第67話  検証します。

 新たなジョブの転職も終わったので、今度はスキルの検証だ。


 洞窟で様々なスキルを手に入れたが、危なくて使えないものや、使いどころの難しいので少し後回しにしていたスキルを試すことに。


「えーっと、対象を作らないとな……。スケルトンの骨が丁度良い大きさなんだけど……。ん〜、流石に素材品になるから使ったりして駄目にしたら怒られるよね……」


 仕方ないので〈アースウォール〉で土壁を作りだそうとしたその時だった。

 

 ガサガサと林の方から数多く、無数の足音が聞こえてくる。



「んっ? 何だろう……」


 周囲は自分が出した雷の矢で明るく照らしている。

 そのせいでモンスターを呼び寄せてしまったのかもしれない。

 やはり、目立ってしまう雷の矢は止めといて〈獣の目〉で済ませるべきだったか。

 


「あっ……やっぱりか……」


 林の奥から次々と出てきたのはモンスター、ゴブリンだった。

 

 ギギッ、ギギッと獲物を見つけたと思える笑みを浮かべ、直ぐに自分を数体のゴブリンが囲みはじめた。


「ゴブリン……。そう言えばこの近くに村があるってエンリエッタさんが言ってたな……。夜襲でもするつもりだったのか」


 ゴブリンの中には、ホブゴブリンや少し背の高いゴブリンもいるし、少し離れたところには弓や杖を持ったゴブリンアーチャーやドルイドが見うけられる。

 更には狼の様なモンスターに乗ったゴブリンもいた。


「背の高いゴブリンは種類違いかな? 後あれは……?」


 鑑定をすると以前倒したことのあるゴブリンで間違いはないが、小さなゴブリンやホブゴブリンを指揮するように後ろからニヤニヤと自分を見ているのは、ゴブリンリーダー、まさにこのゴブリンの群れを束ねる者だろう。

 そして、狼に乗ったゴブリンはゴブリンライダーだった。



ゴブリンリーダー


Lv24 ゴブリン族


鉄の胸当て(壊)


強撃 Lv4。

不意打ち Lv8。

潜伏 Lv4。

媚液   Lv6。



ゴブリンライダー


Lv19 ゴブリン族


ゴブリンの腰蓑


身体強化 Lv3

テイム  Lv4



(さすがゴブリンリーダー、他のゴブリンよりもスキルが多いな。まぁ、知ってるスキルだけなら気にならないけど……。何だよ媚液って……。いや、名前でだいたい予想つくけどさ……)


《説明いたしましょうか?》


(いや、いいよ……。どうせ手に入れたとき教えてくれるんでしょ。それよりも、モンスターの数教えてもらっても良いかな?)


 周囲に何体いるのかをユイシスに聞くと、目の前にいるゴブリンリーダー1体、ゴブリン8体、ホブゴブリン4体、アーチャー3体、ドルイド2体、ゴブリンライダー1体


 だが、まだこちらに近づいてきているモンスターがいるとのこと。


 周囲にゴブリンの巣でもできているのか。

 色々と考えていると、林に潜んでいるゴブリンアーチャーが弓を引き、矢を放ってきた。


 シュッと飛んでくる矢を後ろに少し下がり避けると、目の前のゴブリンは少し驚いていたが、またギギッと声を出しながらニヤニヤと笑い始めた。


 

「はぁ〜。やっぱり自分は獲物に見えてるよね……。不快だな……不快だよ……。さっきまで気分良かったのに、不快にしたお前たちはもう実験台決定」


 ブツブツと喋っている自分の言葉を怯えていると勘違いしたのか、ゴブリンリーダーはグキャっと一声をだすと、ゴブリン達がじりじりとにじり寄ってきた。


「先にゴブリンとホブゴブリンのスキルを奪っとくか……」



〈スティール〉を一度した対象は、状態異常や瀕死にしなくても今のスキルレベルであれば、条件無しにスキルを奪うことができる。

 ゴブリンとホブゴブリンはスキルを奪ったことのある対象のため問題はない。

 では、同じゴブリン種のゴブリンリーダーはどうだろう?

