第69話 出店ロード

「ここなのか?」


「そのはずだよ」


「よっしゃ! ならさっさと入ろうぜ」


 酒場から出た後、アバ達が変わりにと連れて行った盗賊を預かる役所へとたどり着いた。

 建物の中へと入ると、直ぐに受付の人がこちらに声をかけてきた。


「おはようございます、本日はどのようなご用件で?」


「あっ、はい。」

 

 声をかけてきた青年、その青年の受付カウンターの前へと足を進める。


「あの、アバさん達がこちらの方へと盗賊を引き渡した件なんですが」


「はい、少々お待ちください。……えーっと、アバ様…アバ様……」


 青年は棚の中から分厚い板を取り出し、アバの名前を探し始めた。


「はい、確認いたしました。試しの洞窟内で盗賊行為を働いたと思われる数名を当社がお預かりしております。失礼ですが、あなた様のお名前をよろしいでしょうか?」


「自分はミツです。自分達の代わりにアバさん達に洞窟内で捕まえた盗賊をこちらの方へと連れて行ってもらいました」


「なるほど。では、本人確認をいたしますので、冒険者カードをこちらにご提示ください


「解りました」


「!?」


 自分は首にかけている冒険者カードを青年へと提示した。

 するといつもの事ながら、自分の差し出したアイアンのギルドカードに驚いている。

 もう流石に何回も続くと自分もその反応に慣れてくる。


「どうかされましたか?」


 自分の言葉に青年はハッとした表情を浮かべ、カードの裏に焼印されている名前を確認しはじめた。


「い、いえ。失礼しました。……はい、本人と確認させて頂きました。カードをお返しいたします。この度は、洞窟内での盗賊の捕獲にご協力いただきありがとうございます。試しの洞窟を管理させて頂いております、当役所からもお礼を申し上げさせていただきます」


「いえ、運が良かったんですよ」


「ニャハハ、ウチらは寝てただけニャ」


「そうよね」


「まぁ、誰も怪我しなかったのが幸いですね」


「だな」


 自分達の言葉に少し苦笑いの受付の青年。

 コホンと一つ咳を入れ話を続けた。


「この度捕まえて頂いた盗賊ですが、犯罪歴が多数発覚いたしましたので、全員が犯罪奴隷送りが決まっております。その際の盗賊達の奴隷代金が一人につき金貨二枚が払われます。ただし、盗賊のリーダーをやっていたと思われる男には懸賞金が当てられておりました。男の犯罪歴としましては殺人、強盗、強姦、等など多数罪が発覚しております。この男は奴隷送りはなく、処刑が決まっておりますので、この男には奴隷金は払われません。変わりに懸賞金の金40枚が払われます。最後に盗賊の持ち物は基本盗品となりますので、こちらで回収となりますのでご理解下さい」


 青年はスラスラと盗賊の罪状を述べていくと、別の役所の職員がトレーに乗せた金を運んできた。

 盗賊は6人、その内一人は懸賞金の支払いとして残り5人は奴隷として金に変わった。

 トレーに積まれた金50枚。

 予想以上の金の多さに皆は驚きに声が出ない。


「それではこちらをお受け取りください」


「はい。ありがとうございます」


「いえ、その言葉はこちらこそお伝えすべき言葉です。この度はありがとうございました。ところで、一つよろしいでしょうか?」


「はい? 何でしょう」


 青年は自分達に頭を下げた後、質問をしてくる。


「盗賊の罪は魔導具にて詳細ができたのでいいのですが。実は盗賊が未だに動いたり喋れる状態ではありません。処刑する男は構いませんが、残りの5人は奴隷送りと決まっておりますので、ここにいつまでも置いとくことはできません。失礼ですが、どのような毒を盗賊に与えたのでしょう? それが解れば、こちらの方で解毒の後に直ぐに搬送できるので、教えていただけますでしょうか」


