第27話死神と呼ばれた少女
シリア 南東部の都市アブ.カマル 。
2006年に突如現れたISILと呼ばれる武装勢力は、イラク第二の都市モスルを占領し、自らをイスラム国と名乗り勢力を拡大した。
しかし、有志連合による度重なる攻撃により弱体化し、逃げ出した1部の兵士達はイラクと国境を接する人口64000程のこの街このアブ.カマルに逃げ込み、2019年には再起を賭けて戦っていたが、彼等が夢見る理想郷は、正体不明の戦闘集団にかき消されようとしていた。
血と消炎の臭い。激しい戦闘で、いくつもの建物は崩れ落ち。街の南側は、ISILの戦闘員が激しく抵抗したせいで、廃墟だらけになっている。
そんな中街中にある、とある木造2階建ての民家。その民家の2階の広目の部屋で、逃げ込んだISILの戦闘員が2人が辺りを警戒しながら、着れそうな服を探していた。
「ちくしょう!!いったいどうなっていやがるんだよ!俺達のいた部隊が、たった20分で壊滅だぞ!」
若い男が叫ぶ。
「落ち着けよハジブ。とにかく服を着替えて武器を捨てて、街の人間に紛れ込めば大丈夫さ。」
「......そうだけどよ、モハマド。全く冗談じゃないぜ。金になると誘われて、結局この様か。」
ハジブは着ていた戦闘服を脱ぎ捨てようとしたその時。
「あー、みーつけた!ダメダメ、散々暴れて無かった事にしようなんて。そんな卑怯者は許さないよ〜。」
少女のような声が、男たちがいる部屋の上から響く。
「!?だ、誰だ!」
次の瞬間ハジブの目の前の窓ガラスを蹴破り、白人の金髪ブロンド少女が1人飛び込んで来た。
その少女は見た目の
「こんにちわ〜!クスクス。あ、貴方達で最後だから、逃げないでね。逃がさないけど。」
「撃て!」
モハマドは叫ぶ。
「えっ?!」
「そいつだっ!ワシムやユスフの隊を壊滅させた金髪の死神、間違いない。撃て!」
「あらあら、いつの間に。センスない2つ名だこと。でも、あれだけ暴れたら当然か。じゃっ、はい!これプレゼントね。」
ハジブとモハマドが銃を構えるよりも早く、少女は丸い何かを二人に向かって投げた。
「なっ!?」
「こいつ!」
投げた瞬間少女は自分が蹴破った窓から、素早く脱出する。
ボン!!
少女は軽やかに着地、振り向く事もなく歩きだした。
直後少女の腰にぶら下がる無線機が反応し、雑音が混じる中微かに男の声が聞こえる。
「ザーザー...ラリサ...き...か?応答し...ザーッ」
「あ、忘れてた。」
[カチッ]無線機のスイッチを押す。
「あーはいはい。聞こえてますよー。」
野太い男の声が返ってくる。
「20分も応答しないとかないだろがっ!」
「ごめーん。でもゴメス、このエリアも制圧完了だよ。」
「全くお前は...まぁ良い。ポイントR35に集合しろ。ミハイル隊長が全員集まれと言っている。そこからなら10分かからず来れるだろ。」
「あ、隊長来てるんだ。りょーかーい。」
8分後。
「ただいまー。」
「早いな。普段もそれくらい早く頼むぜ。」
長身で細面の男がラリサに話し掛ける。
「隊長に早く会いたいからね~。で、バッシー、隊長どこ?」
「その呼び方いい加減止めて欲しいんだがな。3階だよ、俺も行く。」
「バッシーの方が呼びやすいし可愛いじゃん。」
「止めてくれ....。」
二人が3階に上がると、部屋の扉の前には、複数の男女が集まっていた。
「私で最後かな?」
「いや、ジャンとラーザリ、それにラヴィルがまだだな。」
「おい、ミハイル隊長の話が始まるぞ。」
熊のような大男が大声で部屋の外にいる者達を呼ぶ。
「あ、ゴメスだ。」
ラリサが最後に入ると。部屋の奥に金髪で顔立ちの整ったスーツ姿の男が立っていた。
「みんなご苦労様。この街の制圧は完了した。先程ジャン達から最後まで抵抗していたグループの制圧完了の報告が入った。」
「隊長、これで暫く休みですかい?」
背の低い男が訊ねる。
「いやー、ナダル。それがそうも行かなくてな。ゴメス、説明を頼むわ。」
ゴメスは部下達の不満が爆発するのではと、集まった顔ぶれを見ながら、やや低いトーンの声で話始めた。
「了解です。実はな......次の仕事が決まったんだ。本当なら7月まで休めるはずだったんだが...。」
沈黙は無かった。
「私は別に構わないよ。カオスな土地だと聞いてたけど、楽しめたのは最初の3週間だけだったし。
やっぱテロリスト崩れは根性ないわ。直ぐ逃げるんだもん。」
「ははは、ラリサらしい反応だな。いや、俺にとっては頼もしい反応だが。だがその分報酬は高いぞ。1人辺り100万ドルだ。」
部下達から一斉に歓声が上がる。
「マジかよ!?雇い主は誰だよ隊長。」
「アジアの金持ちさ。更にだ、仕事ならまず縁のないと思える場所が、次の仕事場だ。」
「
「喜べラリサ。次はお前が行きたがっていた日本だ!」
「マジで!?やったー!えっ?本当に日本?」
「本当だよ。クライアントは派手に暴れて良いと言っている。細かい内容は追って説明するが。ともかく今日はお疲れ様だ。ゆっくり休んでくれ。」
部下達が盛り上がる中、ゴメスはミハイルに心配そうな視線を向ける。
「大丈夫なんですかね?クライアントは怪しげなアジア人でしたが。罠なんじゃないかと......」
「ゴメスは見掛けによらず心配性なんだな。大丈夫だよ。日本人は平和ボケばかりで、まともに戦える奴は殆どいないさ。
まぁ、唯一気掛かりがあるとしたら、あいつが日本にまだいる可能性か、それにあの人も......いや、国の為に戦うなんて、あいつはそんな柄じゃないか。それに......」
「それに?なんです?」
「いや、ないな。あの人は死んだはずだ。俺達の前に、大した障害はないさ。」
ミハイルは微笑んだ。
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