第52話襲撃(1)
新宿歌舞伎町。品川の自宅マンションを引き払い、零士は一時的に氷室が所有しているマンションの一室に身を寄せていた。
「さて、身支度は済ませたし、後は出発を待つばかりか。日本を出る前日には咲にはメールをしておくか」
氷室の助けを借り、日本を出る準備を終えた零士は何処となく落ち着きがなかったが、自分の再出発が再び仲間と一緒に出来る事に安堵する。
「ゲンさんの方も気になるから、様子を見に行くか」
零士はそのままマンションを出て、ゲンの工場に向かう。車も既に処分しており、歩きだ。
(こうして歩いてタクシー捕まえに行くのも久しぶりだな)
マンションを出て路地裏に入る。車1台がやっと通れるような細い道路。
普段なら人通りも少ないこの道に、零士は脚を踏み入れた瞬間違和感を感じた。
(さっきから人を見ないとは思ったが、あれは……)
視線の先には黒色の車が1台、何処にでもある大衆車だ。だが、車に乗っている3人の男達の、こちらに向ける視線は明らかに異常だと零士は気付く。
(まさか仕掛けて来る気か?チッ、こいつは油断したな)
一方黒色の車の方は。
「へへっ、待ってたぜ霧島さんよ、行くぜー!」
アクセルを踏み込むグゥオ。残りの2人は銃を構える。
それを見た零士は。
(誰に依頼された知らないが、こうなると彩やゲンさんもヤバイか、時間をかけていられないな)
零士は後退る事もなく、鋭い眼光を迫る車に向け走り出す。
それを見たグゥオ達は、歓喜の声を上げた。
「はっ!頭イカレちまったのか?パーを始末するのは簡単で良いぜ。」
「グゥオ、やっちまえ!」
スピードを上げるグゥオ。零士の方も止まらない。
「死ねや!」
衝突する直前、零士はジャンプしそのままボンネット、ルーフ、トランクと、まるでサーカスの曲芸をのように飛び越えてみせた。
「な、バカな!」
3人の男達を乗せた車は、勢いよく壁に激突し、車からガソリンが漏れ出す
前半分が潰れた車を見やる零士。
「間抜けなこった。アバヨ」
彩とゲンが気掛かりな零士は、2人に無事を確認すべくメールを送る。
「直ぐには返信は来ないかも知れない。あの車を使うか」
何かを思いついたのか、走り出す零士。
しばらく走った先に、氷室から万が一脚が必要な時に使えと託された車のある、駐車場へと着いた。
「鍵渡されてから、5日で使う事になるとはね。サネ、有り難く使わせてもらうぜ」
零士がメールを彩とゲンに送った時間、ゲンの工場。機材を売り払い、ゲンも移動しようとしていた。タバコに火を点け、一服し。
「ふー、隠れ蓑に使っていた工場だけどよ、意外に商売として成立していたよな。ちょいと寂しくなるが、落ち着いたらまた始めるのも良いだろう」
誰も居ない工場を眺めるゲン。その表情は何処か寂しそうだ。
「センチメンタルなんて柄じゃねえわな。さて、氷室が用意してくれたマンションに向かうか」
と、その時、監視カメラに人が映り込んだ事を知らせる警告音が鳴る。
「なんだ、誰か来たのか?零士か彩なら連絡よこすよな?」
監視カメラの映像を写すモニターを見るゲン。カメラ8台分のモニターの中で、工場の裏側を写すモニターに見かけない男5人の姿をゲンは確認する。
「誰だコイツら?んっ、メールが来てるな」
それは零士からの緊急と題したメールで、自分が襲撃された事、ゲンの無事を確認したい内容が記されていた。
「なっ、襲われた?てっ、事は此奴ら……マジかよ。仕方ねえな。こう言う荒事は久しぶりだが、やるしかねえか」
工場の奥に走り出すゲン。その目はヴァルハラ時代のそれを思わせる鋭い物に変わっていた。
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