第16話迫る狂気

 俺を乗せた車列は、一気に駐車場を抜け空港への通り道である、ホテル脇の道路に入っる。

 その間、有香達の連携は見事だった。

100キロ近い高速を出しながら正確に襲撃側の男達を撃ち抜いて行った。


「一応危機は切り抜けたな。」


「ええ、だけどまだ気は抜けないわ。ゲン、ライダーに連絡を。私はアーチャーに。それとキャスターにもね。」


「了解だ。」


「こちらセイバーリーダー、ゲンだ、ライダーリーダー応答せよ。」


「こちらセイバーリーダー有香、相手リーダー応答して。」


無線の向こうの相手からの反応は、どちらも同じだった。


「そうか、ライダーも襲撃を。」


「ああ、だが死傷者なし。予定通り10分後には空港到着だ。だがレナートとはこちらも連絡が取れない、それだけが心配だな。」


「ああ、無事を祈ろう。それじゃ空港でな。」


「アーチャー、ダグ達も無事で良かった。妹さんの様子はどう?」


「問題ない。俺達より肝が座っているかもな。はははっ。連中、腕は良かったが、死傷者なし。予定より20分遅れだな。いつの間にか俺達が1番遅れてしまったな、すまない有香。ところでレナートとは連絡は...」


「そう。それは良かったわ。大丈夫。20分くらいなら問題ないから。ええ、私達もレナートとは連絡が取れなくて、途中ライダーとは合流出来そうね。ええ、空港で会いましょう。それじゃあ。」


「零士君、お母さんも妹さんも無事よ。あと少しの辛抱だからね。」


「はい。でも凄いですね。やっぱり本当のプロなんだなと思いました。」


「ふふっ、まぁね。」


有香はそう言うと、次にキャスター隊と連絡を取った。


「了解。ランサー隊の無事を確認にベンノが向かったのね。多分現地で合流するでしょう。今は無事を祈るしかないわ。ええ、それじゃあ。」


  10分後、有香の率いるセイバー隊の車列は、ライダー隊と合流した。

無線で連絡を取り合い、互いの無事を確認。

ライダー隊真ん中の車に、母親の姿を確認。した零士は、心の底から安堵した。母親も零士の姿を認めて笑顔で手を振っている。


「良かった。後心配なのは父さんだ。妹は大丈夫だろう。」


父親を乗せたランサー隊との連絡が途絶えた、大カーブが見えて来る。

そこには、横転して煙を吐く車が数台見えていた。零士は嫌な予感に包まれた。


空港側からヴァルハラの関係者と思われる車が、大カーブ中央辺りで止まっている。


「父さん.........」


「お嬢、襲撃側の車あれで全部と思うか?どうも嫌な予感がするぜ。」


「そうね。何処かに隠れている可能性もある。ベンノに車から出ないよう指示を出して、私は周囲を警戒する。」


「了解。坊や、また頭を低くしてな。」


 ゲンが零士に指示を出すのは、人が死ぬ生々しい所を見せないよう配慮しているのが解る。安全の為と言うよりは、でも、そうは言われても気になってずっと零士は皆の戦いぶりは見ていた。

 映画や漫画の中のワンシーンのようで、不謹慎だが俺にはそう見えてしまった。

それくらいこのセイバー隊の動きは見事だった。

 そう思った次の瞬間、鈍い衝撃が、零士の乗る車を襲う。

「!?」


横転している目の前の後ろから、銃を向けて撃ってくる男の姿が二人見えた。


「やっぱりまだ居たわね。対応する。ライダー隊は先に行って!」


「了解した。無事でな。」


「ええ、そっちもね。」


 目の前を零士の母親を乗せた車の車列が通る。

有香は無線で前後の仲間の車に指示を出し、バートとエドウインの車が道路から飛び出し、バートは有香さんを守るように横付けし、エドウインの車は草むらへ、銃撃して来る男達の方へ向かう。


