第70話 素材の持ち込みには制限をかけよう。

 カラ実。

 その木の実を乾燥させ、石などで粉末にし、焼いた肉に振りかけて使う調味料の一つ。

 そんな調味料を使った串肉を頬張る女の子。


「こっ! これは美味いニャ~」


 肉自体の旨味もあり、調味料の相性もとても良く、プルンの口からは光が出てくる程に串肉を絶賛している。


「本当、ちょっと辛いけど美味しいわね!」


「リッコ、ならあっちに甘味屋があるニャよ」


「口直しね。行きましょうプルン」


「ミツも早く来るニャ」


 ペロリと串肉を食べ終わり、指についた肉の旨味をペロッとひと舐めするプルン。

 リッコも少し遅れて串肉をペロリ。


 リッケ達と別々に行動して、自分達は服屋と言う防具屋を見た後、武器屋、道具屋等などのお店を順番に見廻っていた。

 後に、装備品等を扱う店から離れた場所から、食べ物屋をメインとした屋台通りに辿り着くと、先程とは違い、一件一件と、味比べをし始めた二人。

 小麦粉の様な物を水で溶かし、円状に広げて焼いて、卵や肉、ソースを入れて巻いて食べる、あっ、これクレープだと思わせる物や。

 小さな木のお椀に、麺、野菜、調味料、卵を次々と入れて、中身をかき混ぜて食べるこれは、炸醤麺に似た食べ物を出す屋台。

 流石に途中から3人で1つの品をシェアし合うこともあるが、串物等は一人一本と食べ進めるイートロードが続いていた。


「いや、自分はそろそろお腹いっぱいかな……。二人で食べておいで」


「そうニャ? リッコ、行くニャ」


 二人は少し離れた甘味屋と言っていた屋台。

 寒天ゼリーの様な真っ黒な物の上に甘く煮た豆、きな粉のような粉をまぶし、お値段なんと銅貨一枚のお手軽品。店に並ぶのは、プルン達のような女性が多く見られた。


「ははっ……デザートは別腹と言うけど、二人とも流石に食べ過ぎじゃないかな」


「おっ、いたいた。ミツ」


 腹休めと適度な岩に座っていると、人混みからリックが手を振り、此方へと近づいてきていた。



「リック、もう出店の方は見回ったの?」


「あぁ、一応端の方まで見てみたけどよ、何か閉まってる出店も多くてな。近くの店の奴に聞いたら、ライアングルに流れてるみたいなんだ」 


「商人としては、本格的な稼ぎは街の方が稼げますからね」


「だよな。それにここじゃ、洞窟に行く冒険者のためだけの店しかないから、同じような店が続くと飽きるわな。ってか飽きたわ」


「ははっ、屋台や出店ってそんなもんだよ」


「ふ~。あれ? ところで二人はどうした?」


「プルン達なら、ほらっ、あっちの甘味屋に口直しに行ったよ」


「甘味屋か……最後に俺も行ってくるかな」


「お義兄さん、私達も行きます!」


 プルン達が並んでいる店の方に踵を返すリック、その背中に声をかけるゼリの手は、しっかりとリッケの腕を掴んで離さないと思わせる素振りだ。


「おう、付いてこいや。今度はリッケがあんた達に何か奢ってやるさ」


「なっ、リック……」


「いいのリッケ君?」


「あっ、はい、大丈夫ですよ。今度は僕が持ちます」


「やった! 皆行こう!」


「君は……行かない?」


 リッケを引っ張りながら甘味屋の方へと足を進めるゼリ。それに付いていくように、リックと他の女性冒険者も後を追う。だが、皆は店の方へ行こうとするが、岩の上から動こうとしない自分にルミタが足を止め、声をかけてくる。


「んっ? えぇ、今はお腹いっぱいで。どうぞ、皆さんで行って来てください」


「そっ……。残念……」


「また今度ご一緒しますね」


「!? うん……約束……」


「ちょっとルミタ、早く来なさいよー」


「うん……」


 ルミタの声が小さいが、ゼリの方を向き直し軽く頭を下げると、仲間内では理解したのだろう、ゼリ達は店の方へとそのまま進んでいく。

 その後を追うようにルミタはテコテコと小走りに皆の方へ走っていった。



「さて、お腹もいっぱいだし、動くのも少しきついや……。そうだ……そう言えば転職してからステータス確認してなかった。待ってる間確認しとこう」



名前 『ミツ』     人族/15歳



メインジョブ  モンク     Lv8。


偽造職     料理人     Lv9。


サードジョブ  ジョングルール Lv9。


フォースジョブ 魔法剣士    Lv4。


フィフスジョブ マジックハンターLv4。


転職可能 new


【弓術】【支援術】


【魔力術】【剣術】



鉄の弓orドルクスア 革の軽鎧 盗賊の腕輪



HP _____312+(65)


MP______1395+(65)


攻撃力___512+(115)


守備力___541+(100)


魔力_____468+(155)