「毒なんて使ってませんよ? アレはスキルで麻痺らせてるだけなので、もし必要であれば自分が治しますけど?」


「そうでしたか。失礼ながら、よろしければお願いしてもよろしいでしょうか」


「解りました。皆ちょっと行ってくるね」


「全く、あんな奴ら放っとけばいいのに」


「まぁまぁ、盗賊のためではなく、役所さんのためと思えば」


「俺はここにいるわ。多分あいつらの顔見たらまた殴りたくなるからな」


「ウチもニャ」


「はいはい、すぐ戻るよ」


 役所の人に案内されたのは地下にある牢屋だった。

 そこには確かに自分に対して恐喝をしてきた盗賊達。

 リーダーは別の牢屋に入れられているのか、同じ牢屋の中には居ない。

 そして、役所の人が牢屋の中へと入り、一人一人を土魔法で作られた鉄格子に背もたれさせていく。

 流石に自分を牢屋の中へと入れることはしないようだ。

 まぁ、鉄格子からでも手は届くのでこれで構わない。

 自分は盗賊達に〈キュアクリア〉を使用し、状態異常を治療。すると盗賊達はまだ頭が回っていないのか動きが鈍い。しかし、振り返り、自分の姿を視線に入れるとギャーギャーと叫びだしたのだ。

 助けてくれ! 悪かった! 命ばかりは! 

 盗賊達の突然の命乞いと思える言葉に、周囲にいた役所の人は驚きながら自分を見てきた。

 別に言葉を返すことも無いので、やることは終わったのでその場を後にまた皆のいる場所へと戻ることにした。


 上に戻ると、皆は役所の端っこにあるテーブルを囲んで話し合っていた。そこに自分が入り懸賞として受け取った金をテーブルの上へと置く。


「しかし、予想より多く貰えたね」


「ねぇ、ミツ。盗賊を捕まえたお金だけど。これ、本当に皆で分けちゃっていいの?」


「んっ? 別に構わないよ」


「そう……」


「何だよリッコ。せっかくミツが分けてくれるって言うのに、何か言いたいのか?」


「リック、あんたは……。あのね、洞窟内でのモンスターの素材品とかは確かに分け合おうって話をしたわよ。でもそれは皆が戦ってるから納得してたの。今回の件はミツが一人で全部持っていっても私達は何も言えないのよ」


「そうなの?」


「何であんたが言うのよ……」


「あぁ、ごめん。一応洞窟内での報酬って考えてたから、皆で分け合うものなのかなって」


「ニャハハ。ミツはそう言うと思ってたニャ」


「プルン、あんたまで」


「リッコ、無駄ニャ無駄ニャ。ミツは一度決めたら無理矢理にでも押し付けてくるニャよ」


「無理やりって……。よーし解った、無理やりとおっしゃるなら、プルンさんの分は自分が貰っておくよ」


「ニャニャ! そんニャ〜」


「ふっ……。リッコ、良いんだよ。仲間内での金は下手に差額をつけると、問題が起きるかもしれないからね。自分は最初に決めた通り、洞窟内での報酬は全て皆と分け合うつもりだったんだよ。それに……」


「んっ? 何よ?」


 自分はリックとリッケ、そしてリッコの服装を見て言葉を続けた。


「いや、リックもリッケも、それにリッコもさ、新しい防具買ってるからお金使ってるじゃん。使った分皆お財布軽くなったんじゃないかなと」


「んー。確かにそうだけど……」


「なら、そんなリッコにこの言葉を教えてあげるよ」


「えっ、何を?」


「コホン、えー。冒険者は何かとお金がかかるものです、これはいずれ君のお役にたちますよ。ってね」


「何よ、誰の言葉?」


「これはね、リッコが憧れてるゼクスさんが教えてくれた言葉だよ」


「ゼクス様の!?」


 どうしても受け取ることをためらうリッコに、ボッチャまLove執事であるゼクスの助言をそのまま伝えた。

 どうもリックやリッケより、リッコの方がゼクスに対しての憧れが強いように感じられる。


「うん、そうだよ。自分もその時リッコと同じように遠慮がちに差し出された金を断ってたんだよね。そしたら、ゼクスさんが優しく、それに真剣に自分のことを思ってさっきの言葉を言ってくれてたと思うんだ。だからさ……この金は皆のためなんだからさ、ねっ?」


「うっ……。し、仕方ないわね! ゼクス様が言ってたならそれは間違いないわね! ……ありがとう」


「うん」


 リッコも承諾してくれたことに、皆も金を受け取ることに反対は出してこなかった。

 結局、皆は取り敢えず金1〜2枚を懐に入れ、残りは自分のアイテムボックスに入れといてと言葉が出てきた。自分のアイテムボックスはいつの間にか皆の金庫代わりだ。


「ニャ〜。リッコにあのおじさんの本性見せたら、どうなるか見てみたいニャ〜」


「ははっ……。プルン、理想と現実は違うんだよ。その人が理想を目標としてるなら、現実はあえて教えないほうが本人のためになるんじゃないかな……」


「そうニャね……」


 役所を出た後、直ぐにライアングルの街へと帰るのは勿体無いと、少し周囲の出店を見て回ることに決まった。

 流石に朝も早いため、リックの求めている華屋、いや、お店はやっていないので、先程から目に行くのは食べ物屋ばかりだ。リックの三大欲求に正直なところが自分は何気に好意を持てる。


