僕が『ラノベ主人公』で妹が『ヒロイン』な件

カピバラ

序章—鎖と手錠—



 ——ヤバいよヤバいよ!? これヤバいよ!



 断っておくけれど、僕はあの、テレビで人気のリアクション芸人、『出○』ではない。ごく普通の善良な市民だ。


 しかし、叫ばずにはいられない。……正確には、そう心の中で叫ばずにはいられないのだ。何故なら僕は今、ピンチ、いや、大ピンチだからだ。


 僕の背後に只ならぬ気配がする。

 ……誰だ? この気配は、何者だ? 僕はどうなってしまうのだろうか。


 とにかく、逃げないと。

 ……と、思ったけれど、そうだ、逃げられずに僕は途方に暮れていたところだった。気が動転して、まともな思考すらままならない。落ち着け、僕。


 まずは状況確認から……


 両手は後ろ手で金属製の……多分、これは手錠ですね、はい、手錠で拘束されているみたい。

 この時点で絶望的なんだけど、逃げずに現実を受け入れないと。——どうやら僕は、何者かに捕らえられ、この薄暗い部屋に監禁されている。

 金属製の冷たい椅子に、鎖で締め付けるように拘束された僕は、身動き一つ取れない。下手に動こうものなら鎖が身体に喰い込み、痛みを伴う。


 頭は背の高い椅子の背もたれに貼り付けられ、背後の存在を確認する事も出来ない。

 しかし確実に、そこには『誰か』がいる。殺気にも似た、……良くない気配を漂わせながら、確かに『何者』かの気配が……そこにある。


 ——ヤバいよヤバいよ! マジでヤバいって!


 何度も言うが、バラエティ番組で活躍中のリアクション芸人ではなく、割とマジで笑えない。

 こんな拘束、バトル物の漫画に出てくるマッチョなキャラクターくらいネジぶっ飛んでないと、抜け出せる訳がない。


 と、馬鹿な考えを脳内に巡らせていた僕は、……鉄製の冷たい椅子に鎖と手錠で拘束されているという極めてカオスな現実に引き戻された。

 ——声が聞こえたからだ。

 その声により、現在、僕を拘束して、この薄暗く狭い殺風景な部屋に監禁した張本人が、何者かを知った。『彼女』は僕の身体に絡みつくようにして、耳元で囁いた。


「———————————……」


 ……叫んだ。

 僕は、喉が破れるくらいの、怒号にも似た絶叫、……否、もはや咆哮とも言うべき声をあげ、彼女の名を叫んだ……っ


 ——!!

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