第7話 人妻は魅力的

 ドンの家族を治療するため、急ぎ足にドンの家まで案内されている。


 自分の手を引くドンの手は希望を掴んだと強く握りしめられるが、その顔は不安と希望の両方に満ちていた。


 ゲームの中とはいえ、人生初手を引いてくれた人が男だったのは気にしないでおこう。これはゲームだしノーカンだよ。


「さっさっ! こっちです!」


「ドンさん、そんなに急いだら危ないですよ」


「ちゃんと付いていきますから、そんな引っ張らなくても大丈夫ですよ」


 家族が助かる、そう思うとドンの手を引く力がどんどん強くなり、着くときには引きずられる様な感じで家へと到着していた。


「サネ! いるか!」


「あなたどうしたの? そんなに声を上げて、お義父さんとモネが起きてしまうわ」


 ドンに引き連れられて家の中に入ると、大人しそうなショートカットの金髪女性が椅子に座っていた。


 女性の隣にはアイシャより小さい10歳程の女の子がベッドに寝ているようだ。


 しかし、その子の顔色は悪く、身体は少し痩せ気味にも見える。


 奥のベッドにはドムの父親であろうか? 息苦しそうに咳き込む声が聞こえてきた。


「悪い、ところで起きていて大丈夫なのか?」


「ええ、大丈夫よ。今から二人に薬を飲ませなければいけなかったので先程起きたところですから。あの……。マーサの隣にいる方はどなたかしら?」


 突然の訪問、そりゃ誰だってそう思うよね。


「この方はミツさん、村のアース病を治していただける方だよ」


「まぁ、治療士様なのですか? こんなにお若い子が」


「初めましてミツと申します。残念ながら治療士ではありませんが、村の皆のアース病を治すお手伝いすることになりました」


「本当に治していただけるんですか! でも、我が家にはお返しできる物なんて何もありませんが……」


「はい、マーサさんもこの通り病から回復しました。ギーラ村長にも見てもらったので完治は間違いありませんよ、それに報酬は別に要りませんので気にしないでください」


「……っあ、ありがとうございます! ありがとうございます!」


 絶望しか見えなかった毎日、ドンと並んでお礼を言い続けていた。


「マーサ……マーサは本当に治ったのよね?」


「サネ、ええ、私はミツさんの治療でちゃんと治ったわ。お互いこれで苦しみから解放されるのよ」


「ええっ……ええっ……」


「ドンさん、先にお子さんの治療で大丈夫ですか?」


「あぁ、早速頼むよ」


「わかりました」


 ベットに寝ている子供は寝ているが、アース病でその表情はとても苦しそうだ。


 自分は掌を子供の心臓のある胸元に当てながらスキルのイメージを使った。


「キュアクリア!」


 マーサと同じように緑色の光が子供を包み込み、光がやんだときには子供の表情も穏やかに気持ちよさそうに寝ていた。


 状態を鑑定すると、アース病は状態からはきちんと消えていた。


「これで大丈夫なはずです」


「失礼します、私が診てみますね」


 マーサもこの病気の経験者、何処にどのような症状かは理解している。


 寝ている子供の首元に指先を当てたり、手足の温度を確かめるマーサ。その表情は険しい表情だが、アース病から治っていることが解ると少しずつ柔らかな優しい笑顔と変わっていくのが解った。


「大丈夫、アース病の特徴が一つも見当たらないわ。詳しくはお母様に診てもらえば大丈夫でしょう」


 マーサの言葉でドンは泣き崩れ、サネは寝ている娘を優しく抱き包んでいた。


「モネっ……モネ良かったわ!」


「ミツさん、ありがとう! 本当にありがとう!」


(わかったから、感謝は嬉しいけど腕をそんなに上げ下げしないで、痛い痛い! ゲームなのに腕の痛みが生々しいな、まったく)


