闇
しゅりぐるま
光の聖騎士と小さな魔法使い
光の妄信者たちによって大いなる光が全ての闇をかき消した時、小さな魔法使いだけは地下に埋められ事なきを得た。
闇が消えた世界は、心休まるときを一時も与えてはくれなかった。
目をつぶっても眩しさが瞳の中に残る。
何を見ても光だらけで影というものが存在しない。
正義を強要された人々は疲弊し、労働から逃げ出した。
逃げたところで行く当てはない。
安らぎを与えてくれない光に絶望した人々は自らの目を潰し、そこいらに横たわった。
夜の訪れない世界は、日に日に気温が上昇し、横たわるだけでも血肉が焼けた。
阿鼻叫喚の地獄絵図は光に照らされ隠されることはなかった。
ある時、光の薄い端の村に、小さな女の子が現れた。
その子の後ろには驚くことに、小さな小さな影があった。
この時代、影は重罪である。
だが人々は、彼女の影を欲した。
小さな彼女の後ろに隠れ、一時の安らぎを感じた。
人々は彼女を庇護することに決めた。
彼女は自らを地下から這い出した魔法使いであるとした。
しかし彼女は、眩い光の中に影を作ること以外、何もできなかった。
そこで小さな魔法使いは長いマントを羽織ることにした。
彼女の影は大きくなり、彼女の影で安らぐ人の数も増えた。
時同じくして、光の聖地には加護を受けた聖騎士がいた。
上下左右から発せられる光の中で美しく輝く彼は疲れを知ることがなく、人々のためにその理想とする世界を作った。
そう、彼こそが大いなる光で世の中を浄化した張本人だった。
彼が人は闇無くしては生きられないと知ったのは、大いなる光を使った浄化作戦が終わった後だった。
知ったところで闇を生み出せなどしない光の騎士は、人々が早く光の生活に慣れるようにと世の中を走り回った。
その姿は目が眩むほどで、人々は更に疲弊した。
聖騎士はとうとう闇を求めた。
我の力で闇は作れないのか。
何故我には光しか作ることができないのか。
苦悩の末に残されたものは何もなかった。
人々は彼の願いも虚しく疲弊していき、彼の世界も崩れていった。
そんな聖騎士と小さな魔法使いが出会うのは必然だった。
光によるおびただしい浄化が続くこの世界は、闇と出会うことなくして存続することは不可能だったのだ。
噂を聞きつけ光の速さで近づいてくる大きな力に、小さな魔法使いは反応して走り出した。
彼女の影に隠れた人々は、聖騎士の浄化を恐れて必死に止めたが無駄だった。
「我、光を否定するものなり」
聖騎士の前に飛び出した小さな魔法使いは、光の聖騎士を睨みつけた。
小さな魔法使いから伸びた影に感動した光の聖騎士は、一歩歩み寄ると彼女に手を差し出した。
自身の影に涙する聖騎士の手を、小さな魔法使いは握り返した。
聖騎士から発せられる光によって、小さな魔法使いは大いなる影を作りだした。
小さな魔法使いの後ろに伸びた大きな影は、人々に安寧の時を与えた。
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