「それはそうとリック」


「何だよリッケ?」


「リックは酔っ払って忘れてるかもしれませんけど、もう一件、金を受け取る案件がありますよ?」


「はっ? 何かあったか?」


「あら、忘れてるならいいじゃない。リックの分は皆で分けましょうよ」


「おい! ちょっと待て! えっ……何だ、なんかあったか?」


 リックは何のことなのか思い出せないのか、頭を指先でコツコツと小突きながら考えている。


「はぁ……。リック、昨日リティーナ様が雇った冒険者さん達と勝負したこと忘れたんですか?」


「えっ? そんな勝負やったか?」


 リッケの言葉を驚いたように聞き返すリック。

 その反応に皆の足が一斉に止まった。


「うわっ……。あんたさ、酔っ払って私達が洞窟内で集めた素材品、アレをあんたが賭けに使った事も忘れてんじゃないでしょうね?」


「はっ? 俺そんなこと言ったのか?」


「「「「まじかよ……」」」」


 リックの言葉に皆が冗談だと思っているが、どうやら昨日の酒の影響か、記憶がスッカリ抜けているようだった。自分とプルンが二人と同じことを言うと、リックは何とか理解したのか、顔をジワジワと青ざめさせていた。


「んー。あれだね。リックはお酒禁止だね」


「そうですね。今後は果実ジュースでも飲んでください」


「はぁ、ほんと危なかったわね……」


「酒……俺はもう飲まねぇ……」


「取り敢えず皆行くニャ……」


 出店を見ながらまた酒場の方へと戻ると、入り口にリティーナとゲイツ、前衛冒険者やゼリ達の集団が馬車の前で立っているのが見えてきた。

 こちらに先に気づいたのはゼリだった。

 ゼリはリッケの名を呼びながら大きく手を降ると、周りの皆もこちらへと視線を向けてきた。

 

「おーい! リッケ君ー!」


 ゼリの呼び声に、リッケはあははと乾いた笑いで答えていた。

 リティーナとゲイツ、二人がこちらへと近づいてくる。


「お前達、どこに行ってた?」 


「おはようございます、ゲイツさん、リティーナ様。はい、洞窟内で盗賊を捕獲してましたので、その確認と奴隷としての引き渡し手続きをしに役所まで行ってました」


「おはようございます、ミツさん。皆様も洞窟ではそのようなご活躍をされていたのですね」


「あー、いや、活躍と言うか、片付けたのはこいつだけどな」


 軽く会釈した後、何処へ言っていたか二人へと説明すると、ゲイツは眉を少し上げ反応したが、それ以上は何も言ってこなかった。

 リティーナは素直に驚いた反応をしめしたが、リックの言葉に更に納得した返答を返してくれた。


「ちょっとリック。リティーナ様は貴族様なんですから、ちゃんと言葉は選んで下さいよ。不敬罪とか言われたらどうするんですか!」


「いえ、構いません。今、この格好のときは私は貴族としてではなく、一人の剣士として皆様の前に立っております。皆様には堅い言葉よりも、先程の喋り方でお願いしたく思います」


「いや、ですが……」


「ほらリッケ。本人もそう言ってるんだしよ。そんな気にすんなって」


「はぁ……。リックのその性格が羨ましいときもあります……」


 リティーナはリックの軽口は気にしないと、軽く手を差し出し許しの言葉を述べてくれた。

 普段の彼女なら厳しく言葉を返していただろうが、同じ戦地をくり抜けた者として周りの者を見る目が変わっていたようだ。


「ふふっ、そうそう。ここでミツさんにお会い出来たのは本当に丁度良かったです」


「んっ? 何かご用件でも?」


「はい、先ずはこちらをお収めください。昨日お約束してました勝負の報酬ですわ」


「うわっ。こんなによろしいのですか?」


 リティーナが差し出してきた麻袋にはズッシリとした金が入っていた。数を今差し出してくれたリティーナの目の前で数えるのは失礼となってしまうので、中身の計算は後にした。