「ははっ、まだ終わってはいませんよ。サネさん、旦那さんには伝えてはいますが自分の魔力不足の為、今はあと一人しか治すことができません」


「では父を! お義父さんを先にお願いします、私はまだ動くこともできますので後でも構いません」


 マネは自分の言葉に涙を流したばかりの目を見開き、即答で自身の治療よりも義父の治療を懇願してきた。


「ドンさんはそれでいいですか?」


「あぁ、本人の希望だしお願いするよ……」


「わかりました」


 同じように奥のベッドに寝ているドンの父親を鑑定して病状を確認。


 アース病を確認後、続けて先程と同じように治療をする。


 光と共にドンの父親の顔色も落ち着きを取り戻したのか、息苦しさも無く、表情も優しくなっていた。


「キュアクリア!」


 鑑定をして状態に何もないことを確認した後に、またマーサに診てもらうことにした。


「大丈夫見たいね。呼吸も落ち着いてるわ」


「ぐっ……うっ……親父!」


「……っお義父さん!」


 二人は寝ている父親の手を握りながら涙を流しながら呼びかけていた。


 顔を涙でグシャグシャにするドンの肩に手を置いて、一緒に涙するモネは支え合う妻の姿だ。


「ミツさん、お身体は大丈夫かしら? 魔力の消耗は体には負担と聞くけど」


「えっ、そうなんですか? いえ、全く何ともないですけど?」


 MPの消耗でも倒れるのであろうか?


 しかし、自分のMPは今0/6で空っぽ状態。だが、体には問題は無い。ゲームだけにステータスの低下とか、デメリット効果が発動するのかと思い確認するも、先程見たステータス表示と変わりはなかった。


「それなら良いけど、無理はしちゃだめよ……」


「はい、わかりました」


「ミツさん! ありがとう! 本当にありがとう!」


「ありがとうございます!」


 ゲームとは言え本当に重い設定を作ったなと思う。


「治せて本当に良かったです。二人が起きたら改めてギーラさんに診てもらってください」


「そうね、後はミツさんの魔力が戻れば次はサネ、貴女の番よ」


「でも、私以上に苦しんでる人が村にはいます。その方を優先して頂いて結構ですので」


「サネ、何を言うんだ!」


「ドンさん、私が説明するわ。サネよく聞いてちょうだい、アース病になってる人が家族の中に居るとね、せっかく治った人はまたアース病になってしまうかもしれないの」


「「!?」」


「そうなんですか?」


「ええ、お母様に以前聞いた話ですけど、アース病は元々魔力の過剰吸収から起きる病気なの」


「確か大地の魔力でしたっけ?」


「そう、人から作られる魔力とは別の魔力、地面から出てくる魔力ね。でもせっかく治療して魔力を抜いても、そこに地面の魔力を大量に含んだ人が暫く側にいたら治療した人でもその魔力に当てられて、また再発してしまうの」


「じゃ、私はこの家を出た方が……」


「それは大丈夫よ、さっきも言ったけど直ぐにモネちゃんとおじさんにまたアース病が移ることはないは。それまでにミツさんの魔力を回復してサネを治したほうが早いわよ」


「でも……。失礼ながらミツさんはもう魔力がないのでは?」


 そうか、サネにはギーラの指示で村人が青ポーションを作るための材料を取りに出たことを伝えてなかったっけ。


「サネ、それなら大丈夫だよ。村長が動ける人をかき集めてくれて、青ポーションの材料を探しに行ってるからな。それでミツさんの魔力を回復してもらえばお前も治してもらえるぞ」


「そうだったんですね、失礼なことを言ってしまい申し訳ありません」


「いえいえ、そろそろギーラさんも来ると思うので……」


 ダンの家での治療を終えてしばらくすると、ギーラが慌てて部屋の中へと入ってきた、


「失礼するよ!」


「村長、態々来ていただきすみません」


「おぉ、ドン。その様子じゃ治ったみたいだね」


「はい、モネと親父を治して頂きました。本当にありがとうございます!」


「いやいや、お礼はミツ坊にするべきじゃ」


「はい!」


「と言う事は後はサネだけかね、ミツ坊早速だがこれを飲んでくれんか」


「これが青ポーション、材料が揃ったんですね!」


 ギーラから一つの小瓶をを受け取ると、中にはユラユラと揺れる真っ青な色をした液体状の物が入っていた。正に色的に青ポーションと言える品物だ。


「それがの……その青ポーションの材料は家にあった奴で作ったんじゃ。今はまだ村人皆で材料を探しとるが未だに見つかっておらん」


「元々見つかりにくい材料ですもんね……。お母様、私も探しに行きます!」


「これこれ、病み上がりの奴が森になんぞ入れられる訳なかろうに」


「はぅ……すみません」


 はっ! やばい、人妻が可愛いとか何これ!