 これも検証として、ゴブリンのスキルと一緒にゴブリンリーダーのスキルも〈スティール〉を試してみた。

 右手をゴブリン達に向け〈スティール〉を使用。


(スティール!)


《スキル〈フェイント〉〈探索〉〈ステップ〉〈クリティカルアタック〉〈回り込み〉〈気絶耐性〉〈忍び足〉〈穴掘り〉を取得しました、経験により《速度強化Lv4》《聞き耳Lv3》《不意打ちLv5》《打撃耐性Lv4》《威嚇Lv4》となりました。条件スキル〈発見〉〈バックアタック〉を取得しました》



フェイント

・種別:アクティブ

攻撃時、連続で二回目の攻撃を与えるときダメージ増加。



探索

・種別:パッシブ

知らない場所での探索を得意とする。



ステップ

・種別:アクティブ

戦闘中、足取りを軽くし動きを早める。



クリティカルアタック

・種別:パッシブ

一定確率にて攻撃ダメージが増加する。



回り込み

・種別:パッシブ

相手の背後に回りやすくなる。



気絶耐性

・種別:パッシブ

気絶に対して耐性を高める、レベルが上がると効果が増す。



忍び足

・種別:アクティブ

足音を出さず歩くことができる、レベルが上がると使用時の移動速度が上がる。



穴掘り

・種別:パッシブ

穴を掘ることが上手くなる。



発見

・種別:パッシブ

捜し物を見つけやすくなる、レベルが上がると感覚が強化され発見率が上がる。



バックアタック

・種別:パッシブ

相手の背後からの攻撃のダメージを増加させる。



 戦闘が始まると、今の自分のステータスではゴブリン相手に手加減は難しくなっている。

 そうなると、スキルを奪う前に誤って倒してしまうので直ぐに〈スティール〉を発動。

 スキルを発動後、スキルを取得したユイシスのアナウンスが脳内で一気に流れてきた。

 数も数、また、中には条件スキルがまた増えたことに自分は頬を緩ませ笑みがこぼれていた。


(うん、他者から見たら戦闘中に笑みを浮かべている自分は気持ち悪いだろうな。まぁ、誰もいないし、気にしない)


 結果、検証してみるとゴブリンリーダーのスキルは奪えてはいなかった。

 となると、恐らくゴブリンアーチャーとゴブリンライダーも状態異常にしないとスキルは奪えないのだろう。

 同じゴブリン族であってもモンスターのジョブが違うと対象外と言うことが解った。

 スキルを奪った後、数体のゴブリンが自身の変化に気づいたのか、自身の体をペタペタと触ったり、その場で何度も足踏みをしては頭をかしげている。


 