素早さ___470+(105)


運 _____475+(85)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ジョブレベルMAX9職


【ノービス】 All+5

【アーチャー】All+5 運+20

【シーフ】All+5 素早さ+20

【クレリック】All+5 魔力+15 守備力+15

【ウィザード】All+5 魔力+25

【エンハンサー】All+10

【ヒーラー】All+5 魔力+20 守備+20

【ソードマン】All+5 攻撃力+20

【忍者】 All+20 攻撃力+30 魔力+30 素早さ+20

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Level upスキル一覧


攻撃力上昇________:Lv5/10。

守備力上昇________:Lv5/10。

魔法攻撃力上昇____:Lv5/10。

魔法防御上昇______:Lv5/10。

攻撃速度上昇______:Lv5/10。

糸出し_____________:LvMax。

麻痺攻撃___________:LvMax。

アースウォール____:Lv2/10。

速度強化___________:Lv4/10。

不意打ち___________:Lv9/10。

打撃耐性___________:Lv4/10。

威嚇_______________:Lv4/10。

潜伏_______________:LvMax。

忍術_______________:Lv4/10。

バッシュ__________ :Lv4/10。

聞き耳_____________:Lv5/10。

ヒール______________:Lv6/10。

パワースラッシュ___:Lv4/10。

シャープスラッシュ:Lv4/10。


newスキル一覧


硬質化_____________:LvMax。

筋肉強化___________:LvMax。

毒液_______________:Lv8/10。

出血_______________:Lv8/10。

眠り攻撃___________:Lv5/10。

幻覚攻撃___________:LvMax。

束縛_______________:LvMax。

発光色液___________:LvMax。

粘液糸_____________:LvMax。

蟲の目________________new。

旋風脚_____________:Lv1/10。

双竜脚_____________:Lv1/10。

双拳打_____________:Lv1/10。

思考転換______________new。

ドレドメロディー_____new。

爆裂拳_____________:Lv1/10。

ラブメロディー_______new。

強撃_______________:Lv1/10。

媚液_______________:Lv1/10。

フェイント____________new。

探索_______________:Lv1/10。

ステップ______________new。

クリティカルアタック_new。

回り込み______________new。

気絶耐性___________:Lv1/10。

忍び足_____________:Lv1/10。

穴掘り________________new。

発見_______________:Lv1/10。

バックアタック_______new。

双竜__________________new。


スキル合計数177個


※※※※※※※※※※※※※※※※


称号 『救い人』


(何だか、前に見たときよりもステータス表示がスッキリとしてる気がする。ねえ、ユイシス。このさ(Lv)の数値表示がない(new)って文字だけなのは、レベルが上がらないってことだよね?)


《はい、ミツの言ったとおりスキルの〈聞き耳〉などのレベルが上がり、スキル効果の増加するものは数値を表示しております。逆に〈フェイント〉や〈穴掘り〉などのレベルアップ自体が無いものは(new)とだけ表示させて頂きました。


(なるほどね。うん、解った。それと、変えたばっかりのモンクがもう上がりそうだけど、これはあれかな? 分身がレベルの高いモンスターを倒してくれたおかげだよね?)


《はい、ミツは分身の経験をそのまま受け次ぐことができます》


(だよね。今回出した分身の性格はアレだけど、結果忍術も増えたから全然オッケーなんだけど。そう言えばユイシス、忍術がかなり増えたけど、スキル数は加算されないの?)


《はい、スキルの〈忍術〉の風刀や風球、忍術のレベルが上がってのスキル取得はスキルの数にはカウントされません。但し〈双竜〉そちらは条件スキルなのでカウントされております》


(あー、やっぱりか。風刀とか風球手に入れたあとも、何か数が少ないと思ったんだよね~。残念、加算されたならスキル数が200近くにいくと思ったんだけどね)


《モンクなどのジョブが上がりそうですので、モンスターを倒して経験を得たらどうでしょう? ミツの力なら直ぐに終わると思いますけど》


(うん、それもありだけどね……今はお腹いっぱいで動いたらやばい……)


 ユイシスにスキルの説明を聞きながら、食べ過ぎたお腹を休めながら時間を潰していると。程なくして、人混みの中からゾロゾロと此方の方に戻ってくる皆の姿が見えてきた。


「おかえり皆」


「ミツ、戻ったニャ。ふ~。ウチもうお腹いっぱいニャ~」


「もう、プルンは食べすぎよ」


「そりゃお前もだろ。おっ、これクリンが入ってるぜ」


「リック、食べながら喋るのは止めてくださいよ、もう」


 プルンは自身のお腹をポンポンと叩き、今は満腹であることをアピール。リッコはプルンに食べ過ぎというが、彼女の手にはクッキーの様な焼き菓子が握られていたが自分はつっこまない。リックの言ったクリンとは、栗を甘煮にした食べ物だ。


