神父

「さて、まずは暁焔あかつきほむらを見つけるところからですが…………いました」


街ですれ違った男は、事前に手に入れていた写真の人物であった。


では、まずは試しに一撃。


男は何処から取り出したか、手に持った骨を背後から投げた。

骨はそのまま腹を貫き地面に刺さる。

貫かれ腹にできた穴は、徐々に小さくなり、最後には完全になくなった。


これが不死鳥の再生能力ですか。

確かにすさまじい速度だ。

ですがこれくらいならば、脅威にはなりえませんね。


ギルド?騎士団?


《不明だ》


わかった、それじゃあ戦いながら探ろう。

みんな、用意はできてるね?



それじゃあ、行くよ。


焔は体に炎を纏い男に回し蹴りをした。

しかし男は蹴りを腕で防ぐと、返しに殴る。


な⁉生身で俺の攻撃を防ぐのかよ。


拳を避けながら、焔は驚愕した。


《気を付けろ、奴は何処か異常だ》


それは今のでなんとなくわかったよ。

ともかく、人通りが多いし車を流して道路で戦う。


考えをまとめ空へ飛び立つと、戦いの舞台となる道路に入るための道を全て通れないようにして、残っていた車全てが抜けるように誘導した。

そして空いた道路の真ん中に降りる。

男もまた道路に出てきて、戦いの構えをとる。

焔は炎の翼を羽ばたかせ一瞬にして距離を詰める。

焔と男が互いに間合いに入ったと同時、空間を刃が切り裂いた。

焔は辛うじて避けたものの、男の体を見て動きを止める。


なんだ……あれは。


男の体からは、巨大な骨がいくつも飛び出していた。

まるで鎧の様に、鋭い骨を纏っていた。

右腕には、長い爪のような骨を纏い、武器としていた。


どうなってる。

あれは人の骨じゃない、明らかに構造が違う。

人の骨を巨大化させたわけでもなければ、他の動物の骨格とも違っている。

いったいあれはなんの骨だ。


《………竜だ……あれは竜の骨だ》


龍、それってお前の仲間ってこと?


《違う。龍と竜は完全な別物だ。我ら龍は生物ではない。死ねばその身体は消えてなくなる。しかし竜は生物だ。死んだ後にもその身体は消えることなく残り続ける》


そう、勉強になったけど、今必要な情報じゃない。


《それもそうだな》


もっと有益な情報はないの?