「ええ、お金の方は気にしないでください。これは皆様が受け取るべき金ですから。それに、金なら今は大丈夫ですから……」


「んっ? 」


「いえ、何でもありません……」


 リティーナが差し出してきた麻袋に入った金。

 リティーナは前日の言葉通りに前衛冒険者へと渡す金をミツ達へとそのまま渡した。

 だが、今のリティーナには若干予想よりも懐には金がある状態でもある。


 一つは洞窟内での冒険者の数名の死。

 そのため、その死んでしまった人の分だけ渡す予定だった金に余裕が出たこと。


 それともう一つ。マムンも冒険者同様に洞窟内で死亡してしまった。死んでしまったからと言ってそのままにしとくわけにもいかない。マムンの部屋の荷物は遺品とし、マムンの家族へと送るためにとその部屋を片付ける為と、宿に待機していたリティーナの従者達が片付けを始めていた。だが、その際に部屋から発見したのが大量の金だった。

 確かに今回のリティーナの剣の修行には金は必要なことは解っていた。しかし、途中で冒険者などをを雇い入れたとしても、目の前には多すぎる金があった。マムンは事前に報告していた旅費の二倍と思われる金を屋敷から持ち出している。

 リティーナの家にそれ程金の余裕はない。

 ゲイツはその時言葉は伏せていたが、これはマムンがリティーナの屋敷の金を横領していたと考えていた。

 金の発見は直ぐにリティーナに報告され、リティーナの手元に返されていた。

 リティーナの従者はゲイツとは違い、屋敷に使える者。そのためか、金の流れを考えるとどうしてもリティーナに報告をしていなかったマムンを怪しんでいた。


「お嬢様、やはりこの金は変です。失礼ながら、資金の方はマムンさんが自主的に私がすると私達は聞かされております。こうして、お嬢様も聞いていない金が出てきたということは……」


「ふー。いいのです……。マムンには何か考えがあって、金は多めに家から持ってきていたのでしょう。変な勘ぐりは死んでしまったマムンに悪いわ……」


「……解りました」


 結局、マムンが何故予定より多くの金をリティーナの屋敷から持ち出していたのかその時は解らずに終わっていた。

 しかし、マムンの死後、数カ月経つと、リティーナの屋敷に金銭的負担が少しづつだが減ってきていた。

 リティーナは今回の件を含め、マムンが関係した行商や他の貴族とのやり取り。また、必要と言われ渡してきた金の流れを調べると、マムンの悪事が次々と露見したのだ。

 リティーナの父も今回の件はマムンの実家である男爵家には責任を負わせ、貴族内に露見しない事を条件を引き換えにとし、マムンが使った分の金を回収、今後の連絡や行商のやり取りを廃止と決定した。

 更に、自身の屋敷からはマムンの手足として動いてた者は全て解雇とし屋敷から追い出したそうな。


 リティーナはミツがアイテムボックスへと麻袋をしまった後、目の前の青年に少し口が重くなりながらも言葉をかけた。


「ねぇ、ミツさん」


「はい、何ですか」


「……。いえ、洞窟内では大変お世話になりましたわ。改めてお礼を……」


「いえいえ。リティーナ様も剣の修行は大変ですけど、今後も頑張ってください」


「ふふっ、はい。頑張りますわ」


 言いたい言葉の半分は言えた。

 それだけでもリティーナの内心はそれで良いと自身に言い聞かせることにした。


 リティーナの言葉が終ると、ゲイツは軽く自分の肩に手をおいてきた。


「ミツ、今回は色々とお前達には迷惑をかけたな。俺がまだお嬢の護衛を続けれるのはお前達のおかげだ。本当に感謝する」


「いえ、運が良かったんですよ」


 自分の言葉にプルン達は後ろで笑い飛ばしているが、前衛冒険者達は苦笑いしかできなかったようだ。


「フッ、そうか……。では、運が良ければまた何処かで会おう。それまで達者でな」


「はい、ゲイツさんもお元気で」


 リティーナとゲイツ、また前衛冒険者達へと挨拶を済ませると、リティーナは屋敷の馬車に乗り、馬車を囲むようにゲイツ達が馬車を守りながら馬を走らせた。

 馬車を見送ると、冒険者達は後ろを振り返り、手を振り別れを伝えてくれた。


 コンコンッ


「どうされましたかゲイツさん?」


 馬を馬車の横につけ、馬車の窓口を軽くノックするゲイツ。 

 馬車の中には女性従者二人がリティーナと共に馬車の中に乗っている。


「お嬢、少し話が……。」


 従者はリティーナに言葉を伝えると、リティーナが窓辺へと近づき、ゲイツへと構わないと目配せを送った。


「よろしかったのですか? あの坊やを雇わなくて。俺が言うのも何ですが、力や能力はあいつが上だと言えます。それに俺はグラス、あいつは恐らくまだアイアン。雇うとしてもあいつの方が安値で雇えますよ……」