「さて、取り敢えず1つ1つ試すか」


 先ずは、アースベアーから奪ったスキル〈土石流〉周囲には砂利や土があるので使えると思う。



「土石流!」


 スキルを使用すると、地面の土がボコボコと噴水の様に飛び出し、石や砂利を乗せながらゴブリン達へと降り注いだ。

 これはある程度傾斜な道で使用すれば、地面の土が雪崩のようにまとめて相手をのみ込むスキルなのだろう。

 このような河原の平地では効果は薄く、ゴブリンに土を浴びさせた程度だった。

 突然地面から溢れだした土に驚き出したゴブリン達。

 だがそんなこといちいち気にしていたらきりがない。

 検証は始まったばかりなのだから。


 次に試すは洞窟3階層のモンスターから奪ったスキル〈魔法障壁〉。

 ゴブリンドルイドを鑑定してみると、スキルの中に火玉の〈ファイヤーボール〉があった。

 魔法攻撃をしてこないかと〈挑発〉スキルに自分はお尻を突き出してペシペシと叩き、おまけにあっかんべーと小莫迦にしてみる。


 莫迦にされているのが解ったのか、ドルイドはギャッギャッっと声をだし、自分に向かって火玉を飛ばしてきた。

 スキルがLv3しかないのか、火玉の大きさは松明2個分程の大きさしかない。

 スピードもそれ程早くもないので、避けることは可能だが、検証のためそれを受けることにした。


 掌をかざして〈魔法障壁〉を発動、光沢の用な光が目の前に現れた。

 ドルイドの火玉が当たると同時に、火玉は霧散する。

 消える時キラキラと火の粉の様な光が見えたので自分は咄嗟に〈魔力吸収〉を発動。

 散らばる火の粉は掌に集まりシュッと自分の体内に吸い込まれるかのように消えた。

 これはモンスターのマジックワームがやっていたことを同じことをしてみたのだが。

 改めて考えると当たりスキルだったようだ。


「障壁はレベルを先に上げといたほうが良いかもね、今回はたまたまレベルの低い攻撃だったから良かったけど……。次のスキルは……」


 またブツブツと独り言を喋りだした自分に警戒しながらも、土をはたき落としたゴブリンが1体跳びかかってきた。

 

 グギャギャ!


「せいっ!」


 後ろから跳びかかってきたゴブリンに〈旋風脚〉を使用。

 手加減をしているつもりでも、ゴブリンに対しては十分なダメージを与える攻撃。蹴りの勢いそのままに、川の中へとドボンっと沈み、ゴブリンはそのまま川に流され起き上がってくることはなかった。


「えーっと次は……確かバルモンキーのスキルの投擲と電光石火だけど、これは試したからパスだな」


 次は4階層に出てきたモンスター、スケルトンとデビルゴーストだ。


 検証のため、アイテムボックスから取り出したのはウォーハンマー。


「鈍器の武器って考えたら初めて使うかも」


 ゴブリン達はどこから出したのかわかる訳もなく、突然武器を構えた自分にただ驚くだけ。

 更には自分の先程だした〈魔法障壁〉や〈旋風脚〉と異様な光景に戸惑い始めていた。


 ウォーハンマーをバットの様に構えブンブンと振り、素振りを試してみる。

 風を切る音がブオンブオンと出るたびに、ゴブリン達は警戒を高めている。


「よし、来い!」


 言葉の意味が解ったのか、自分の言葉の後、二体のゴブリンが素早くかけて来た。


 ウォーハンマーを大きく振りかぶり〈パワースイング〉を発動。ハンマーがゴブリンに当たると同時に、ボンッ! っと音と衝撃を出しながらゴブリン二体を空高く打ち上げた。


 攻撃が当たるとグキャっと鳴き声を出し、そのまままた川の中にドボンっと落ちる二体のゴブリン。

 勿論そのまま起き上がることもなく、川の流れと共に下流へと流されて行った。


「ホームラン! かな」


 次に使うはデビルゴーストのスキル〈吸血〉はゴブリン相手には使いたくないので、これは保留。

 っか、このスキルは使う時が思い浮かばない。

 1つ飛ばして〈吸引〉を使用する。

 吹き飛ばされた仲間を追いかけるように川の方を見ているゴブリンに使用。



「よし! 来い!」


 〈吸引〉スキルを使用したゴブリンがグギャギャと驚き、体をこちらに振り向き直した。

 そして、抵抗するかのように岩場にガシッと捕まり〈吸引〉ではこれ以上は引っ張ることはできない。



「ふむ、レベルが低いとこれ以上引き寄せるのも流石に無理か。あの大きさならスティールで引っ張った方が早いかもしれない。では次はっと……」


 自分は右手の親指と人差し指、両方の指で輪を作り、舌先を指で押して、下の腹にくっつけながら口に指を加える。

 祖父から教えてもらった指笛。

 久しぶりにやるのだが、一度経験すると自転車のようにコツは忘れないものだ。

 ピーっと高い音を出しながらスキル〈超音波〉を発動。指笛と超音波が一緒かと言われたら違うだろうが、自分がそれでいいと思ってるから良いのだ。


 突然ゴブリン達の脳内に響いた指笛の音。

 そして、しばらくすると頭を抑えて蹲るゴブリンや、突然泡を出しながら痙攣するゴブリン、そして手に持つ武器で近くの仲間に襲いかかるゴブリン。様々な反応を出し始めた。自身もスキルの予想以上の効果に驚いてしまう。


