第75話 街の貴族街。

 冒険者ギルドに到着と、入ってくるヘキドナと目が合うマネ。

 彼女はヘキドナ達が来るまでの時間、どんな気持ちで待ち続けていたのか。

 それは周りの冒険者も彼女に近づくことを躊躇う程、彼女は深刻そうな表情を浮かべ続けていた。

 マネは直ぐにヘキドナへと近づき、重い口を開くのが精一杯だった。


「姉さん……」


「マネ……。あいつらは何処だい……」


「はい、地下の部屋に……。こっちです……」


「ああ……そうかい……」


 ギルドの地下にある部屋。

 その部屋に案内され、扉の前に立つヘキドナ。

 この扉の向こうには探していた三人がいる。

 だが、その三人は生きてはいない……。

 そう思うと、目の前にある扉を開けることが怖い。

 隣ではシューがまた啜り泣きだし、元気がとりえのマネも口を開かない。

 自身の後ろでは腰に携えた剣に手を添え、目を伏せているエクレア。

 

 ヘキドナは意を決し、ガチャリと扉を開いた……。


 そして、石台の上に並べられた三人を見て、ゆっくりと近づく。

 ヘキドナはゆっくりと革布をめくり、布に包まれた人の顔を確認する……。


「……」


「ティファ姉さん……。くっ……うっ……うっ……」


「莫迦っ! エクレア、泣いてんじゃないよ! ティファ姉さん達が、か、帰ってきたんだよ……」


「うっ……うん……解ってるよ……解ってるけどさ……」


 ヘキドナが革布をめくると、石台に寝かされている人物がやはり自身達が探し続けていた人だと解かると、その場に膝から泣き崩れるエクレア。

 そんな彼女に怒りと激を飛ばすマネ。だが、彼女の目も、もう涙を堪えられないほどの涙を浮かべていた。


「アネさん……」


 グスッグスッと歯を食いしばり、ヘキドナへと声をかけるシュー。彼女の声が聞こえていたのかは解らないが、ヘキドナは石台の上に寝かされている三人を一人一人と確認後、最後に声をかけた。


「莫迦な子達だね……。あれだけイキってたのに、帰ってきたらこんなに無口な奴になっちまって……。ほんと……莫迦だよ……」


「アネさん! うあぁぁ! ああぁぁ!」


「くっ! ううっ、ううっ、あぁ……ああぁ……」


「泣くんじゃないよ! 泣くんじゃ……うっ……くっ……ううっ」


 シューの鳴き声を引き金と、ボロボロと泣き出すマネとエクレア。

 ヘキドナは自身と同じ赤紫色の髪の毛をした女性のティファの顔をそっと撫で続けた。

 ポトリと落ちる涙がティファの頬をつたり、暫しその部屋には誰も入ることができなかった。


「……」


 扉前に立つエンリエッタも、中に入ることはせずに、上へのカウンターまで静かに戻っていった。


 そして、最後の別れを済ませた四人は上へと移動。

 上がってくる四人を見ては、他の冒険者は何があったのかとチラチラと見ていたが、先頭に立つヘキドナに睨まれるのも勘弁と、すぐに視線をそらした。


「ヘキドナ……」


「エンリエッタ……。すまないね、気を使わせたみたいで……」


「いえ、いいのよ……。話を聞きたいんでしょ。部屋は開けてるわ、こっちにいらっしゃい」


「ああ……」


 ヘキドナは地下の部屋の前までにエンリエッタが来ていたことに気づいていたのか、軽い礼の言葉を伝えていた。

 エンリエッタも3年もの長期依頼が終わったことに、最後の別れを邪魔させないようにと、暫し地下へ誰も入れないように配慮してくれていた。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「はぁ……。はぁ~」


「ちょっとリック、勝手に食べ始めたのはあんたなんだから、そんなため息ばっかりいい加減に止めてよね!」


「解ってる……解ってるけどよ……。まさか、あれが蜘蛛だったなんて……」


「リック、ごめん。ちゃんとアレが蜘蛛の足を使った料理だって言えばよかったね」


 エンリエッタの昼食の分と作っていたサンドイッチ、それをリックが食べてしまったのでそれを作り直すことに。

 作り直すことは別に問題はないのだが、サンドイッチを作る途中からリックの表情がこわばっていく。

 それはニヤニヤとした表情を浮かべたリッコとプルンが、リックに見せつけるように蜘蛛の足から身を取り出し、それを焼き、マヨネーズを塗ったパンにキャベツの千切りを乗せ、さらにその上にドドンっとこれでもかと蜘蛛の足の身を乗せたのち、サンドさせて皿にならべると言う。

 完成した品を出す二人の顔は正に小悪魔的な笑みを浮かべていたよ。 

 