「そうですわね……。ですが、あの人は私には扱えない剣。新しくて斬れ味の鋭い剣でも、扱えない剣を手元に置くより、振り慣れた剣が私には大事ですわ」


 ゲイツの言葉はリティーナが先程、ミツに言えなかった言葉の的をえていた。

 しかし、リティーナの返答は考えることもなく、ゲイツへと微笑みをのせて返答をすることができていた。


「さようで……。不躾な質問を失礼しました」


「ふふっ。いえ、帰り道、よろしくお願いしますね」


「はっ、御意に!」


 試しの洞窟、リティーナにとって、剣士としては未熟な状態で屋敷へと引き返す結果となってしまったが、心の成長はここへ来るときよりも大きく成長していた。



 リティーナ達の馬車を見送った後、後ろを振り返ると、ゼリがリッケへと帰るのがまだならと、洞窟内でのお礼をしたいと出店へと誘っていた。

 強引な誘いを受けて戸惑うリッケだったが、リックが同行すると言うと、他の女性冒険者も、なら私達もついていくと同伴が決まり、皆で見て回ると決まった。

 小声でゼリが二人きりを望んでいた言葉を呟いていたが、聞こえたのは〈聞き耳〉スキルで聞こえた自分と、側にいたルミタだけだろう。



「義妹さん達はどうする?」


「ん〜。いえ、大人数になるとお店も見るの大変でしょ。私達は別で動くわ。ご迷惑でしょうけど二人をお願いするわね」


「「「は〜い」」」


 リッコの言葉に黄色い声の返事が帰ってくる。

 それと同時に、正に両手に花状態のリックとリッケが、女性冒険者達に中場少し強引に引っ張られるように出店の人混みへと消えていった。


「さて、私達も見て回りましょうか」


「そうニャね。ミツ、買った物をボックスに入れといてニャ」


「あー、はいはい。それは良いけど、何見て回るの?」


「そうね、取り敢えず服ね」


「ニャ? 食べ物じゃ無いにゃ?」


「はぁ〜。プルン、あんたね……。まぁいいわ、行きましょう」


「うん」


「ニャ!」


 各自バラバラでの買い物。リックとリッケは女性冒険者に引っ張られるように付き合いながらも、二人も買い物の時間を楽しむことができていたようだ。

 途中、何度かゼリがリッケと二人っきりになろうと画策するが、皆と離れる度にリッケがゼリを呼び止め皆の場所へと連れて行ってしまうはめに。

 だが、その際リッケがさり気なくゼリの手を引くことに、ゼリの心は乙女のようにスキトキメトキス、二人っきりになる目的よりもリッケに手を引いてもらいたく、ゼリはワザと皆から離れることがしばしば……。

 

 それとリックとリッケ、男二人で数人の女性を連れて歩くと、やはり周りは面白くないのか、それを見ていたガラの悪い男達がリック達へとチャチを入れて来ることがあった。

 男達は見た目はむさ苦しく、風呂にも入っていないのか臭う体臭を漂わせていた。そんな身姿では声をかけられた女も逃げてしまうだろうし、華家の女性からもNGとばかりに相手にはされないだろう。

 そんな男達が目につけたのがリック達二人だった。

 まぁ、どう聞いても八つ当たりである。


 しかし、相手が悪かったのだろう。

 声をかけたのはスモールオークのような悪臭を経験したことのある面々、女性冒険者の中には男達をスモールオークが出たとボソリと呟く女性がいたため、クスクスと笑いが起きる程に余裕があった。