 少し離れたゴブリンアーチャーとドルイドはどうだろうとそちらを見てみるが、流石にスキルのレベルも低いこともあり、効果は届いていないようだ。

 アーチャーやドルイドはこちらにいるゴブリン達が突然動きを止めたことに、攻撃の援護をすべきか迷っているようにも見える。


 その時、ゴブリンリーダーが奇声を上げながら自分の方へと襲いかかるように迫ってきた。


 キョエー!

 

 それは体で起きている様々な感覚を振り切るような勢いを出していた。

 武器を振り上げながら迫るゴブリンリーダーは、手に持つ武器で獲物である自分の命を奪うことしか考えていないだろう。


 自分は素早くアイテムボックスからスケルトンが使っていた少しボロい剣を取り出す。

 そして、ゴブリンリーダーの懐に一気に駆け込み、相手を見上げる位置へと行く。


「せいっ!」


 〈波斬り〉のスキルを発動。

 ゴブリンリーダーの腕と足、両方を狙って流れるように剣を走らせる。


 ゴブリンリーダーが武器を振り下ろした時、斬られたところからは大量の血が吹き出し、また、ゴブリンリーダーは白眼をむいてその場に倒れた。

 〈超音波〉の効果はやはりあったのか、鑑定すると状態異常と表示されていた。


(ふむ、目に見えない攻撃で状態異常にするには超音波は使えるかも……。取り敢えず、スティールっと)


《スキル〈強撃〉〈媚液〉を取得しました、経験により〈不意打ちLv8〉〈潜伏Lv9〉となりました》



強撃

・種別:アクティブ

通常よりも強い攻撃ができる。

※武器を持たない状態でのみ使用可能。



媚液

・種別:アクティブ

異性の体内に入れることで相手を興奮状態にする、レベルが上がると効果が増す。



(うわ〜、やっぱり媚液の効果はこれか……。流石ゴブリンやで……。でも待てよ、これ取る前にかなりレベル高かったよな……つまりその分使ったと……うわっ、自分で考えて気分悪くなった……)


 ゴブリンリーダーが倒されたことに焦ったのか、ゴブリンアーチャーとドルイド達が林の方へと逃げ出した。

 逃げられては困ると、五体に素早く〈マーキング〉を使用する。

 目印をつけた五体は後回しにするとして、今は目の前でゴブリンだったと思われる肉片に、何度も何度も武器を振り下ろし、ゲヒゲヒと笑いの様な声をだしているホブゴブリンが先だ。



「これはゲームで言う混乱状態って奴かな。リアルで見るとマジ怖いわ……。使いどころは考えとこう……」


 そして、まるで獣の様に四足歩行状態で自分に迫るゴブリン。

 またアイテムボックスに手を入れ、今度は古ぼけた剣を取り出した。



「はっ!」


 ゴブリンは自分の目の前でジャンプし跳びかかってくる。だが、武器も持たず、闇雲に襲い掛かってくる敵は的でしかない。

 剣でこのスキルが使えるかの検証をするため、自分は手に持つ剣を大きく後ろへとのけ反らせスキルを発動。



「かぶとわり!」


 スキルを発動と同時に勢い良く振り下ろされる剣。ザクッと何かを切り裂いた感覚が手に伝わり、勢いそのままと剣を地面に叩きつける。


 パキーン!


