第16話 シークレット講座 公権との戦い方(前編?)

 ごきげんいかがですか?


 今週はお休みの予定でしたが、どうしても書き留めなくてはいけない事象が起きましたので、秘密の講義を開きます。皆さん、他言無用でお願いします。そして、事はまだ継続中で結論が出ていません。とりあえず、タイトルに前編と入れましたが、延長もあり得ます。また、講義の途中で私の身になにか起こったら、至急、警察にこの文章を見せてください。ご面倒をおかけします。


 この間、起きた読売新聞の新聞勧誘員の一件。その日は恐怖が心を支配していましたが、翌日の昼くらいから「あいつ、なんでわたしの個人情報を知っているんだ?」という疑問が膨らんで来て、やがてその感情はわたしの心の奥で眠っている猛獣をたたき起こしました。猛獣が目覚めるのは一体、いつ以来のことでしょう? もう忘れてしまいました。


 わたしの心の中の猛獣は決して、他人に暴力をふるったり、暴れたりはしません。ただ、法律の許す範囲内でターゲットの心に強烈な爪痕や咬み傷を作り、最悪の場合、精神を破壊します。要するに穏やかで丁寧な言葉遣いをしながら、相手の弱点に言葉のプレッシャーを与えて行くのです。暴言やハラスメント発言はまったくしません。下手に下手に出つつ、敵がミスをしたり、曖昧な言葉で逃げようとしたとき、キラーワードを投入し、動揺させるのです。これはわたしの心の中の猛獣が初めから持っている天性の武器で、『科学忍者隊ガッチャマン』のゴッドフェニックスに搭載されているバードミサイルと同様、みだりに使うものではありません。わたしの人間としての尊厳維持、生命の危機回避、巨大権力との対決のみに使われます。要はアドレナリンの放出が極限に達し、闘争本能本位になったということです。


 今回、わたしが対決するのは横浜市緑区役所生活支援課です。ああ、読売新聞はまだ戦う相手ではありません。あくまでも重要なのは「わたしの個人情報をなぜ初対面の読売新聞の新聞勧誘員が知っているのか?」それ一本です。普段のわたしは電話を掛けることなど、絶対に出来ません。極度の電話恐怖症なのです。しかし、猛獣が、電話恐怖症を食い破ったいまはなんでも出来ます。躁病を疑う方もいるでしょうが、大丈夫、わたしは冷静です。でも、この日は日曜日で区役所はお休みです。ちょっと肩透かしですね。猛獣がその間におネムになってしまったら、戦えません。モチベーションを維持するため、わたしは電話応対シミュレーションをみっちりやりました。


 さて、月曜日の朝。わたしは大日如来、釈迦如来、不動明王の三柱の仏に必勝祈願しました。不動明王のお力についてはわたし以外の方が書いていますので、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。


 午前十時。わたしの決めていた決戦時間です。これはよくあることなので予知ではなく経験値なのですが、こういう重大局面では、たいていの場合は担当者は不在です。おそらくは居留守ですね。地方公務員などその程度ですよ。恐れずに足りぬ。でも、電話のボタンを押す手が震えてます。恐怖感? いえいえ、アドレナリン大量放出の証です。

 さて、相手の受付が出ました。わたしは挨拶と氏名などをごく丁寧に言い、最後にこう言いました。「わたしの身の上に重大な問題がおきました。ご担当は××さんですが、ご多忙でしたらどなたでも構いませんので話を聞いてください」とね。最初から担当者は出て来ないという設定で伏線を入れました。猛獣の舌なめずりです。

 案の定、受付は担当者は一日不在と逃げ腰で言って来ました。そのための伏線です。わたしは復唱しました。「どなたでも構いませんので話を聞いてください!」。受付は「少々お待ちください」と保留音を流しました。少々ではなく、結構待ちましたよ。


 ようやく電話に出て来たのは、いかにもわたしのことを小バカにしたような年配の男性(のように思える声の人です。わたしは千里眼ではありません)が出て来ました。してやったりです。こういうタイプの方が、声の表情の変化がわかりやすいのです。丁寧な対応の方がわたしを混乱させる恐れがあります。わたしは通り一遍のあらましを伝えました。当然、相手は自分たちに責任も調査することも出来ないと言いました。またも予定通りです。わたしは「では、こういうことはおまわりさんに相談した方がいいですか?」と二の矢を放ってみました。警察と言わずおまわりさんとあえて言ったのは茶目っ気と柔らかい空気を作るという作戦です。相手は「今度、新聞勧誘員が玄関に侵入したら警察に連絡しちゃって」と頓珍漢で的外れなことを言いました。なので「問題は、そちらではなくて、わたしの個人情報が漏れていることです」とちょっとだけ強目のトーンで言いました。この辺りから相手の態度が変化していきます。「そうですね。しかし、こちらから漏れることはないです」相手のトーンが真面目モードになります。では、とどめをさしましょう。まずは「そうですよね」と相手の意見に同意したフリをしたあと「わたしの資料をご覧になればお分かりになると思いますが、わたしは双極性障害です。万が一この問題のせいで激しい躁状態になると、近隣の皆さんに多大なご迷惑をかける恐れがあります。それがとても不安なんです」これでとりあえず今日の戦いは終了です。「よくわかりました。明日、担当者からご連絡を差し上げます。念のためお電話番号を……」相手の声がテレアポ嬢のようになりました。


 勝敗はわかりませんが、やるべきこと、言うべきことは実行しましたね。

 戦いはまだ続きます。次は未知のケースワーカーです。

 ではごきげんよう。また勉強して来ます。 

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