「へいへい。なぁ、ミツ、ライアングルにそろそろ帰ろうぜ」


「うん、そうだね。素材品もエンリエッタさんに渡さないといけないし。量もあるから、もしかしたら時間かかるかもしれないからね」


「リッケ君、ライアングルの街に帰るなら、私達と同じ馬車で帰りましょうよ! そしたら、皆が乗れる大きめの馬車も借りれるわよ」


「うん……その方が、馬車代安くなる……」


「あぁ……えーっと……」


「どうしたの? もしかして私達と乗りたくない!?」


 ゼリの誘いにすぐに返事ができなかったリッケ。

 そんな彼の態度に悲壮感を漂わせ、私ショックですアピールをするゼリ。勿論露骨な演技なのは皆解っているので誰もつっこまないよ。



「いえ、そんなことはないですよ。ただ……。僕達の帰りは……」


「あー。あんた達、もし俺達と帰りたいなら、そのな……」


「もう二人とも、ハッキリ言わないと向こうが不安になるでしょ!」


「まぁ、言い辛いのは解るニャ~。ってか見ないと言っても信じないニャ」


「えっ? 義妹さん、なんのことなの?」


 質問してくるゼリにリッコはふーっとため息の後に考え、自分の方へ振り返り言葉を続けた。


「ミツ、この人達も一緒にライアングルの街に帰るのって問題ないわよね?」


「んっ? うん、別に問題ないよ?」


「そうか……。お前がそう言うなら、俺達は何も言わねえけどな」


「そうですね。この際ですから、隠しても意味もないと思いますし」


 リッコの質問に二つ返事に構わないと言葉を返す自分に、リックとリッケはお互い顔を見合わせ、ならどうぞと言葉を返してきた。



「リッケ君、この坊やが何かあるの?」


「ぼ、坊やって……」


「あっ、ごめんなさい。えーっと、ミツ君だったかしら?」


「はい、できれば、後も名前で呼んでくださいね」


「ははっ、ごめんごめん。ところで君が馬車を用意でもするの?」


 軽く詫びを入れるゼリの態度に、後ろに立っていたルミタがゼリの裾を引っ張り声をかけてきた。


「ゼリ……リティーナ様みたいに彼も貴族じゃないの?」


「えっ!? 君、貴族様なの!?」


「いえ、違いますよ。自分は一般市民ですからね」


「ちょっとルミタ、違うじゃない!」


「んっ……なら、何を?」


「えーっと。話は店裏でご説明しますね。皆さん荷物をまとめて酒場の裏に来てください」


「ええ……解ったわ。皆、行きましょう」


「荷物……取ってくる……」


 プルンやリック達の荷物は既に自分のアイテムボックスの中なので、ルミタ達のように宿に金を払って預かってもらっている訳ではない。

 自分達は先にお店の裏へと移動する。


 少しして、大きなバックや、肩掛けの荷物を袋を持ったゼリ達、女性冒険者五人が裏へとやってきた。


「さて、皆さんの行く場所はライアングルの街で大丈夫ですか?」


「大丈夫ニャ」


「行くなら、冒険者ギルドの裏が私は助かるんだけど」


「あっ、ごめん、ギルドの裏なんて見てないから解かんない。今度見とくね」


「そう、なら今回は前と同じでいいわ」


 スキルの〈トリップゲート〉は、行ったことある場所ならゲートを開き、その場所へと移動ができる。

 だが、冒険者ギルドの正面は見たことあるが、流石に用もないのにギルドの裏なんて行くこともないので、その場所のイメージができないので無理だ。


 自分とリッコの会話を聞いているゼリ達は、なんの話をしているのかサッパリだった。


「ゼリ……彼ら、何の話しをしてるの?」


「私に聞かれても知らないわよ。ねえ、リッケ君、馬車の乗り場は向こうよ?」


「あっ、はい、そうですね。でも僕達は馬車では帰りませんよ?」


「えっ?」


「よし! ミツ、出してくれ」


「うん、解った」


(トリップゲート)


 周囲には誰もいないことを確認したリックは大丈夫と声を出し、それに答えるように自分はライアングルの街へとゲートを開いた。



「ええっ!!」


「うそっ!……」


 一筋の線の光が扉となり、ゲートの向こうにライアングルの街を映し出していた。

 突然現れたゲートに、勿論ゼリやルミタ達は驚きに言葉を失っている。


「まぁ、こんなふうに、僕達はミツ君のスキルでライアングルの街まで帰れるんですよ。んっ?……あれ、ゼリさん?」


「……」


「ああ、姉ちゃん達の気持ちは解るぜ。マジで思考が止まるよなこれは……」


「ニャハハハ。ウチが先に行くニャ」


「はい、どうぞ」


 口を開けたまま止まってる女性陣をみると、納得とゲートを見て、改めてミツの出したゲートに少し呆れるリック。

 ニャハハと笑いながら何も気にせず、いち早くとゲートを潜り抜けるプルン。


「相変わらず人を驚かすわよね」


「まぁ、否定はできないね……」


「俺も行くぞ。リッケ、その姉ちゃん連れてこいよ。ほらあんた達も早く来いよな」


 呆れたと思うような言葉を飛ばすリッコだが、その口元は微笑み、目も笑ってる様にも見える。

 リッコはゲートを潜り抜け、ぐっと背伸びをしてるプルンの脇をくすぐり、じゃれ合っている感じも微笑ましい物だ。


 リックはいまだ止まっていた女性冒険者の背中に掌を軽く押し、行くぞと声をかけゲートをくぐり抜けて行く。世が世ならセクハラだとか言われてるだろうが、背中を押された女性治療士の頬が赤いので大丈夫だろう。