「うっ……」


 剣が折れてしまった音の後、どちゃりと血生臭いにおいと、臭気が鼻をさす。

 

 こうなるのは予想できていたが、スキルを食らったゴブリンは頭の上から真っ二つ。

 あまり見ないように視線をそらすが、切った部分から内臓などが出ているのをチラリと見てしまい、少し吐き気がくる。


 気分を害していると、ギギ、ギギッっと〈超音波〉を食らったゴブリンが顔色悪くフラフラと数体立ち上がってこちらを睨んでいた。いや、ゴブリンの顔色なんて緑っぽいから知らんけどね、外も暗いし。


 立ち上がって早々に悪いが、逃げたアーチャーやドルイドも追わないといけないので、倒れたゴブリンもまとめて斬り伏せることにした。


 折れた剣をアイテムボックスに入れ、別のボロの剣を取り出す。


 早く倒すなら忍術の〈風刀〉を使っても良いのだが、風刀自体の威力が強すぎるため、攻撃スキルの検証には向かないのでこれを使っている。

 それに逃げたアーチャー達にはマーキングスキルで焦らなくても探し出すことはできる。


 フラフラとしながらもこちらに近づいてくるゴブリン。その目は未だ諦めず、目の前にいるのは俺の獲物だと言っているような目をしながら近づいてきた。


(いや、今のタイミングならアレが使えるかな……)


 ゲハゲハと咳込み、何とか立ち上がりながら此方へと近づく二体のゴブリンへとスキルをイメージしながら使用する。



(デモンズソール!)


 スキルを使用すると、掌から鮮やかな紫色の火玉が現れた。

 そして、それはスキルを向けていたゴブリンへと勝手に飛んでいき、二体のゴブリンを飲み込んでしまった。


 グギャギャギャ! 


 紫色の火に包まれたゴブリンは叫び声の後、動きを止め、ドロドロとその体の肉を溶かし、残ったのは骨と着ていたボロの装備品だけだった。

 

(うわっ……凄いとしか言えない……。これはもう死んでるんだよね?)


 恐る恐ると鑑定をすると、表示に驚いた。



ゴブリンスケルトン


Lv8 スケルトン族


スキル無し


 二体を鑑定すると、ゴブリンスケルトンと新しい名前に変わっていた。



(あー、これか。ゾンビをスケルトンに変えたスキルって。あれ? ちょっと待てよ……。スキルがないのはさっき自分が奪ったからだけど、奪う前にこのスキル使ったら相手のスキルはどうなるんだろう……。やっぱり今みたいにスキル無しって表示されるのかな?)


《ミツ、先程のスキルを使用後でも、通常スキルは残ります。今回はミツが先にスティールでスキルを回収したので、今のゴブリンスケルトンにはスキルはありません》


(なるほどね)


 考えている間でもゴブリンスケルトンはその場を動こうともしない。

 〈傀儡〉のスキルを使った時の様にまるで自分の命令を待つかのようにその動きは止まっている。


(んっ? あっ、もしかして待ってる? なら……)


 自分はアイテムボックスからボロの剣を2本取り出し、ゴブリンスケルトンの前に置いた。



「これ使って、後ろにいるゴブリンを倒して」


 ……。


 しかし、言葉で指示を出してもゴブリンスケルトンは動くことなくじっとしている。


「あれ?」


《ミツ、スキルのアンデットオペレーションを使用してください。さすれば、ゴブリンスケルトンを動かすことが可能となります》


「あっ、なるほどね、それもセットで使うのか。なら……」


 掌をゴブリンスケルトンに向け〈アンデットオペレーション〉を使用。

 先程言葉で出した指示を思い浮かべると、ゴブリンスケルトンが反応したのか、その小さい骨をカタカタと動かし始めた。

 そして、命令を出すと、ゴブリンスケルトンの小さな頭蓋がコクリと動く。

 指示を受けた後、剣を拾い、未だに混乱状態のホブゴブリンと泡を吹いて動かないホブゴブリンへと剣を向けてかけていく。

 二体のゴブリンスケルトン、その動きは思っていた以上に早く、直ぐにホブゴブリン達の近くへとたどり着いた。

 1体は気絶状態なのでゴブリンスケルトンは剣を突き刺し、簡単に倒すことができた。

 もう1体だが、混乱状態とは言え、ゴブリンの進化後となる強さ。元ゴブリンのゴブリンスケルトンが勝てるのかと思っていたが、決着はあっさりと付いた。

 混乱状態のホブゴブリン、近づいたゴブリンスケルトンに気づいていないのか、抵抗や反撃などの攻撃をする前に、ゴブリンスケルトンは骨の手に持つ剣をホブゴブリンの喉元に突き刺し、戦いを終わらせた。