 リッケはさり気なくリックに支援をかけ、皆の一歩前に出るが、リックが更にその前へと出る。


「あー、俺達に何かようか?」


「はぁ〜? 聞こえなかったのか〜? お前たちガキはさっさと洞窟に潜って何処か行っちまえ。女達は俺達がかわりに遊んでやるからよ」


「ムフッ、グフッ、ムフフフ」


 男の後ろでは正にオークと思えるほどの豚面した男から下卑た笑みを浮かべ、女性冒険者達を品定めのように目で舐め回していた。

 男はニヤニヤとリックを小馬鹿にするが、リックは男の言葉には少しの恐怖も感じていなかった。

 それはその場にいた女性冒険者も同じ気持ちであっただろう。

 なにせ、目の前にいる臭うだけの男達とは違い、リック達はデビルオークと言う化物を見た後なのだから。


「悪いな、この人たちは知り合いだけに、あんた達みたいなゴブリンみたいな奴らには任せれないわ」


「ゴ、ゴブリンだと!」


「ブッ!ブモーッ!」


「あっ、小鬼じゃなくて鬼豚の方だったか?」


「てめぇ!」


 リックの挑発的な言葉に男は激怒し、腰に携えた剣を半分引き抜いた時だった。


「うっ!」


 リックは空かさず自身の盾を前に出し、治療士である女性を守り、後ろに控えていたゼリは弓を引き、ルミタともう一人の魔術師の女性は杖先に魔力を込め、リッケは剣を抜き、前衛女性は男同様に剣を半分抜いていた。

 男が声をかける相手が悪かったのか、どう見ても声をかけた女性達は冒険者の服装。男二人が目の前に居る七人を相手にできるわけがない。

 男達は冷や汗を出しながら、ゆっくりと剣から手を離し、舌打ちを残して人混みへと逃げるように行ってしまった。

 男達を退けたことに何とか安堵するリッケ。

 リックはフンッと鼻息一つに男達が行ってしまった方を見送った。

 そんなリックに守られた治療士の女性は、リッケに助けられたゼリの気持ちが解ったと、頬を染めながらボソリと呟いていた。

 

 さて、ここで一つ、この試しの洞窟をメインとしてお店を出している人々に対して、暗黙のルールがあった。

 それは自身の店先で喧嘩など揉め事を起こした場合、その揉め事にて勝利した方が店の商品を詫びとして購入しなければ行けないと言う事だ。

 冒険者や旅人が多くこの試しの洞窟へと挑戦するため、先程のような喧嘩は日常茶飯事である。

 例え一切拳を交えてないとは言え、少しでも店への客入りを止めたことには代わりはない。

 リックもリッケも勿論父であるベルガーからそのことは聞いていたため、出店の商品に視線を送っていた。


「リック」


「あぁ、解ってるよ。なぁ、あんた達、せっかくだからこの店でなんか奢ってやるよ」


「えっ。いいの〜!」


「ありがとうございます、お義兄さん!」


「お、おう……」


 勿論ゼリ達もこのルールは知っている。

 だが、ゼリにはそんなこと関係なしに、リッケの兄へと媚びるチャンスは逃さない気持ちだけだった。

 女性冒険者達はリックの奢りと、回転焼の様な饅頭を美味しそうに食べながら、また出店を見て回ることになった。


 それとこのルール、これを悪用する者は勿論いる。

 それが鼠族の商人だ。

 ワザと店先で争いを起こすためと、喧嘩を始め、ギャーギャーと文句を言った後、相手が言い返したと同時に逃げ出し、残した者に店の物を買わせると言う方法である。

 喧嘩を売った者、店の者、両方が鼠族と気づいたときにはもう遅い。

 買う物は勿論被害者である者が選べるのだが、鼠族の出店に使える物など無いにひとしい。

 露骨なやり方に、冒険者の中では鼠族との喧嘩をする前は周りをよく見ろと言い伝わっていた。 


 リッコとプルン、二人は今自分が入れない空間にいた。

 それは女性の服選び。勿論アドバイスなどできるが、二人はそう言った言葉は不要なのか、自分は二人の買い物を待つはめに。


「ふ〜。やっぱり可愛い服はここでは無いわね」


「リッコ、これなんかどうかニャ?」


「ん〜、駄目。可愛くない」


「そうかニャ?」


 プルンが見せたのは鉄の胸当て。確かに可愛さとはかけ離れた品物。


「まだこっちのローブが普段でも使えるわよ」


「ニャニャ、どれニャ」


 二人は服を選んでいると言うが、二人の見ている出店は服屋ではなく、装備品などを中古で売っている防具屋。小物やアクセサリー等は普通にあるのだが、やはり一般的な衣服がこの場では売っておらず、妥協して防具屋にて物色することにしたようだ。