男達は直ぐ様制圧された。結果は素人の零士にも解るくらいだが、何故撃って来たのか零士気になった。


「なんだ、呆気ないな。これだけか?」


ゲンと同じ事を零士も思った。



「こいつらおとりだわ......しまった!ハンススピードだして!」


ハンスは無言でアクセルを踏み込む。

だが遅かった。

 200メートル先を行くライダー隊の向かった方向から、派手な爆発を認めた。


「母さん......」


 間に合わなかった。いや、間に合ったとして零士には何も出来なかったが。

 母親の乗る車は黒煙に包まれている。左側は森になっているが、中から頭を負傷しロケットランチャーを構えた男が現れた。ヴァレリーだ。


「ビンゴ!ふー、頭がいてえ。やっと来やがったか、待ってたぜ。てめえら1人も生かして通さねえからな。こいつはスウェーデン製のロケランだ、ミンチにしてやるぜ。へへ。」


ヴァレリーは左のコメカミ辺りから血を流しているが、笑いながらロケットランチャー、AT-4をこちらに向けてくる。有効射程は300メートルと短いが、威力は高い。


「あいつがレナートを......」


有香は、声をかけられないくらい怖い顔をしている。


「奴はロケットランチャーを持っている。それも射程距離の長い得物を。私が殺る。他は待避を。」


「了解だ。」


「こうなるとお嬢は聞かないからな。だが、坊やを乗せている事を忘れるなよ。」


「ええ。」


それだけ言うと有香はルーフから身を乗りだし、狙撃銃を構える。

ロケランを構えた男も、有香に気付いた。


「へ、良いね~。俺と勝負してくるってのか?ぶっ殺してやるよ!」


ハンスは男から距離を取る。


「奴の持つロケランの重い。即座に狙いはつけられないわ。ハンス流石分かってるわね。」


「伊達にお嬢の無茶に付き合ってないさ。」


有香の口元が、かすかに緩んだ。

そして車はスピードを上げる。


「バカかこいつは?スピード出して、この距離で正確な狙撃が出きるかよ!死ねや!」


 ヴァレリーがロケランを構えた瞬間、有香は弾丸を1発だけ放った。

 弾丸はヴァレリーの胸に命中。そのまま力なく倒れるのが見えた。


「グ、ゴホ.....こんなのありかよ、くそ....が...」


他に抵抗はない事を確認する有香。

車は途中で止まる。


「零士君。その、なんと言ったら良いか......」


申し訳なさそうな顔で俺を見る有香。

言いたい事は分かっている。


無線で親父の無事を確認しに行ったベンノから連絡が入る。


「ダメだ。生存者なし。ランサー隊で生き残ったのは、ホドリゴ班のカッレだけだ。それも重症だ。空港へ運ぶぞ。」


「ええ、ありがとう。」


ライダー隊は、見れば分かる状態だった。

俺はこの日、両親を1度に失った。

実感もなく、ただ消火されて横たわる車を見つめていた。俺は消失感と無力感で一杯になる。


「このままここに留まるのは危険だわ。零士君。」


「分かってます。空港に移動してください。」


「ごめんなさい。」


「謝らないでくださいよ。有香さん居なかったら、俺も死んでたと思います。」


ベンノとライダー隊の生き残った班は、死体を回収し。重症のカッレを空港の医務室へと運んだ。

空港に到着し、そのまま飛行機へと乗り込む。そこに遅れてアーチャー隊が到着する。


「そうか、そんな事に......まだ子供なのに気丈だな。だが妹さんは理解出来ないだろう。」


「そうね。妹さんはまだ寝ているみたいだし、出発はどうするのかしら?」


そこに髭を蓄えた屈強な体躯の男が現れる。


「有香無事だったか。レナートとオルフは残念な事をした。」


「言葉もないわ.....」


「クライアントの坊やと嬢ちゃんはどうするかだが。このままドイツに向かう事にするか、それとも......」


零士は寝息をたてる妹の顔を見ていたら、なんとも言えない気持ちになっていた。


「ドイツに行っても安全とは言い切れないよな。父さんを殺す命令を出したのは、北朝鮮だって言うし....」


そう考えた時、零士にある考えが浮かんだ。

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