 だが、更にゴブリンスケルトンは骨の手に持つ剣を突然土へと刺しこむ。すると土の中に隠れていたのかゴブリンがグギャっと声を出しながら仰け反り出てきた。

 どうやら〈土石流〉で土を浴びたゴブリンがそのまま潜んでいたようだ。

 もう1体のゴブリンスケルトンも同じように、グサッグサッと地面の土に剣を突き刺すと、二体のホブゴブリンがその場で亡骸となった。 


 そして戦いが終わると、ゴブリンスケルトンが自分の方へと戻って来て、また指示を待つかのように動きを止めた。


 〈傀儡〉と〈デモンズソール〉のスキル。

 2つのスキルは、似てるようで似ていない。

 違うのは、〈傀儡〉は無機物を自分の意志で操作して戦わせる。

 〈デモンズソール〉は生物を変え、スケルトンにした後〈アンデットオペレーション〉を使用し、指示を出せば勝手に戦ってくれるところだろう。


 これは検証の結果が出たと、今後の戦闘でも役に立ちそうだ。

 

 ある程度ゴブリンを倒したところで、1体、目立つゴブリンが見当たらないことに気づいた。


「んっ? あれ、ライダーは何処に行った? あっ……」


 ゴブリンライダーの姿が見当たらないと思い、辺りを探してみると、ゴブリンが乗っていたオオカミっぽいモンスターがいた。

 そして、クチャクチャと何か食べているのか、口の周りがどす黒い血で汚れている。


「乗ってたモンスターが超音波にやられてたのか……」


 自分が見ていることに気づいたのか、オオカミっぽいモンスターはバッと立ち上がり、食べていたと思われるゴブリンライダーの胴体を口に咥えて走って行ってしまった。


「やばっ! あんなの放置してたら人に被害が出る! お前達、あのモンスターを追いかけるよ!」


 オオカミっぽいモンスターを追いかけることをゴブリンスケルトンに指示を出した後、脳内にユイシスの声が聞こえてきた。


《ミツ、待ってください。先程のモンスターはゴブリンの血の味を覚えたので、後に人を襲うことはありません。無理して追いかけるより、この場に迫ってきているモンスターの対応を優先してください》


「おっと。そうなの? ユイシスがそう言うなら……」


 ユイシスの助言の言葉に自分は足を止め、ゴブリンスケルトンにも止まるように指示を出す。


 ユイシスの言葉に納得するところがあった。

 前世のテレビニュースで見たことあるのだが、虎を育成していた施設で、スタッフを誤って噛み殺した虎がいたこと。その後、人の血を覚えてしまった虎は危険と判断され、残念ながら虎はその後殺処分されたと言う。

 誤りであっても人に危害を与えたこと、またその虎が人の血の味を覚えてしまったかもしれないため、人を襲う恐れがある可能性があると判断されてのことだった。

 子供の頃、動物園などが好きな自分には悲しいニュースだけに、印象に残り覚えていたのだ。


 ユイシスが言うには、逃したオオカミっぽいモンスターは、〈超音波〉で今は混乱状態だが、状態が戻ると、ゴブリンの血肉を主食とするモンスターとなるそうだ。


 足を止め、ユイシスの言ったとおり、此方へと向かってくるモンスターの対応をすることにした。 


 そして時間もおかずして林の奥から何かが迫ってくる音がし始めた。

 バキバキと木々をなぎ倒す音や、モンスターの鳴き声と思える声も林の方から聞こえてくる。


 ゴブリン程の大きさならそんなことないのだが、もしかしたら別のモンスターなのかと思い、〈蟲の目〉を発動。

 これはサーモグラフィーのようにモンスターを体温で確認できるので〈獣の目〉と合わせて使用するとモンスターの場所が解りやすいのだ。

 スキルを使用すると、林の奥から多くの体温が動くのが見えている。


「んっ。あれ……結構多くない……か? はぁ〜。自分がここに来たことがタイミングがいいのか悪いのか……」


 ブツブツとボヤきながらも自身に〈コーティングベール〉をかけて気持ちをリセット。


 一先ず、モンスターの増援は自分が出した雷の矢を目指して進んでいるようだ。

 ならば、このまま雷の矢はモンスターの目印としてそのままにしとくことに。

 下手に消してしまうと、せっかく集団で来ているモンスターを散らばらせてしまうかもしれない。



 そして


(来た!)