「ニャ? ミツが謝ることないニャ。美味いうまいって食べ続けたのはリックニャ」


「そうよ。何の材料使ってるか聞かなかったリックの自己責任よ」


「おっ、お前ら……。いや、確かに……ミツが謝ることねえよ……。俺も、その……認めたくねえけど、美味いもん食わせてもらって文句言うのも悪いしな……。すまん」


「ニャハハハ。やっと認めたニャ。これでリックも今後は普通に蜘蛛の足食べれるニャ」


「いや、別に好んでは食わねえから……」


「ニャニャッ!?」


「さて、リッケも来たし、今回の報酬の話をしようか」


「おっ! 待ってました。どこで話す? 流石に金額が金額だけにその辺ってわけにも行かねえだろ」


「そうだね……。ちょっと部屋が借りれないか、ナヅキさんに聞いてみる」


「ミツ、任せるニャ」


 後片付けを終えて、ギルドのカウンターへと皆と移動。

 カウンターにナヅキを見かけたので、ギルド内にある談話室のような部屋がないか聞いてみる。


 通常ギルドの報酬の分配は、その辺でさっさと分けてしまえば済む話。

 だが、リック達の話を聞いたリッケはそこまでする必要があるのかと戸惑いはじめた。

 ミツもためらいもなく部屋を借りることに行ってしまったことに、リッケは恐る恐ると兄へと質問してみる。


「えーっと……。リック……。そんなに今回の報酬が多かったんですか?」


「んっ? ああ、そう言えばまだお前には言ってなかったな」


「ニュフフフ。リッケ、絶対に驚くニャ」


「そうね。こればっかりは確実に驚くでしょうね」


「そ、そんなにですか……。」


 そんな話をしている内にミツが戻ってきた。

 ナヅキに許可をもらい、部屋を借りれたことを伝え、皆は移動する。


「皆、2階の部屋一つ空いてるから、自由に使っても良いって」


「そうか、なら行こうぜ」


「ふー」


「どうしたのリッケ?」


「いえ、なんか、今回の報酬が多かったと聞いて。今、心の準備を……」


「な、なるほど……。まぁ、確かに多かったかな」 


「はぁ……。洞窟から戻ってもまだ僕は驚かされるんですね……」


 リッケの発言に、皆は苦笑を浮かべていた。



「声が漏れるかもしれねえな……。一応窓閉めとくか?」


「そうね、念には念を入れときましょう」


「ニャ~。ロウソク、ロウソクはっと」


「プルン、灯りなら自分が出すよ」


「ニャ、そうニャね。ミツ、頼んだニャ」


「……」


 部屋に入ると、リックとリッコは話し声が外に漏れることを懸念して、部屋にある小窓を閉め始めた。


 部屋を締切っては何も見えなくなってしまうため、灯りを灯そうとしていたプルンに声をかける。

 自分は雷の矢を出し、灯りの代わりとロウソク台の上に矢をおき、明るく部屋の中を照らす。


 部屋に入るなりバタバタと動き出した仲間達を見ては、リッケは呆然と立ち尽くしていた。


「どうしたのリッケ?」


「いや、僕は何をしたら……」


「もういいぞ、座れよ。あっ、これおまえの分の皮袋な」


「は、はい……。リック、これは?」


 リックは自身の服の懐から少し大きめの皮袋を取り出しては、リッコとリッケの二人へと渡す。

 皮袋を広げてみると、それは今自身が財布代わりと使っている皮袋の3倍はある大きさだっだ。

 

 皮袋の大きさは、スーパーなどのお会計後の荷物を置く場所に置いてある、透明なポリ袋を想像してくれたら解りやすいだろう。



「ああ、家に帰る前に買っといたんだ。報酬持って買えるのに必要だろ? あっ、皮袋の代金は俺の奢りだから気にすんな」


「は、はい、ありがとうございます。でもリック……。この皮袋、ちょっと大き過ぎませんか?」


「そんなことねえよ。ミツ、取り敢えず出してくれや」


「うん。先ずはリティーナ様から貰った金からね」


「おっ、そう言えばあの貴族の姉ちゃんからも金を貰ってたな。中にいくら入ってた?」


「はいはい、ちょっと待ってね……。えーっと……」


 アイテムボックスからリティーナから貰った金の入った袋を取り出す。

 ザラザラと中の金を取り出しては、数を数えるために10枚づつ束ねて、皆に見えるようにと前に並べる。


「78、79、80。うん、金貨80枚だね」


 リティーナから貰った袋の中には金貨80枚が入っていた。

 並べられた金貨、予想以上に金が入っていた事に皆は驚きの声を上げる。


「おお! 流石貴族様だな。こんなに入れてくれたのかよ」


「確か、あの時の冒険者さん達に渡す予定の報酬って言ってたわよね。随分羽振りのいい依頼だったのかしら?」


「それだと、一人金貨20枚ってなりますよ。流石にそれは無いんじゃないですか?」


「そうだね。多分、これはリティーナ様の気持ちも多く入ってると思う」


「気持ちは大切に受け取るニャ」


「そうだな。ミツ、次だ次」


「はいはい、解ったよ。取り敢えず先にこれを分けようか。80枚あるから、一人金貨16枚づつ受け取ってね」


 16枚の金貨を一人一人と目の前に置いていく。

 以前オーガを倒した時の報酬の3倍近く、それを今回の洞窟の素材品とは別として得たのだから、リック達の頬は緩みっぱなしだ。


「ウホッ、凄えなこれ」


「本当にこれ、僕達が受け取っても良いんですかね……」


「まだよ、リッケ。これで驚いてちゃ次は耐えれないわ」


「は、はい……」


「じゃ、次を出すよ」


「バッチコーイニャ!」


 リック達は直ぐに金貨を皮袋に入れ、テーブルの上を片付け始めた。取り敢えず自分とプルンの分は一緒にして、またアイテムボックスの中へと収納しておく。


 そして次に取り出すのはギルドでもらった赤錆色の布袋3つ、これには金貨を入れている。

 銀貨と銅貨は裸でテーブルにジャラっと取り出す。

 


「おお。なんど見ても凄えな」


「リッケ? 大丈夫? もしも~し。お~い……。フンッ。駄目ね……。ミツ、ちょっと治してあげて」


「はいはい」


 テーブルの上に布袋をのせた後に袋を開け、ドドンっと皆に中身を見せると、やはりその金貨の多さに、生唾を飲み込む者や感嘆の声をあげる者、また予想以上の金を見せられ言葉を失う者など、三者三様の反応が見受けられた。

 

 目の前をヒラヒラと手を振って、リッコが言葉をかけても全く反応をしないリッケに〈コーティングベール〉をかけて意識を呼び戻す。

 

