エクソシスト
「さて、どうする?」
男は仲間に問う。
「どうするも何もないでしょう。妖組を潰します。そのために京都に来たのですから」
「そりゃそうだ。で、誰が誰と戦う?」
「……君は誰と戦いたい?」
「陰陽師がいい。俺はエクソシストだからな、日本における退魔師と戦ってみたい」
棺桶型のネックレスを掛けた青年は、期待を込めた目で見つめる。
「そうですか。では私は、妖とも人ともわからぬ炎を相手しましょう。リュウ同士の戦いなど、なかなかできませんからね」
「好きにすればいい、俺も好きにするから」
二人が勝手に話を進める中、男もまた勝手に話を終わらせる。
「待ちなさい。勝手に話を進めない、そして終わらせない。誰が誰をなんて馬鹿なこと言ってないで協力して各個撃破を狙うの」
この中でただ一人の女性は、全ての意見を却下した。
「はぁ?この腐れ神父と協力なんてするかよ」
エクソシストはあり得ないものでも見たように顔をしかめる。
「ふん。この腐敗した墓守と協力するくらいならば、この身を神に捧げたほうがマシだ」
神父はエクソシストを見下し睨みつける。
「さすがに言い過ぎだよ二人とも。協力自体は構わないんだろう?ボスを尊敬しているのは事実なのだから。ただ、共に隣に立って戦うのが嫌なだけだろう?事実俺も、君達と共に戦うなんてまっぴらごめんだ」
優しそうな男は、二人を宥めるように見せかけ、拒絶した。
「もう長い付き合いだからあんた達が仲悪いことくらいわかってるけど、今回の敵は未知数、一人じゃ勝てるかわからない。協力することが最善の選択よ」
「最善?そんなに善がいいなら、署長のとこに行ったらどうだ?あの人はそういうの好きだろ。まぁ、あの人の正義にお前が合うとは思えないけど」
説得も意味はなく、協力する気にはさせられなかった。
三人は別々に行動を始め、女は一人取り残された。
「……あれか、陰陽師が集まってる街てのは。随分うまく隠すもんだけど、俺には丸見えだ」
エクソシストは街を見下ろし笑みを浮かべる。
首にかけた小さな棺を外す。
棺は徐々に大きくなり、エクソシストの背丈ほどにまでなった。
棺が開くと、中から大量の鎖が出てくる。
「さて、一番強いのは誰だ?さっさと出てこねぇと、街が潰れちまうぜ」
鎖はとぐろを巻き街を覆っていく。
「—————⁉」
結界が破壊された?
いや、消された。
とにかく向かわなくては。
相手が何者であれ、僕の結界を突破できるだけの相手となると、僕以外ではどうしようもないな。
「仕方ない、行くとするか」
陰陽師は部屋を飛び出す。
そして、外に出て絶句した。
街は鎖に覆われ、空も見ぬ状態。
陰陽師達も解決しようと動いてはいるが、一切の術が効かずにどうしようもできずにいる。
「術を無効化してるとなると、身体能力だけでどうにかしなきゃだが、出来るわけない。なら、鎖の持ち主を探す他に方法はないか」
そう言って札を放とうと構えた瞬間、一つの鎖が陰陽師目掛けて飛んできた。
避けたものの、その勢いはすさまじいもので、巻き付くのではなく貫くのが狙いと言えるほどのものだった。
「お、ちゃんと避けてくれた。今ので死んじゃったらどうしようかと思ってたけど、その心配はなさそうだ」
建物の影から男が姿を現した。
「君がこれをやったのかい?」
男を見据え会話を始める、相手に隙ができるようにと。
「あぁ、そうだよ」
「何のために?」
「お前と戦うためだ。陰陽師で最も強いお前とな」
「…………」
こちらの狙いに気付いているのか、男には全く隙が無かった。
笑いながら会話をしていたが、それは強者故の余裕だった。
そうか、確かに僕より弱いと言い切れないね。
「これから君と僕は戦うわけだが、死ぬ前に覚えておけ。僕の名は
晴明は笑みを浮かべ名を告げた。
