第21話 呼び出しをくらった

 ウトウトと寝てしまっていたのか、目を覚まし、辺りを見渡してみると外の風景は既に街の中だった。


「あれ……。もしかして結構寝てたのかな?」


「んっ? やっと起きたニャ、ミツのせいで肩が疲れたニャ〜」


 気づくと隣で寝ていたはずのプルンが先に起きていた。

 自分に肩を貸してくれていたのか、プルンは大きく腕を回しながら言ってきた。


「あっ、ごめんねプルン、ありがとう」


「べっ……別にいいニャ……」


 礼を言うと、プルンの顔が真っ赤になっていく。

 何故顔を赤らめるんだ?


「フフッ、ミツ君、お礼ついでにさっきのことは忘れて上げなさいね」


「さっきの事とは?」


「ニャ! エンリは余計な事言わなくていいニャ!」


「あらあら、ごめんなさいね、フフッ」


 意味が理解出来なかったが、無理やり思い出したとしても、また下手にプルンの機嫌を悪くするかもしれない。


 気にしないことにしよう……、あっ、イビキか。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 冒険者ギルドに戻り、エンリエッタはカウンターにいるナヅキに何かを会話をしていると思ったら、直ぐに部屋に案内された。


 他のカウンター嬢達がコソコソと何か話しているが〈聞き耳〉のスキルレベルが足らないのか、上手く聞き取る事ができなかった。




 案内されたのは以前も案内された部屋だった。


「さっ、二人とも座って頂戴」


「はい」


「エンリ〜、お茶くれニャ」


 ソファーの椅子に腰掛けると同時にお茶を要求するプルン、あなたは何処の社長様だよ。


「ここはお茶を飲む場所ではありません!」


「え〜、態々来たのにお茶も出ないニャ〜」


「んっ……。ナヅキ、お茶お願い」


「はい」


「お菓子もあったらよろしくニャ!」


「ありません!」


「ニャ〜」


「コホン、先ずはあなた達の活躍で釣りをしていた一般人、また、冒険者に被害がありませんでした。それと近くの村にも被害が無かったことをここでお礼を申し上げます」


 テーブル越しに頭を下げてくるエンリエッタの顔は笑ってる。


 良かった、なにか注意されるのかと深読みし過ぎていたかもしれない。


「いえいえ」


「ニャ〜」


 プルンとお互いに顔を合わせ、何事も無かったことを確認し二人してホッと安心した。


「では、二人が今持ってるギルドカードを回収しますので渡してください」


「「……」」


 エンリエッタの次の言葉は一瞬時間を止めた。


 聞き間違えかと思い自分もプルンも言葉が出てこなかった。


「あら? 聞こえなかったかしら、あなた達のギルドカードを回収しますのでご提示下さい」


「えっ! 何で!」


「ニャ!」


 聞き間違えでは無かった、安堵した表情から一転し、エンリエッタの言ってる言葉が理解できなかった。


「ニャんでニャ! ウチら悪い事してないニャ! 冒険者追放なんて何でニャ!!


 前回は緊急招集依頼を出して他の冒険者を無理やりかき集めたのだ。


(えっえっえっ!? もしかしたら今回も緊急招集をかけていたのか? だとしたら否は自分にある、せめてプルンはモンスターの被害者側にしないと!)


「そうです! 今回は他の冒険者の依頼を横取りしたわけじゃありません! 人命救助もしました、それと戦ったのは自分の判断です!」


「そうニャ! そうニャ! いいことして、カード没収は酷いニャ!」


「ふ〜、どうやら解ってなかったみたいね」


「何が解ってないニャ!」


「プルン、落ち着きなさいよ」


「ナヅキ……」


「ナヅキさん」


「はい、お茶。それとコレを二人に」


 ナヅキが運んで来たトレーの上には、三人分のお茶の入ったコップ、それとは別に2枚のプレートが置かれていた


「ニャ?」


「二人のギルドカードを回収するのはこちらをお渡しする為です」


「これは、ブロンズランク冒険者カード? にしては鉄でできてるよね、これは?」


「はい、こちらのブロンズランクのカードはプルンに。そして、こちらのアイアンランクのカードはミツさんにです」


「「アイアン!!」」


 確かに、ナヅキの言うとおり鉄にも見えるプレートにはアイアンと刻印が入れられていた。


「順を追って話しましょう」


「はい……」


「ニャ……」


「先ず二人に勘違いさせてしまったことを謝るわ」


「いえ、自分達が勝手に先走っただけですので」


「ごめんニャ……」


「いいのよ、でっ」


 すっと手を前に出すエンリエッタ、視線をナヅキへと送ると言葉の続きをナヅキが説明し始めた。


「はい、先ずキラービーですが討伐レベルはブロンズランクとなります。しかし、今回みたいに数体を超える場合依頼ランクがアイアンへと変わります」


 モンスターの数でも依頼のレベルが変わるのか、だとしたら今回のキラービーの群れは確かにブロンズのランク依頼じゃ難しいだろうな。


「それに加えてあの数、目撃者の証言では100を超えていたそうね……。実際、君のアイテムボックスの中にはそれを超える数が入ってるはずよ」


「はい、アイテムボックスには170体程のキラービーの亡骸を入れました、川に流されたのを含めると200はいたかと」


「はい、数体でアイアンランクの依頼、これが数百となるとグラスランクの依頼にまで上がります」


「グッ、グラスニャ!?」


 塵も積もれば山となる、正にこのことだろう。


 グラスランク並の依頼で被害無しとか、本当に運が良かったのか、これはもう奇跡だろう……。


(後でステータスの運を確認してみよう)


「でも……自分一人で倒したわけじゃ」


 流石にここはしっかりと伝えとかないといけない、お金のことで後で問題になったら困るのは自分達だから。


「ローゼからも帰り際、簡単にだけど話を聞いてるわ。最初の方は二人でキラービーを撃ち落として倒してたみたいね」


「はい」


「そうニャ! 落ちてきたキラービーをウチがトドメを指してたニャ」


「そう、最初はね。でもその後の数百はミツ君一人で撃ち落としたみたいね」


「まぁ、確かに」


「ニャ〜、やっぱりアレはミツが倒したニャ」


「次にアースベアーですが、この討伐依頼はグラスランクからとなります」


「これもグラスですか……」


「以前君が討伐したオーガ、あれも調べたところ普通のオーガではない事が解ったわ。もしかしたらアイアンのランクだけじゃ討伐は難しかったかもしれないわね」


「よって、グラスランク並の依頼を3連続で片付けるミツさんを、ウッドランクのままにしとくのはギルドとしても人を見る目が無いと思われかねませんので」


「強制にランクアップって事よ」


「ニャ? ウチのランクアップは?」


「オーガの時もだけど、今回の働きでウッドランクでは勿体無いと判断したからよ」


「おまけっぽく言われてる感じニャ……」


「プルン、おまけみたいな考えではランクは上げれないのよ」


「実際あなた以前より強くなっている感じは解るわよ」


「ニャ!」


「キラービー沢山倒したからじゃない?」


 後でプルンのステータスもゆっくり見させてもらうかな。


「でも、あれは動かない敵だったニャ」


「強くなってるんだからそれは受け止めなさい。なんならプルンだけウッドランクのままで良いのよ〜」


「ニャニャ! 受け取るニャ、ウチは強くなったニャ!」


「コホン、話の続きね。もう一つは他の冒険者の証言よ」


「「?」」


「ミツ君……君今何のジョブなの?」


「そうニャ! それウチも気になってたニャ」


「うちのギルドに来たときはアーチャーって言ってたわよね?」


 確かに、ここに始めてきた時のジョブは【アーチャー】だった。たが、直ぐに【シーフ】になったけど、その前にここの世界のジョブの事を聞いておこう。


「え〜と、先ずこちらから質問いいですか」


「どうぞ」


「ジョブって他の人はどうやって変えてますか?」


「「「……」」」


 何か変な事聞いちゃったかな、エンリエッタも他の二人も喋らない。


「え〜っと、ジョブの変更はね、基本冒険者ギルドや魔法学園、商人ギルドなど、あらゆる場所で判別晶が設置されています」


(判別晶? それでジョブが解るのかな)