「はっ、あっ! すみません」


「いや、お前の反応は間違っちゃいねえよ。俺達も最初これを見たときは驚きすぎて同じようなもんだったしな」


「そ、そうですよね……」


「じゃ、話を続けるよ。えーっと。今回の分け前は綺麗に五等分ね」


「「「えっ!」」」


「ニャ~。やっぱりニャ……」


「いやいや、ミツ、流石に待て! 流石にこれを五等分は俺達が貰いすぎだろ!? 第一な、これだけ稼げたのはお前の力あってなことは俺達も十分承知してるんだぜ。せめて貴族の姉ちゃんがくれた分くらいで構わねえぞ」


「そうよ。偶然だけど、捜索依頼の達成もあんたが隠された道を見つけてくれたから達成できたのよ」


「……」


「ミツ君、とてもありがたい申し出ですけど、今回は流石に五等分はどうかと……」


「ニャ~。ミツ、どうするニャ?」


「うん、三人の言いたいことは解った」


「なら……」


「はい、その提案は駄目ー」


「なっ。お前……」


 自分は腕を大きく交差させてバッテンを作る。

 そして、三人の提案をあっさりと却下。

 


「前も言ったけどさ、これは皆で洞窟に入って、一緒に戦った結果なんだよ。ここで断るのはちょっと……。せっかく皆と頑張ったのに、受取拒否は自分が辛いかな」


「「「……」」」


「リッコ」


「何、プルン?」


「あのニャ、前もミツが言ってたけど、このお金は自分のために使えばいいと思うニャ。リックもリッケも皆これから強くなっていくニャ。そんな時、武器も防具も新しくする時はお金が必要になるニャ。ウチはミツからの分け前はちゃんと貰うニャよ。でも、それはちゃんと家族のために使うことをミツも知ってるし、ウチもまた新しい防具買うときは使う金とするニャ。ここでこのお金を手にできるウチはあれニャ……」


「?」


 プルンは一度自分を見て、リッコ達三人を見た後、指を立てては言葉を続けた。


「運が良かったんだニャ」


「「「……」」」


 それはここ最近リック達がよく耳にする言葉だった。

 馴染みのある言葉、そして何処か納得してしまう言葉でもあった。


「フッ……そうね。私達、運が良かったのね」


「お二人にそう言われたら……」


「なぁ、ミツ。俺はお前の言葉も理解してる。だから、その……」


「いいよリック……。言いたい言葉は言ったほうが自身の為になるよ」


「ああ……。すまん、ありがたく五等分として報酬を貰う。本当に感謝する」


「「ありがとう」」


 リックは言葉を続けると、ガタリと椅子から立ち上がり、感謝の言葉を載せて自分に頭を下げてきた。

 それを見ては、弟妹の二人も感謝の気持ちと静かに兄同様に頭を下げていた。


「うん、ネーザンさんも言ってたけど、このお金は湯水のように使わないことが自身のためだからね。お金はあればあるだけ使っちゃうのが人ってもんだよ。使っちゃ駄目とは言わないけど、必ずそれが自身のためになるのか、それが先の人生で必要になるのかを買う前にもう一度考えてみてね。当たり前だけど、使った金はもう帰ってこないんだから」


「お、おう……。たまにお前、俺達より大人の発言するよな……」


「そうですね。まるで僕達の方が子供みたいです」


「私達の親みたいなこと言うわよね……」


「本当ニャ。ミツって、本当は歳を誤魔化してるんじゃないかニャ?」


「フッ。どうかな。さて、決まったところで分けるよ」



 空気を変えるように分配の話へと戻す。



「そうね……。えーっと、金貨538枚と銀貨8枚と銅貨9枚だったわよね。これを五人で分けると……。んーっと……」


「ちょっと待ってください。数が大きすぎて計算が難しすぎます……。五人ですから、金貨を先ずは100枚づつ分けて、その後……」


「おう、計算は任せるぜ!」


「同じくニャ!」


「はぁ、二人とも……。自分のお金なんだから人任せにしちゃ駄目だよ……」


 リックも戦闘では頼りになるも、計算事は苦手なのか、弟妹の二人に頼っている。

 プルンもある程度の学はエベラとネーザンから教えてもらっているので、本人もできないことはないが、やはり目の前に頼れる人がいると頼ってしまうのだろう。


「仕方ねえだろ。こんなありえねえ数字数えることなんてねえからな。それにお前も解かんねえだろ?」


「五等分するだけだからね。一人金貨107枚と銀貨7枚、それと銅貨7枚と鉄貨8枚だね」


「「「「……」」」」


「お前、計算術も使えたのかよ……」


 リックの言う計算術とは暗算のことだろうか。

 実はユイシスに計算してもらって、前もって知ってたんだけど、それを皆に言うこともあるまい。

 ってか普通の割り算だからね、電卓なくてもこれぐらいの計算は問題ないんだよ。


「まぁ、分けるだけだし。あっ、銅貨と鉄貨が足りない、どうしようか?」


「ウチが下でナヅキに替えてもらってくるニャ」


「そう? じゃ、プルンお願いね」


「ニャ」


 金貨を一枚プルンに渡し、ナヅキのところに両替をしてもらうことに。

 両替などは本来商人ギルドでやるべきなのだが、今回はそんなに多い額ではないので、すんなりと両替を済ませプルンが戻ってきた。


 先ずは布袋に入った金貨をジャラジャラと出し、皆と協力して10枚の束を次々とつくる。

 そしてリックが買ってきた皮袋に107枚の金貨を入れて渡し、銀貨と銅貨、鉄貨は一人一人に手渡していく。


 自分とプルンは元々金貨の入っていた布袋に入れておいた。

 ズッシリと金貨の入った皮袋に皆は嬉しそうによろこぶ。

 それはそうだろう。皮袋の中にはリティーナから貰った金と今回の素材品、合わせて金貨123枚、日本円で123万を一人一人に渡されたのだ。

 並の収入ではないのは誰でもわかること。

 