 うん、何かリックも男前として女性からは見られてるんだな。

 だけど、彼女は知らないだろうな、リックは宿に泊まれば、自身の槍に油を塗りたくり、磨くことを怠らなかった男だったと言うことを……。言わんといてあげよう……。



「はい。ゼリさん、大丈夫ですか? 行きますよ」


「えっ? あっ、はい、永久についていきます」


「ははっ……」


 何を言っているのやら、ゼリの言葉にリッケからは乾いた笑いしか出ていない。

 

 ゲートの入り口は人一人が通る程度の幅しかない。

 それでも、ゼリはリッケの腕をシッカリと掴み、自身の豊満な胸をリッケの腕に押し当てアピールし、二人でゲートを少し無理やりと通って行った。

 


「ルミタさん、足元に気をつけて入って下さいね」


「んっ……うん。あ、あの……これ、本当に君のスキル?」


「そうですよ。さっ。皆が待ってますから、どうぞ」


「わ、解った……」


 〈トリップゲート〉を見て驚きにゲートと自分を交互に見るルミタ。そんな彼女にスッと手を差し出してゲートへと誘導。

 ゲートに片足を入れ、地面を踏み確かめた後、ライアングルの方に移動が終わると、更にルミタの驚きの表情、いつもの眠そうな表情とは思えないほどにぱっちりと目が開いている

 


「帰ってきたニャー!」


「はぁ~。疲れたー。早くお風呂に入りたいわ」


「おい、風呂って……。風呂の火の番はどうせ俺達がするんだろう」


「当たり前よ。お父さん今は仕事行ってるでしょうし、お母さんにそんなことさせれないわよ」


「はぁ~。俺も家に帰ったら休みたいんだけどな……」


「リックに賛成します。僕もなんだか街に帰ってきたと思うと疲れが一気に来ました……。んっ? ゼリさん大丈夫ですか? もう手を放して大丈夫ですよ?」


「嫌……」


「えっ? ゼリさん?」


「あっ!? ご、ごめんね! ってか何! えっ、えっ? ここは、えっ? ライアングルの街なの? 私達さっきまで……えっ? 皆は? あっ、居るわね……」


「落ち着いて下さいね。ミツ君、すみませんが皆さんの心を落ち着かせてあげてください」


「はいはい、ちょっと待ってね。ルミタさんは大丈夫ですか?」


 忘れ物などが無いことを確認し終わった後、自分はゲートをイメージで消す。

 すると、消えたことにまた女性陣は驚き、ルミタはブツブツと何か独り言を言い始めてしまった。


「……スキル……いや、でも、聞いたことある……でも、あれは……それでも……同じもの……」


「ルミタさん、ちょっと失礼しますね」


 声をかけても反応がないルミタの腕を取り〈コーティングベール〉をかけて思考を戻した。

 同じようにリッケに捕まっているゼリの肩に手を置き、スキルを発動。他の3人にも同じようにスキルをかけると、なんとか心を落ち着かせてくれたようだ


「……あれ?」


「こ、このスキルは! 君、何者なの……」


「ふふっ、ナイショですよ」


「ないしょって……」


 驚きのあまり、ゼリは自分の両肩をガシっと掴んでくる。慌てるゼリに落ち着いてくださいと言葉を載せ、指を口元に立て、口止めをお願いしておくことにした。

 皆が驚くのも解るが、ゼリの行動はリッコにとって、悪手的な行為に見えてしまったのかもしれない。

 此方に近づいてくるリッコは、自分の方に載せられた手をサッと払いのける様に二人の間に入ってくる。


「フンッ……。ミツ、取り敢えず冒険者ギルドに行きましょう。あなた達はここで解散でもいいわよね?」


「あっ、えっ……」


 ゼリは一瞬、リッコがなぜ冷たい視線を自身に突きつけて来たのかが解らなかった。

 だが、自身の行動が仲間内に失礼なことだと理解すると、ゼリは謝罪の言葉を入れて来た。そんなゼリに、ルミタが声をかけてくる。


「ゼリ、取り敢えず、私達も帰ろう……私達も、予定済ませないと……」


「そっ、そうね。 取り敢えずここまで送ってくれたことにお礼を言うわ。ありがとう、おかげで馬車代が浮いたわ」


「ありがとう……」


「いえいえ。お役に立てて良かったです」


(ゲートに人数制限はなさそうだな……。スキルを使用後のMPも減ってないし、くじ箱スキル万歳だ)


 ルミタはゲートのスキルのことを詳しく質問したかったが、ゼリがミツに対して失礼なことをしてしまったことに、質問することをためらわせてしまった。

 ミツは知らなかったろうが、この世界で相手の両肩を掴むという行為は、お前は俺の下にしてやる、俺の為に動けと、上司が部下に対してやる行為の一つである。

 リッコは父からこのことを聞いていたので、ゼリの行動に少しイラッと来てしまったのだろう。

 ルミタは何処かでこのことを聞いたことあるのか、ゼリの行為は否があるとしか見えていなかった。

 リックもリッケも勿論このことは知っている。

 だが、妹のリッコが先に動いたことに自身達が口を出すことはしなかった。

 ゼリも思わずやってしまったことに罰の悪い顔になってしまい、このあともリッケに付いていく気にはならなかった。


 ゼリ達は最後に軽く頭を下げ、市街の方へと歩いていった。

 ゼリは最後の最後で失敗をしてしまい、少し肩を落として歩いていく、そんなゼリを慰めながら歩く他の女性陣。ルミタは一度、二度と振り返り、最後に軽く手を振り人混みの中へと消えていった。



「フンッ……まぁ、取り敢えず、いきなりミツのスキル見たり経験したらあんなふうになるんだな」


「ですね、僕達も色々な物をミツ君に見せられてましたけど、ゲートを見たときはあんな感じでしたもんね」


 女性陣を最後まで見送ると、ボソリとリックが呟き、その声を拾うようにリッケが答えている。


「二人とも何してるニャ? 早くギルドに行くニャ!」


「お、おう。そうだな。素材品見せて、エンリさんを驚かせてやろうぜ!」


 

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 冒険者ギルド内。

 冒険者は朝に依頼を受け、依頼内容によっては夕方に帰ってくる。

 そんな冒険者が大半なため、お昼にはギルド内に冒険者の数は少ない。

 居るのは依頼を頼む人や、仲間のハンティングと人の観察をする者、他にも様々だが、大半は朝寝過ごして依頼を受けそこねた者がいる。


 仕事も無いのか、受付カウンターは空いており、知り合いのカウンター嬢のところに声をかけた。


「こんにちは、ナヅキさん」


「ニャ、ナヅキ、帰ったニャ!」


「あら、皆揃って何処かに行ってたの?」


「はい、試しの洞窟に数日行ってきました」


「そう。皆無事でよかったわ。プルンは相変わらず元気そう……んっ? プルンあなた数日見ないうちに……」


「ウチがどうしたニャ?」


「いえ、変な意味じゃないわ。ほんと元気そうね」


「ニャハハハ。ウチは元気ニャ!」


「ふふっ。彼のおかげかしら」


「ニャッ!」


 ナヅキの茶化した言葉にプクッと頬を膨らませるプルンだが、一先ず話をすすめる。


「えーっと。エンリエッタさんにもお話したんですけど、試しの洞窟での素材品をこちらで買い取りお願いしたいんですけど」


「はい、ありがとうございます。依頼以外の持ち込みもギルドは受付させて頂きます、って。そう言えばミツ君は知ってたわよね。ふふっ」


 話の内容が仕事となると、ナヅキは口調を変え、仕事としての対応をし始めた。まぁ、直ぐにその口調は崩れたが。



「ははっ、ここでオークの素材渡したこともありますからね」


「ニャ~。あの肉は美味かったニャ~」


「うん、また食べたいよね」


「何だよ、その時は俺達も誘えよな」


「はいはい、勿論お誘いしますよ」


「おう! 期待しとくぜ!」


「では、こちらに素材品のご提示をお願い致します」


「えっ? ここでですか?」


 ナヅキはカウンター横にある広めの台に素材品を出してくれと言うが、その台は小さすぎてアイテムボックスの素材全部が出せるわけがない。


「あっ。そうでしたね。では、数もあると思いますので、ギルドの裏に解体小屋があります、そちらの方へよろしくお願いします」


 ためらう自分にナヅキは思い出したかのように、場所の移動を促してくる。



「解りました。後、エンリエッタさんはいらっしゃいますか?」


「申し訳ございません。副ギルドマスターであるエンリエッタは、只今不在しております。変わりですが、私が皆様の担当をさせて頂きます、どうぞこちらへ」


「ナヅキ、頼んだニャ」


 ナヅキは案内のためカウンターから出ると、他のスタッフに連絡を回した後、ギルドの裏にある大きめの解体小屋に案内してくれた。


 案内された小屋は大きな石台を中心に置き、周りには素材を解体するためと思われる大きな刃物やハンマーが並んでいた。素材をあんこうの吊るし切りをするような感じの道具も見受けられる。



「では、こちらの石台の上にお願いします」


「あー。ナヅキさん、すみませんがこの上から溢れた分は下に置いてもいいですか?」


「そっ、そんなにあるのね……。コホン、解りました。では、それでお願いします」


「はい」


 取り出すのは試しの洞窟内で戦ったモンスターの素材全て。

 スライムの核から始まり、コボルトの耳と牙を置く。

 ナヅキは石板のような物に置いた物と数を数えながら次々と記入している。


 次に2階層での素材品。

 ゴブリンの耳を置いた後、デスラビットの亡骸となった素材を次々とおいていく。

 この時点で既に石台の上はいっぱいになってしまった。

 そりゃそこそこ大きいデスラビットが25体も出したのだから仕方ない。

 ナヅキはそれも問題ないと数と亡骸の状態を確認しながら記入。だが、次に取り出した素材にストップがかかった。


 3階層の素材。

 それは取り出したと同時にべちゃりと体液を垂らし、今は動いてはいないが、ウネウネとした胴体が強調された素材。マジックワームとワームリンクスだ。

 少し床を汚してしまったが、解体する人がすぐに空の盥を用意してくれたので、赤虫と茶虫は全てそこに入れた。

 そして、数多く倒したバルモンキーの群れの一部だが、そこそこに数がある猿の亡骸。

 20、30と過ぎても、まだアイテムボックスから取り出す自分にナヅキがまたストップをかけた。

 

「ちょ、待って、ミツ君ちょっと待って。数が多すぎて私一人じゃ計算できないから、もう一人スタッフを連れてくるわ」


「あっ、はい」


 石板をその場に置き、急ぎ足にギルド内に戻っていくナヅキ。


「なぁ、これまだ3階層分までだよな?」


「そうだね、バルモンキーはこれで最後だけど次がスケルトンとゾンビかな。あっ、後コウモリだね」


「ニャッ! ウチ、少し出てるニャッ……」


「私も外に出てるわ」


「お前ら……」


 次に取り出すものがゾンビと聞くと、リッコとプルンは外へと行ってしまった。

 二人が出ていく変わりと、ナヅキが一人のカウンター嬢を連れて戻ってくる。


「ごめんね、あっ、コホン。おまたせしました。ではこちらのバルモンキーで、以上でよろしいでしょうか?」


「いえ、まだありますよ?」


「そ、そうですか……。どうぞ、次の素材のご提示をお願いします」


「はい」


 ナヅキが戻ってきたことに素材の確認が再開した。

 4階層の素材はスケルトン(骨粉含む)ゾンビ、デビルゴースト、スケルトンメイジ、リッチ。

 スケルトンの数が一番多いので、取り出すのにも少し時間がかかってしまった。

 スケルトン自体、自分がスキルの検証やリティーナパーティーから譲り受けたこともあり、まさかの3桁にたどり着いたことに自分も驚いてしまった。

 いや、1番驚いたのはギルドの職員さん達だろう。



「これは小屋に入りきれませんね……」


「塵も積もれば山となるってこのことだね」


「何だ? 初めて聞くな」


「あっ、えーっとね。言葉の通りだよ。小さい物も数を集めればこんなふうに山になるってこと」


「なるほどな~」


「えーっと。次がスケルトンメイジとこれですね」


「これは……!?」


 解体職人が数を数え終わったデスラビットを石台から片付けたので、またその上に新たにスケルトンメイジとリッチを置く。

 すると、それを確認したスタッフ達の目が変わった。



「はい、4体がメイジで1体がリッチですね」


「こ、これをあなた達が倒したの?……」


 ナヅキは驚きに、リッチに指を指しながら質問してくる。


「んー。いや、俺達はこいつと戦ってないな。これ倒したのミツだ」


「そうですね。ミツ君いつの間に? メイジの中に紛れ込んでたのですか?」


「うん、いたね。ついでに一緒に倒しといたよ」


「つ、ついでって……」


 リッチを見たリックとリッケは戦った記憶がないことに自分の方へと視線を戻して聞いてくる。

 確にリッチはメイジを従えた感じに紛れていたのだ。

 ミツが倒したモンスターのリッチ、このモンスターはグラスランク以上に危険度として認知されているだけに、スタッフ達の表情がこわばっていた。


「ナヅキさん、まだあるんですけど、どうしましょうか?」


「まだあるの!?」


 自分の言葉にナヅキは仕事の口調を完全に忘れていた。確に、案内された小屋はそこそこ広いが、バルモンキーを出した時点で小屋の3分の1が埋め尽くされ、更にはスケルトンやゾンビ、デビルゴースト等などを次々と取り出したせいか小屋にはもう置く場所が無くなっていた。


「えっ、ええ。後はスモールオークと、エイバルとスパイダークラブが」


「はぁ……。大変申し訳ございませんが、外の方に台を用意いたしますので、ご提示を少々お待ちください……。エイミー、手の空いた人3人、いえ、空いてるものは皆手伝いにこさせて……」


「は、はい!」


 呆れたと思いながらも、ナヅキは仕事モードの口調に戻し、素材は外に即席の台を用意することに決めたようだ。ナヅキは連れてきたスタッフ、エイミーと名の人に連絡を伝え、人の増加と指示を出し始めた。

 ナヅキの言葉にエイミーが走り出し、解体職人も人手がいると、何処かへと行ってしまった。


「はぁ、時間かかりそうだな……」


「まぁ、数も数ですからね……」


「昼前に来といて良かったね」


「だな」


「随分とうちに持ち込んでくれたようだね、坊や」


 解体小屋から出ると、ギルドの裏口から一人の人物が出てきた。


「んっ? あっ。こんにちはネーザンさん。いえ、ギルドマスター」


「お疲れ様です!」


「こんにちは」


 ギルドマスターであるネーザンが顔を出すと、リックとリッケは頭を下げ声を出し、ネーザンと挨拶を交した。


「うん、皆も元気そうで良かったよ。こらプルン! あんたも挨拶ぐらいしな」


「ネーザン、まだ生きてたかニャ。なかなかしぶとい婆ニャ」


「ちょっとプルン……。こんにちはギルマス」


 ギルドの建物に背中を凭れさせ、そっぽを向いているプルンに、ネーザンがいつものように注意を飛ばした。

 チラッとネーザンの方を向いた後、プルンは悪態を吐きながらまた視線を外している。



「まったく、周りはしっかりしてるのにあんたって子は……。エベラにもっと厳しく言ってもらわないとね」


「なっ! 止めるニャ! エベラに告げ口なんて婆はずるいニャ!」


 プルンの母親であるエベラの名を出すと、プルンはそれはマズイと、ネーザンを止めるように言葉を飛ばしはじめた。


「まったく……仕方ない子だね……。ところで坊や、見た感じ、試しの洞窟に行ってきたみたいだね……。それにまだありそうだけど。それより、あれはいったい何処で倒してきたんだい?」


「あれも試しの洞窟で倒してきましたよ。4階層のスケルトンメイジと一緒にいたところを倒しました」


「ふむ……。洞窟内で……あれをね……」


 石台の上に置いたメイジを調べるネーザン。

 解体職人からナイフを受けとり、リッチの着ているローブを切り始めた。

 まぁ、ギルドに売るものだから、周りも何も言ってこないので気にしない。



「失礼します。どうぞ、準備ができましたのでお願いします」


「はい」


 エイミーの言葉で、地面に置かれた即席の台に案内される。そこに、5階層でのモンスターの亡骸であるスモールオークを次々と取り出していく。


「ニャ~。鼻が曲がるニャ……」


「改めて思うけど、あれ酷いにおいよね……」


 スモールオークを数体出しただけで周囲は悪臭が漂い始めた。ナヅキとエイミーの二人の距離が何故か先程とは違い遠く感じる。

 変わりにと解体職人がガスマスクっぽい物と手袋を着けてスモールオークの状態を調べ始めた。

 ってか、手袋あるなら自分にも貸してよ……。



「次のは少し大きいですから、皆さん離れて下さい」


 周囲を確認し、下に置いた板の上にデビルオークの亡骸を取り出す。ただ、デビルオークの大きさと重さに耐えきれず、下にひいていた板からはバキッと音がして割れてしまった。まぁ、周囲はそんなことよりも出されたデビルオークに視線が集中しているのだが。

 


「なっ!?」


「えぇ!」


「でけえな」


「改めて見ると大っきいですよね」


「坊や、このデビルオークは……」


「はい、これも洞窟内で」


 洞窟内では全身を黒い毛だけしか解らなかったが、外の光で見ると焦げ茶色の地肌と、その凶悪そうな顔がしっかりと見える。

 その胴体には螺旋状の傷が深く刻まれ、傷の周囲の毛は白く凍っていた。もう亡骸だと解っていても、ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が耳に聞こえる。