《判別晶。使用者の今のジョブを表すことができる。また使用者の力が一定になると新たなジョブを導く魔導具です》


「ウチもここに来たときに婆に使わせて貰ったニャ」


「そして判別晶がまた新たなジョブを出せばそのジョブに変更できるわ」


「二回目に出てきたジョブは最初より強いジョブばかりですからね。まれに別の同じ強さ程度のジョブが一緒に表示されますが、皆さん態々変更される人は居ませんよ」


 なるほど、ジョブはここで変更できたのか。


 しかも上位ジョブへの道標的な次のジョブも出してるみたいだな。


 確かに、普通に考えれば今まで後衛をやっていた人が、前衛に態々ジョブを変えるなんて考えないかもしれない。それは後衛の戦い方、スキルが前衛では使えない物もあるだろうし、動きが全然違うから無駄になると思う人が普通なんだろう。


「丁度いいわ……。ナヅキ、判別晶を持ってきて頂戴」


「はい」


 何だか嘘発見器に試される気分になってきた……。


(ユイシス、判別されちゃうけど【忍者】とか他になれるジョブまでバレちゃうんじゃないのこれ?)


《問題ありません、ミツにはスキル偽造職が発動しております。判別晶にはクレリックのみ表示されます。しかし、クレリックはまだレベルが足りませんので判別晶では次になれるジョブは表示されません。他に既になれるジョブもスキルの効果で非表示となります》


 なるほど、こんな事があるとは思ってなかった。


 ユイシスの言うとおりに【忍者】を先に目指して良かった。


 しかし【忍者】のスキルは便利な事で。


 さすが忍者きたない!


「でっ? 君はどうやってジョブを変えてるの?」


「言わなきゃ駄目ですか?」


「他の冒険者に説明ができないのよ」


「と言うと?」


「ふぅ……。君、弓で数百のモンスターを倒して、プルンや他の人の傷を治したみたいね。あげく魔法まで使った見たいね」


「さっ、さぁ〜、自分は旅人ですから〜、他の人とは違うんですよ……」


「「……」」


 二人の視線が痛い、何を言っているんだと言わんばかりで自分を見ている。


「おまたせしました」


 時間をおかずにナヅキが戻ってきた。


 持ってきた判別晶は見た目ただの鏡。

 こった飾り付けも無く、パッと見、言われなければ普通の鏡として使ってしまう程だ。


「いいわ、取り敢えずこれに触って頂戴。これには君の今のジョブが映し出されるわ、また君の強さが一定以上なら別のジョブが表示されるはずよ」


「はい……」


 自分はゆっくりと判別晶に触る。


 自分の姿を写していた鏡は真っ黒になり、しろい靄が浮き出してきた、そしてその靄は何やら文字の形に変わっていく、その文字をまじまじと覗きこむ面々。


「クレリック……だけですね……」


「だニャ」


「ふむ……足りない」


「えっ?」


「さっきも言ったでしょ、魔法も使っていたと」


「ニャ」


 三人の視線をまたじっと受ける。


「あー、あれですよ、きっと気のせいですよ。確かにプルンに支援したり、ゼクスさんを治したりしましたけど」


「えっ、今なんて?」


 まだ、魔法関係のジョブが出ていない状態で魔法を使うのは流石に変だと思われる。


 咄嗟に近くにいたゼクスを思い出したので話をそっちに流してみると、二人は突然鳩が豆鉄砲を食らったかの様な顔を見せた。


「今、ゼクスって言いました?」


「ニャ? どうしたニャ、二人とも」


「えっえっ! その場にゼクス様がいらっしゃったの!」


「本当にゼクスなの?」


「はっ、はい……確かフロールス家の執事をやっているゼクスさんですね」


「本物だ! 凄い! わーー! 会ってみたーい!」


「落ち着きなさいナヅキ。そう、ゼクスがその場に……。なるほど、あの人がいたなら魔法は彼かもしれないわね」


 ナヅキはまるでアイドルファンの様に声を上げ、エンリエッタは口元に手を当て考え出した、なんであのボッチャまLoveの爺やに黄色い声援が飛んだんだろう?


「あの〜ゼクスさんをご存知で?」


「ご存知もなにも!」


「あの人、ゼクスは元シルバーランクの冒険者よ」


「「えええぇぇ!!」」


 流石にこの真実は驚いた。


 第一印象がアレだけに、プルンと共に声を上げる程に本当に驚いた。


 二人の脳内には、ロキアを心配して物凄い表情を浮かべて駆け寄ってくるゼクスの姿と、ロキアを傷つけた事に鬼の様な表情をキラービーに向けていた事、最後にロキアを心配して無事なことを安堵した表情が横切っていた。