 


「どこの世界でも、女の子の買い物って長いよな〜」


「兄ちゃん、お連れの荷物持ちかい?」


「んっ? あ、はい。そんな感じです」


 プルン達の買い物を少し離れて見ていると、自分の後ろから声をかけてくる出店のおじさん。歳はそんなにそんなに行っていないと思うが、小麦色の肌でその年齢はよくわからない。まぁ、おじさんの歳なんて気にもしないが。


「そうかい。なら、お連れの人が戻ってくるまでで良いからさ、今の内にウチの商品見てっておくれよ」


「まぁ、少しなら……。んっ? これって何ですか?」


「へへっ、いらっしゃい! ウチは色とりどりの石を揃えてるよ」


「はぁ……石ですか……」


 出店に並べられているのは様々な石だった。

 ビー玉程度の大きさから、バスケットボール程の大きさと様々な石が揃えられている。

 日本のショッピングモールとかによくある、ストーンショップと似た感じかもしれない。


「そうさ、例えばこれだね。見た目は真っ黒な石だけどね、これは凄いよ! なんとズッと触ってるとじんわりと暖かくなる石だ! どうだい!?」


「へー……」


 おじさんが見せてきたのは碁石程の大きさの真っ黒な石。

 鑑定してみると磁石と表示された。

 それを研磨し、綺麗な碁石の形にして、肩にでも貼っとけばエレキバンになるんじゃないかと思ってしまった。


「反応が薄いね。ならこっちはどうだい! よいしょっと……。こいつの見た目は子供の拳程度の大きさだけどね、まぁ、少し持ってみなよ!」


「はぁ……。 んっ!?」


「はっはは! どうだい驚いたろ。この石見た目と違って凄く重さを持ってるんだよ」


「なるほど。でっ? これはなんに使うんですか?」


「はっはは! 使い方はお客次第だからね。俺があれこれ言うことじゃないよ」


「はぁ、つまり見た目小さく重い石と……」


 これも鑑定すると、角閃岩と表示されたが、石の専門でもない自分がこれが希少なのか解る訳もない。



「まぁまぁ、正直これは笑いの種見たいな商品だからね。別に買ってもらうために見せてるわけじゃないよ」


「な、なるほど……。んっ? この白い透明な石って何ですか? 綺麗ですね」


「あっ? 何だ、兄ちゃんはカセキを知らないのかい?」


「えっ? カセキ?」


(化石にしては何も入ってない様に思うけど? あれ、化石って何も入ってなくても化石って言うんだっけ? ん〜。何か昔、学校の授業で習った記憶が……)


「全く、兄ちゃん、あんたどんな田舎から来たんだよ……。声をかける奴を間違えたかな……」


「えっ?」


「いやいや、なんでもないさね。よし、世間知らずの兄ちゃんに教えてやろうじゃないか」


 店のおじさんはボソリと呟いていた程度で聞こえていないと思ったのだろうが、自分の今の聞き耳スキルのレベルが高い分、この距離なら十分聞こえてしまう。

 自分が少し怪訝そうにおじさんを見ていると、慌てたように言葉を繋げてきた。



「そ、それはどうも」


「このカセキはな、元は魔石だよ」


「魔石!」


「何だ、魔石を知ってるのか?」


「あ、いえ。聞いたことあるだけで見たことはありません」


 魔石と言う言葉に、思わず言葉をオウム返ししてしまった。ゲームやアニメでは魔法使いが魔術具を動かしたり、ガチャを回すためのアイテムとしてゲーマーとしては親しみのある言葉だ。



