第3話 カーテンの向こう側
そこには何人もの警備員や教室が血の海の中で倒れているのが見えた。
「!!」
それよりもアリムを驚愕させたのは巨大な獅子の姿に蛇の尾、ヤギの頭が生えたキメラだった。
彼も本でしか見たことのないような巨大魔導生物だった。
何人か、生き残った教員が各自の最強魔法を詠唱し、撃ち込んだが。
どんな強力な炎もその体を焼くことはなく、氷結魔法は瞬く間にその活性を取り戻させてしまった。
逆にキメラがヤギの頭から詠唱する魔法は強力な紫の雷で、それらは対象を感電させることは勿論、稲妻が四肢を焼き切り、五体を焼き尽くしていた。
片足を失い、キメラから這ってでも逃げようとしていた警備員がキメラに見つかり、その獅子の顔に喰われそうになったところで思わずアリムはカーテンを閉じた。
「アリム……何を見たんだ?」
顔面蒼白のアリムを見てクラスメイト達は答えを知りたくなさそうだった。
しかし聞かざるを得なかった。
「キメラだよ……警備員さんと先生達が戦ってるけど負けると思う」
その瞬間教室中から悲鳴が上がりあるものは泣き狂い、あるものは失禁したまま笑っていた。
アリムが読んだ「魔導生物教本」によればキメラは古代錬金術時代に作られた魔導生物であり、高い魔法耐性によって「一般レベルの魔法使いの天敵」とされていた。
しかしそんな中アリムが絶望しなかった理由は、いつかに先生に聞いた話だった。
「キメラですか……懐かしいなぁ。私昔は冒険者のパーティに居ましてね。そこで一度キメラを倒したことがあるんですよ。いやーあの時は大変で……」
という本当か嘘かも怪しい話だったがそれがアリムにとっては「先生ならなんとかしてくれる」という希望になっていた。
「みんな!」
アリムはクラスメイトに大声で叫んだ。
「ホムロン先生は一度キメラを倒したことがあるらしいんだ!だから大丈夫!」
「それ本当か?なんでそんな大魔導士がこんなとこで教師やってんの?」
確かに疑わしい情報だった。
しかしクラスメイトはこの情報に頼るしかもう自分の精神を保つことができそうになかった。
「ともかく先生を応援しよう!キメラ倒せるようにって!」
「「「はーい!」」」
時はホムロンが教室を出た直後に遡る。
彼は絶望していた。
この村の人材でキメラを討伐できるメンバーが到底集まるとは思えなかったからである。
「もっと元メンバーとの連絡を密にしていれば……考えても無駄ですね」
学校の出口にはすべての教員が顔に絶望を浮かべて集まっていた。
全員察していたのだ。
今自分達を囮にして生徒を逃してもキメラが皆殺しにするということを。
もう万に一つ自分達でキメラを討つしか無いということを。
「まず作戦だが……」
校長が話し出す。
「すまないが皆には時間稼ぎをして貰いたい」
「「「……分かっています」」」
頭を下げる校長に精一杯の返事をする教員達。
「私とホムロン先生の最大魔法で魔法耐性を超えたダメージを与え、撃退、可能ならば討伐を目指したい。作戦は以上だ」
「「「はいっ!!」」」
つまり残り全員が命がけの囮だと言うことである。
「き、来たぞ……」
校門の入り口にどしんと足音が聞こえた。
獅子の口にはどこかの村人であろう犠牲者が咥えられていた。
「行くぞ!囲め!」
「「「おおおおお!!!」」」
校舎入り口から一斉に飛び出した警備員と教員を見て。
「グオォオオオオオ!!!」
地響きのような歓喜の声をキメラは上げた。
キメラはまず最寄りにいた警備員に向かって飛びかかった。
「うわっ!やめろっ!やめっ……」
「ひっ!!」
「詠唱を止めるな!汝炎の精霊、その力の……」
警備員は最後の悲鳴をあげることすらできず、所持していた槍を突き立てたまま、キメラの前足に潰された。
それを見て怯えた女性教員に喝を入れ、泣きながら詠唱を続ける男性教員。
「精霊王よ、どうか我が願いを聞き届け、その力の片鱗をここに顕現せよ!……ホムロン先生!」
「……こっちもオッケーです校長!」
「「発動せよアークスエイブ!!」」
校長とホムロンが杖を大地に打ち込むと、そこから巨大な地割れが発生し、キメラを落とした。
足掻くキメラだったが少しづつ閉じていく地割れに飲み込まれ、最終的にその姿は見えなくなった。
「や、やったぞホムロン先生……」
その時校長の足元に僅かながらひび割れが生じた。
「!!校長!逃げて……」
「グオォオオオオオン!!」
「な!何っ!?」
突如校長の足元が陥没し、砂煙の中に巨大な黒い影が地中から飛び出した。
砂煙の中で影は凄まじいうなり声を上げながら校長の下半身を飲み込んだ。
「校長!こう……ちょ……」
「あ……あぎっ……」
砂煙が晴れるとホムロンの眼前には校長を噛み潰していく巨大なキメラの顔、そして痛みと恐怖に歪む校長の顔がそこにあった。
「よ……よくも校長をぉおお!炎の精霊よ!我に力を貸せ!フィア!」
一人の教員が、怒りに己を奮い立たせて火炎魔法を撃ち込んだがキメラは食事に夢中で振り向きもしなかった。
「ち……畜生……どうすりゃいいんだよぉおおぉ……」
教員は膝から崩れ落ちた。
他の者も呪文の詠唱すら諦め、校長が食われていくのを黙って見ているしかなかった。
「皆さん!作戦を忘れましたか!?」
ホムロンが叫んだ。
「もう一度私が魔法を詠唱します!それまでどうか!どうか力をお貸しください!」
ホムロンは叫び続けた。
「あ……あぁわかった!」
「強力なのお願いしますよ!」
「私だってこんなとこで死にたくないんだからぁあああ!!」
そういって各自勇気を振り絞り立ち上がろうとしたその時。
「「「先生がんばれーーー!!」」」
ホムロンの担任するクラスから子供達の声援が聞こえた。
「!?」
何事かとホムロンが見上げると、生徒がカーテンを開けてこの絶望的な状況を見てなお自分達を応援していた。
「グルルゥ?」
キメラの関心を一身に集めて。
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