 プルンも一度自分から布袋に入れたお金を受け取り、ニコニコとその重さを実感した後、自分のアイテムボックスに入れといてと渡してきた。

 昔はお給料やボーナスは現金の手渡しだけに、お金を貰ったと言う実感があったと祖父が言っていたが、その時の気持ちはプルンに当てはまるだろうな。

 祖父の紹介で、夏と冬の間、地元の農家でバイトをした時は、お給料は全てニコニコ現金払いで貰っていたので嬉しかったものだ。

 その時は初給料と言うことで、祖父に好きなお酒をプレゼントした思い出もある。

 

「はい、これで今回の洞窟探索の精算は終わりだよ。皆お疲れ様」


「おう、ありがとよ」


「皆さん、本当にお疲れ様でした」


「お疲れ様ね。やばいわよ、ふふっ、皮袋がパンパンよこれ!」


「本当に皮袋にズッシリです。でもこれ、持ち帰るとしても帰り道が怖いですよね……」


「なら、帰りは俺が前を守るから、後ろはリッコが魔法で守れ。近づく奴は金を狙って来る盗人かもしれねえからな」


「莫迦ね。そんな周りに警戒してたら、逆に貴重品持ってますって言ってるような物じゃない」


「そうニャ。ウチみたいに気にすることなく帰るのが一番ニャ」


「気にすることないって……。お前はミツのアイテムボックスに入れてるから気にもしてもねえんだろ……」


「ニャハハハ。ミツに持ってもらえば、一番安全ニャ」


「はいはい。プルンのお金はちゃんと教会までお運びしますよ」


「ニャハハ、頼んだニャ。そうニャ! なんならリッコ達もミツに家まで運んでもらうニャ」


「おっ。そうだな。ミツ、すまねえが、やっぱりこれ俺達が持って外歩くのは怖えから、運んでもらえねえか?」


「いいよ。リック達の家知ってれば、ゲート開いて安全に送れるんだけどね。今は取り敢えずアイテムボックスに入れとくよ」


「うん、お願いね」


「すみません、なんかお願いばっかりで」


「いいのいいの」


 結局皆んなの金の入った皮袋をアイテムボックスへと収納。

 話も終わったので、部屋の小窓を開け、雷の矢を消し、外の光で室内を照らす。


「ところでミツ。領主様のところにはいつ行くニャ?」


「それなんだけど、お昼から行こうと思ってたんだよね。一応戻ってきたら顔出す約束もしてたから、お屋敷に失礼しても大丈夫だとは思うけど。でも、いつ行くかは伝えてなかったから、一度連絡取ったほうがいいかな……」


「どうやって取るニャ?」

 

「うん、貴族街に入るところに、門番さんに連絡すれば良いってゼクスさんが言ってたね」


「な、何っ! ミツ、あんたゼクス様に会いに行くの!?」


 のちの予定を話していると、ゼクスの名前を拾ったのか、リッコが食い入るように話に入ってきた。


「う、うん……。ゼクスさんって言うか……。領主様にね」


「はぁ~。いいわね……」


「……。 なんなら、リッコ達も一緒に行く?」


「いいの!?」


 思わぬ誘いの言葉に、リッコだけではなく、リックとリッケの二人も驚きにこちらを見てきた。


「良いんじゃない? 皆もライアングルの街の住人なんだし。それに洞窟内の話も皆が居てくれた方が話しやすいもんね」


「そうニャ、リッコ達も来ればいいニャ」


「やった! やった! 行きましょう! ミツ、早く行きましょう! あっ、ちょっと待って……。やっぱり一度帰りましょう」


「なんだよそれ……」


「莫迦ね。領主様に会うかもしれないでしょ。こんな格好じゃ駄目よ!」


 今のリッコ達の服装は、庶民地の者が一般的に着ている服装である。

 自分とプルンは、行くことを頭に入れていたので軽装備の格好。

 やはり貴族である領主様に謁見となると、まだ自分たちの様な格好の方がお目通りされやすいのだと思ったのだろう。

 リックも自身の服装を見た後、自分とプルンを見ては、リッコの言葉に賛同していた。


「おっ、おう。そうだな……。ミツ、すまねえがやっぱり一度家についてきてくれ」


「うん、じゃ、行こうか」


 一先ずリック達の家へと向かうことになった。

 部屋を出た後、ナヅキに部屋を借りたことに感謝の言葉を残し、ギルドを後にした。


 街の中心に冒険者ギルドがあるとしたら、リック達の家は庶民地の南の方角となるので、プルンの住んでいる西にある教会とは方向が違う場所。

 

 庶民地へと向かって歩くこと数分、周囲の建物は民家が多くなり、あちらこちらでは子供たちの遊ぶ姿や奥様の井戸端会議の会話が聞こえてくる。

 そしてリック達の家の前にたどり着いたのか三人が足を止める。


「着いたぜ、ここが俺達の家だ」


「へ~。ここがね。じゃ、はい、これ。皆のお金ね」


 リック達の家、それは平屋でありながらしっかりとした木造建築の家だった。庶民地の家としては普通であり、周りの家にも同じような作りの家がチラホラと見受けられる。

 ちなみに、この世界で2階建ての建物はプルンの住んでいる教会や、冒険者ギルド、商人ギルドなど、一般的には庶民が2階建ての家に住むことは珍しく、住んでいるのは商人や貴族街に住む貴族様ぐらいのようだ。