「はぁ……たまげた……。次はエイバルだったかい? 坊やはまたこれだけデカイのを出す気なのかね」


「いえ、次からは普通ですよ。あっ、でも、首を落とした後に断面を凍らせてるので、血も素材として買い取りをお願いしますね」


「凍らせてるってあんたは……。まぁ、解った。誰か血受けの盥を持ってきな」


「はい、直ぐに!」


 ネーザンが淡々と次に取り出す素材品に少し、いや、完全に呆れた口調に変わってきている。

 盥を要求すると、返事をした小間使のような青年が走っていった。


 6階層では亀の姿そのままのエイバルだ。

 このモンスターだけは数も少ない分、血を無駄にせずに素材として出せるのは良かった。


「これとこれは失敗しましたけど、あとのエイバルはちゃんと凍らせてますからね」


 先に取り出したのは首を切り落としたあと、血を殆ど流してしまったエイバルと、自分が正拳突きにて甲羅ごと粉砕してしまったエイバルの二体。

 血を流しきった方は、売ることはせず、そのままガンガへと武器の素材として渡すことにした。

 残りはしっかりと首部分は焼いたり凍りつかせてるので、エイバルの血は止まっている。

 石板にエイバルの数、状態を記入しているナヅキに、どうやって倒したのかを説明をしてると、ネーザンは倒したエイバルの亡骸に触り何かを調べていた。


「ふむ……。坊や、さっきから思ってたんだけど、これはいつ倒したんだい?」


「えーっと、昨日ですね」


「ふむ……そうかい……」


「ネーザンさん?」


「あぁ、私に構わず続けてな」


「は、はい?」


 血受けのためと、盥と大きめの樽を持ってくる人々。

 リッコが傷口を焼いたエイバルはそのままでも大丈夫だが、自分が凍らせた首は少しづつだが溶け始めていた。

 ざくりと凍らせた場所にナイフを突き刺す解体職人。

 すると刺した場所からはドバドバと血が溢れ始めた。


「あんた達、血抜きは頼んだよ」


「へいっ!」


 まだ数を数えている途中だが、エイバルだけはそのままにしとくわけも行かず、先に血抜き作業が始まった。

 ネーザンは解体職人達にあとを頼んだ後、次の七階層のモンスターに視線を送る。


「それで次がこれですね……」


 最後に取り出したのはスパイダークラブ。

 悪品は洞窟内にそのままに置いてきたので、アイテムボックスから出す物は優品となる素材品だらけ。

 優品だけと言うが、スパイダークラブの数が、もしかしたら洞窟内での1番の数だったのかもしれない。


 胴体と足は切り離しているので、胴体を先に台へと置き、切り離した足を取り出した。すると、直ぐにプルンが待ったの声をかけてくる。


「ニャッ! 駄目ニャ駄目ニャ! ミツ、それは出しちゃ駄目ニャ! その足はウチらが食べるニャ!」


「えっ? 食べるって、プルンあんた……。いい? スパイダークラブの足は腐敗が凄くて、食べれる物じゃ……あれ?」


 プルンの言葉にナヅキは呆れ、置かれた足の一本を調べると、自身が今まで見たことのない程の素材の良さに疑問と驚きに、手に持つ素材と別の足を確認し始めた。


 ネーザンもまた自分から一本の足を受け取り、クンクンと匂いを嗅ぎ調べている。


「そうだったね……。ならさ、半分だけ残そうか?」


「は、半分ニャ……。むむっ、ミツ、これは本当に美味しい物だと思うニャ! 売っちゃうのは勿体無いから駄目ニャ!」


 数も数なので、スパイダークラブの足の数だけでも数百は行っている。

 半分でも十分と提案してみるが、プルンは首を立てに振ることはしなかった。

 必死に懇願してくるプルンを見ていると、リッケがため息と一緒に言葉を飛ばしてきた。


「はぁ~。ならよ、蜘蛛は胴体だけ売れよ。足は全部プルンにくれてやる」


「リック、良いの?」


「あぁ、別に足ぐらい減っても、これだけ出せば報酬はそんなに変わらねえだろうし」


「リック、ありがとうニャ! お礼にミツが作った足料理食べさせてあげるニャ!」


「いらんわ! しかもお前が作るんじゃねえのかよ!」


「ニャハハハ!」


 リックの提案に皆も頷き、スパイダークラブの足の権利は全てプルンの物となった。

 考えてみたら、プルンが自身でスパイダークラブの足は食べれると気づき、自身が積極的に素材を集めていた分、独り占めは駄目ということもない。

 それに、プルンは皆で食べると言っていたので、足を全て自分の物とする気はさらさらに無いだろう。

 まぁ、リックは食べるか解かんないけどね。


 アハハと笑いが飛び交う中、ネーザンがプルンに交渉を持ち出してきた。


「プルン」


「婆、何ニャ?」


「すまんけど、こちらに数本で良いから買い取らせてくれんかね。スパイダークラブの足があれほど上品で入ってきたことないから、ギルドとしても少し調べたいんだ」


 プルンはネーザンの提案に目を閉じ少し考え、数本と言う少ない交渉に納得したのか、スパイダークラブ10体分の足を買い取りに出した。


「うぅ……解ったニャ……数本ニャよ。あんまり持っていったら駄目ニャよ」


「うんうん、すまんね。助かるよ」


「フ、フンッニャ!」


 いつも口喧嘩のように言い合う二人だが、本心は仲の良い二人なのだろう。


 話も決まったので、これで素材品として出せる物は全部なはずだ。


「さて、これで終わりかい?」


「いえ。実はまだありまして……」


「何だい。あるなら全部出しちゃいな。ちゃんと全部買い取りしてあげるよ」


「……」


「どうしたんだい?」


 素材品としてではないが、自分のアイテムボックスにはギルドに見せなければいけない案件がある。

 

「婆、買い取りをお願いしたいものは多分それで全部ニャ……」


「ふむ……。どうやらここじゃ出しにくそうだね……。解った、地下のほうに行こうか」


「はい……」


 自分の表情を読み取ったのか、ネーザンは皆にその場を任せ、地下の方へと皆を案内した。

 

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