第30話 洞窟1階層

 朝も早く自分達は1階の酒場で朝食を済ませ、早速洞窟へと向かった。


「回復薬はいらんかねー! 傷ついたら直ぐに使える止血剤もあるよー! 血を流してしまった時の増血剤も必需品だよー!」


「食料はいりませんかー! 命の源! 美味しい携帯食でーす!」


「完全にお祭り騒ぎだ」


「皆必死ニャ。今が一番の稼ぎ時だから仕方ないニャ」


 洞窟に近づくにして冒険者を客とした様々な露店が増えてきた。


 傷を治すための薬草、携帯食料、灯りに使う松明、武器や防具の露店、その隣には武器を研ぐ為だろうか、タイヤ型の砥石が置かれている。


「そう言えば、プルンって教会に住んでるのよね?」


「そうニャ」


「この時期は教会にも人来るでしょ?」


「ウチは小さな教会ニャ、エベラ一人で十分だニャ」


「そう言えば、最近教会の方に色んな人が出入りしてたね。あれって勝利祈願だったのかな?」


「神頼みしてる時点で勝負に勝てる訳無いニャ」


「そんな事言って、エベラさんが聞いたら怒るよ」


「ミツ、エベラには黙っとくニャ」


「はいはい」


 話をしながら進むと、洞窟に入るための受付が見えてきた。最後尾の列に並ぶと、自分達の並ぶ方へ何処からかともなく鼠人族が近づいてくる。


「よっ! そこの兄ちゃん方、地図は持ってるかい? 洞窟は狭いようで広い! 何にも持たずに入るなんて自殺行為だよ。この全フロアが書かれた地図はどうだい!」


「地図か……」


 どうやらこの鼠の商人は洞窟の地図を売り込みに来たようだ。


「おっと! 道だけじゃない、これは罠の場所も細かく書いてる最高の地図だ。洞窟の中で迷子になって餓死を避けるだけじゃ無い! 危険な罠を避けて奥深くまで行けるここ一番の地図だ! そんな優れ物が今ならなんと金貨1枚だよ!」


 まるでテレビの通販番組を見ているかの様な気分になる、鼠の商人は地図の大切さと細かい説明をスラスラと伝えてくる。


「凄え!? 罠の場所もわかるのかよ! 少し高い気がするな……。なぁ、買う前に少し見せてくれよ」


「おっと、それは勘弁してくれよ、こっちは商売だ。 タダで見せたら商売じゃなくなっちまう」


「何だよ! 少しくらいいいだろ!」


「お兄ちゃん勘弁してくれよ〜、こっちは命がけで書きしめた地図だぜ〜」


「さては偽物ね、本当は中身がスカスカで適当に書いてるんだわ!」


「ありえますね……。第一、全フロアなんてシルバーランク冒険者がやっと隅々まで見れる物。こんな入り口近くで金一枚の安値で売るなんて怪しいです」


「そうニャ! そんなのがあるなら皆持ってるはずニャ!」


「ん〜、地図か……」


(ねぇ、ユイシス、マップのスキルは洞窟内は表示されるかな?)


〈はい、ご主人様から与えて貰ったスキルです、当然その様な小さき洞窟は全て表示されます。罠は私が警告しますので不要です〉


(流石チミっ子シャロット様だ。罠もその時にはよろしくね)


「そんなこと言わずにどうだい? 痛い思いする前に買っといたほうが身のためだよ!?」


 そんな話を続けていると鼠の商人の後ろから同じ鼠族が近づいてきた。


「あらオジサン、この間は地図をありがとね! おかげで無事に帰れたわよ。地図があったから罠にも引っかからなかったわ。本当に地図をありがとね〜」


「おお、アンタはこの間地図を買ってくれたお客さんじゃないか! そうかそうか、地図があって助かったか! いや〜良かった良かった」


「オイオイ、そんな地図が売ってるのか! 是非ともオレにも売ってくれよ!」


 更に鼠が増えた。


「毎度! これは便利な地図だよ。1枚で全フロアと罠の場所が書いてあって金貨1枚だ!」


「えええ! 全フロアと罠の場所まで書いてあってこんな便利な地図が金貨たったの1枚! しかも在庫はこの1枚が最後だって!」


(いや、サクラ下手過ぎだろ。こんな下手なサクラに誰が引っかかるんだよ)


 露骨なサクラの演技に少し呆れてしまい、話を切り上げるタイミングを見失ってしまっていた。


「おい! 皆で金出し合って買おうぜ!」


「そうニャ! 金貨一枚なら皆で出し合えばなんとか行けるニャ!」


(いたよ……しかも身内だよ)