 重機などがない世界では、縦に建物を作るより横に作るほうが安上がりと言うことで、土地自体の値段はとても安い。

 勿論土魔法を使えば高い建物は作れるが、周囲が平屋の場所には不釣り合いな建物として、周りからはそんな建物は懸念されてしまうようだ。


 アイテムボックスから三人の金が入った皮袋を手渡していく。

 また手に感じるズッシリとした重みに、皆は嬉しそうだ。


「おう、すまねえな、態々運んでもらって」


「ありがとうね。私すぐ着替えてくるから、待っててよ」


「僕達も着替えてきます。リック、あなたも早く着替えてください」


「へいへい。着替えるったって、俺はこの上から鎧つけるだけだぞ」


 リッコはバタバタと家の中へと入り、続けてリッケもリックに言葉を残して入っていく。

 腕を頭の後ろに組み、家の中に入ろうとするリック。

 そんな彼に自分は聞きたいことがあったので少し呼び止めることに。


「ねえ、リック。聞きたいんだけどさ。この辺に空き家とか人気の少ない路地裏とかないかな?」


「えっ?」


「ニャ? どうしたニャ」


「うん、せっかくだから、この辺にゲートで来れるような場所を覚えとこうかと思って」


「なるほどニャ」


「ああ、なら今なら隣の家が丁度空き家だぞ。元隣に住んでたのが爺さん婆さんの二人でな。なんか、娘夫婦と住むことになって別の家に引っ越したみたいなんだ。住んでたこの家自体結構古いから、新しい人も住むこともなくてな……。あと数年誰も来ないようなら、嵐とかで倒壊する前にこの家は取り壊す話を親父達がしてたわ」


「そっか。なら、この中にゲートを出しても今は問題ないね」


 リックが指を指し、隣の家を教えてくれた。

 確かに、もう数年誰も住んでいないのだろう。

 窓は締め切り、地面からは雑草が家の隙間から生えている。一応手入れはされてるみたいだが、それは外観だけで中は手付かずだろう。


「おお、その方が俺達も帰りが楽になるから助かるぜ。じゃ、俺も着替えてくるわ……。あっ……、でもそう言えばこの家、餓鬼が入らないようにって鍵かけられてたわ……」


「あら。鍵か……」


「あ~。そうなると、他には……えーっと」


「あっ、大丈夫だよリック。多分開けれるから」


「えっ? その鍵ぶっ壊すのか?」


「いやいや、そんなことはしないよ。多分スキルで開けれる」


 今まで使いどころの無かったスキルの〈アンロックドア〉で鍵の解除はできるはずだ。スキル自体未だにレベルは1だが、それ程難しい作りの鍵をしてるようには見えないので大丈夫だろう。

 


「はぁ……。まぁ、今更お前がそれくらいできても俺は驚かねえがよ……。もし開けるなら表の扉じゃなくて、横口のほうの人目のつかない方を開けたほうがいいぞ。そこだと多分、お袋か親父が気づくぜ」


