第31話刑事二人

竜星会会長斎藤の自宅。氷室と斎藤の、労働平和党幹部、木下の暗殺について打ち合わせは続いていた。


「狙撃か、大丈夫なのか?」


時速100キロ近くのスピードで移動する車を撃ち抜けるのか、齋藤は懐疑的だった。


「問題ありません。零士なら確実ですよ。ただ、木下の車に細工をする必要があります、それに関してはうちの手の者にやらせる予定です。」


「木下は議員宿舎住まいだ。どうやって車に細工する?」


「実は議員宿舎の管理人に、組員を2人潜り込ませてます。本格的に労働平和党と対立した時の為に、半年程前からなんですが。」


「なるほどな。お前は抜け目がない奴だと思ってはいたが、出世が早い理由はそこだよな。大した奴だ。」


「まぁ、処世術ってやつです。木下の監視も手配済みですから。任せて下さい。」


「分かった。任せるぜ。これが上手く行ったら。うちの組も更にでかくなるからな。はっはっは。」


大袈裟に笑う斎藤。彼等が木下学暗殺に動いている間、一方で警察では新堀に関する操作は進んでいた。


東京湾岸警察署捜査1係


刑事達を束ねる佐々木は、殺された新堀が直前まで滞在していたホテルの監視カメラについて、同僚刑事の浦田から報告を受けていた。


「監視カメラの映像が、新堀が滞在していた日を含めて何日か消えていただと?」


「はい。滞在が確認された2月1日土曜日以外に、1月10から、13、21、28日の監視カメラの映像記録が消えてました。しかし収穫が無かった訳ではありません。」


「目撃者の証言か、鑑識からはアルコール反応が有ったそうだが。」


「ええ、ホテルグランディアーナ東京内新堀が常連になっているバーフレイア、そこのバーテンの棚橋(たなはし)と言う男が、ホテルを出る直前まで飲んでいた事と、バーを出る直前に黒のスーツを着た20代前半と思える女に声をかけて、一緒にバーを出たと話しています。」


更に別の刑事が棚橋について尋ねる。


「その女が、重要参考人って訳ですか。顔は覚えてたんですか?そのバーテンは。」


「いや、新堀がバーで見かけた女性に声をかけるのは何時もの事らしくてね。顔は覚えてないそうだ。


だが、時間にして夜の11時45分だと分かっているんだ。


12時になったら棚橋は当番を交代するらしく、11時半を過ぎると、ちょくちょく腕時計を見る癖があって、それは覚えていたと証言してるのさ。」


佐々木は腕を組んで考え込んでいた。

そこに新人刑事の武田が。


「新堀が接触した女性は気になりますが、新堀は1人で車に居たんですよね。その女性に殺されたと見るべきだと思うんですが、外傷が無かった事を考えると、どうやって新堀を......」


武田の疑問に、佐々木はうなずく。


「それなんだがな、うちの鑑識じゃお手上げで、警視庁の科学捜査班に任せてあるんだ。


後は新堀に被害を受けた女性の親族だな。新堀を殺したと思われる女については、俺に考えがある。」


武田がキョトンとした表情になった。

「まだ手掛かりがあるんですか?」


「ああ、Nシステムだ。」


「え?でも佐々木さん、あれってナンバープレートしか撮ってないんじゃ?」


「そう思うだろ?だが現実には運転席と助手席もバッチリ撮ってるのさ。管理センターに掛け合わないとな。」


佐々木はそう言うと出かける準備をし出した。


「あ、私も行きます。」


武田は慌てて後を追う。


今度こそと思った二人だったが、管理センターで新堀のナンバーから写し出された映像には、日除けのバイザーは降ろされ、助手席の女の顔は分からなくなっていた。


だが佐々木は諦めない。


「別の角度からのカメラを見せてください。」


真剣な佐々木に対して、心配そうな表情で武田はモニターをみつめる。


「帽子にサングラスかよ。くそっ!こいつはちゃんと解っていやがったんだ......。」


「佐々木さん......。」


「そんな顔するな。まだだ、まだ終わらんよ!被害者家族を当たるぞ。」

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