第32話真実の行方

「はい。一旦署に戻りますか?」


「そうだな。」


30分後、捜査1係には新堀殺害事件の捜査班全員が集まっていた。


浦田が捜査の進捗について説明を始める。


「新堀が定宿にしていたホテルグランディアーナですが、これまでに新堀が危険薬物を使って病院送りにしていた女性は全部で5人、その内重症が二人に死亡が1人。


ただ、重症の女性二人は幸い意識を取り戻し回復しています。残る死亡が確認されたのは山岡瞳さん20歳。


半年程前にグランディアーナで月末の土曜日に新堀主宰のパーティーに出ていた事が、ヴィーナススターの関係者の証言から確認しています。」


佐々木が手を挙げる。

「重症だった二人は、後遺症は無かったんだな?」


「はい。1人は2週間で、もう1人は23日後には後遺症もなく退院しています。」


「死人まで出している薬物パーティーか、しかし新堀を始め、関係者は誰も逮捕されていない。裏で手を回した訳か。」


渕崎が続く。


「父親に毎回揉み消しを頼んでいたとネットでは噂になってましたからね。 

 このパーティーには、複数の芸能人が参加していたと言われています。 

 芸能人会に激震が走る程のビッグネームもあって、驚きましたよ。」


「恐らく新堀は、人気芸能人が来ると言って一般人にも手を出していたんだろう。

 これは捜査の範囲を拡げる必要があるが、今は最も可能性の高い人物を追うとしよう。」


武田が立ち上がる。


「私が行きます。」


少し笑みを見せる佐々木。


「やる気に満ちているのはけっこうな事だな。渕崎ふちざき。付いて行ってやれ。」


「佐々木さんは来ないんですか?」


佐々木は怪訝けげんな表情を見せる。


「元気なお前と違って、アラヒィフには移動ばかりだと足腰に来るんだよ。

 少しは爺いをいたわれって。」


「ふふっ。佐々木さんはまだ若いですよ。分かりました。渕崎さん、宜しくお願いします。」


「了解だ。それじゃ行って来ます。」


「吉報を待ってるぜ。」


湾岸警察署を出て1時間半後、武田と渕崎は山岡瞳の実家の前に居た。


「なんだか寂しい感じがしますね。」


「車内でもしかしたら家を売却して引っ越ししているかもとは言ったが、本当にそうかもな。」


車降りて家に近づく二人。インターホンのボタンを武田が押すが、反応は無い。


「誰も居ない感じですね。灯りも点いてないし。電気メーター見て来ます。」


武田が移動しようとしたその時、不意に後ろから中年の女性に声が聞こえて来た。


「あら、もしかして山岡さんにご用ですか?」


「あ、はい。ご近所の方ですか?」


「ええ、隣の花江ですが。」


それを聞き左胸から警察手帳を見せる2人。


「私達は東京の湾岸警察署の者です。山岡猛やまおか.たけるさんについて、知ってる事があったら教えて戴きたいのですが。」


すると悲しそうな顔する花江。


「実はね。娘さんの瞳ちゃんが亡くなってから、会社も辞めてふさぎ混んでいて、見かねた奥さんがタイのパタヤに移住するって、先々週の木曜日に引っ越したんですよ。」


「え?タイにですか?」


「そうなんですよ。瞳ちゃんの妹さんは全寮制の学校に通っていて、心配ないけど、学校を卒業するまでは家は残して置くって。まぁ、あんな事があれば無理もないですよね。」


武田は思わず渕崎と顔を見合わせた。

「また手掛かりが...」


山岡家からの帰り、車の中で武田と渕崎は重苦しい空気に包まれていた。


「やっぱりな。恐らく新堀が開いていた薬物パーティーの被害者家族がビンゴだったんだ。しかしこれで手掛かりが消えちまった。佐々木さんもガッカリしてたな。」


「そうですね。後は新堀の遺体の検死結果と、澤田さんが追っている、新堀の車の中にあったワインボトルですね。でも、正直難しいかも....」


「やれやれ、珍しく弱気だな。なに、まだまだこれからさ。これからこれから。」


明るい感じで返す渕崎に、少し笑顔になる武田。


一方佐々木は待つ詫びた検死結果の報告を受けていた。


「ルースト?それが検出されたんですか?小谷さん。」


「正確には違いますが、これはスイスやオランダで使われている安楽死用の薬でして。 

 日本語でやすらぎ、オランダ語でルーストなんですが、それに似ていました。 

 ただ、どうやって致死量の薬物を投与出来たのかは不明です。」


「それで、その薬は5分くらいで眠りについて昏睡状態になるんですね?」


「ええ、しかし検出出来たのはかなり少量でした。ルーストをベースに、より強力な薬を開発した話は聞いた事もないのですが、すいません佐々木さん、ここまでしか解りません。日本では出回ってない薬なので。製造元も解りませんで。」


「いえ、それで充分ですよ。ありがとう小谷さん。」

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