「おっと。そうだね。解った」


「じゃ、俺も着替えてくるわ」


 リックも一言残した後に、家の中へと入っていく。

 自分はリック達の家と空き家の間の路地、誰も見てないことを確認して移動した。



「ミツ、あの扉ニャ」


「うわ、これもう扉部分が腐ってる。鍵の意味ないなこりゃ」


 路地にあった空き家の横口。

 三河屋さんが注文を取りに来るために作られた扉だろうか? まぁ、そんなことはないだろう。


 扉に付けられた鍵は劣化してしまい青錆でビッチリ。鍵は南京錠にも似ているが、鍵穴は細い棒を入れるような場所は錆だらけで見えなかった。

 これ、鍵はまだ閉められているが、止具の方がもう取れそう。


「ニャら壊すかニャ?」


「いや、鍵開けのスキルも試したいからね、壊さないよ」


 開けるとしても、自分は鍵屋みたいな専門道具も持ち合わせてないのでどうやって開けようと思っていた。

 だが、鍵に触れたままスキルを発動すると、錆だらけの鍵がガチャリと音を出して錠が外れた。


「あっ、開いたニャ」


「へー。こうやって開くのね……。うん、取り敢えず成功かな。中は……。ん~。あんまり入りたくないな……。プルン、閉めるよ」


 ギシギシと扉の蝶番も錆びているのか、何とか少し扉を開けると、中は薄暗く、光も入らない部屋があった。

 中には家具などは全く無く、本当にただの部屋でしかない。奥にはもう二部屋ぐらいある見たいだが、見る必要もないだろ。

 部屋の中は空気の入れ替えをしていなかったのだろうか、少し埃っぽく床が白い。

 〈トリップゲート〉のために場所のイメージは覚えたので、扉を閉めることにした。


「ニャ? もういいニャ?」


「うん、見るだけで良いからね」


「ニャ~。便利ニャね」


 リック達の家の前に戻り数分後。

 軽装の鎧に身を固め、武器を携えた三人が出てきた。


「おまたせ!」


「よし、行くか!」


「帰りは遅くなるかもしれませんから、母さんに連絡しときましょう」


「あれ? 家にはいなかったの?」


「ああ、多分買い物に出てるな」


「今日は父さん早く帰ってくるわね」


 リッコが見ているのは玄関に置かれた5つの小さな人形だ。手作りなのだろう、森などで拾えそうな木の実を人形の形に作られている。

 その人形を見て、リッコは父が早く帰ってくることを理解している。

 それを見て何故解ったのか聞いてみると、一見ただの置物だが、これはリッコ達の家族内での連絡版代わりだそうだ。

 5つある人形、この人形の首にかけている小さな木札、これに家族内だけが解る目印を入れているようだ。

 ◎は早めの帰宅、○は夕方の帰宅など、これを見れば何時誰かどれくらいに帰ってくるのか解るそうだ。

 リッコが見ていた人形は◎の木札をつけて、もう一つは○の木札、そして残りの3つの人形には○から☆の目印へと入れ替えていた。恐らく帰るのが遅くなると言う意味だろう。

 スマホやホワイトボードなどが無いこの世界、連絡版として考えられたものだろうか。


「じゃ、行こうか」



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 ライアングルの街北側、貴族街の門の前にて。



「すみません」


「んっ、何だお前たち……?」


 門の前に立ち、鎧に身を固めた門番に声をかける。

 門番は声をかけられたことに、訝しげにこちらを見てきた。


「あの、領主様にお会いしたいので連絡をお願いしたいのですが」


「はぁ? 領主様にお前達がか!? ……。帰れ帰れ! 領主様は今お忙しい時期だ、お前達に会う暇なんて無い!」


「ニャ!? そんなことないニャ、領主様は連絡を入れてくれたら会ってくれるって言ってくれたニャ!」


「!? 何だ、お前たちは領主様と知り合いなのか?」


「そうニャ! ウチらお呼ばれされたこともあるニャ!」


「……。なら招待状と連絡状、どちらかを見せろ。そしたら直ぐにでもお屋敷に早馬を出してやる」


「ニャ!? ミツ、そんなものあるニャ?」


「ふむ、困ったね……。連絡してくれれば良いって言ってたから、連絡状なんて持ってないな……」


「何も無いならお前らを通すわけもいかん! 帰れ!」


「でも、招待状なら……」


「んっ。ちょっと待て。お前ら、道を開けろ。馬車の邪魔になる」


 門番は証明できるものがあるなら、領主の屋敷へと早馬を出してくれることを言ってくれたが、残念ながら今回はそういった物は送られてはい無い。以前教会に送られた招待状はあるので、ならこれを使おうと思ったその時だった。

 貴族街の方から見たことのある馬車が一台、門の方へと近づいてきた。

 門番も気づいたのだろう、馬車の通り道の邪魔になると、しっしっと自分達へと手を振り道を開けさせた。


 馬車を見ていると馬車の小窓から、誰かがこちらを見ていたのだろう。

 止めてくださいと御者へと声をかける声が中から聞こえてきた。


 自分達の目の前に馬車が止まったことに、門番もリック達も驚いていた。


 ガチャリと金属のノブが動き、扉が開くと、中にいた人はやはり知人の女性だった。



「あら、やはりミツ様にプルン様。お久しぶりですね。このような場所でお会い出来るとは」


「えっ……。あっ。ミア様」


「ミア様ニャ! ミツ、丁度良かったニャ!」


「う、うん」


「どうかされましたか?」


「はい、実は……」


 馬車に乗っていたのはフロールス家長女、第二婦人エマンダの娘、ミア・フロールスだった。


 どこかに出かけるのだろう、ミアの服装は以前会ったときとは違い、着ているドレスは少しキラキラと光を反射させ、ラメのように小さな宝石を縫い付けている桃色の服装だった。

 ティアラなどつけ、髪色が金色ならば桃姫の完成形なのかもしれない。

 貴族街に入れないことをミアに話すと、あららと申し訳なく、苦笑混じりに言葉を続けた。

 

「はぁ……。お父様も文の一枚でも渡しとけば良いものを。本当に父には困ったものです……。すみません門番さん、この方は父のお客人です。あの、この方々をどうかここを通してあげてください。この方の証人として私でもよろしいでしょうか」


「は、はい! お嬢様がそう証明していただけるなら、こちらとしては問題ございません!」


 突然ミアに声をかけられた門番、貴族であり、領主の娘から直々にと言われては駄目とも言えるわけもない、

 門番は先程の態度とは反対に、今は冷や汗をかく思いだろう。


「ふふっ。ありがとうございます。ミツ様、すみませんが、私はこの後約束事にて一緒に屋敷にはいけません。ですので、これを屋敷の門長に渡してください」


「これは?」


 そう言ってミアは馬車に振り返り、扉に取り付けていた飾り物を外して自分へと渡してきた。


「うちの紋章の入ったエンブレムです。馬車に取り付けているものですから、私が渡したと言えば、屋敷前の門にいらっしゃる門長なら理解してくれますわ」


「解りました。ご配慮、本当にありがとうございます」


「ミア様、ありがとうニャ!」


「ふふっ、夕方前には屋敷に戻ります。プルン様、以前のお約束ですが、お時間があればよろしいでしょうか?」


「ニャ! 解ったニャ!」


「では、後ほど。出してくださいまし」


「はっ!」


 ミアの言っている約束とは、二人の模擬戦のことだろうか。

 ビシッと突き出すプルンの拳を見て、ミアは嬉しそうに頷き返していた。

 御者に声をかけ、ミアの乗った馬車は走りだす。

 そう言えば忘れていたが、フロールス家は戦闘が大好きな貴族だったことを思い出した。

 血筋なのか、それはやはり娘のミアも勿論戦闘に関しては興味を持っていた。

 年頃の女の子の趣味が、拳と拳の殴り合いを見ることですなんて洒落でも聞きたくない話しだ。


 馬車を見送った後、踵を返して門番へと声をかける。


「じゃ、通って良いんですよね?」


「ああ……、問題はない。まぁ、領主様のお知り合いなら問題ないが、下手に貴族街の他の屋敷にちょっかいを出すなよ。通すことは許されても、お前達が悪意行為をした場合は捕まえることになるからな」


「解りました」


「へいへい。よし、皆行こうぜ」


 門番の気遣いだろうか、屋敷の方へ連絡の早馬を出すかと聞かれたが、その連絡を待つのも時間が勿体無いので、自身達で屋敷まで行くことにした。

 貴族街にはリック達は初めて入ったのだろう。

 歩く地面は舗装され、庶民地のように土がむき出しと言う場所はない。

 地面にはレンガの様な物が綺麗に統一され埋め込まれ、そのおかげなのか、横を通る馬車の走る音は静かな物で、馬の蹄の音がパカパカと聞こえる程度。

 お店も露店などはなく、店舗店舗と店には看板が下げられ、ガラスほどの透明度は無いものの、ショーウィンドウのようにお店の目玉商品やオススメ品が外からも見えるように飾られているのが見える。

