With the Lights Out
鳥dori
第1話 したくない恋
自由国は女性だけの国で、これといった禁忌がない。
とうぜん恋愛も自由にできる。
誰もが笑顔で、気に入った相手と、好きな時に、したい行為を、したいだけして、楽しんでいる。
ニエムだけが憂鬱だった。
ニエムの恋は、なにもしたくない恋だ。
自由国は、その名のとおり、世界中のどの国よりも自由を標榜している国だ。
ニエムの「なにもしない恋」も認められている。
なにもしないからといって、ニエムが迫害されたり仲間はずれになることはない。
だが、ニエムは孤独だった。
ある時、ニエムは「プラトニックな恋愛ギルド」に所属した。
仲間がいるかと期待して。
だが彼女たちですら、したくないのはセックスだけ。
手をつなぎたい、一緒にいたい、私のことを好きになってほしい、など。
誰もが、なにかしら要望を持っていた。
ニエムは憂鬱だった。
恋をしても、なにもしたくならない自分は異常だろうか? 冷たい人間なのだろうか?
私はずっと独りなの……?
随意国は男性だけの国で、これといった禁忌がない。
とうぜん恋愛も自由にできる。
誰もが笑顔で、気に入った相手と、好きな時に、したい行為を、したいだけして、楽しんでいる。
ノルクだけが憂鬱だった。
ノルクの恋も、なにもしたくない恋だ。
随意国も、その名のとおり、世界中のどの国よりも自由を標榜している国だ。
ノルクの「なにもしない恋」も認められている。
なにもしないからといって、ノルクが迫害されたり仲間はずれになることは、なかった。
だが、ノルクは孤独だった。
ある時、ノルクは「プラトニックな恋愛ギルド」に所属した。
仲間がいるかと期待して。
だが彼らですら、したくないのはセックスだけ。
好きな人を見つめていたい、好きな人のことを考えていたい、僕のことを嫌いにならないでいてほしい、など。
誰もが、なにかしら要望を持っていた。
ノルクは憂鬱だった。
恋をしても、なにもしたくならない自分は異常だろうか? 冷たい人間なのだろうか?
僕はずっと独りなのか……?
ニエムとノルク。
ある日、国境線上で、運命的に出逢った。
強風の日で、誰もが遠出を控えていた。
ニエムとノルクは、地平線の彼方まで、二人きりだった。
それぞれの髪と、それぞれの衣服の裾が、同じ角度で吹き上げられ、目と目があった。
一目惚れだった。
お互いに、同じ瞬間、好意を持った。
だが。
ニエムは言った。私はなにもしたくない。
ノルクも言った。僕はなにもしたくない。
ニエムは説明した。ねえ、ほんとうに何もしたくならないの。例えば、私はあなたと、ずっと一緒にいなくても構わない。何の約束もいらないの。
ノルクは我が意を得たりとうなずいた。そうだ。僕もほんとうになにもしたくないんだ。互いのことを考える時間さえ必要ないし、そもそも僕を好きになってほしいとも思わないな。
名前も知らないままでいい。
うん、そうだな、このままでいい。
ニエムとノルクは、にっこりと笑った。
あなたが好きだ。
互いにそう思った。
そして、互いに背を向け、それぞれの国へと帰って行った。
ニエムは空を見上げた。
ノルクは足元の雑草を凝視した。
どちらも、帰宅するまで、後ろを振り向くことはなかった。
二人は二度と会わなかった。
探そうともしなかった。
それでいて、二人は一生、相手のことを忘れなかった。
晴れの日も、雨の日も。
砂嵐の日も、虹が国境をまたぐ日も。
何かが誕生する日も、世界が滅亡する日になっても。
ニエムとノルクは、孤独だった。
だが、どちらも幸福そうに、空を見上げ、足元を凝視して、世界が終わるのを待っていた。
(了)
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