 確かマーサの歳設定は30歳だったよな、こんな可愛い人妻を作ったプログラマーGJグッジョブだ!


 それより、このまま青ポーション使ってもまた三人分しか回復できない。それならレベルを上げてからの方がMPも上がるだろうし、回復できる人数が増える。

 使うのは上がってからでの方が良いのではないか?

 しかし、回復できるのに使わないのは変に思われるよな……。


「お婆ちゃん! お母さん!」


「どうしたんだい二人とも、またバタバタと入ってきて」


「すまんの村長、大変なんじゃぞい!」


「だからどうしたんだいって聞いてるじゃないか、とうとうボケたかこの爺は」


「ボケとらんぞい! そんな事よりオークじゃ! オークが現れたんじゃぞい!」


「何ですって! オーク!」


「あぁ、蓮色草を探してる時に森の奥で何匹か見かけたんじゃぞい」


「なんてことじゃ、ゴブリンの災難が終わった途端今度はオークだなんて……」


 オーク。見た目は豚のような顔をし、体はゴブリンの4倍はあろう大きさ。


 腕をひと振りすれば大木もなぎ倒す力を持っている。


 1匹いるだけでもゴブリン10匹以上の脅威となるために、基本戦闘は冒険者でさえチームで挑むモンスターなのだ。


 ギーラは掌を自身の頭を支えるかの様に押さえ、隙間からは険しい表情が見えている。


「アイシャ、怪我人は出てないわよね」


「うん、バンおじさんが直ぐ村人皆を村に避難するように言ったから皆んな帰ってきたよ。今はおじさん達が見張ってるの」


「村長、流石にオークはバン達じゃ太刀打ちできんぞい」


「お母様、私が行きます!」


「ならん! お主は先程も言ったが病み上がり。そんな人がモンスターに挑むなど」


「でも!」


 オークか、丁度いい。


 レベルアップを狙うチャンスでもあるし、またスキルをスティールできるかもしれない、正に一石二鳥だ。


「自分もお手伝いします」


「ミツ坊……お主……そうじゃの。マーサはまだ体が治りかけじゃし、お主が一緒なら安心じゃ」


「モネさんすみません、治療は戻ったら必ずしますので少し待ってて下さい」


「はい、私は大丈夫です。娘と父が治ったのを見たら少し気分が良くなってます、今は私は大丈夫です」


「すみません、できるだけ直ぐに戻ります」


 変なフラグじゃないからね。


「しかし、ミツ坊でもオークは……」


「わかってます、ゴブリンの時みたいな戦闘はできないでしょう、バンさん達が危険になりますから」


「ミツさん、一先ず私の家に弓を取りに戻りましょう」

「はい、わかりました」


「お母さん、ミツさん二人とも気をつけてね……」


「マーサ、ミツ坊、無理だけはするんじゃないよ。ゴブリンとは違うんだ、危険を感じたら直ぐに逃げるんだよ」


「「はい!」」


∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


 家に戻ると、マーサは奥の部屋へと入り、茶色い獣の革を服に加工した、狩人っぽい格好に着替えてきた。


 また、マーサの手には2つの弓がある。


「ミツさん、弓を」


「マーサさん、お借りしても大丈夫なんですか?」


「えぇ、でも今度はこっちの弓を使って頂戴」


「これは……。鉄の弓ですか?」


「そうよ、角弓より小さいけど威力は角弓以上。オークを倒すならそれくらいの強さがないと矢は通らないわ」


 マーサから受け取った弓は角弓とは違い、一回り小さく、撓り具合はいいが連射が難しそうな代物だった。


「なら、これはマーサさんが使った方が?」


「いえ、私はまだそれを引く程の力は戻ってないの。それに、小回りがきくミツさんには使いやすいでしょし」


 確かに、この姿の身長は150センチくらいしか無い、15歳にしては小さい方であろう。


 リアルでは学生時代に身長順で並べば先頭に立つのが基本だった。


「はい……期待に応えられるように頑張ります」


「いい子ね。お母様もおっしゃってたけど、無理は駄目よ。戦いでの逃げる時の判断を間違えないで」


「はい……行きましょう」


 久しぶりに身長をいじられて少しへこんだよ。


 もしかしてマーサにはこれからの戦闘に少し怖がってるように見えてたかな?