 リッコは目をキラキラとさせながら、ショーウィンドウに飾られた服を食い入るように見始めた。


「凄い……。これドレスって言うのよね……」


「いや、これは一般的に着る私服じゃない? 多分リッコの言うドレスって言うなら……。えーっと、アレ……じゃないかな? 多分……」


 自分が指を指す先に皆の視線が集まる。


「!? な、何よあれ……。」


「うへぇ。何だありゃ……。上から下までキラキラの宝石だらけじゃねえか」


「ちょっと僕達には縁がないものですね……」


 皆が口を開き、驚きと呆れの声を漏らす。

 ショーウィンドウに飾られたドレス。それは全体を白と水色をメインとして、中央には大きなリボン、またそれに縫い付けられた輝く大きな宝石。

 白い部分には花柄の刺繍を入れ、腕や腰の下に使われている水色の部分にはあえて何もせず、花柄を強調させている。

 機会のないこの世界、これは花柄を1から刺繍するのは大変だろう。


 皆が驚きにドレスを見ていると、プルンが足元に置かれている数字が焼印された木札に目を丸くしていた。


「ミツ、アレの下に書いてある数字って……」


「多分金額だね。えーっと……金80って書いてるね」


(ドレスだけで金80枚か……。さすが貴族様、着る物も半端なく値段がやばいね……。まぁ、でも結婚式とかのウエディングドレスをレンタルじゃなくて、確か30万前後で購入したって仕事場の人が言ってたな。それを高いか安いかは結婚式をする本人達が決めることだから、その時はなんにも言えなかったけど、レンタルでいいじゃん……家に持って帰ったらこんなの置き場所に困りそう……)


「金80枚って……布切れと石にこの金額って……」


「リック、多分使われてる物の品質とかが良いんだよ。あっ、これって、ドレス単体の金額だね。多分他の小物品は別料金なんだ」


 ドレスの横に置かれたレースグローブや履き物である靴、それも数字が焼印された木札が添えられていた。

 よくよく見ると、貴婦人の一着仕立てます、お茶会の思い出を我が店舗にお任せください。

 なんて店の広告がショーウィンドウの上の看板に書かれている。

 つまり、今飾られているドレスは何でもない奥様のお茶会のためだけの服と言うことか。


「……行こうぜ。見てるだけで疲れてくるわ……」


「そうね……」


 リック達も上の看板に気づいたのか、豪華に飾られていたドレスがただのお茶会用だと知ると、その場をそそくさと後にした。


 また、少し周囲を見ながら歩いていると、プルンの鼻がスンスンと動き、ジッと一軒のお店を見つめていた。


「ミツ、あの家から美味しそうな匂いがしてるニャ!」


「んっ? ああ、あれは多分レストランじゃないかな?」


「レストラン? 飯屋か?」


「うん、普通の食べ物とは違って、高い食材を使って料理した物を出したりするんだよ。お店にいる料理を作る人の技術が高いから、美味しい食べ物を出すお店だと思う」


「ニャ!? 美味しいニャ! ウチ、行ってみたいニャ」


「止めとけよ。高い食材を使ってるって今ミツが言ってただろう。銅貨や鉄貨で済むとは思えねえぞ……」


「ニャッ!? そ、そんなにするのかニャ……」


「あー……そうだね……。多分本当に高いお店だと、そこの1食分だけで、一般的な家庭一人のひと月分の食費が消えると思う……。それにお腹いっぱいとまではそんなに量もないと思うからね、ああ言ったお店に行く人は、特別な記念日とか、味を楽しむ人ぐらいじゃないかな?」


 日本でも高級なお寿司屋さんは100万とかテレビで見たことあるけど、流石に自分は行ったことない。ってか、自分の舌なら回転寿司で十分だもん。


「ううっ……。でも、今ならお金あるから、一回くらいなら行けるニャ……」


「プルン、私思うんだけど、あそこに行くぐらいなら、その分の金をミツに渡せばそれ以上のご飯が食べれるんじゃない?」


「そうだな。一回の飯で終わるより、何十回のうまい飯の方がそりゃいいわな」


「そうですよ。ミツ君の作るご飯は僕達が食べたことない物ばかりですからね。お店に行くのと変わりませんよ」


「ニャ! そうニャ。ミツにお願いすれば良かったニャ」


「そうだよプルン。ネーザンさんの言葉はこんな時に思い出すものだよ。お金があって気持ちが簡単に揺らいで、お財布が開いちゃうかもしれないけど、使う前には一度しっかりと使いみちを考えようね」


「うう……ごめんニャ。ウチ、次から気をつけるニャ……」


「うん、お金は大切に使おうね。プルンが満足する料理、帰ったらまた作るからね」


「ニャ! ミツ、約束ニャ」


「ちょっと、プルンばっかり。私達にも食べさせなさいよ!」


「はいはい。勿論みんなの分も作るよ」


「約束だからね!」


 また皆に料理を振る舞う約束をして、次は何を作ってあげようと考えて進むことしばし。

 街並みは商店街を抜けたのか、続くのは大きな家々ばかり。

 一つ一つの家が大きいのもあるのだが、家と家の間隔が無駄に開けている分歩くのが億劫になってくる。



「ふー。やっと貴族街を抜けるぞ」


「ここから先にあるのはもう領主様のお屋敷だけだね」


「ニャ~。でもこれからまた少し歩くから、お屋敷まではまだ先は長いニャ……」


「げっ……。まだ歩くのかよ……」


「そうだね。前は馬車で10分くらいだったかな?」


「なら、その倍は歩くんですね……」


「ん~。でもその必要無いかもね」


「んっ? どうしてよ」


「うん。今日は、運が良かったかもね」


「ニャ? ……ニャ!」


 自分が見ている先、その先に誰か居るのかをプルンも見ると直ぐに気づいたのだろう。スタスタと近くへと行くと、私兵を囲んで何かを話し合っている人々に近づく。

 それは貴族街に見かけていた貴族とはまた違う雰囲気を醸し出していた二人。



「こんにちは、ダニエル様、ゼクスさん」


「んっ? おお! 君か」


「おや、これはこれはミツ様。お久しぶりでございます、お元気そうですな。あなたがここに居るということは、試しの洞窟から戻られたんですね」


 自分が話しかけたのはライアングルの街の領主"ダニエル・フロールスと、元シルバーランク冒険者、現フロールス家執事長"ゼクス・エンブリオ。


 丁度話も終わったのか、ダニエルが馬車に乗り込もうとしたとき、彼に声をかけて乗車するのを止めた。

 聞き覚えのある声に振り返り、自分の姿を見ると、私兵をかき分けてダニエルの方から近づいてきてくれる。

 執事であるゼクスもダニエルの一歩後ろを歩き、自身の方へと来ると、洞窟探索を終わらせてきたことを理解したのか、労いの言葉をかけてきてくれた。

 

