユイシス。大丈夫だよね?)


《はい、アイテムボックス内から取り出す食料はミツの魔力を使用してますので、食料の売買自体も問題ありません。ですが、ミツの食料を狙う者、そんな無法者が出る可能性がでてきます。下手に商業に足を踏み込むことはせず、ミツが必要な分だけ使われることをおすすめとします》


(あー。洞窟にいた盗賊みたいな感じな人ね……。確かに)


「そうですか……。それを聞いて安心いたしました」


「……」


 食料の売買は考えていない。

 ミツ自身から発せられたこの言葉は大きく、パメラ様とエマンダ様。二人が内心予定としていたミツが持つ調味料などの購入の目論見は、全て白紙となって消えてしまった。

 ミツがただの旅人ならば、金銭にて情報を買い取り、その後聞き出した情報をもとに新たな商業を広げればいいと思っていた。だが、事はそのような簡単なことでは無くなってしまった。

 今は手に入るか解らない品よりも、目の前にいる少年に離れられることの方がフロールス家にとっては過大な損失でしかない。本人が売る気もない物を無理矢理に買い取ったとして、下手をしたら恐らくそれが最後のやり取り。少年とは疎遠となり、フロールス家に訪れた好機を逃すことになるだろう。

 パメラ様が軽く首を横に振り、それを見たエマンダ様は静かに目を伏せた。

 


「最後にいいかね……」


「どうぞ」


「神は、我々の前に君を導いたのは天命なのかね……」


「……。いえ、偶然ですよ。自分がロキア君やゼクスさんと出会えたのは運が良かったんです。あっ、でもそれが天命って言うんですかね?」


「そうか、そうか……フフッ、フハハハハ! ミツ君、これからも我がフロールス家。いや、君の手が届く人の範囲で構わない。どうか、今後も良き仲であらんことを心より願う!」

 


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 ダニエル様が椅子から立ち上がり、握手とばかりに手を出してくる。その手を握り返すとダニエル様は笑顔に、隣に座る両婦人からも喜びの声が漏れていた。


 その後は話も終わったので、エマンダ様の約束と、今度は東の訓練所へと、ダニエル様、パメラ様、そしてエマンダ様の三人の後を歩き移動する。

 ゼクスさんは西の訓練所にいる皆に声をかけ、連れてくるそうだ。

 

∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 西の訓練所にて。

 試合のために舞台に上がる二人の女性。

 互いに向かいあい、模擬刀の長剣と短刀を持って構える。



「ハッ!」


「ニャッ!」


「流石ですね。その速さ、その身のこなし。私の読み通り、プルン様もミツ様と変わらずお強いのですね」


「ウチはミツと手合わせしたことあるけど、ウチよりミツの方が強いニャよ」


「まあ……では、プルン様に勝てないようでは、私の剣術ではミツ様とは勝負にもなりませんね」


「ニャッ? ニャハハハ、そうニャね。ミア様、ミツと勝負したかったら、ウチを倒してみるニャ! ウチはまだまだ早くなるニャよ!」


「ふふっ、では、私はその速さを止めるために剣を振りましょう。プルン様、急所は狙いませんが、今から本気で行きますわよ!」


「ミア様が本気で来るなら、ウチも本気で相手するニャよ」


 一度互いに距離を置き、手に持つ得物を握り直す。




「「……!」」


「セイッ!」


「ニャッ!」


 ミアとプルンの二人の勝負。

 二人の勝敗はまさに五分五分、いや、模擬刀とは言え、剣を振り回すミアが若干不利なのか。軽い短剣の模擬刀を持つプルンの動きは機敏であり、フェイントを入れたミアの剣をプルンは柔軟な身体にて素早く避けていた。プルンの素早い攻撃を何度もミアは受けているが、模擬刀の樋の部分を上手く盾の様に使い、プルンの攻撃を殺していた。

 椅子に座り、それを観戦する面々がいた。


「うむ。我が妹ながら、見事な剣さばき。あの娘も中々の動きではないか。リックよ、あの娘、名はなんと言ったか?」


「はい、あいつの名はプルンです。教会に住んでいるそうで、ジョブはシーフです」


「シーフか。獣人の娘だけに、速さがあるのも頷けたが、シーフとは……」


「はい。それと、今はシーフですが、プルンは前はモンクです。短刀を使う戦いよりも、恐らくあいつは拳の方が強いと思いますよ」


「なにっ!? ミアッ! 距離を取れ! あまり接近しすぎるな!」


 兄であるラルスの声に、思わずプルンから視線を外してしまったミア。

 その隙を狙ってプルンの攻撃が変わった。


「えっ?」


「よそ見は駄目ニャ!」


 右手に持っていた短刀を左手に素早く持ち換え、ミアの長剣に自身の左手の短刀を当てるプルン。

 ガキッとぶつかる音にミアが視線を戻すと同時に、プルンは右手に拳を作り、両手持ちをしていたミアの左手の甲にバシッと一撃入れる。


「くっ!」


 自身の左手に走る思わぬ痛みに、ミアは手に持つ剣を落としてしまった。

 落ちた模擬刀を拾わせないようにと足を乗せ、短刀をミアの首筋に当て勝負が決まった。


「ミア様、降参するニャ……」


「はぁ~……。私の負けです、剣を落とした時点で、剣士は死んだも同じ。もうっ! お兄様!何ですか、いきなり声を上げたりして!」


「す、すまん。助言のつもりだったのだが逆に足を引っ張ってしまったか……」


「……いえ。これは戦いの途中に気をそらした自身の失態です。お気になさらずに」


「姉様、プルンお姉ちゃん、凄かったよ! 凄くカッコよかった!」


 ラルスの言葉は自身のためと解ると、ミアはそうですかと責め立てる言葉を止めた。試合場から降りてくるミアにテコテコと小走りに近づいては、ミアの足に抱きつくロキア君。


「ふふっ、ありがとうロキア。私は剣を、お兄様は魔法を、そして貴方は弓を極めて、三人でフロールス家を支えていきましょうね」


 ミアは自身の足にくっつく弟の頭をよしよしと撫でながら、自身の家を守って行こうと言葉をかける。


「うん! 僕、お兄ちゃんから貰ったこれで頑張るよ!」


「ボッチャま、流石でございます。姉君や兄君、お二方の武人の精神の背を見て成長する姿に私は感動でございます!」


 声のする方を見るといつの間に居たのか、ゼクスさんがハンカチを目に当て、感動に浸っている姿がそこにはあった。

 ゼクスさんのそんな姿も、フロールス家では日常茶飯事、誰も気にしてはいない。

 


「ゼクス、俺は魔術士だから武人ではないぞ」


「あら、ゼクス? お母様とミツ様は?」


「はい、お話も終わりましたので、先程東の訓練所へと、旦那様と共に行かれました」


「ニャ~。ミツは何の話をしてたニャ?」


「ホッホッホッ。プルンさんと同じですよ。洞窟内での出来事を確認のためと、先にリッケ様達より伝えられた話を照らし合わせるためにと、ミツさんには話を聞いておりました。話も盛り上がりまして少しだけ時間がかかったぐらいですかね」


「ニャルほど。確かにあの時はミツはいなかったニャね。それで、ミツは別の訓練所に行ったニャ? おじさん、ウチ達もそっちに行っても良いかニャ?」


「勿論でございます。私が来たのも、皆様をご案内するためでございます。ですが、プルンさんとミア様は一度汗を流された後の方がよろしいですね」


「そうですわね。プルン様、ご一緒に湯処に参りましょう」


 ミアの言葉にプルンは自身の身なりが少し汚れているし、スンスンと軽く自身の匂いを嗅ぐと、確かに少しだけ汗の匂いがすることに気づいた。


「んっ……。良いニャ?」


「勿論でございます。では、お着替えもご用意いたしますので、ミア様とプルンさんはメイドの方とあちらへ。他の皆様は私とご移動をお願いいたします」

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