「でっ、でも……。何で元シルバーの冒険者が今は執事ニャ?」


「さぁ、突然冒険者家業を辞めてね、直にフロールス家の執事になったから理由までは……」


「人は見かけによらないニャ」


「はははぁ……だね」


 なんか執事になったのも、ロキアが関係してるのではないかと思うところはあった。


「さて、話を戻しますよ。改めて君はどうやってジョブを変えてたの?」


「……ジョブの変更は思い込めばできてました」


「えっ?」


 エンリエッタの疑問の言葉、少し眉間にシワが寄って怖い。


 プルンとナヅキは共に口を開けてポカーンとしている。


「いや、本当なんです、心で思えばジョブが変わったんです」


「ありえるんでしょうか?」


「今までには例が無いわね……」


 でしょうね。


 自分もこんな判別晶なんて物があるなんて知りませんでしたし。


「でも、一応クレリックである事は判明しましたから回復魔法が使用できた事は説明できますね」


「そうね……アーチャーである事も私が証明すれば大丈夫でしょうし」


「魔法はゼクス様が何かのスキルを出されたんですよ!」


 良かった、ナヅキの思い込みもあってこの場はこれで何とか乗り切れそうだ。


「ミツ君……」


「はい!」


 エンリエッタの呼びかけにビクッと反応し返事を返す。


「あなたの力はまだ秘めたる力があると私は思っているわ」


「はい……」


 別に隠さなくても良いのだが、大々的に表に出す必要も無い、下手したら他の冒険者に煙たがれるかもしれないし。


 自分は兎も角だ、いま一緒に動いているプルンも同じ目に合うのは、それは嫌だから今は伏せて置くことにした。


「今後ジョブを自身で変更した時はこのギルドで確認と報告を必ずしなさい! 他の場所での判別晶の使用は駄目よ」


「ニャんでニャ?」


「他で同じような事があれば私じゃフォローしきれないのよ、後悪いけどこの事は他言無用にしてもらうわよ」


「でも、依頼を続ければいずれバレますよ?」


「そうね、でも今君はアイアンの冒険者よ」


「ニャ?」


「プルン、わからない?」


「冒険者としてアイアンランクならそれなりの強さを持ってるわ。2つのジョブを経験してる人でも不思議とは思わないのよ」


「私も今のジョブの前はソードマンよ、それを周りが変に思うかしら?」


「いや、エンリエッタさんはクルセイダーですよね、それなりジョブの経験での強さは誰でも納得しますよ」


「んっ……。そうね」


(あれ? 何か変な事言ったかな?)


「そうか、解ったニャ!」


「何が?」


「ミツが変に見られるのはランクが低いからニャ! エンリみたいに高いランクなら強くても変に思われないニャ!」


「はい、よくできました」


「ニャははは」


「そこで、今回の強制にランクを上げさせて頂きまして。他の冒険者にはミツ君は旅人と言う事なので元から実力はあった。しかし、ギルドの判断ではいきなりアイアンランクのスタートは許されない。よって暫くはウッドランクとして様子を見ていた」


「って言う流れにしたのよ」


「実際ミツは実力はおかしいニャ。ニャんだかモンスターと戦う程に強くなってる気がするニャ」


(事実モンスターのスキル盗んでますからその通りですプルンさん)


「プルン、戦闘を重ねれば強くなっていくのは当たり前よ?」


「いや、そうだけど……そうじゃニャいニャ」


「取り敢えず! 今後はこちらの判別晶を使わせて頂きますので、はい! よろしくお願いします!」


「えっ、ええ、そうして頂戴……」


「ニャ……」


 余りアレコレと詮索されたくないから無理矢理に話を切らせてもらうよ。


「では、ギルマスにはこちらから話しておきますので、本日は以上です。後、ミツ君キラービーとアースベアーの素材を買い取らせてもらってもいいかしら?」


「自分は構いませんが、両方ともローゼさん達にご協力してもらってます。売るかどうするかは、相談してみないと」


「それなら明日またお越しください、ローゼさん達にも今日の事を聞くためにお呼びしてますので」


「解りました、お昼くらいにこちらに伺います」


「二人とも帰る前にこれに記入をお願いします」


 スッと差し出された一枚の紙。


 どこかで見た事があると思ったがこれ、リッケ達もランクアップの時に書いていた同じ物だ。


「何ニャ?」


「ランクアップに関してのアイアンランクとブロンズランクカードの受取書です。お二人のウッドランクカードを回収する代わりにこちらを受け取りましたの意味が書かれてます」