 男に身長の話題はデリケートに扱うように運営に言いたい……。


∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 マーサと共に戦闘準備を終えて、教えてもらった森の奥へと急いで向かった。


 流石狩人のマーサ、病み上がりでも動きに無駄なく森の中を走っていく。


 少し森の獣道を進むとマーサの進むスピードが落ちてきた。予定の場所に近づいたのか? マーサの指差す方には見張りをしているバンと数人の村人の姿があった。


「義兄さん」


「マーサ、ミツ君。二人とも来てくれたか」


「はい、状況は?」


「あそこにいる五匹だ」


 バンが指差す場所には、正にオークと言える豚顔をしたモンスターが五匹いる。


 川辺で休んでいるのかガブガブと水を飲む音が聞こえてきた。


「オーク……にしては小さいわね」


「まだ若いオークだろう。一匹一匹はそれ程大きくは無いがオークに間違いはない。油断すると怪我じゃ済まないぞ」


「どう対処しますか?」


「五匹まとまって来られたらこっちの分が悪い、せめて半分にできたらいいんだがな……」


 オークは固まってその場を動こうとはしない、ここまで来た疲れを癒やしているのだろうか。


 腰を下ろしたオークたちはその場から動こうともしない。


「あっ! あれを見てください。奥のローブっぽい服を着たオークの横、あそこに倒れてるのって人じゃないですか!?」


「ん?」


「冒険者か、村人ではなさそうだけど」


 指を指した先の人影は動いてはおらず、最初見たときはオークが取ってきた獲物か何かと思ったほどだ。


「きっと、ここに来る途中で捕まえたんだろう」


「あの人も助けれませんか?」


「生きてるかどうかもわからんぞ?」


「いえ、あの人は生きてるわ。しかも女性よ……」


「女性! 見えるんですか?」


 マーサの言葉に改めて目を凝らしながら倒れてる人を見たがよく見えない。


 バンも同じ様に目を凝らしながら見ているが、やはり遠すぎて解らなかったのか、自分を見た後に顔を横に振った。


「いえ、オークは基本男性は殺してその場で餌にするのよ。そして女性は巣に持ち帰って……」


「なるほどな……欲望のはけ口ってやつか、胸糞悪い!」


 ファンタジー世界ではありきたりの流れだな。


 陵辱系と言うのか、実際に目の前にあると気分が悪くなるのは確かだ。


「なら、生きている可能性があるってことですね」


「敵を確実に倒せる確率を上げるために数を半分にしたいもんだな」


「どうするか……」


 頭を抱えながら考えてるバンに、マーサの次の言葉で作戦は決まった。


「私が囮になるわ」


「マーサ!」


「危険ですマーサさん!」


「わかってる、でもこのまま放っとけばあの人だけじゃなく、村にも被害が出るかもしれないわ」


 少し考えながらも成功率が一番高いのはその方法だ。バンはじっとマーサの方をけわしい表情で見つめ作戦を認めた。


「……わかった」


「この作戦でオークが何匹マーサの方に釣れるかわからん。俺はマーサの援護に向かう、すまんがミツ君は残った敵を頼む」


「それが一番でしょうね」


 狩り慣れた森の中とは言え、病み上がりのマーサを囮に使うのは大変なことだ、マーサの命を最優先での作戦となる。


 自分は残ったモンスターを少しでもいいから傷を追わせることになった。


 足一本にでもダメージを与えれば捕まってる人を助けるチャンスができるかもしれない。


 しかし、別にあれを倒してしまっても構わんのだろ? 