「ははっ、だろうな。魔石を知ってるならカセキは知ってるはずだ。まぁ、話を続けよう。兄ちゃんは魔石自体を知らないみたいだから最初から説明するとな……」


 出店のおじさんの説明。魔石、それは基本貴族など飲食店や鍛冶屋など商業がよく使う物。

 使い方は難しくはない。

 火をおこしたい時、竈へと火の魔石を入れとけば火種となり。

 枯れた井戸に水の魔石を入れておけば水が溢れるほどに井戸を満たし。

 畑の土が枯れた時に土の魔石を埋め込めば、周囲一体は作物は豊作となるほどに土が生き返る。

 話を聞く限りではとても便利なライターや肥料を思い浮かべる説明であった。

 だが、この魔石も無限に使えるわけではない。

 使用回数はランダムであるが、一定数使用すると目の前にある透明な白い石となってしまう。

 これを一般的に空の魔石、略してカセキと言われているそうだ。

 自分が考えていた化石とは違う物だ。


「なるほど、つまりそれは抜け殻見たいな物なんですね」

「抜け殻、そうだな、中の魔力を使い切ったんだ、抜け殻でも間違いじゃねえよ。後、こうなっちまったら後の使い道は飾り物程度だな。兄ちゃんは知らねえだろうけど、貴族様の屋敷には、このカセキを散りばめたように付けた物がキラキラと屋敷の天井にぶら下げてんだよ」 


(天井にキラキラ? シャンデリアかな?)


「へー。他には?」


「んー。後は噴水の底に沈めて、太陽の反射した光で光らせるくらいかな。あぁ、後貴族じゃねぇけど、俺達商人は商談の時にこれに数字を彫って、商品の注文の時に使うこともあるな。木の板だと、持っていく途中で割れたり腐食したりで注文できないってこともあるしな」


「なるほど」


「まぁ、ハッキリ言ってよ、カセキになっちまったらその辺の転がってる石と対して変わらねぇよ」


「へー……。ちなみに魔石は無いんですか?」


「はっ? はっははは! 兄ちゃん、流石にこんな出店で魔石なんて扱ってねえよ」


「えっ? でもカセキがあるなら魔石があるのかと」


「いやいや、これはその辺の出店の鍛冶屋や酒場が捨て値状態に俺のところに持ってきたんだ。俺はこれをまた安値で他に売るのさ。さっきいった貴族様の家とかを作る場所によ」


「あーなるほど。ところで魔石って誰が作ってるんですか?」


「……ぷっ! あっはははは。 兄ちゃん、あんた笑いの才能あるぜ!」


「えっ!?」


「あ~腹が痛え。あーすまんすまん。魔石自体知らないんだから仕方ないよな。笑わせてくれたお礼だ、教えてやるよ」


「は、はぁ……」


「あのな兄ちゃん。魔石はまず人が作り出す物じゃねえ。魔石は自然にできるものだ。人が作り出すことが出来るなら庶民でも魔石を使えるご時世になってるだろうな」


「なるほど」


「俺が知ってるので3つ。火の魔石は山にある。兄ちゃんは犯罪奴隷は知ってるか?」


「ええ、知ってます」


「そうか、その犯罪奴隷が働かされる場所でよく見つかる物だな。山を掘って道を作る途中に大体10個ぐらい出てくると聞いたな。特に掘っているときに周囲の温度が高い場所程見つけやすいって話だ。次に水の魔石だが、こいつは湖で漁や川辺で貝なんか探してる時にまれに見つかるみたいだな。最後に土の魔石は、殆どが畑を耕したときに見つかってるな」


「なるほど……」


(確か、ギーラさんが大地には魔力があるって言ってたな。だとしたら、また土の中や水の中に入れとけば魔石になるんじゃ無いかな? まぁ、失敗したら片面黒く塗ってオセロにでもできるし、物質製造で形変えて何かに使用するかな)


「ん〜。おじさん、それを売ってもらうことはできますか?」


「はぁ? 兄ちゃん、こんなのが欲しいのか?」


「ええ、何か使えないかなと思って」


 麻袋に入ったカセキは使い道は十分あるだろう。


「まぁ、こっちとしては態々持っていくのも面倒くさいからよ、買ってくれるのは嬉しいけどよ……。兄ちゃん、せっかく買ってくれるなら、こんな安値の物じゃなくて他のを買ってくれよ」


「解りました、なら他も見せてください」


「おっ。そうか、なら俺が尻に敷いていたこの円盤型の石はどうだい!」


「いりません」


「はっははは!」


 その後、カセキを中くらいの麻袋一杯の物と、色がついた小さな石を数個購入し、自分の買い物は終わった。

 数はかなりあるが麻袋に入ったカセキには重さが無いのか、軽々と持てるほどだ。

 出店のおじさんは思わぬところで荷物となる物が売れたことに上機嫌だった。

 自分はこのカセキで教会にいる子供たちに数字でも教えてあげる道具をつくるか、先程おじさんの説明に出できたインテリアグッツでも作る考えしかその時は無かった。

 まさか、捨て値状態で買ったこのカセキが世の中を騒がせるとは思ってもいなかった。

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