「後、書いてる通り二人ともランクアップしてるから依頼が増えてる事も書いてるわよ」


「アイアンランクって何が増えたんですか?」


「基本はまだブロンズランクと変わらないけど、緊急時に招集をかける対象なので、その時は協力お願いします」


「ニャ〜、それにはウチはまだ参加できないニャ……」


「別に依頼自体を一緒に受けれなくなる訳じゃ無いですよね?」


「ええ、ブロンズもアイアンも招集依頼を除けば同じよ」


「だってさ、プルン、これからもパーティーよろしくね」


「ニャ!」


「フフッ、ミツ君、プルンにすっかりと気に入られてるわね」


「「!!」」


 ナヅキが変な事を言う物だから、プルンが下を向いてしまった、年頃の女の子を茶化すネタは駄目だよ。


「……ニャーー!」


「プッ、プルン! では、失礼します!」


 プルンが叫びながら出ていってしまった。


 自分も要件は終わったので二人に軽く礼をし、プルンの後を追っかける事にした。


「あら〜、悪い事しちゃったかな」


「ナヅキ」


「はい?」


「ミツ君に私のジョブの話しした?」


「いえ、してませんけど?」


「そう……」


「してなくても、冒険者ギルドの副マスターですよ、どっかで耳に入ったんじゃ」


「そうね……」


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 部屋をバタバタと出ていくプルンの後をついて行くと、なにやら怒っているのか尻尾がピーンと立っていた。


 目の前にチラつくモフモフの尻尾。


(これ触ったら流石に怒るよね)


《触った瞬間、正拳突きが飛んできますよ》


(スキルかよ! 怖っ!)


「まったくナヅキは、まったくニャ!」


「どうしたのプルン、さっきから」


(まぁ、怒ってる理由は解ってるけど、あえて気付いてない振りしとこう)


「何でもニャいニャ!」


 ドシドシと階段を降りるプルン、傍から見ても機嫌が悪いように見えるため、他の冒険者もこちらをチラッと見る程度で視線をすぐに戻していた。


「それよりプルン、スヤン魚の依頼報告に行こうよ、こっちは今日渡しても大丈夫だろうし」


「そうニャ! 忘れてたニャ。ウチの魚籠とミツの空の籠を出すニャ」


 さり気なく、自分の魚籠を空確定されていた言葉はスルーしとこう。


「ウチがミツの分も釣ったから分けるニャ」


「……プルン、君って子は」


「何ニャ? 感動のあまり泣いてるのかニャ?」


 あんなドヤ顔しながらも釣ってたのに、まさか自分の分まで釣ってくれてたなんて。

 思わず少し嬉しくて涙が出ちゃうじゃないか。

 しかし、結果はプルンの思っていた通りにはならなかった。


「ふふふっ……ハハハハッはははっ!」


「なっ、何ニャ! 魚が釣れなくて壊れたのかニャ!」


(壊れてねえよ)


「落ち着くニャ、確かにミツは強いけど人には向き不向きって有るって聞いた事があるニャ!」


「いや、違うんだよ、最初の涙はプルンの優しさに感動したんだよ」


「そうかニャ……」


「笑ったのはごめん、結果を見せた方が早いね」


「なんニャ?」


「取り敢えずこれはプルンの魚籠ね」


「間違いないニャ、目印にカゴに紐つけてるニャ」


「でっ、悪いけどこっちが自分の魚籠だよ」


「ニャニャ!!」


 アイテムボックスからプルンの魚籠の後に自分の満タンに魚が入った籠を出す。


 魚の多さを見て驚いた。

 プルン以外も、周りの冒険者の視線も引いてしまった。


「ごめんね〜プルンさんよりお魚多くてごめんね〜」


「うう〜ミツ、顔がウザいニャ」


「おっと、無意識に挑発スキルなんか取っちゃったのかな」


《無いですよ、それはあなたの素です》


(素ならスキルとして頂戴よ)


「コホン、取り敢えず依頼の10匹を除いて余ったのは持って帰ろうよ」


「そうニャ、食べきれない分は干物にして長持ちさせるニャ」


 この世界にも魚を干物にする習慣があったのか。


「えーと、プルンの依頼引いた分の余り16匹と自分の余り24匹だね」


「よくエサがもったニャ。ウチエサが無くなったから途中で辞めたニャ」


「あ〜、近くに虫の巣見つけてね、それ使ったんだよ」


「運がいいニャ」


 実際人が少なかったから魚のエサになりそうな虫は、石の下や近くの木々に隠れてたし問題ない。


「お願いします」


「するニャ」


 依頼となるスヤン魚10匹を籠からだし、受付の横にある素材受け渡し場へと置く。


「はい、ありがとうございます。ではこちらが今回の報酬となります」


 カウンター嬢は今はナヅキではなく、他のベテランのカウンター嬢だ。スヤン魚を渡すと直ぐに報酬をくれた。


 若干自分が貰ったほうが多いような気がする。


「ニャんでミツの方が少し多いニャ?」


「はい、ご説明させていただきます。ミツ様の収めて頂きましたスヤン魚ですが、傷らしい物がありませんでした。よって優品として買い取らせて頂きました。プルン様の品は、針傷くらいでしたので良品とさせて頂きました」


「ニャ? ミツどうやって釣ったニャ?」


「えーと、釣ってないよ、スキルで捕まえたんだよ」


「ニャ!」


「ほら、ローゼさん達みたいな感じにね」


 嘘は言っていない、スキルも使った事も言ったし。


「ニャる程、次からウチも罠にするニャ」 


「そうだね、その時は一緒に罠作ろうか」


 報奨も受け取ったので、ギルドを後にし教会へ帰ることにした。


 帰り際に思ったのだが、自分の魚籠からプルンの分も出せば二人とも優品として報酬が貰えたのでは……。


 その事をプルンに話すとお互いに、あっと思う表情を浮かべてしまった、これも勉強と思って失敗は後に繋げようと言って帰ることに。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵


「帰ったニャ〜」


「戻りました〜」


「おかえりなさい二人とも」


「エベラ、今日は魚ニャ!」


 流石に持ち運ぶのは大変なので、一旦二人の取った魚はまとめて自分のアイテムボックスに直していた。


 アイテムボックスから取り出すカゴいっぱいの魚、その辺の市場で買うより品質は最高だ。


「あらあら、昨日もいっぱいお肉を持ってきてくれたのに、今日もこんなにお魚を、ありがとね二人とも」


「いえ、食べきれない分は干物にするんですよね」


「ええ、このお魚は干物にしても美味しいのよ」


「へぇ〜、食べてみたいですね」


「1週間程で作れるから是非食べてみて頂戴」


「はい、その時はご馳走になります」


「肉、魚と続いたから次はニャんにするかニャ」


「……ありがとね二人とも、本当に。」


 お礼の言葉を言ってきたエベラ、よく見たら目には涙を浮べていた。


「ニャ! エベラどうしたニャ! ニャんで泣くニャ」


「いえ、あなた達のおかげで、美味しい物を子供たちに食べさせる事ができる事が嬉しくて、ついね……」


「エベラさん……」


「エベラ……」


「ぐすっ……」


 今までどれだけ子供たちに食べる物で貧しい生活を子供達に味あわせてしまったのか。


 その罪悪感がやはりエベラの心にもあったのだろう。


 バタバタバタ


 走ってくる三人の子供達の姿を見て、本当に今後を何とかしなければいけないと思ってしまう。


 いや、思うだけじゃ駄目なんだ、何とかしなければ……。


「ネーネ、おかえりー」


「おかえりー」


「んっ! シスターどうした? 何で泣いてるんだよ」


「マーマ、にゃいてる?」


「プルン姉がまた困らせたのか?」


「ネーネーめっー」


「ニャんでそう思うニャ!」


「いえ、違うわよ皆。ホコリがね、目に入っちゃっただけよ。それより皆見て、プルンとミツさんが、こんなにお魚持ってきてくれたのよ」


「うわー!」


「凄い!」


「おしゃかな! おしゃかな!」


「皆、運ぶのを手伝って頂戴」


「「「はーい」」」


 少しづつだが、子供達にも笑顔が増えてきてる。


 それはほんの数日一緒に過ごした自分にも解るのだから、エベラやプルンが1番に気づいてもいるはずだ。


「ミツ、ありがとうニャ……」


「うん」


 四人を見るプルンの目にも薄っすらと涙が溢れてる様にも見えた、それを自分は直視する事はできなかった。


 感謝の言葉だけで十分解ったからだ。

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