「四匹来ちゃったらどうしましょう」


「なんで嬉しそうなんだ?」


 子持ちとは言えマーサもまだ若い。


 女性ではある30過ぎた女性をオークがどう見るか解らないけど。


「ははっ、ま~可能性は無くはないですね」


「そ~よね~。可能性しか無いわよね~」


「痛い痛い、痛いです」


 ニコニコと笑顔のままスッと自分の後ろに回り込むマーサ。何をするのかと思ったが、ムギュっとほっぺたを両手で掴み引っぱりだした。


 弓で矢を引き慣れている狩人の指の摘む強さは半端なく痛かった……。


「そろそろ行くぞ」


「皆さん気をつけてください」


「任せて頂戴」


 作戦が始まったと同時にマーサが草かげから飛び出した。バンと数人の村人のは息を潜め、手に持つ武器に力が入る。


「きゃー、オークがこんな所にいるなんて思いもしなかったわー、大変だわー早く逃げないとー」


「……マーサ」


 バンと村人の目が点状態だが気持ちはわかる。


 マーサの演技力は置いといて、狙い通りオークのニ匹がマーサを追って森の奥へと駆け出した。


 女性であり小柄なマーサはスルスルと森林とする木々の間を進むと、オークとの距離を縮ませない様に走る。


 オークはその大きな体だけに動きも遅いが、邪魔な木々を目の前にすると腕のひと振りで目の前の木々を倒し進んでいる。


 あまり森の中とは言え、急いでマーサの方へと向かった方がいいだろう。


 川辺近くに残ったオークは三匹。


「ま~、オークは予定通り半分になったんですから、成功じゃないですか?」


「そうだな、オークがニ匹だけしか釣れなかったことを後で何か言われそうだが……。すまんが残りは頼んだ」


「はい、そちらもお気をつけて!」


 お互いの無事を祈りつつ、バンと村人はマーサを追いかけたニ匹のオークの後を追った。


 残ったオークは突然のことに少し警戒心を出したが、仲間のオークがマーサを追いかけたことを見届けた後に、また腰を降ろして座っていた。


 油断してくれるならありがたい。


 先ずは鑑定しておくか。


オークキャスター

Lv7。  オーク族

闇のローブ 骨の杖

ファイヤーボール____Lv3。

ウォーターボール____Lv3。

魔力増加_____________Lv2。


オークソルジャー

Lv3。  オーク族

薄汚い腰蓑

流し斬り______________Lv2。


オークバーグラー

Lv6。  オーク族

盗賊の腕輪 腰蓑

ハイディング_________Lv3。


「三匹残ったか……一匹だけローブを着たオークが人質のそばから離れようとしないな。それで結構、動かない的ほどありがたいことはない」


 マーサから借りた鉄の弓を構えて矢の先をキャスターに狙いをつけた。


 今回もスキルゲットのために程々な所を狙う。


 狙うは右の肺!


 オークの内臓が人体と同じ構造なのかは知らないけど。


 スキルをイメージして弦を引く……


 ……待てよ。 下手に魔法使われたら厄介だし狙いは喉元にしとくか。


 バシュ!


 矢を離すとキャスターめがけて一直線に飛んでいく。


 ゴボッ!


 キャスターは咳き込んだ様な声を出した後、自分に気づいたが魔法は出さない。


 それどころか仲間に助けを求める声を出していない。


 よしっ! 喉を上手く潰せた様だな。


 喉に刺さった矢を抜こうと手を伸ばしている、抜かれる前に済ませてしまおう。


 他のオークに気づかれないようにと静かに、だが急ぎ気味にキャスターへと近づく。


 岩陰に隠れ、キャスターに向かって〈スティール〉を発動した。


「スティール」


《〈魔力増加〉を習得しました、経験により〈一点集中Lv2〉となりました》


魔力増加 

・種別:パッシブ

レベルが上がると魔力とMPが増加する。


 奪えたスキルは1つだけ。

 もう一度スキルを試そうするが川辺にいたオークソルジャーがこちらに近づいてきている


 仕方ない、仲間に気づかれては元も子もないのですぐさま弓を構え頭を撃ち抜き直ぐに終わらせる。


 矢は見事にキャスターの眉間を居抜き、そのまま座り下を向いた。


 まるで今から推理ショーでも始めるような格好だな。


 座り込んだキャスターに気づいたのか、ソルジャーが近付いて行く。


「やばい、気づかれるか。……いや」


 近づいたソルジャーはキャスターは眠ってると思ってるのだろうか? ソルジャーは隣の人質に既に意識が行ってるようだ。


 流石オーク、欲望に忠実だ。


 それなら連続で行かせていただく! 


 狙いは今度は右の肺を狙う事に。


 この位置からだと難しいけど、距離もそれ程遠くない。先程スキルレベルも上がったので恐らく行けるだろう。


 バシュ!


 刺さった矢は先程キャスターに放った矢よりも少し早く飛んでいき、ソルジャーの胴体にブスリと刺さった。


 ブフォー!