 リックとプルンが見事に鼠の商人の罠に引っかかってしまった。よく見ると、後から来た鼠の客? の口元が笑っている。間違いなくこいつらグルで黒だ。


「はぁ〜、二人共あんな露骨なサクラ引っかかってどうするんですか」


「そうよ、あからさま過ぎて逆にビックリよ」


 そんなチョロい二人をしっかり者の二人が指摘してくれた。


 このまま放っておくと本当に金貨一枚出して買いそうな勢いだったからだ。


「でもよ! 迷って餓死は嫌だろ!」


「そうニャ! 罠で大怪我するかもしれないニャ!」


「あっ……皆、地図はいらないよ。道も罠も自分がスキルで解るから」


 ここはスキルと言う事で誤魔化しとこう。


「ニャ! ミツは罠の場所解るニャ?」


「うん、洞窟内のルートも解るよ」


「何だよ〜、先に言えよ」


「もう驚かない、私は驚かない……」


「なら、案内はミツ君にお願いしましょう」


 場の空気でもう地図を買わないと解ったのだろう。サクラの二匹の鼠の客がそそくさと離れていった。


「チッ」


 鼠の商人は舌打ちを残して次の客を探しに行ってしまった。


「あっ、行っちゃった」


「放っとこうぜ」


 鼠の商人が去った後も、次々と売り込みに来る商人が後をたたなかった。

 殆どが自分達には不要な物ばかりだったので買うことも無く全てを断っていった。

 そんなことをしている間にも列は進み、自分達の受付の番となった


「いらっしゃい、悟りの洞窟は一人銅貨5枚だよ」


「えっ、入場料取るの?」


「んッ?、ああ。洞窟内の管理費として貰ってるんだ」


「管理費って何だよ」


「洞窟内での治安維持、他にも迷った冒険者を捜索する人材のためだね。一応君達も関係ない事じゃないから、こうやって入る人から少しずつ貰ってるんだよ」


(まるでアトラクションに入る気分だな)


「後、自力で帰ることが駄目な時はセーフエリアに最低入り込め。大体は他の冒険者が助けてくれるからな、頑張って生き残れよ」


 どうやら入場料が必要なことを知らなかった自分達が、この洞窟に初めて来たことが解ったのだろう。何かとアドバイスしてくれる怖い顔のオジさんが優しく見えてきた。


「よし、行くぞ!」


 洞窟に入ると以外と中は明るかった。

 外の光は全く入っていないにも関わらず、壁から出た光がその反射で周りが明るくしている様だ。


 理由を聞くと洞窟内の魔力が強くなると明るくなる仕組みだそうな。

 しかし、その魔力もしばらく経つと壁の光はなくなり、松明無しでは足元すら見えなくなるとのこと。

 明るいうちにセーフエリアへ行ってまた明るくなったら探索する、それが洞窟内での安全な進み方だそうだ。


「まじかよ……。お前らアースベアーまで倒したのかよ」


「いや、倒したのはミツだニャ」


「この間のキラービーのことは聞いてたけど、アースベアーまで出てたとはな。俺がいたらそんな蟲共ぐらいこのランスで刺してやったのによ!」


 洞窟を進みながら、昨日自身の槍を磨きに途中で部屋から抜けていたリック。そんなリックにキラービーの件を話しながら奥へと進んでいく。


「リック自身、単体戦が強くてもキラービーみたいな集団で来られたら速終わりよ」


「そうですね、リックは単体なら頼りになるんですけど……」


「うるせぇ、そんなのその場で何とかなるさ!」


「しっ! 何かいるニャ!」


「んっ」


 そこには水溜りであろうか、数個の小さな穴の中に水が溜まっていた。


「水溜り?」


「おい、リッコ」


「ええ。ファイヤーボール」


「わっ、いきなり何を!」


 リッコが手に持つ杖の先から〈ファイヤーボール〉の火球を突如として飛ばし、自分が見ていた水溜りに直撃させた。

 火球が当たった場所は水蒸気を一気に放出させ、その場には溜まっていた水は無く、ポツリと穴だけが残っていた。


「ん? ミツ、あれスライムニャ」


「えっ! スライム?」


 自分が初めて見たスライムはただの水溜りにしか見えなかった。

 想像していた顔の付いたスライムとはかけ離れていた物だった。


「ミツ君は、スライムを見るのは初めてですか?」


「うん、初めて見たかな」


(おかげで鑑定すらしてなかったからスキル盗みそこねたよ)


「へ〜、ミツにも初めての敵って居たのね。それもそうか」


「いいかミツ。スライムは基本殆ど動くことは無い、だからって油断するなよ。水溜りに偽装して生き物を飲み込んで窒息死させたり種類によっては毒を出す奴も居るからな」


「倒せるのは魔法だけ?」


「いや、核を潰せば一発で死んじまう。さっきのは核が穴の底にありそうだったからな、魔法で焼いた方が早いと思ったからそうしただけだ」


 リックがスライムの特性を詳しく説明してくれる。流石先輩冒険者。冒険者としての経験は自分より多い分、リックは細かい事を知っている。


「へぇ、この階にはスライムだけかな?」


「いえ、後はコボルトも出てくるはずです」


「ほら、言ってるそばから出たぞ」


「コ、コボルト? なんかネズミっぽいけど」


 リックがショートランスの先を洞窟奥へ向けると、その先から2匹のコボルトが走ってきている。


 その姿は二本足で走り、武器は何も持ってはいないが、鋭い牙が口先から見えていた。

 何より、耳が大きい事が特徴的で、目が赤くなく耳を少し小さくすれば鼠人族に似ているかもしれない。


「何言ってるのよ、あれがコボルトよ。油断してるとあの鋭い歯で殺られるわよ」


(やっぱりネズミやん……。今度こそ鑑定で)