《…………あの骨の攻撃に当たるなよ。もしかすると、再生できない可能性がある》


有益だけど、悪い情報かな。

まぁ、攻撃に当たらないよう頑張っていこうか。




少年は地平線に視線を送る。


「なんで、君がそこにいる。君はもう…………」


少年は言葉を途切れさせ、その場から消えた。




だめだ、攻撃が届かない、全て防がれる。

致命傷どころか傷すら与えられない。


炎は裂かれ、コンクリートも裂かれ、龍の爪すら裂かれる。


どうしようもないぞこれ。

…………なぁ、お前ら、どこまで耐えれる。


《お前の頼みなら、どこまでも》

《友人のお願いだ、いくらだって耐えてみせるよ》

《友の願いだ、叶えねばだろう》


そう。

なら…………全力で行くぞ。


地上に降り立った焔は、身に纏っていた炎を、数倍にまで膨れ上がらせた。

攻撃ではない、にもかかわらず、地面は焼け焦げ、辺りの温度が急激に上昇する。

空気が焼けるように熱い。

炎は暴れ何者も近づけさせない。

そして焔の腕は、異形へと姿を変えていた。

それは人の腕ではない、言うならば、龍の腕。

その腕は炎の中でも圧倒的な存在感を放っていた。

暴れる炎を身体に纏わせる。

炎を纏った焔は、地を蹴り猛スピードで突進してきた。

そして異形へと姿を変えた右腕で神父を貫く………はずだった。

身体からは炎が消え、腕も元の人の腕に戻っていた。

力が抜け、地に膝をつける。


「僕の友は、傷付けさせない」


焔を見下ろし、敵意をもって睨む少年がいた。

そして少年は神父に剣を向ける。


「僕の友の身体を、弄ぶな。返してもらおうか」


少年との実力差に気付き、異形の骨を仕舞い、両手を上げる。


「何か勘違いをしていないですか?この骨は、私の友のものです。友が神によって殺された時に。友の最後の願いで、私の内へと入れたもの。あなたの友の骨ではないかと」


そう言って、神父は少年の目を見ながら慎重に左腕を前に出した。

そして左腕を包み込むように骨が出現する。


「確認してみてください。あなたの友のものではないことを、分かっていただけるかと」


神父の顔をじっと見つめると、少年は骨に触れる。

そして、解析のために、自分の領域を出現させた。

殺される可能性があると考え動かないでいた焔も、動けば斬られる神父も、その領域へと飲み込まれる。

焔は動かないでいたことを後悔した。

動かないでいたせいで、動けなくなってしまったから。

ここで動けば、動く予兆を見せた段階で、殺される。

神父は、最初から動けなかった故に、状況に変化はなかった。

だが、自分よりも圧倒的に強いとわかっていた少年の領域に入り、力の差を明確に見せつけられ、自分が前にしている存在の正体に気付き、死を覚悟した。

少年の意志一つで消される命が、そこには二つあった。


「…………うん。これは確かに、彼女の骨じゃない。よかった、彼女の骨が利用されてなくて」


少年は、領域を消し、安堵の表情を浮かべた。


「あ、僕の勘違いで怖がらせちゃったね。ごめんね二人、じゃなくて……四、人?でもない。けど、気配が小さすぎてよくわからないや。ともかく、ごめんね」


少年は二人に謝りながら、少し困った表情をしていた。


「あと、名前を教えてくれないか?リュウの力を使う人間なんて、そうそういないからさ、君たち二人の名前を、僕は覚えておきたい」


少年が二人に向けた微笑みは、言葉は、強者故のものだった。

死と隣り合わせの努力と、並々ならぬ覚悟のもとで、力を手に入れた弱者を、記憶に残しておこうという、強者故の優しくも残酷な在り方であった。


「……暁焔。龍の力を持ち、不死の炎を纏い、真実を映す瞳を持つ者」


膝をつき、恐怖していた焔は、少年を見上げ堂々と述べた。


「…………私に名はありません。ですが、名乗りましょう」


私を殺した家族と同じ苗字。

異世界へ転生し、一人だった私にできた初めての友を、殺した者と同じ名。

既に捨てた忌々しい名前だが、それでもこの方には本来の名前を名乗らなければ。


紅月こうづき紅月こうづきむくろ。遺骨を操るネクロマンシー、超常を裂く竜の骨を持つ者」


骸は少年の前に跪き、二度の死を超えて、たった一度として名乗らなかった名を初めて名乗った。


「そうか、君たちを忘れることはないだろう。あぁ、僕も名乗らなきゃか。僕はローラン。認識できる範囲の情報を解析し、その情報を消すことも、同じ情報を持つものを作ることも可能な異能を持つ……勇者だ」


情報……そうか……ソルトの異能の上位互換か。

この異能がある時点で、並の人間では、近づくことすら出来ないな。


情報って何?


《……おそらくは、世界が認識している情報のことだろう》


意味が解らない。


《あらゆるもの。物質に限らず、記憶などの今存在するものすべてのことだ》


それはつまり、彼は記憶を消せるのか。


《記憶だけではない。解析が終われば、人も、魂も、この世界すら……消せる力だ》


それは、不死すら関係ないんだね?


《……あぁ、不死鳥を、殺すことなく、消すことなく、その不死性のみを消すことも可能だろう。もちろんそんなことをするまでもなく、私を消すことができるだろうけどね》


対処法、出来れば勝つ方法、ある?


《あるにはある。解析される前に、殺してしまえばいい。だが無理だ。お前が纏っていた炎を消したのは、剣の振りによって起きた風によるものだ。あの力を抜きにしても、実力差があり過ぎる。絶対に勝てない》


そう、だよね。

それじゃあ、クロならどう?


《…………わからぬ。あれほどの強者同士の戦いなど、我にはもう測れぬ》


そっか、でもそれだけ二人とも強いんだ。

なら安心かな。


《安心?》


もしも彼が敵に回ったら、きっとクロが何とかする。


《……あぁ、きっとな》

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