 林の方から出てきたのは無数の恐らくゴブリンだろう。

 恐らくと言うのは、先程戦ったゴブリンよりも明らかに大きいことと、後、近くに普通のゴブリンもいたので判断がつかなかったからだ。

 ゲームだと種族違いのモンスターが一緒にプレイヤーへと襲いかかって来るのだが、普通に考えたら種族違いのモンスター同士が協力戦をするとは思えないからだ。



「それにしても数が多い……。取り敢えず鑑定を」


 

ゴブリンチャンピオン

Lv30   ゴブリン族


力溜め   Lv2

ハードレック Lv1

ピンポイントショット Lv1



 鑑定するとゴブリンチャンピオンと表示されていた。


(なるほど、あれもゴブリンなんだ……。んー、やけにスキルのレベルが低いな……。まぁ、覚えたてなのかもしれない)


 周囲にはゴブリンチャンピオンが数体、ゴブリンやホブゴブリンが数十体、先程逃げ出したアーチャーとドルイドも戻ってきているのか、集団の中に恐る恐るとこちらを伺っていた。



「これはちょっと本気出さないと駄目だね。ねぇ、ユイシス聞きたいんだけど」



 先程戦ったゴブリンリーダーは偵察として先に送られていたのだろう。そう考えると、更にこれを束ねている上のゴブリンがいるかもしれない。


「これってさ、明らかに数が多すぎだよね? 何か原因とか解る? 後さ、まだゴブリンって要るの?」


《はい、目の前のゴブリンが増加した原因は不明ですが、洞窟などの魔力が大量にあれば、モンスターを発生増殖させることは可能です。また、ミツの居る場所から数キロの場所からモンスターは来たと思われます》


「そっか。解った、ありがとうユイシス」


 ユイシスの言葉を聞いた後に周囲を見渡すと、ゴブリン達は先程倒したゴブリンリーダーや数体のゴブリンの亡骸を見て、驚きと警戒した声を出している。

 

 グギャギャ、グギャギャとした鳴き声の後、ゴブリンチャンピオンからはグルルッと唸り声が聞こえてきた。

 亡骸となったゴブリンリーダー達を倒したのは自分だと認識したのか、警戒しているようだ。

 いや、どうやら逃げ出したアーチャーやドルイドから聞いたのかもしれない。

 先程から自分の方を指差しながらギャギャっと鳴いている。人に指を指すとは行儀の悪いゴブリンだ。



 その時だった。

 川を挟んで反対側。そちらの方からその場を離れるように何か駆け出す足音が聞こえた。

 


「んっ!? モンスター? ……いや人?」


《ミツ、近くの村人だと思われます。声を出さずに救援を求めに行ったと思われます》


 たまたま夜釣にでも来ていたのか、それとも自分の検証をしている戦闘音に誰か来たのか? 理由は解らないが、今人が援軍や討伐で来てしまうと面倒な戦いになる。



「こりゃ急がないと」


 ゴブリン達のスキルは欲しいが、先に準備をすることに。


 戦闘を始める前、川を渡って村の方へと行かれても困るので、川に行けないようにと氷壁と土壁を重ねて数枚出して道を塞ぐ。


《経験により〈アイスウォールLv3〉となりました》


 突然川を隠すように現れた土壁と氷壁、驚きにゴブリン達は慌てているがスルー。


 次に煙幕を出し、下手に逃げられないようにする。


 霧のように現れた煙が周囲のゴブリン達を包み込み、更に混乱状態とギャギャと叫び出し始めた。



「よし、やるか」

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