コボルト  


Lv2。


噛み砕き Lv2。


装備無し


コボルト


Lv3。


噛み砕き Lv2。


装備無し


「行くわよ! ニードル!」


「せい!」


「ニャ!」


 駆け寄って来るコボルトをすかさずリッコの〈ニードル〉で足を止める。動きが止まったコボルトにリックとプルンの攻撃が決まった。


「よし! 皆、これから本番だから気合入れろよ! あっ、ミツはスライムの核、それとコボルトの耳と牙をアイテムボックスに入れといてくれよな」


「解った」


「値段は安いけどしっかりとしたお金ですからね」


 倒したモンスターの素材採取は周りを見張る者と手分けする事にした。今回は出番のなかった自分とリッケがすることになった。


「これって触っても大丈夫なの?」


 自分が指を指し質問した先には穴の中に残ったスライムの核だ。


「スライムが死んだ後に残る液体は普通の水として使う人もいます。僕達は飲みたくないですけどいざという時は飲まないといけないかもですね」


「私は平気よ」


「ウチも平気ニャ」


「リッケより逞しいね」


 その言葉に自分とリッケはお互いに苦笑いを浮かべるしかなかった。


 しばらく歩き続けると出てくるのはコボルトとスライムのみ。

 それもさっきと同じ様にリッコの魔法で足止めをし、前衛の二人が仕留めるとこの流れができていた。

 結果的に後ろに控えている自分は。


「出番がない……」


(スティールする前にリッコの火球でスライムは一撃で沈むし、ニードルで引っかかったコボルトは、前二人が直ぐに倒すから使うチャンスがない)


「まぁ、普通は2人〜3人で来るような階層ですからね。今みたいに攻撃が4人もいれば手持ち無沙汰になる人も出ますよ」


「自分も支援に回ろうか?」


「いえ、まだ平気です。皆怪我はかすり傷すらしてませんし支援も最低限に抑えてますから」


「そうなんだ」


「ミツ、ウチらが倒したモンスターのドロップは全部ちゃんと拾ってるニャ?」


「うん、それは大丈夫。おかげで手から獣の匂いがしてきたよ」


 後で生姜でも握っていよう。血生臭さの匂い消しにはこれが効果がある。


 本当は水でバシャバシャと洗い流したいのだが、そんな事をしたら周りがなんと言ってくるか実行する前からわかる。貴重な水を手洗いのために使うなんて、洞窟内では無いだろう。


 


 (あー、水魔法でも使えたらそんな事考えなくていいんだけどな)


「そこ右、次に左ね」


《左曲がった直ぐに、2匹コボルトが待ち伏せしてます》


(解った)


「それと、その先から数匹いるから気をつけて」


 〈マップ〉のスキルを発動後、随時表示させ皆をナビゲートしながら進むことにしていた。 


 モンスターや罠がある時は、先程のようにユイシスが追加でアナウンスを入れてくれている


 


「おう! リッコ、角を曲がったと同時に頼むな」


「ええ」


「ミツ君が居てくれて助かりますね」


「ほんと、洞窟はモンスターの不意打ちで怪我をしたりするのに未だに無いなんて」


「逆に敵に先手が取れるから戦いやすいぜ」


 戦いは少しイージーモード過ぎるかもしれない。

 だが仲間を態々危険に晒すような真似はしなくてもいいだろう。


「ミツ、2階のセーフエリアはまだかニャ?」


「なに? プルンお腹でも空いた?」


「もう直ぐお昼ニャ。腹が減っちゃ戦いに集中できないニャ」


 なんで日も見えない所で昼と解るのか不明だが、プルンには解るのだろう……腹時計か?


「ちょっと待ってね」


 ウィンドウ画面に表示されている〈マップ〉を見てセーフエリアへのある2階までの道を計算してみる。


 どうも〈マップ〉のウィンドウ画面はスキルを発動した自分にしか見えない様だ。


「後少しかな」


「よし! じゃ〜行こうぜ。セーフエリアは下に降りれば直ぐの場所だし、そこには冒険者も多いからモンスターが居ないからな。そこならゆっくり飯ができるぞ」


「解ったニャ」


「ちなみによ、昼って何食うんだ?」


「サンドイッチでいい?」


「肉入が良いニャ〜」


「はいはい、野菜も食べようね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る