「はい、昨日街の方に戻りました」


「うむ、怪我もなさそうだな。どうだ、洞窟での戦いは少しは自身の為になったかな?」


「はい。おかげさまで。洞窟の探索自体は途中で切り上げましたが、十分と対人戦の鍛錬ができました。これもダニエル様がオススメしてくれたおかげです」


「はっはっはっ。構わん、それは君の努力の結果だ。俺は洞窟があることを教えただけだからな」


「ミツ様、随分と短い期間で成長されましたね」


「はい、以前よりも対人戦の動きも覚えましたので、大会は頑張れると思います」


「ホッホッホッ、それは結構なことですな。おや、プルン様も随分と変わられましたね」


「ニャハハハ。ウチは少ししか変わってないニャ。ミツみたいに強くなってないニャよ」


「いえいえ。強さというのは、肉体だけではなく、心の強さも言うのです。貴女は以前よりも明らかに輝いてますぞ」


「そっ、そうかニャ? ニャハハ」


 少しだけ警戒していた私兵も、自分が以前ゼクスと屋敷で模擬戦をしていたのを見ていた者が中に居たのか。あの少年は、あれって、等など、ダニエルとゼクスと会話をしている後ろから驚きの声が聞こえてくる。

 内心、あの時の戦闘で庭などを滅茶苦茶にして、後片付けを屋敷の庭師や私兵さん達に任せてしまったので、自分としては申し訳ない気持ちしかない。

 


「んっ?。ミツ君、彼らは?」


 リック達は少し離れてこちらをソワソワと見ていたのか、ダニエルの視線が後ろにいる三人を見ていた。


「はい、洞窟に行く以前、一度一緒に依頼をやっていた仲間の三人です。今回偶然にも洞窟に行く道中一緒になりまして。今回は三人も一緒に潜ったんですよ」


「リックとリッケとリッコニャ。三人は兄妹ニャ」


 スタスタと三人の方へと行き、リック達の背中を押してこちらへと連れてくるプルン。

 領主であるダニエルとの初めての謁見も緊張するが、私兵の威圧感が三人の緊張を更に高めていた。

 リックは直ぐに頭の兜を取り、膝をおってダニエルへと挨拶の言葉を告げた。


「は、初めまして! 冒険者をやってます、お、俺、じゃなかった、自分はリックです! ブロンズランクでファランクスをジョブとしてやってます!」


「僕はリッケです。兄と同じ冒険者のブロンズランクです。ジョブはクレリックをやってましたが、今はソードマンをやってます」


「……」


 リックと同じように膝をおりダニエルへと挨拶をするリッケ、続けてリッコの言葉が来ると思っていたが、当の本人が緊張しすぎて兄が挨拶したことにも気づいてもいない。


「お、おい、リッコ。お前も挨拶しろよ……」


 リックは直ぐにリッコへと焦りながらも言葉を飛ばすと、ハッと兄の二人が膝をおっている姿に自身も直ぐに膝をおり、辿々しくも領主へと挨拶の言葉を告げた。


「あっ、す、すみません! えーっと。リッコと申します。よ、よろしくお願いします!」


「ほほー。君達も冒険者か。ふむふむ、三人とも元気があっていいじゃないか。なぁ、ゼクス」


「はい、左様でございますね。若き冒険者を見ると、若い頃の血が騒ぐ気持ちでございます」


 三人の領主へと挨拶は上手いものとは言えなかったが、ダニエル本人はそんなことは気にしないと、微笑みながら三人を見ていた。

 ゼクスも緊張しながらも、自身達へ精一杯の挨拶にニコニコと微笑んでくれていた。

 そんなゼクスがリッコへと声をかける。


「リッコ様でしたか? 貴女は杖を持っているところ魔術士でしょうか? ですが、今身に着けている防具品は、前衛にも見えますが?」


「は、はい! 私のジョブはヴァルキリーです! 前はウィッチでしたけどミツ、いえ、彼のオススメで今のジョブになりました! それに合わせてジョブの転職として今の装備に変えました!」


 憧れであるゼクスからの突然の質問、リッコは緊張で心臓がバクバクだったが、目を爛々とさせて質問に答えた。


「ホッホッホッ、左様ですか。リッコ様はお美しいだけではなく、元気もあって素晴らしいですね」


「い、いえ。そんな……」


「ニャハハハ。リッコはおじさんが憧れだって言ってたニャ」


「ちょっと、プルン! ゼクス様におじさんは失礼よ!」


「ホッホッホッ。いえいえ、この様な老いぼれを憧れていただけるとは。リッコ様、心より感謝いたしますぞ」


「そ、そんな感謝だなんて。こちらこそお会い出来て光栄です!」


「リッコだけじゃありません! お、俺達もです! ゼクス様にお会い出来たことは父にも自慢できます!」


「そうです!」


「ハッハッハっ。お前の人気も衰えておらんな」


「いえいえ。旦那様、その様な事はございません」


「さて、ミツ君。態々家を訪れてくれたと言うことは?」


「はい、お約束どおり、ロキア君の弓の特訓に来ました」


「うむ、ロキアも喜ぶだろう。丁度我々も屋敷へと帰るところ。共に来なさい。勿論君達も時間があるなら来てくれたまえ。洞窟での戦いの話しをしてくれないか?」


「「「はい、是非!」」」

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