第2話 開かれた心
アリムはホムロンの自室へ連れていかれた。
ホムロンの部屋は書類が山積していたが、それ以外はとても整理が行き届いていて掃除もされているように、アリムは感じた。
「かけなさい。マースは飲めるかな?」
アリムは椅子に座りホムロンの問いかけに首を縦に振った。
「火と水の精よ我が命に従え。ボイル」
やかんに入った水に、ホムロンが呪文を唱えると、瞬く間に水が沸騰した。
カップに粉砂糖と焦げ茶色の粉末、マース粉を入れたものに湯を入れ、かき混ぜた物をホムロンはアリムに差し出した。
アリムは飲めると答えたもののマースという飲み物は初めて飲むので緊張した。
試しに匂いを嗅ぐと、とても香ばしくそれでいて甘い香りがした。
液体が熱そうなので息を吹きかけ、すするように飲んだ。
すると匂いを嗅いだ時以上に芳醇な香りと口に広がる香ばしい甘みに、アリムは夢中になってマースを飲んだ。
「ははは。気に入ってもらえて何よりだ。それでさっきの事なんだが」
アリムのマースを飲む手が止まる。
「君はいじめられていたのかい?それもかなり以前から」
「……はい」
ホムロンは顔を伏せたアリムの前にあった椅子にゆったりと座ると話を続けた。
「安心してくれ。私は表立って行動したりはしない。そういうのが一番いじめる奴を怒らせる事は私が一番よく知っている」
「え?」
アリムは伏せていた顔を上げた。
「私もね。虐められていたんだ」
「先生も……」
「まあ私の場合は魔法が出来すぎて嫉妬されたことが原因だったか……ははは」
「そ、そうですか」
薄ら笑いを浮かべながら自分の暗い過去を話すホムロンに、アリムは苦笑いするしかなかった。
「ともかく。今後はこうやって話も聞くし。ああいった行為はさせないと約束する。だからどうか私を頼ってほしい。ダメか?」
アリムは少し迷ったが、今まで見ないほど真剣なホムロンの眼差しに、無言で頷いてしまった。
「そうか。ありがとう!まずは君がどんな原因でどんないじめを受けてきたか教えてほしい」
「わかりました。多分僕がいじめられてるのは魔法が使えないからだと思います」
「たしかにうちのクラスは他クラスからも必要以上にバカにされている傾向があるのは事実だ。それで具体的にどんないじめを受けているんだい?」
「初めは友だちが『早く契約できるようになってね』っておうえんしてくれたんですけど、クラス中バカにされるようになってきてからは無視されたり、魔法で嫌がらせされたりするようになって……」
アリムの目にはうっすらと涙がたまっていた。
「……わかった。君は魔法の才能が無い」
「!!」
アリムの表情が固まった。
そして再び顔を伏せてしまった。
「だとしても君には誰にも負けない才能があるじゃないか」
「え?」
再び顔を上げるアリム。
「努力の才能が君にはある。私は知っているよ。君が誰よりも魔法の勉強を頑張っていることも。授業やテストで君より勉強ができる奴を私は知らない」
「先生……」
「実技がダメなら成績で他の奴らを黙らせてしまえばいい。それにな。契約先は精霊だけじゃ無いんだ。悪魔だっていい。先生はきっと君にも魔法が使える日が来るって信じてるよ」
「先生っ!」
アリムは自分でも気づかないうちに涙をポロポロと流しながらホムロンの話を聞いていた。
「君たちの契約している魔法対象は最下級精霊であるがそれ以外に契約できるものを……アリム君。わかるかな?」
先生との話し合いから数ヶ月。
アリムは依然として無視などのいじめは収まらなかったが、裏で先生と協力し、魔法によるいじめは激減させることに成功した。
「はい!悪魔や魔族、より上位の精霊などとも契約が可能です!」
「素晴らしい。皆も実技だけではなくアリム君のように座学も勉強するように」
ざわつくクラス。
「座学なんかなんの役に立つんだよ」「無能が調子にのるな」などという声が聞こえたがアリムはどこ吹く風と言った表情だった。
「はいはい静かに……」
「ホムロン先生っ!!」
次の瞬間、教室の入り口が凄まじい勢いで開かれ、そこには顔面蒼白の教頭先生が居た。
「教頭?どうかされましたか?」
「それが……」
教頭先生はホムロンに近づくと何か耳打ちをした。
するとホムロンの表情が今まで見たこともないほど険しくなった。
「今から自主とします!皆さん何があってもカーテンの向こう側は見ないでください!絶対ですからね!」
教頭先生とホムロンはそう言いながらカーテンを閉め、大急ぎでどこかへ向かった。
「どうしたんだろう……」
アリムは疑問に思いながらも参考書を開き、自主を始めようとした。
「おい無能!さっきは随分調子に乗ってくれたな!」
するとクラスで一番魔法ができる奴がアリムに話しかけてきた。
「なんか先生にひいきにされてるよな!」
「先生って男なのアリムが好きなんだよ?きもーい!」
アリムは男子に胸ぐらを掴まれ女子はホムロンの有る事無い事好き放題言っていた。
「……がう」
「あ?」
アリムは自分がバカにされることは構わなかった。
「先生は僕をひいきになんてしてない!それに先生は男好きなんかじゃ無い!」
しかし尊敬するホムロンがバカにされることだけは許せなかった。
「っ!このっ!火の精よ!我が命に……」
「う、うわぁあああ!」
アリムは男子が呪文を唱えたのを見て胸ぐらを掴んでいた拳に噛み付いた。
「い!いでぇえええ!」
「よ!よくもやったな!水の精よ!……」「炎の精よ……」「雷の……」
クラスメイトの何人もがこちらに向かって呪文を唱えていた。
アリムは「このままだと殺される」と考え、冷や汗を流し、鼓動がやけに早くなるのを感じた。
「グオォオオオオオ!!!」
「「「!?」」」
その時、窓ガラスが割れそうなほどガタガタ揺れて、地響きのようなうなり声が聞こえた。
「……外で何が起きてんだ?」
クラスの男子の一人がカーテンに手をかけた。
「う、うわぁああああぁ!!」
カーテンの外を見た男子は大声で叫んだ後大慌てで教室から出て行った。
「な、何?」
「怖いよぉ!」
クラスメイトが慄く中、アリムはカーテンの向こう側が気になり、ゆっくりとそれを開いた。
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