第15話

「なるほど。お宅らの仕事も大変ですね」

 薄笑いを浮かべた老人は、納得したとみえてゆっくりと立ち上がると、軽く頭を下げながら見送る真田たちの前を出口に向かった。

 真田は老人が店から出て行くのを見届けると、中西の前に場所を移してようやくタバコに火を点けた。ふうと烟を吐いたあと、何かを考えるように天井に視線を向けた。

 中西は、この店に入ってから老人に自分の名前を名乗っただけだったが、ようやく猿轡を解かれたかのように、目一杯息を吸い込んでから話しはじめた。

「先輩、ずっと横で話を聞いてて思ったんですけど、やはりあの会社はオープンにできない何かがありそうですね」

「おまえもそう思うか?」相変わらず天井を向いたままで言った。「あの老人の話を聞いていて、感じたんだが、何かを隠しているような気がしてならない」

「同感です。シャレじゃないですけど、どう考えても腑に落ちません。臓器を扱うなら当然厚労省の許可もいるでしょう。でもあの会社は法人の登記もされてないですし、ホームページも拵えていない。さらには電話番号までも公開してない。これはちょっと面白くなってきましたね」

「それもそうだが、あの老人が言い澱んだ臓器の斡旋を受けるための条件というのが酷く気になる」

 喫茶店を出た真田と中西は、コインパーキングで駐車料金を精算すると、あの会社の車が止めてある駐車場の近くに車を向けた。例の白い乗用車のボンネットは、勢いを失いかけた西日をようやくのように反射させていた。

 ふたりは退社時間まで車で待つことにした。

 真田はシートを斜めに倒し、腕枕をしながら深く目を瞑った。考えることはひとつしかなかった。ところが、この時点で自分のしていることをまだ暇つぶしの感覚でしか捕らえてない真田は、この先に起ころうとする恐怖の事実を知る由もなかった。

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