思い付きで書いたやつ置き場

橋場はじめ

狙撃

 あなたは満月が照らす高層ビルの屋上に立っています。眼下には人工的な照明が浮かび上がらせる町並みが。そんなあなたの両手には細長い筒のような物――サイレンサーバレルが装着されたDVL-10と呼ばれる狙撃銃が握られています。

 冷たい夜風に吹かれながら腰を落とし静かに腹ばいになります。床が冷たくあなたがここにいることを拒絶しているように感じられますが、あなたはそれを気にせずバレル下部に装着されたバイポットを展開し床に固定し、高倍率スコープを覗いて標的がくると予想している地点に合わせ、ノブを回し狙いを微調整します。

 やがて床に接触している腹部が温まってきたころ、昔デートで恋人がくるのを待っていた時と同じように待ちこがれた標的がやってきます。あなたはそれを確認すると嬉しさから跳ねる心を落ち着かせ、ストックに左手を乗せて銃を固定させ右手をグリップに這わせて優しく握り込みます。

 装填されたマガジンの中には十発の銃弾が入っていますが二発以上の狙撃を標的が許してくれるとは到底思えません。一度で決める必要があります。

 あなたはセーフティを外し、トリガーに指をかけ絶好のタイミングを待ちます。標的の周囲には関係ない通行人が多く時折射線を塞ぐように標的と重なるため、まだチャンスとは言えません。冷たい夜風に晒されあなたの身体は冷え切っていますが、それを嫌って軽率な行動を取れば標的に逃げられてしまうだけです。

 折角標的が来るまで我慢したのです。あなたはもう少しぐらい待とうと決めるとそのままスコープを覗き続けます。

 あなたの体感でそれから数分。コンビニから出てきた標的はどうやら命の危機ということにも気付かず、買ってきた酒を飲みながら帰路へと付いています。酔っぱらった標的はどこかおぼつかない足取りで狙いが付け辛いですが、酔っ払いに絡まれるのを避けるためか周囲に人気が無くなっていて狙撃しやすい状況です。そして一度大きくふらついた標的は体勢を整えようと踏ん張ったために体の動きが一瞬止まります。

 ここが狙い目です。あなたはそう思うと深呼吸して息を止め、トリガーにかけた指に力をこめ――。

 引ききると同時にプシュッ! っと空気が抜けるような音と共に銃弾が飛び出し、重力や風に影響されながらも狙った通りに空気を裂いて飛翔していきます。勿論目視できるものではないですが、狙撃慣れしたあなたには手に取るように様子が伝わってきます。

 そしてあなたが覗き続けるスコープの中で、狙いを付けた相手が膝から崩れ落ちその場に横たわります。心臓に当たったように見えますが、夜中ということもあって確信が持てないあなたはボルトを引いて空薬莢を排出し、二発目の銃弾をDVLに送り込むと道路に横たわる標的の頭に狙いを付け第二射。数秒とせずにスコープ内でスイカ割りを彷彿とさせる光景が展開されます。あなたはそれを確かめると傍に置いておいたバックパックにDVLを収納し、その場から立ち去りました。

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