 一声大きな断末魔を上げたソルジャーがドシンと前倒れになる。


「スティール! ……あれ?」


 オークが倒れ、直ぐにスキルを奪うためと〈スティール〉を使用するがスキルの反応が無い。


 失敗したかな? そう思い、もう一度スキルを試すことにした。


「ならもう一度、スティール!!」


 また失敗したか。


「ちっ! 取れない!」


 何度試してもスキルが奪えない。


 どうも様子がおかしいと思い、鑑定をしてみるとソルジャーの状態は亡骸表示になっていた


「しまった! 急所にでも当たったのか」


 通常のオークとは違い、まだ成長途中のオークの体はまだ柔く、受けた矢は肉を貫き、心臓にまで到達していたようだ。


 川辺近くに座っていた最後のオークバーグラーも、仲間の声でこちらに気づいた。


 近づくバーグラーは明らかに自分の存在に気づいてる、これではもう隠れても無理だよな。


 直ぐに行動を起こせるようにゆっくりと草かげから出る。


 こちらが観念したと思ったのか、仲間をやられて怒りをあらわにしているのか。大きな鼻をフゴフゴと、口を開けグルルと唸り声を出している。


「タイマン勝負はこのゲームじゃ初めてだな」


 流石に気づかれてる相手に弓は不利だし〈不意打ち〉スキルが使えない。


 しかし、試したいことも別にあったので普通に真正面から戦うことにした。


「さっきスキルを取り損なった分、お前のスキルはどうしても欲しい。弱体化して頂くには……」


 ブボッ! 


 掛け声を一声。


 力士が走ってくるように、ドシンドシンとこちらへと向かってくる。


 その間に弓を引き狙いを定める。


 その場所は!


「足だ!」


 体の大きなモンスターの足にかかる負担は半端ない物でない。


 全体重をかけて走ってるとき、少しでも足に何かあれば自分の重みに耐えれずほぼ確実に転倒する。


 ズドン!

 地面に自身を強く叩き付け、前方から転倒するバーグラー。


「怒りに我を忘れるなんて死にに行くようなものだよ。えーっと、まだ弱体化までは行かないか」


 近付くと危ないので弓でダメージを与えていく。


 せっかくなので、装備品の腕輪も狙って〈スティール〉のレベル上げに貢献してもらおう。


 バーグラーは転倒時に足を折ったのか痛みに唸り声をあげながらこちらを睨んでいる。


 そんなことはお構いなしに〈スティール〉を発動した。


「スティール」


 薄汚い腰蓑が手に入った……。


「ちげーよ!」


 何でもの触らせるんだ! ……改めてっと。


「スティール!」


 スキルを発動とバーグラーの腕につけてあった腕輪が手元に移動してきた。


 見た目は只の鉄輪にしか見えないが、鑑定すると間違いなく盗賊の腕輪だ。


 バーグラーはまだ状態では瀕死ではない。


 仕方ないのでまた少し距離を開け弓を構えうつ伏せの状態の背中に矢を放った


 ブガッ!


 鑑定をしながら一本一本放ち三本目を構えた時、瀕死の項目が現れ、バーグラーのスキルが浮き出してきた。これでスキルを奪うことができる。


「スティール!」


《〈ハイディング〉を習得しました》


「よし! これで終わらせてやる!」


 瀕死状態&産まれたままの姿のオークに最後の一撃を放ち、戦いを終わらせた。


 スキル的にはホクホクなので、先程の不快な物を手にした出来事は忘れよう。


 先程スティールして手に入れた盗賊の腕輪を鑑定時に、アイテムの説明が出ていたので改めて確認する



盗賊の腕輪


回避率上昇(小)


 これはありがたい、敵にも使える装備を持ってるのがいるんだな。


 今は使えないけどキャスターの持ってた骨の杖もアイテムボックスに入れておこう。

 それと、人質だった人を草影に隠してっと。

 マーサの言ったとおり確かに女の人っぽいな。

 怪我もしてない見たいだけど生きてるよな? 脈はある、大丈夫な事を確認し、女の人をそのまま寝かせておくことにした。

 慎重に戦闘を行ったせいで少し時間がかかってしまった。


 早くマーサとバンのところに行かなければ。

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