「おっと、随分と有名なのが出てきたな、殺し甲斐があるってもんだ。さて、名乗られたからには、俺も名乗っとくか。と言っても、俺に名前はないから今つけるが……そうだなぁ……セバスチャン・ミカエリスと名乗ろうか。お前を殺す者の名だ、覚えておくといい」
ミカエリスはそう言って笑った。
「初めて実力の近い者と戦う、記念に覚えておこう。それじゃあ、始めようか」
晴明は懐から取り出した札を宙に展開する。
そして後方へ飛ぶと、会話をしながら用意していた術を発動させる。
地面を電気が奔り、雷が空へと昇るも途中で消えた。
「こんな罠用意してたんだ。気付いてたけど、内容までは知らなかったや。でも、確か陰陽師の術には、電気はなかったはずだ。お前は随分異端のようだな。さて、次はこっちから行くぜ」
何処からともなく現れた大量の鎖が、晴明へと襲い掛かる。
術を使っての防御を試みるも、鎖は術を消し去る。
やはりだめか、となると……
自分の肉体へと術を掛ける。
晴明の身体能力が格段に上がった。
おぉ、これはすごいな。
一度地を蹴れば、その場から消え……違う、これは日本の武術じゃないか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
動けるようになったからといって、俺の鎖からは逃げきれない。
鎖はその速度を増し、そして戦略的に、標的を追い詰め始めた。
この鎖、量が多すぎる。
その上鎖の動きが変わった、僕への攻撃を確実に当てるために覆うように攻撃してきてる、避けれてもその先に攻撃が待ち構えてる。
防御も攻撃も、圧倒的に手数が足りない。
…………いや、何故手数で勝負している。
確実な一撃、僕が狙うのもまたそれだろう。
使うのは速度重視の術。
狙うは心臓。
確実に、一撃中てる。
瞳の描かれた札を辺りへ放つ。
目眩ましに相手との間に火柱を立てる。
そして炎の中から飛び出したのは、一条の光。
光は速度を落とすことなく、鎖と鎖の合間を縫ってミカエリスに激突した。
ミカエリスの胸から煙が立つ。
鎖は動きを止めた。
しかしミカエリスは、何事もなかったかのように顔を上げた。
「な⁉」
嘘だろ。
鎖によって力が使えなくなる、それは自分にも当てはまること。
ならば鎖を自分に巻き付けては鎖を操れなくなる。
では、鎖を操りながらどうやって……
「俺はエクソシスト、お前と同じような役柄だ。そして、鎖は手段の一つでしかない。俺はお前と同じで、いろんな術を使う」
胸の位置、宙に浮かぶ液体が、晴明のはなった術を防いでいた。
「残念だ。確かにお前は強いが、俺と相性が悪すぎる。もういい、俺は帰る」
「な……殺さないのか?」
「何を勘違いしてるか知らないけど、俺は別に殺しが好きなわけじゃ無い。むしろ、誰かが死ぬのは嫌いだ。だから逃がしてやる。ここでお前を殺すのが最善の選択であるが、生きてた方が面白い。する気があるなら、リベンジにでも来ればいい。それじゃ、また会おう」
ミカエリスは晴明に微笑むと、背を向けて歩いて行った。
リベンジか…………できそうにないな。
残念ながらあの鎖の対抗策が僕にはない。
僕では彼に勝てそうにないな。
でも、悔しくはないな。
クロはあぁ言ったけど、僕の中で僕は弱いままだから、勝てないのは当然なんだよね。
だから彼と戦うのは僕じゃない、彼に決定打を与えられる誰かだ。
さて、とりあえずクロに相談しに行くか。
「来たまえ」
呼びかけに五人が晴明の前に跪く。
「僕はこれからクロのもとに向かう。もしかしたら何日か帰ってこないかもしれない。その間に君たちは陰陽師を集めて街を復旧させろ」
「御意」
返事を聞き、晴明は街から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます